みなさんの一番身近なお茶はなんですか?

「緑茶」「煎茶」と答える人も多いのではないでしょうか。

では、どのように作られているかはご存知でしょうか?

身近なお茶とはいえ、製造工程にふれる機会は意外と少ないはず。

現代では、煎茶をはじめとする緑茶は、機械を使って統一された工程で作られています。

当然のように聞こえますが、今日の製茶方法に至るまで、約280年の時を経ています。ベースになっているのは煎茶の手揉み製法です。

日本ではもっともポピュラーなお茶で、製茶の基本でもある煎茶を中心に、緑茶の製造工程についてふれてみましょう。

江戸時代中期に始まった煎茶の製造

日本でお茶が飲まれるようになったのは平安時代からと言われています。

平安時代の『日本後紀』(819~840年に編纂)という書物に、嵯峨天皇に永忠えいちゅうとい僧侶が茶を献じたという記述があります。

しかし、煎茶が登場するのは江戸時代中期になってから。それまでは、蒸し製緑茶の一種である碾茶てんちゃを原料とする抹茶や、各地の番茶などがお茶の主流でした。

碾茶や番茶の長所を採り入れて、1738年に煎茶の手揉み製法が成立します。

煎茶が広まるにつれ、各地で製法のバリエーションも生まれます。

現在、共通した煎茶の製造工程があるのは、明治時代末期に製茶方法が統一されたためです。

煎茶の統一製法にもとづいて、機械化も行われました。

手揉みに近づけるため、揉み方の異なる機械を何種類も使います。

手揉み製法に倣って製造する工程は、今日では「荒茶工程」と呼ばれ、摘んだばかりのお茶の葉を加工するプロセスです。

お茶の特徴を左右する「荒茶工程」


緑茶の製造は、お茶の葉を摘んですぐ始める必要があります。

お茶には摘採直後から発酵する性質があり、時間の経過とともに緑色が失われ、味・香りが変化してしまうからです。

そのため、摘採した茶葉を加工する荒茶工程は、茶園に隣接する工場で、生産農家が行うことがほとんどです。

荒茶工程は「蒸し」「揉み」「乾燥」の作業に大別されます。

摘採した茶葉を蒸すのが最初の工程で、これを蒸熱じょうねつといいます。

蒸すことで酸化酵素による発酵が止まり、色・水分・鮮度が保たれます。

生葉の青臭さも取れます。

標準的な蒸熱時間は20~120秒程度で、蒸した後は茶葉を室温程度まで冷却し、色や香りを維持させます。

熱風をあてながら茶葉を揉む工程です。

攪拌かくはんしながら適度に摩擦と圧力を加えることで、茶葉は柔らかくなり、水分も徐々に低下します。

所要時間は約45分程度です。

粗揉後の茶葉を、加熱せずに室温でさらに揉むのが揉捻じゅうねんです。

乾燥しにくい茎などの水分もよく揉み出して、茶葉全体の水分を均一にします。

揉みながら葉の組織を壊すことで、緑茶の成分が浸出しやすくします。

20~30分くらいの工程です。

揉捻で揉み込まれた茶葉に熱風を送り、回転させながら軽く揉みます。

回転によって茶葉がほぐれ、撚れた形になって行きます。

乾燥させながら揉む約40分の工程で、緑茶の形を整える準備段階です。

茶葉を成形する工程が精揉せいじゅうです。

一定方向に圧迫しながら揉むことで、形は針状になり、水分は押し出されて乾燥が進みます。

所要時間は約40分です。

形が整ったら、乾燥機で乾燥させて荒茶のできあがり。

水分含有率は5%になるまで乾燥させ、貯蔵を可能にします。

緑茶の種類によっては、荒茶工程の一部が異なることもあります。

例えば、碾茶は挽いて抹茶にするためのお茶なので、形を整える必要がないため、揉む作業がありません。

玉露の場合は、煎茶と同じ工程で作られますが、茶葉が柔らかく水分も多いため、蒸熱時間が短く、揉む圧力も低めです。

玉緑茶の製造では、精揉の工程をとばして乾燥に入ります。

形を整えずに、攪拌しながら乾燥させるので、丸まった形に仕上がります。

玉緑茶には釜炒り製もあり、「蒸熱」の代わりに、生葉を高温の釜で炒る「炒り葉」によって発酵を止めます。

荒茶をグレードアップさせる「仕上げ工程」

荒茶工程に続くのが仕上げ工程です。

製茶問屋など流通業者が荒茶を仕入れ、加工するのが一般的で、統一された手順はありません。

荒茶はそのままでも美味しいですが、形は不揃いで水分が多めのため長期保存には不向き。

仕上げ工程では、形をきれいに整え、長期の貯蔵ができるよう乾燥させます。

さらに、種類の違う茶葉をブレンドすることで色・香り・味のすぐれたお茶が作られます。

荒茶を商品として洗練させる作業が仕上げ工程ですが、統一された手順がないため、おもなプロセスを順不同でご紹介します。

るい分け・切断

荒茶の大きさは一定ではありません。

数種類のふるいを使って分別し、大きな茶葉は切断して形を整えます。

入れ

お茶の品質を左右する大切な工程が火入れ。

荒茶をさらに乾燥させることで、長期の貯蔵が可能になります。

同時に、お茶独特の香りや味をさらに引き出すのも火入れの役割。

このとき生成される甘い香りや香ばしさは「火香ひか」と呼ばれ、仕上げ茶の特徴のひとつになります。

木茎やくず茶を取り除きます。

組(ごうぐみ)

数種類のお茶をブレンドし、消費者の好みに合った市販茶をつくる過程です。

お茶は品種や産地、時期によって味や香り、水色が異なります。

お茶それぞれの特徴を組み合わせることで、お茶のバリエーションもグレードも幅広くなります。

仕上げられたお茶は「仕上げ茶」と呼ばれ、包装・梱包されて流通します。

歴史と作り手のセンスが生きる美味しい日本茶

荒茶工程や仕上げ工程の繊細なプロセスを経て、見た目も味も香りもよい日本茶が生まれます。

絶妙なタイミングやバランスが必要になるため、マニュアル作業だけでは実現できない職人技といえるでしょう。

わたしたちが何気なく飲んでいる日本茶には、時代を越えて受け継がれたノウハウと、作り手ひとりひとりの経験やセンスが生きています。

日本茶ができる過程を知ると、1杯のお茶がますます味わい深くなるのではないでしょうか。