日本酒は米を発酵させて造るお酒です。

具体的にはこうじの働きで米のデンプンを糖分に変え、酵母の働きでその糖分をアルコールに変えてお酒ができあがります。

お米がどのようにしてお酒に変化していくのか、その複雑な製造工程を分かりやすく紹介していきます。

杜氏とは?

酒造りに携わる人を蔵人くらびとと呼びます。

複雑な工程を経る酒造りは、工程ごとの分業制。

その蔵人のトップ、いわゆる酒造りを指揮する監督者が杜氏です。

蔵人にも杜氏を補佐する頭、麹造りの麹屋、酒母しゅぼ造りの酛屋もとやなどの役職もあります。

杜氏制度が生まれたのは江戸時代のこと。

その頃、新米を収穫した後の冬に作る寒造かんづくりが一般的になったため、農民たちが秋から冬にかけて酒造りの出稼ぎに出るようになりました。

彼らはオーナーである蔵元との間に契約を交わし、数ヶ月、酒造りに取り組みます。

酒は生き物。

杜氏とともに一緒に寝泊まりして酒造りに従事しました。

今では酒造りの現場にも多くの機械が導入されていますが、それでも気温や米の出来具合は毎年異なります。

そのため、美味しい酒を造るためには最終的には杜氏の経験や勘が頼り。

杜氏なくして酒はできません。

杜氏にも地域ごとに流派や集団があり、酒造りが伝えられてきました。

なかでも人数が最も多い南部杜氏なんぶとうじ(岩手)、但馬杜氏たじまとうじ(兵庫)、越後杜氏えちごとうじ(新潟)は三大杜氏として有名です。

最近では蔵元の社員として働く杜氏や蔵人も増えました。

毎日通いのところもありますが、寒造りの蔵元では酒造りの時期に蔵に寝泊まりし、春から秋にかけては瓶詰や機械のメンテナンスを行うことも多いようです。

さらには、小さな酒造りも増えたため、蔵元自身が杜氏を兼務することも多くなりました。

酒造りの方向や出荷量を決める蔵元が杜氏を兼務することで、理想の酒を造りやすくなるメリットがあります。

また、女性の杜氏も増えており、女性好みの繊細な味の日本酒も多く造られるようになりました。

酒造りの流れ


酒造りの簡単な流れを紹介します。

1. 精米
2. 洗米せんまい
3. 浸漬しんせき
4. 蒸米じょうまい
5. こうじづくり
6. 酒母しゅぼづくり
7. もろみづくり
8. 上槽じょうそう(または搾り)
9. 濾過ろか
10. 火入れ
11. 加水かすい

このような流れで、日本酒は手間と時間をかけて造られます。

では、各工程ごとにご説明いたしましょう。

①精米(玄米→白米)原料となる米の処理

玄米の表面を削って白米にすること。

酒米の雑味が出やすい表面を削ってデンプン質に近い中心部分を残します。

米のポイント

精米した時に残った白米の割合を精米歩合せいまいぶあいと呼びます。

酒造りの場合は、70%以下の精米歩合で削ることが多く、造る日本酒の種類により精米歩合を調整します。

米を磨いた方が軽やかですっきりした味わいになりますが、あえて米本来の味を残すため精米歩合を低くする場合もあります。

精米歩合40%の場合、割れないように磨くため3日程度かかるとされます。

米の豆知識

室町時代の精米は人力だったため精米歩合は95%程度が限界だったとか。

江戸時代に水車を使った精米が登場し、75%程度まで精米できるようになりました。

昭和初期に精米機が開発され、精米が飛躍的に発展し、今では精米歩合10%のお酒も登場しています。

②洗米と③浸漬(白米)

【洗米】
白米の表面のぬかを洗って落とすことで、米が傷んだり割れたりしないよう細心の注意をはらって洗います。


【浸漬】
お米を蒸すために必要な水分を浸透させます。

浸漬の時間は精米歩合や品種によって違いますが、米に対して約30%の水分を吸わせるのが一般的です。

米と浸漬のポイント

精米後の米は水の吸収スピードが速いため、洗米も浸漬も水温などを見ながら秒単位で計測しながら行ないます。

④蒸米(蒸し米)

浸漬した米を1時間程度蒸します。

米を加熱することでデンプンを糖に変化しやすくするためです。

蒸した米は放冷機または自然の冷気で冷やして適度な硬さにします。

できた蒸し米は、麹作り、酒母作り、もろみの仕込みの3つに使われます。

米のポイント

蒸す時間もお米の状態や気候などによって変わってきます。

理想は外が硬く、中が柔らかくふっくらとした「外硬内軟がいこうないなん」。

外を硬くしてお米が液状になるのを防ぎ、同時に内部に麹菌を浸透しやすくした状態です。

蒸し上がりのベストタイミングは、ふわりと香ばしい香りが立ち上った瞬間とされています。

⑤麹作り

アルコールはブドウ糖を分解して作られますが、米にはブドウ糖が含まれていません。

そのため、まず米に含まれるデンプンを分解してブドウ糖に変える必要があります。

これはご飯を例にするとイメージしやすいでしょう。

ご飯を口の中で噛み続けると甘みを感じてくるのは、唾液の酵素がデンプンを糖分に転換しているからです。

お酒造りでは、この糖化の役割を果たすのは麹です。

麹は穀類にカビを増殖させたもので、日本酒には米麹を使います。


蒸し米を約30度の室温と適度な湿度に保った麹室こうじむろに入れ、種麹たねこうじと呼ばれる麹菌をふりかけて種付けをします。

麹菌をよく増殖させるために、蒸し米を小分けにして置いたり、混ぜたりといった作業を2~3日繰り返します。

麹菌が米の中へ菌糸を伸ばしますが、菌糸が蒸米の表面全体を覆ったものを「総破精型そうはぜがた」、まだらなものを「突破精型つきはぜがた」と呼びます。

前者は主に純米酒、後者は主に吟醸酒に使われます。

麹を噛んでみると甘味があります。

麹は仕込みと酒母用に使われます。

作りのポイント

麹は糖化を促す重要な役割を果たします。

そのため日本酒造りは「一に麹、二に酛、三に造り」と呼ばれるほど麹造りが重要です。

また、麹菌が育つ過程で、様々な成分を麹の中に蓄え、それが後に酒のうまみ成分にもつながります。

⑥酒母造り(酛 もと)

ブドウ糖を分解してアルコールと炭酸ガスを作り出す(アルコール発酵)働きをするのが酵母。

この酵母を大量に増やしたものが酒母です。

麹米、蒸米、水、種となる酵母を入れて酵母菌を増やしますが、この時、酵母菌以外の雑菌も入り込んでしまいます。

そこで酵母以外の雑菌を取り除き、酵母を繁殖しやすくする環境に必要なのが乳酸菌からできる乳酸です。

雑菌が酸に弱いのに対し、酵母菌は酸に強い性質があるため、乳酸を投入することで雑菌のみを除去できるというわけです。

この乳酸の加え方によって酒母造りは3つの製法があります。

人工的に乳酸を加える速醸酛そくじょうもと※1造りと、自然界の乳酸菌を取り入れる生酛きもと※2に分かれます。

生酛系はさらに生酛と山廃酛やまはいもと※3があります。

速醸系は約2週間、生酛系は約1ヶ月かかります。


※1速醸:人工的に乳酸を投入して酵母を増やします。明治時代末期に確立され、早く安定してできることから今ではほとんどの蔵がこの手法を採用しています。香りがあり、すっきりした味になります。

※2生酛:昔は人工の乳酸がなかったため、桶に水、蒸米、麹を入れ、かいでこれらの材料をすりつぶしながら自然界の乳酸菌を取り込んでいました。この作業を山おろしといい、大変な重労働です。このように手間と時間がかかる上に自然相手のため安定して大量に生産することが難しく、現在、生酛造りをしている酒蔵は多くありません。しかし昔の伝統や酒本来の味を求めて復活させる蔵元も少しずつ増えています。山おろしも含めて昔ながらの人力で行っているところも多いようですが、温度を自動で管理、または専用のドリルを使うなど機械化を進めて、生酛造りに注力している酒蔵もあるようです。酸が強く、米のうまみとともにしっかりした味。

※3山廃酛:山おろしは行なわず、投入方法などを変えて櫂でまぜて自然の乳酸菌を取り込みます。酸が効いて味が農厚。

酛造りのポイント

生酛造りは天然の乳酸菌を取り込み増やす工程からはじめます。

山おろしをした後、温度を6度前後と低く保つことで、低温に強い乳酸菌のみ活性化させます。

その後に温度を上げても、桶中は酸性が強くなっているため、雑菌は淘汰され、酸に強い酵母だけが生き残ります。

さらに糖化が進むと乳酸自体も死滅してしまいます。こうして微生物の中で酵母だけが残っていきます。

⑦もろみ発酵仕込み

酒母の完成により、酒造りに必要な材料が揃いました。

次は、これらの材料を使っていよいよ酒を造ります。

まずは酒の元となるもろみを発酵させる仕込みです。

もろみとは酒母と麹、蒸米、水を使って仕込み、アルコール発酵させたものです。

酒母と麹、蒸米、水を入れると、タンク(仕込み桶)の中では、自然の営みにより約1ヶ月間に次のような変化が起きます。

1. お米に含まれるでんぷんを麹の力により糖に変化させる「糖化」
2. この糖を酵母の働きでアルコールに変化させる「発酵」

これが同じタンクの中で、同時に進行してアルコール発酵したもろみが生み出されます。

これは並行複発酵へいこうふくはっこうと呼ばれる、珍しい製造方法なのです。

同時に進行することで糖の濃度が高くなりすぎずバランスよく発酵できます。

ちなみにワインは元々ブドウに糖分が含まれています。

ビールは麦芽を糖に変える糖化と発酵は別に行われます。

ただし、この発酵を成功させるためには、材料の入れ方に秘訣があります。

一度に全部の材料を投入すると、タンクの中の酸性度が薄くなり、他の雑菌が増えて発酵が進みにくくなります。

そのため材料を入れる仕込み作業を3回に分け、4日間かけて行なうのです。

これを三段仕込みといいます。

1日目を「初添え」。

2日目は仕込みを休みます。

これは酵母の増殖を促すためで「踊り」と呼ばれます。

3日目は「中添え」4日目は「留添え」と呼ばれ、量を倍に増やしながら仕込んでいきます。

5日目以降は3週間程度かけ、もろみを発酵させます。

やがてぶくぶくと泡立ち、泡がおさまり、アルコール度数20度のドロドロしたもろみができあがります。

なお、純米酒以外の酒は発酵の終盤、醸造アルコールを投入します。

仕込みの部屋には大きなタンクがいくつもずらりと並べられていますので、杜氏はそれぞれの状態を確認しながら作業を進めます。

ろみ発酵仕込みのポイント

仕込みは低温でじっくり発酵させる長期低温発酵(7~18度)を行なうことで、糖化と発酵のバランスがよくなり、米の味と香りがよりひき出されます。

とくにアルコール発酵の際には熱も発生して温度が上がるので、温度管理が重要になります。

ろみ発酵仕込みの豆知識

日本酒の甘口、辛口は発酵されずに残った糖分の量により判断され、糖分が多いと甘口、少ないと辛口となります。

酵母の栄養分が多く、発酵力を強める硬水を用いると比較的辛口になり、軟水は甘めになります。

なお、より甘口の酒を造るため、四段仕込みでつくるお酒もあります。

これは三段の後にさらに材料を投入するもので、なかには五段仕込みや六段仕込みなどもあります。

四段仕込みに使う材料は、麹や酒母、うるち米、もち米、酵素など目的によって様々です。

⑧上槽(もろみを搾る)

アルコール発酵した酒の元ともいえるもろみができました。

このドロドロしたもろみから酒を搾りだしていきます。

泡がなくなり発酵を終えたもろみは、上槽と呼ばれる搾りの作業に入ります。

これにより酒(液体)と酒粕(個体)に分けます。

搾り方には短時間でしぼることができる自動圧搾機、昔ながらのふね※1、袋吊り※2などの手法があります。

※1槽搾り:もろみを詰めた酒袋を直方体の槽の中に敷き詰め、その上から油圧機などでゆっくりと圧力をかけて搾ります。なお伝統的な搾り方は、天秤をテコとして使い、端におもりをつけて圧力をかけます。

※2袋吊り:もろみをつめた袋を吊るし、滴り落ちる酒だけを集めたもの。ごく少量しか取れません。

ろみを搾るポイント

搾り始めと搾り終わりに出てくる酒では味が違います。

搾りたての酒は荒走あらばしりと呼ばれ、ワイルドで独特のフレッシュな味で少し濁りがあります。

途中の部分は中取りと呼ばれ、透明で味や香りのバランスが良好な日本酒で一番良い部分です。

さらに圧力をかけた最後の部分の酒は責めと呼ばれます。

責めは雑味が含まれ、その分濃厚な味わいがあります。

⑨濾過原酒の調整

搾った生酒には米の破片などオリと呼ばれる浮遊物があるため、そのまま酒を数日間タンクに置いてこのオリを沈殿させて上澄みの部分だけを抜き取ります。

オリ引きした後の上澄みを活性炭素と混ぜて濾過してさらに不純物を取り除きます。

活性炭素を使わずお酒をそのまま濾過機に通すこともあります。

過原酒調整のポイント

活性炭素を使うのは不要な雑味や色を吸着させて取り除くため。

すっきりとした端正な味の透明なお酒になります。

⑩火入れ

濾過してもまだわずかに酵母などが残っていることから、時間がたつと香味などが変化してしまいます。

酵母の働きを止め、酒の味や質を安定させるため火入れと呼ばれる加熱殺菌を行います。

火入れの方法は主に2種類あります。

蛇管じゃかんはお湯の中にらせん状の管を入れ、それに酒を通して60~65度に温めて殺菌します。

瓶燗びんかんは瓶の中に酒を入れた状態で湯せんのような形で火入れします。

入れのポイント

蛇管は一度に多くの酒には火入れができますが、酒が管にあたり品質が劣化する可能性があります。

一方、瓶燗は酒の質を変えずに火入れできますが、手間がかかります。

そのため、1度目の火入れは蛇管、2度目は瓶燗にする、または高級酒にのみ瓶燗を用いるなど使い分ける蔵元もあります。

知識

日本酒は、室町時代後半にすでに火入れが行なわれていました。

世界でこの方法が開発されたのは19世紀後半。

フランスの生化学者・細菌学者であるパスツールが、ワインの腐食防止目的で、火入れとほぼ同じ原理の低温加熱殺菌法を発表しました。

しかし、日本では理論上はともかく、少なくとも300年以上前からこの方法が実用化されていたわけです。

⑪加水

火入れした酒は、熟成させてより深い味を出すため秋口まで貯蔵されます。

お酒の種類によっても違いますが、半年から1年程度貯蔵されます。

タンクか瓶で貯蔵されますが、酒質を管理しやすい瓶貯蔵は高級酒に使われます。

原酒はアルコール度数が17~20度前後のことが多いため、出荷前に水を加えて日本酒の一般的なアルコール度数の15~16度に調整します(加水)。

いわば水で割るわけです。

その後、殺菌と品質の安定のため再度火入れして瓶詰をすれば完成。

ラベル等を貼り、いよいよ出荷です。

水のポイント

加水や火入れをした後は、しばらく寝かせてお酒と水の味をなじませ、酒の味を落ち着かせます。

今では貯蔵環境の整備などにより、熟成前に加水、火入れして貯蔵するところもあるようです。

それぞれの段階により生み出されるお酒

もろみが完成した後、日本酒として出荷するまで様々な調整が行なわれます。

一方で近年は冷蔵技術の発展などもあり、それぞれの段階によって生み出される酒も楽しめるようになりました。

一般的な日本酒とは異なる味わいを堪能できるそれらのお酒を紹介します。

これらの名称を知っていると、ラベルを見た時、どんなお酒かイメージしやすくなります。

ごり酒

【にごり酒】
もろみを搾ると日本酒になりますが、もろみを粗くこしたものに火入れを行ったもの。

【活性にごり酒】
にごり酒に火入れをしないもの。
酵母が生きているので瓶詰した後も発酵を続けるため、飲むと口の中でシュワシュワとした炭酸を感じられます。

にごり酒はとろりとした舌触りが特徴です。

ちなみに「どぶろく」は、もろみをこさずにそのまま使ったお酒です。

ただし日本酒にはこすことが定められているため、こしていないどぶろくは法律上、日本酒とは認められていません。

りがらみ

通常の日本酒は搾った後、オリのない上澄みを使います。

しかしあえてオリを入れたものもあります。

オリが入ることで独特の濃厚な味や香りが華やかになります。

【無濾過】
オリ引きした後に濾過しなかったお酒。
フレッシュで濃い目の味。

【無濾過生原酒】
濾過も火入れも加水もしないお酒。もろみそのものの味を味わえます。

加水しないお酒のことをいいます。

○○

「生」という冠がつく酒は、火入れを行うかどうかで決まります。

一般的な日本酒は2度の火入れを行ないますが、加熱しない酒や一度しか火入れをしない酒があります。

生酒なまざけ
一度も火入れを行なわない。荒々しい味。

【生詰め酒】
1回目のみ火入れして2回目はしない。
酒質はやや不安定なものの、新鮮な飲み口。

※ちなみに「ひやおろし」はひと夏貯蔵して2回目の火入れをせずに秋に出荷する酒のこと。生詰め酒の一つ。

【生貯蔵酒】
1回目の火入れをせず、生のまま貯蔵し2回目のみ火入れした酒。
酒質は安定。しっかりした味わい

【生原酒】
火入れも加水もしない酒。

おわりに

以上、日本酒の製造工程をご紹介しました。

お米が、アルコールを発酵に必要な糖になり、そこからアルコールに発酵され日本酒になるとは驚きですよね。

この工程の裏には、糖化や発酵を助けるために麹や酵母を増やすなど、様々な作業の積み重ねがあります。

しかも工程を見ると分かるように、お酒造りは生き物そのもの。

目に見えない自然界の酵素を取り入れながら桶の中でさまざまなサバイバルや変化が起こり、お米がやがてお酒に変化していきます。

自然の奇跡の結晶が日本酒なのです。

杜氏たちはそんな自然の営みを活用しながら、優れた醸造技術と細やかな作業を重ねて、それぞれ目指す日本酒を生み出してきました。

材料や製法はもちろんのこと、蒸米の水分の量、酵素の状態、温度などがほんのわずかずつでも違っていたら、今、あなたが飲んでいる酒の味も違っていたはず。

奇跡の出会いに感謝しながら一献傾けてみてはいかがでしょうか。