日本酒は、いにしえの時代から日本人の生活の中に根付き、時代とともに変化を遂げてきたお酒です。

その繊細で複雑な味わいは外国人からも評価されており、今や世界からも注目されています。

そんな興味深い日本酒ですが、いざ選ぼうとすると種類が多くて迷う人も多いのではないでしょうか。

とくに吟醸酒ぎんじょうしゅ醸造酒じょうぞうしゅの違い、硬水と軟水の違いなど疑問を持たれる方も多いと思います。

今回はそんな日本酒の分類や歴史、原料、アルコール度、美容についてなど日本酒の基本情報をご紹介します。

日本酒初心者の方はもちろん、日本酒に興味のある方も今一度おさらいすることで、日本酒にさらに親しみを持って、味わいを深めてみてはいかがでしょうか。

日本酒の歴史

米から作る酒がいつできたのかはわかりませんが、弥生時代には唾液に含まれる酵素で米を発酵させた口噛之酒くちかみのさけが存在していました。

奈良時代には米と水、麹を使った酒が誕生しましたが、当時は混ぜるだけでおいしくなかったようです。

現代の段仕込みの元となった製法は平安時代から行なわれていましたが、この頃はにごり酒が主流でした。

今の伝統的な製法がほぼ確立されたのは室町時代。

乳酸菌の技術や発酵技術、濾過などの技術がすでに使われていました。

江戸時代にはさらに冬に仕込む寒造りも行なわれるようになりました。

明治時代以降も軟水を使った酒造りや速醸そくじょう※1など新しい技術が生み出されています。

※1 速醸系:糖質をアルコールに変える酵母を大量に培養する酒母しゅぼ造りの際、雑菌を駆逐する乳酸を人工的に加える方法です。その開発以前は乳酸を自然発生させていたため手間と時間がかかっていましたが、この開発により効率的な酒母造りが可能になりました。現在の日本酒のほとんどはこの手法が使われています。

日本酒の原料となる米と水

ワインはブドウ、ウィスキーは大麦から作られます。

日本酒は米から作られます。

ただしご飯として食べる白米とは違い、酒造りのために作られている酒造好適米しゅぞうこうてきまい、すなわち酒米さかまいが使われます。

酒米は粒が大きく、吸水性がよく、中心部に酒造りに必要なでんぷんを多く含んでいます。

とくにでんぷんを多く含んだ心白しんぱくという部分が大きいのが特徴。

この心白があることで麹も入りやすく、でんぷんが糖化されやすくなります。

酒米の銘柄は全国で100種以上あり、山田錦やまだにしき美山錦みやまにしき雄町おまち五百万石ごひゃくまんごくなどが有名。

とくに山田錦は30府県以上で作られています。

水も酒造りの大切な要素で、味は水で決まるともいわれています。

とくに影響するのが水の硬度。

硬度は水の中のマグネシウムとカルシウムの量で決まります。

これが多く含まれたものを硬水、少ないものを軟水と呼びます。

硬水はキレのあるしっかりした味で辛口になる傾向にあり、軟水は柔らかい甘口の酒になります。

日本では軟水が多く、硬水は兵庫県の六甲山や岩手県の岩手山が知られています。

また日本アルプスのように中硬水もあります。

硬水、軟水どちらでも酒造りができますが、江戸時代までは軟水での酒造りが難しく、主に硬水が使われていました。

ミネラルが多い硬水は酵母が活性しやすく失敗しにくかったのです。

明治時代に軟水を使った醸造法が発見され、軟水を使った酒造りも盛んになりました。

軟水は低温でじっくりと発酵を進めるため、なめらかな吟醸酒に向いています。

お酒の種類

日本酒とは米と米麹を主原料としたお酒です。

麹の働きで米のでんぷんを糖に変え、その糖が酵母によりアルコールに変化してできます。

その日本酒において一番気になるのは純米酒、本醸造酒などの種類の違いではないでしょうか。

じつは日本酒の分類は酒税法によって定められており、まずは大きく特定名称酒とそれ以外の日本酒の2種類に分けられます。

特定名称酒は麹米を使用する割合が15%以上であること、原料米が農産物検査法※2により3等以上に格付けされたものという条件を満たした上で、所定の原料と製造方法を行なうことで名乗ることができます。

これ以外が普通酒です。

※2 農産物検査法:米、麦、大豆などの農産物の品位などを検査する農作物検査制度と、その検査を担う登録検査機関について定めた法律です。この検査を行うことで生産された米の産地、品種、産年の証明がされます。細かい基準により、1等~3等に分類される。

特定名称酒はさらに原料と精米歩合せいまいぶあいにより計8種類に分類されます。

まず原料の違いで大きく2つに分けられます。

米と麹と水だけのもの、これに醸造アルコールを加えた2種類。

この2種類の中、さらに米の磨き(削り)具合、すなわち精米歩合で各4種類に分かれます。

米を磨くのは雑味や苦みの原因になる余分なたんぱく質や脂質を取り除くため。

例えば米の外側を40%磨き、60%残した場合は精米歩合60%になります。

ちなみに白米の精米歩合は90%です。

特定名称酒精米歩合原料
純米酒純米大吟醸酒50%以下米、米麹
純米吟醸酒60%以下
特別純米酒60%以下または特別な醸造方法
純米酒規定なし
本醸造酒大吟醸酒50%以下米、米麹
醸造アルコール(使用白米重量の10%以下)
吟醸酒60%以下
特別本醸造酒60%以下または特別な醸造方法
本醸造酒70%以下

所定要件を守った米と米麹、水のみで作られたお酒(醸造アルコールの入っていないもの)は基本的に純米酒で、すべて特定名称酒となります。

米と米麹のみは純米系、醸造アルコールを加えたものは醸造系に区分できます。

醸造酒のうち、精米歩合が表にあてはまらないものは特定名称酒以外の酒となり、「清酒」または「日本酒」と表示されることが多いようです。

味の違いはおおまかに純米酒タイプが米のうまみが生きてまろやか、醸造アルコールを使った本醸造酒はすっきりさわやかで、香りが高い傾向にあります。

そして米の精米歩合が高いほど、クリアな味わいになります。

ちなみに吟醸は多く削った米を低温で長時間発酵させて作る吟醸造りをしたお酒です。

とくに大吟醸は独特の香味があります。

ところで日本酒のことを清酒ともいいます。

日本酒と清酒は米、米麹および水を原料に発酵させてこしたものという点で同じものですが、日本酒は清酒の中で米、米麹が国内産の米のみを使って、日本国内で製造されたものと規定されています。

つまり日本酒と同じ製法で作ったお酒でも外国産の米を使い外国で作られると日本酒と表記できず、清酒になるというわけです。

アルコール度数

日本酒のアルコール度数は何度が多いのでしょうか。

じつは酒税法で日本酒のアルコール度数は22度未満と定められています。

日本酒のアルコール度数は15~16度が一般的。

ワインが12度前後、日本で発売されているビールは4~6度のため世界各地の醸造酒の中でも日本酒のアルコール度数は高めです。

最近では8度前後の低濃度酒や、逆に日本酒には分類されませんが、冷凍して高濃度に圧縮した38度のアルコールを持つお酒も登場しています。

ちなみに醸造酒を蒸留させた蒸留酒のアルコール度数はウィスキー、ブランデーが40度前後、焼酎も20~30度と高めです。

日本酒の旬と季節の酒と行事

1年中、いつでもおいしく飲める日本酒ですが、とくにおいしい「旬」があります。

出来立てのフレッシュな味を楽しむなら春、日本酒の酒本来の落ち着いた味わいは秋が旬になります。

これは日本の酒造りと関わりがあり、毎年秋から冬にかけて酒を仕込むため、春は搾りたての日本酒が味わえます。

一方、秋は保存されていた酒が夏の暑さを越えてしっかり熟成され、まろやかになり酒本来の味わいを堪能できます。

そのため春は「新酒しんしゅ」、「生酒きざけ」、もろみを搾って最初に出てくる「あらばしり」、 オリと呼ばれる白い沈殿物が混じった「オリがらみ」、秋は、熟成させた酒に2度目の火入れをしない「冷やおろし」、2度目の火入れをして出荷する「秋上がり」(酒蔵によって定義は違います)などの名前の酒が出回ります。

また、長い伝統を持つ日本酒は、日本の季節や文化の中にも深く根付いてきました。

そのため季節ごとに飲むお酒もあります。

・元旦から7日頃 新年を祝うお屠蘇おとそ
・現代のひな祭り、3月3日の上巳の節句 桃の花を浸した桃花酒とうかしゅや白酒で祝杯
・現代の子どもの日、5月5日の端午の節句 菖蒲酒しょうぶざけ(あやめざけ)で一杯
・7月7日の七夕の節句 青竹に酒を入れた竹酒
・9月9日の重陽の節句 長寿を祈る菊の花を浮かべた菊酒

その他、春は花見酒、夏は送り酒(お盆の時期に京都では盃に注いだ酒に送り火の光景を映して飲むとか)。

秋の夜長にお月見しながらいただく月見酒。

冬は雪を見ながらの雪見酒があります。

季節ごとに風流な一杯を楽しんでみてはいかがでしょうか。

日本酒は美容にいい?日本酒の活用法

発酵を重ねて造りだされた日本酒は発酵のパワーにより100種以上の有効成分が含まれているといわれています。

その中には女性には嬉しい美容成分も含まれています。

米麹にはシミやそばかすの原因となるメラニンを抑制したり、美白効果をもたらしたりする成分も。

また、日本酒は発酵することでコラーゲンの主成分を持つアミノ酸が増えるので、肌に潤いを与えてくれます。

そのため日本酒を利用した化粧水も。

他にも痩せやすいダイエットアミノ酸も含まれるなど多くの美容効果があります。

そのほか日本酒は入浴剤に使われることも。

日本酒の香りがリラックスさせ、体を温めて血液の循環をよくするといわれています。

日本酒風呂でぽかぽか優雅なひと時を過ごすのもオススメです。

ちなみに日本酒はお料理にも良く使われます。日本酒そのものが味わいになることに加えて、魚の臭みを消したり、素材の風味を引き立てたり、柔らかくしたりするという嬉しい効果があります。

また、広島県の酒どころ西条(東広島市)では美酒鍋びしゅなべという酒を使った鍋料理が名物です。

おわりに

以上、日本酒について種類の違いや原料、歴史、季節の酒などの基本情報をお届けしました。

日本酒に対して親しみを持っていただけたでしょうか。

日本独特の製法で作られる日本酒は、日本の風土と先人の叡智により作り上げられてきたもの。

飲みすぎに注意しながらその繊細で奥深い味わいをじっくり味わってみてください。