日本には毎月、菖蒲湯やゆず湯など、各月にちなんだ薬草や植物を入れる、季節湯という習慣があります。
日本人は、旬の植物を入浴に取り入れることで、その薬効を高めるだけでなく、心身ともにリフレッシュしてきました。
季節湯は日本の風土や伝統を由来としたものが多く、四季の移り変わりを肌で感じながら楽しむことができるのもその魅力です。
今回は、12ヶ月の季節湯それぞれの由来と歴史・効能・作り方について詳しくご紹介します♪
季節湯とは?
季 節湯の意味
季節湯とは、旬の植物を湯船に入れて楽しむ入浴文化のことです。
5月の“端午の節句”の菖蒲湯、12月の“冬至”のゆず湯など、季節ごとの伝統的な文化として古くから日本人に親しまれてきました。
季節湯の魅力は、何といっても四季の変化を肌と香りで存分に楽しみながら、体を温めリフレッシュができること。
同時に、旬の植物の持つ効能やパワーを生かした、薬湯としても利用できます。
季節湯の歴史
薬 湯としての由来
季節湯は、平安時代に真言宗の開祖である弘法大師・空海が、季節の薬草を取り入れて医療に用いた薬湯が発祥とされています。
江戸時代になると薬湯は、皮膚病などの治療法の一つとして用いられるようになりました。
混 浴禁止令による発展
江戸時代の銭湯は男女の混浴が一般的でしたが、幕府は風紀の乱れを心配し、何度か混浴禁止令を出します。
しかし、風呂を男女別々にすると水や燃料代が高くなってしまうことから、銭湯側は混浴が認められていた「薬湯風呂」にすることで、混浴を続けたとか。
その結果、季節湯や薬湯が人気を博し、その伝統を今に伝えることになったともいわれています。
各月の季節湯の作り方とその効能
季節湯にはゆず湯や菖蒲湯だけでなく、月ごとに12種類の湯があります。
ここからは、各月の季節湯の特徴や作り方をご紹介します。
1 月:松湯
1月の季節湯は、冬も青々と茂ることから“不老長寿”の花言葉を持つようになった、松の葉を使った「松湯」です。
松の精油にはカンフェンなど血行促進作用がある成分が含まれているので、松湯に入ると体が温まりますし、松の葉のすがすがしい香りでリフレッシュもできますよ♪
★作り方
お湯に松の葉をそのまま浮かべるか、葉についた樹脂をぬるま湯で流した後に煮出した液を入れます。
より簡単に楽しみたい方は、松葉茶でも代用できます。
2 月:大根湯
2月は「大根湯」です。
大根は、中国では“莱菔”と表記されることから、“来福”を意味する縁起物とされています。
冬の食材として人気ですが、実は薬草としても人気があり、とくに大根の葉は根よりもミネラルやビタミンが豊富で、昔から冷え性や婦人病の民間療法に使われてきました。
干した葉を用いた湯に入ると、塩化物や硫化イオンの働きにより、肌に膜をはって保温効果が期待できるため、寒い冬に適しているのだそう♪
★作り方
大根1本分の葉を2~10日間ほど陰干して、その葉を刻んで布袋に詰めて浴槽に入れます。
煮出した液も入れると保温効果がアップ!
3 月:よもぎ湯
爽やかな香りで古くから魔除けに使われていたほか、健康と美容に効く“万能薬草”として漢方などで重宝されてきたヨモギを使った3月の「よもぎ湯」。
ヨモギは春に旬を迎えることもあり、3月3日の桃の節句(ひな祭り)では、ヨモギ入りの草餅を食べて邪気を払う風習があります。
その薬効と爽やかな香りで、旬である春の季節湯として好まれたのかもしれませんね。
とくに血行改善の効能が高く、よもぎ湯につかると血行が良くなり、肩の凝りや体の疲れをほぐしてくれます。
さらに、成分の一つであるタンニンには、止血や殺菌効果があり、切り傷やしっしん、あせもなどの肌の炎症にも効果が期待できるのだとか!
★作り方
生のヨモギを5~6本を刻んで、煮出した液を入浴剤のように入れます。
または、乾燥ヨモギを布袋などに詰めて浴槽に入れます。
4 月:さくら湯
4月の「さくら湯」の由来は明らかになっていませんが、桜の花見や銭湯文化が広まった江戸時代に、春を代表する薬湯として親しまれるようになったのではないかと言われています。
桜は薬効も高く、その樹皮に含まれるフラボノイドという成分には、湿疹や打ち身など肌の炎症などを抑える働きがあります。
薄着を前にしたこの季節にぴったりですね!
さくら湯には樹皮を使いますが、花びらも一緒に浮かべると、さわやかな香りと鮮やかな彩りでアロマバス気分を味わえますよ♪
★作り方
刻んで日干し、乾燥させた桜の樹皮を布袋に入れて煮出します。
その液と布袋を浴槽に入れます。
桜の枝は花屋などで、樹皮は漢方薬局などで手に入ります。
5 月:菖蒲湯
5月の「菖蒲湯」に使われる菖蒲は、昔から疲労回復や血行促進などを目的として用いられてきた薬草です。
菖蒲湯は、古代中国で端午の節句※1に蘭草の葉を入れたお湯に入って邪気払いした風習がその起源となっています。
日本では蘭草が手に入りにくかったため、代用品として菖蒲を入れるようになりました。
とくに武家では、菖蒲を“勝負”や“尚武※2”という言葉にかけ、子の成長を願い、端午の節句(5月5日)に菖蒲湯に入る習慣が定着していったといわれています。
また、端午の節句の前日である5月4日に菖蒲を枕の下に敷き、その菖蒲を湯に使う風習もあったようです。
※1 端午の節句:5月5日に男の子の誕生と成長を祝う行事。「端午」とは月の端の午の日という意味で、江戸時代に男の子の行事として定着した。
※2 尚武:武道を大切にすること
★作り方
菖蒲を束ねて浴槽に入れるか、菖蒲を詰めた袋と煮出した液を湯に入れます。
菖蒲湯についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください♪
「菖蒲湯」とは、植物の”菖蒲”を入れて沸かすお風呂のことで、5月5日、いわゆる”端午の節句”に入ります。菖蒲湯には疲労回復・精神安定・リラックス効果・血行促進・冷え性や肩こりなどの効果が期待されています。この記事では菖蒲湯とは何か、由来や効能、作り方などについてわかりやすくご紹介していきます!
6 月:どくだみ湯
雨の時期に咲く白い花と独特の臭いが特徴のドクダミを使う、6月の「どくだみ湯」。
その臭いの元であるデカノイルアセトアルデヒドという成分には、消炎や抗菌効果があり、昔からやけどや肌の炎症などの民間治療に使われてきました。
そのため、どくだみ湯はあせもや湿疹が気になる梅雨の季節に適しているのです。
また、新陳代謝も促すため、お肌をきれいにする効果も期待できますよ!
★作り方
ドクダミの葉や根を袋に詰めて浴槽に入れ、もみながら使います。
匂いが気になる方は、乾燥したドクダミやどくだみ茶でも代用可能です。
7 月:もも湯
7月は「もも湯」です。
桃は栄養価の高い果物で、中国では仙人が食べる“仙果”とも呼ばれ、縁起の良い果物とされてきました。
中国の魔除けの力を持つ果物という考えが広まり、江戸時代には、日本でも暑気払いもかねて、夏の土用※にもも湯に入る風習が広まったようです。
桃の葉に含まれる、タンニンやフラボノイドという成分には、炎症を抑え、肌を引き締める収れん作用があり、あせもや虫刺され、日焼けなど、夏の肌トラブルへの効果が期待できます。
※土用:土用とは四立(立夏・立秋・立冬・立春)前の約18日間の季節の変わり目を表す言葉。
★作り方
もも湯は桃の実ではなく、葉の部分を布袋などに入れ、煮出した液とその袋を一緒に浴槽に入れます。
8 月:薄荷湯
8月の「薄荷湯」に使う薄荷とは、ハーブの1種です。
薄荷は冷感を生むメントール成分を含んでいるため、夏の入浴時にぴったり!
日本の和薄荷(クールミント)はペパーミントとは違い、メントールの量が圧倒的に多いのが特徴です。
スーッとした清涼感があり、サッと汗が引くので湯上がりもさっぱりしています。
その一方で、メントールは体内に入ると血管を広げて体を温めるため、冷房病や冷え性など、夏冷えの改善も期待できますよ♪
★作り方
薄荷の葉を入れた布袋をお湯で蒸らし、その抽出液と袋を湯船に入れるか、市販の薄荷油を数滴ほど浴槽にたらします。
冷感を強めたい場合は、お風呂のお湯を38℃とぬるめに設定すると良いでしょう♪
9 月:菊湯
9月の「菊湯」は、9月9日の“重陽の節句”という伝統的な年中行事に由来します。
この日は、菊の花をさまざまな形で楽しみながら、邪気を祓い長寿を願う日です。
初めは貴族の宮中行事として行われていましたが、のちに庶民の間でも菊湯を楽しむようになりました。
菊に含まれるカンフェンという精油成分は、血行を促進し、体を芯まで温めて夏のたまった疲れを癒してくれるため、夏の終わりにぴったりな薬湯です。
★作り方
野生種のリュウノウギクの葉を袋に入れて熱湯で蒸らし、袋と抽出した液を浴槽に入れます。
菊の花も浮かべると、見た目も美しく香りも楽しむことができますよ♪
重陽の節句とは、いったいどんな日なのでしょう。現代では影が薄く、忘れられがちな重陽の節句。実はとてもおめでたい日なのです。今回は重陽の節句の意味や過ごし方について、簡単に紹介していきます。
1 0月:生姜湯
寒暖差が激しくなる10月は、体が温まる「生姜湯」です。
生姜は昔から、血行促進や抗酸化作用などで漢方にも多く用いられてきました。
とくに生姜の辛み成分の一つであるジンゲロールには、体を内側からじんわりと温める働きがあります。
体が芯から温まると、冷え性対策はもちろん、免疫力が高まり風邪予防も期待できますよ!
また、酵素の働きで夏の皮脂汚れも落ちやすくなるのだとか。
★作り方
スライスした生姜を布袋に入れ、湯船に浮かべてもみだします。
すりおろして絞った汁を入れても良いでしょう。
1 1月:みかん湯
11月の「みかん湯」に使われるみかんの皮は、“陳皮”とも呼ばれ、漢方の生薬として古くから重宝されてきました。
みかんの皮には、その香りの元となる精油成分のリモネンが含まれており、リラックス効果抜群!
リモネンは血行促進や保温効果もあるため、みかん湯に入ると、体がポカポカして湯冷めしにくく、風邪をひかないともいわれています。
また、果皮にはリモネンに加えてクエン酸やビタミンCも含まれているので、乾燥しがちな冬にお肌をしっとりと潤わせる効果も期待できますよ♪
★作り方
洗って日当たりの良い場所で干したみかんの皮を布袋などに入れて浴槽に入れるか、みかんを丸ごと5個程度浴槽に入れます。
お肌が弱い方は、果皮をしっかり乾燥させるか、みかんを丸ごと入れて刺激成分を出にくくする方法がオススメです。
1 2月:ゆず湯
12月の季節湯は、「ゆず湯」です。
“冬至の日にゆず湯に入ると、1年間風邪をひかない”という言い伝えもありますね♪
ゆず湯は、江戸時代に始まったといわれています。
冬至と“湯治”、柚子と“融通をかけて「お湯に入って融通よく」という意味が込められているのだとか。
また、柚子の香りで邪気払いをして身を清めたともいわれています。
ゆず湯はその爽やかな香りでリフレッシュできるほか、皮に含まれる豊富なビタミンCやリモネンの働きで、保温・肌荒れ防止も期待できるので、健康にもとても良い薬湯なんですよ。
★作り方
柚子をまるごと湯船に浮かべるか、カットして布袋などに入れて湯船にいれます。
肌が弱い方は、まるごと浮かべるのがオススメです。
みなさんは二十四節気という言葉を聞いたことがあるでしょうか?二十四節気とは、太陽の黄道上の視位置を24に等分しているもののことを指します。この24等分の一つに「冬至」があります。この記事では、冬至はいつなのか、かぼちゃとの関係や冬至にするといいことについてご紹介します。
季節湯が楽しめる温泉スポットをご紹介♪
四 万温泉 積善館(群馬県)
元禄7年(1694年)に開業した群馬県四万温泉の「積善館」は、群馬県の重要文化財にも指定された日本最古の湯宿建築です。
映画『千と千尋の神隠し』のモデルとなったことでも有名です。
積善館では、レトロモダンな元禄の湯を舞台に、1月の松湯や5月の菖蒲湯、12月のゆず湯のほか、秋には珍しいりんご湯など四季折々の季節湯を提供しています。
日帰り入浴も可能なので、お気軽に風情たっぷりの温泉宿で季節湯を楽しむことができますよ!
※掲載内容は変更している場合がございます。詳細は下記、公式HPをご確認ください。
高 槻天然温泉 天神の湯(大阪府)
大阪府高槻市にある「高槻天然温泉 天神の湯」は、上宮天満宮の地下から湧き出た天然温泉を使った日帰り温泉施設で、ホテルも併設しています。
地上から22mに位置する露天風呂をはじめ、関西初のナノミストサウナや源泉掛け流し浴槽、打たせ湯など約20種類の趣向を凝らしたお風呂を楽しむことができます♪
天神の湯では季節湯を頻繁に開催しており、大根湯やさくら湯、薄荷湯など四季折々のお風呂に入ることができますよ。
※掲載内容は変更している場合がございます。詳細は下記、公式HPをご確認ください。
道 の駅 きつれがわ(栃木県)
日本三大美肌の湯にも選ばれているという喜連川温泉。
「道の駅きつれがわ」には温泉とクアハウス※が一体になった施設が併設されており、露天風呂、サウナ、水風呂、内湯と水着着用のクアハウス(歩行浴・ハーブバスなど)が楽しめます。
この温泉では毎月「わくわく海の郷の日」を設け、温泉ソムリエオススメの季節の湯を提供。
菖蒲湯やゆず湯などお馴染みの季節湯のほか、琵琶の葉や春菊入りなど変わった風呂もあり、買い物や食事とともに満喫することができますよ♪
※クアハウス:温泉を利用し健康増進をはかった、温泉に運動やリラックス効果を取り入れた施設
※掲載内容は変更している場合がございます。詳細は下記、公式HPをご確認ください。
おわりに
今回は、12ヶ月ごとの季節湯をご紹介しました。
季節湯は四季を感じられる日本ならではの風物詩でもあります。
また、それぞれがその時期にふさわしい薬効を備えており、健康にもとても良いとされています。
ゆっくり湯につかり、全身で季節を感じてみてはいかかでしょうか。
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