幼い頃、大晦日の夜は特別な時間でした。
遅くまで起きていても、両親に叱られることはありません。
そしていよいよ新年が間近に迫ると、家族で揃って除夜の鐘を聞いていました。
あの胸の奥に沁みるようなゴオ~ンという音を耳にすると、寂しさと嬉しさが入り混じった不思議な気持ちになります。
今回ご紹介するのは、年末の風物詩である「除夜の鐘」。
鐘の音に秘められた歴史を、一緒に解き明かしていきましょう♪
除夜の鐘とは?意味や由来
除夜の鐘と聞けば、形や音はなんとなく想像できるのではないでしょうか。
しかし除夜の鐘がどこからやってきて、なぜ大晦日につかれるようになったかはあまり知られていません。
そんな除夜の鐘の由来と、その言葉に込められた意味をご紹介します!
除 夜の鐘は海を越えてやってきた
大晦日に荘厳な音色を響かせる鐘には、梵鐘という正式な名前があります。
梵鐘は、中国で製造されていた青銅製の金属器が原型となって生まれたと言われています。
仏教の本場はインドですが、意外にもインドには除夜の鐘という習慣はありません。
年越しに鐘をつくという行事は、梵鐘の発祥地・中国で生まれた文化で、鎌倉時代に日本へ伝わってきたとする説が有力だと言われています。
では「除夜」というのは、いったいどういう意味なのでしょうか?
旧 年を除く日の夜につくから「除夜の鐘」
1年の最後にあたる大晦日は、“旧年を除き新しい年を迎える日”という意味から「除日」とも呼ばれていました。
つまり12月31日の夜は、除日の夜。
これを縮めて、「除夜」と言うようになりました。
そして新年を迎えるにあたり、旧年の煩悩を取り除くために鐘をつくという風習が、『除夜の鐘』として親しまれるようになったのです。
除夜の鐘の回数とそこに込められた想い
昔から伝わる文化には、決まりごとの一つひとつにいろいろな意味が込められています。
そもそも鐘を鳴らすことに、どんなご利益があるのか?
つづいては除夜の鐘をつく回数に秘められた謎と、そこに込められた想いをご紹介します。
鐘 をつく回数には仏教の教えが秘められていた
108の煩悩を清めるために、同じ数だけ音を鳴らす除夜の鐘。
仏教の発祥地であるインドでは、108という数字に『とてもたくさん』という意味が含まれています。
つまり108の煩悩とは、とてもたくさんの煩悩という意味なのです。
108という数の起源には諸説あり、他にもいろいろな考え方があります。
例えば仏教では、『眼』の視覚、『鼻』の嗅覚、『耳』の聴覚、『舌』の味覚、『身』の触覚に、心を表す『意』の器官を加えた6つの感覚があると言われています。
これら6つの感覚は、良い状態を示す『好』、悪い状態を示す『悪』、普通の状態を示す『平』という3つの煩悩に分かれており、6×3で18個。
さらに煩悩には、綺麗な『浄』と汚い『染』が存在するので、18×2で36個。
最後に過去、現在、未来という時間を加えた36×3の計算で、108個という数字が生まれたとも言われています。
こうして一つの例を聞くだけでも、大変複雑な煩悩の数々。
では除夜の鐘を聞くと、なぜ煩悩が取り除かれるのでしょうか?
除 夜の鐘を聞いて心身をリフレッシュ!
お寺が鳴らす鐘の響きは、魂を浄土に導く音だと信じられてきました。
今生に別れを告げたあとも心安らかに過ごせますように、という想いを込めて、鐘はつかれているのです。
その中でも除夜の鐘は、煩悩解脱の響きと呼ばれています。
その音を聞いて、旧年のわだかまりや悪い感情を心から洗い流すことで、すっきりと良い年が迎えられると言われているのです。
除夜の鐘の正しいつき方とマナー
はじめに、除夜の鐘にまつわる基本的な知識をおさらいしましょう。
鳴らす鐘がある場所は、鐘撞き堂。
鐘をつくための縄が垂れ下がった棒の名称は、撞木です。
全体の流れを簡単に要約すると、以下のような手順です。
では、この手順を詳しく解説していきましょう。
詳 しくわかる除夜の鐘つきの作法
まずは鐘の前まで進み、合掌します。
両手を合わせるだけの簡単な仕草ですが、手は胸元まで持ち上げることが大切です。
次に一礼してから、撞木の縄を両手でしっかりと握ります。
ここで、前の参拝者が鐘をついた際の余韻を感じたら、少しだけ待ちましょう。
あとは縄を後ろに引き、鐘をつきます。
すぐに勢いがつかない場合は、何度か揺らしても大丈夫です。
ただ、鐘をつく際には、強くつき過ぎないように注意してください。
震動が大きすぎると、鐘撞き堂全体が傷んでしまいます。
そして、鐘を鳴らし終えたら最後にもう一度、合掌と一礼です。
願いごとがある場合は、このとき一緒にお祈りしてください。
一点、除夜の鐘を鳴らす前に気をつけなければいけないことがあります。
鐘をつく前に、本堂へ参拝してはいけません。
これは『戻り鐘』と呼ばれており、縁起の悪い行いとされています。
本堂へお参りに行くのは、鐘をつき終えてからにしましょう。
また、鐘の鳴らし方や参拝方法には、お寺ごとの決まりがある場合もあります。
気になる方は、参拝するお寺の方に確認しましょう。
除夜の鐘の時間帯は?
お寺で参拝される方、お家でのんびりされる方、大晦日の過ごし方はさまざまです。
しかし皆さん新年が近づくと、なんとなく除夜の鐘が聞きたくなりませんか?
除夜の鐘をつく様子は毎年、年明け間近からテレビで放送されています。
しかし実際に最初の音が鳴るのは、それよりもずっと前の時間だというのはご存知でしょうか?
早いところでは22時過ぎから鐘つきが始まるんです!
実は、このように除夜の鐘には、明確な開始時間の決まりはありません。
しかし合計108回という大変な数の鐘を鳴らすので、除夜の鐘を実施するお寺側も早めの行動を心がけているようです。
また、参拝者が除夜の鐘を鳴らすことのできるお寺では、必ずしも回数や時間にこだわるばかりではありません。
状況によっては最後の一人が鐘をつき終わるのが、深夜1時をまわることもあるといいます。
除夜の鐘で人気のお寺をご紹介♪
文化庁が発表した令和2年(2020年)版の宗教名鑑によると、日本には仏教系の宗教法人が70,000以上も存在します。
そして除夜の鐘にもお寺ごとの特色があり、その楽しみ方は多種多様です!
ここからは数あるお寺の中から、除夜の鐘で人気のお寺を紹介します♪
大 本山 増上寺(東京)
東京タワーといっしょに撮影ができると話題になり、お寺好きの若者にも人気の「増上寺」。
朱色の大きな門が特徴で、年末年始以外も参拝者で賑わっています。
増上寺の魅力は、なんといっても大きな鐘です。
巨大な鐘から鳴る音は迫力満点!
公式ホームページでは年末年始の混雑状況も確認ができるので、ぜひ訪れる際はご覧ください。
徒歩圏内の最寄り駅が多数あるので、アクセスにも優れています♪
※掲載内容が異なる場合もございます。正式な情報については事前に各施設へお問い合わせください。
徳 雄山 建功寺(神奈川)
豊かな緑に囲まれ、心安らぐ庭園が魅力の「建功寺」。
大晦日には毎年、萬燈除夜の鐘という行事が催されています。
境内に数えきれない数の蠟燭が灯り、歩いているだけでもそこは幻想の世界。
萬燈除夜の鐘は年ごとに趣が変わるので、一年の最後の楽しみにしている参拝者も多いようです。
※掲載内容が異なる場合もございます。正式な情報については事前に各施設へお問い合わせください。
音 羽山 清水寺(京都)
古都・京都の文化財として、ユネスコ世界文化遺産に登録されている「清水寺」。
世界的な観光地として名高いのはもちろんのこと、修学旅行の行き先として定番のお寺でもあります。
清水寺の除夜の鐘つきは、事前に配られた整理券を持っている方のみ参加することができる定員制となっています!
鐘撞き堂のある境内に入れる方は限られているため、普段とは違った貴重な体験ができるでしょう。
※掲載内容が異なる場合もございます。正式な情報については事前に各施設へお問い合わせください。
浄 土宗総本山 知恩院(京都)
最後にご紹介するのは、独特の鐘つきで参拝者を楽しませる「知恩院」。
800年以上の歴史がある浄土宗の総本山で、国の重要文化財に指定されている建物がいくつもあります。
そして、大晦日に除夜の鐘を鳴らすのは、総勢17名の僧侶たち。
撞木には1本の親綱と16本の子綱が用意されており、僧侶たちが全身を駆使して鐘をつく光景は圧巻です。
残念ながら一般の参拝者は鐘つきに参加できませんが、毎年多くの見物客が押し寄せています。
※掲載内容が異なる場合もございます。正式な情報については事前に各施設へお問い合わせください。
おわりに
信仰や世代を越え、多くの日本人に親しまれてきた除夜の鐘。
今回は、その由来や意味、つき方、除夜の鐘で人気のお寺をご紹介しました。
除夜の鐘によって煩悩が祓われた後でも、初詣の参拝では欲張りな願いごとをする方も多いのではないでしょうか?
しかし、それは決して悪いことではありません!
旧年を無事に終えて、新しい年を明るい気持ちで迎えられることが、なによりも大切なのです。
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