南北に長く、山や海に囲まれた日本では、各地の気候や地形の違いが顕著です。

日本茶でもまた、その土地にあった栽培方法や品種が選ばれ、各地で特徴あるお茶が作られています。

日本茶の産地として名高い地方は、チャ(茶葉が採れる茶樹)の栽培に特に適した条件を備えています。

チャはツバキ科に属する、熱帯から温帯にかけて成育する常緑樹です。茶園では花になる部分を早めに摘み取ってしまいますが、本来なら秋になると椿のような白い花をつけます。

今回は、日本茶の栽培条件と、おもな産地について触れてみましょう。

また、日本では希少な後発酵茶の産地についても取り上げます。

日本茶栽培に適した気象と地理的条件

チャは亜熱帯性の植物です。

栽培には気象と土壌が大きく影響し、温暖で、降水量が比較的多い土地が向いています。

一般的には、年平均気温が14~16℃程度で、降水量は年間1,300mm以上、チャが成長する4月~10月には900mm以上の降水量があることが望ましいと言われます。

参考として、日本茶生産ナンバーワンの静岡県の場合、静岡市の年間平均気温は16.5℃、降水量は2324.9mmとのことです(静岡地方気象台データより)。

チャは弱酸性の土壌を好みます。排水性と通気性、適度な保水性も大切です。

土壌の深さは、根が十分に伸びることのできる1m位が理想的。

チャに適した土壌の性質は、火山灰質の土壌に見られることが多く、静岡県の牧之原台地や、鹿児島県のシラス台地などが好例です。

地形も茶の品質に影響します。

山間部や盆地にある伝統的な茶の産地は、高級茶の産地としても有名です。

山間部などの気温は、チャに適した温度より若干低く、昼夜の寒暖差が大きいことから霧が発生し、日光が遮られることも多いです。

このような気象下では、チャの成長はゆるやかになり、うま味と香気を蓄えると言われています。京都の宇治茶が典型的な例でしょう。

日本茶のおもな産地

農林水産省による平成28年度の統計から、荒茶生産量をもとに上位5府県とその他有名な県をご紹介します。

日本最大の茶の産地で、全国の生産量の約4割を占めます。

煎茶や深蒸し茶が中心です。

静岡県で生産されたお茶には「静岡茶」という統一ブランドがあるほか、県内各地に数多くの地域ブランドも存在します。

山間部で作られる「川根茶」や「本山茶ほんやまちゃ」、深蒸し煎茶で有名な「掛川茶」などがあります。

鹿 児島

日本第2位の茶どころで、全国の茶の約3割を生産しています。

温暖な気候から生産期間が4月~10月と長く、多様な品種が栽培されています。

「かごしま茶」という鹿児島県の統一ブランドに加え、「知覧茶ちらんちゃ」や「霧島茶」はじめ、地域ブランドも豊富です。

全国3位の産地である三重県のお茶は「伊勢茶」と呼ばれます。

かぶせ茶の生産は日本一で、北勢地域の「水沢すいざわ」がおもな産地。南勢地域では深蒸し煎茶が主体です。

荒茶生産量は全国第4位で、ブランド名は「みやざき茶」で統一されています。

作られるお茶の8割が煎茶で、2割は釜炒り茶。日本で作られる釜炒り茶の約6割が宮崎産です。

生産量日本第5位の京都のお茶は、「宇治茶」として親しまれています。

鎌倉時代からチャの栽培が始まったと言われる歴史ある産地です。

煎茶の製造方法の基礎が作られたのも宇治だったとのこと。

今日では高級茶の産地として有名で、玉露や碾茶、煎茶が生産されています。

玉露と碾茶の生産においては全国一です。

6位以下になりますが、他の特徴的な産地とブランドも加えておきましょう。

日本第2位の玉露の産地で、「八女茶」ブランドで有名です。

賀・長崎

佐賀県と長崎県にまたがる産地で作られるお茶は「嬉野茶うれしのちゃ」と呼ばれます。 

玉緑茶、釜炒り茶の主要産地です。

西尾市と安城市で作られるお茶のブランド名は「西尾茶」。

抹茶の原料となる碾茶の生産では全国2位です。

日本各地に伝わる後発酵茶

現在、日本で作られているお茶のほとんどは緑茶で、茶葉を発酵させずに作ります。

しかし、わずかながら例外もあり、一部の地域では後発酵茶こうはっこうちゃが古くから伝えられています。

後発酵茶は、生葉を加熱して茶葉の自然発酵を一度止めた後、カビや酵母、バクテリアなどの力で発酵させたお茶のことです。

代表的な後発酵茶には、中国のプーアール茶が挙げられます。

今でも日本で作られている後発酵茶は次の4種類です。

発酵方法は、カビ付けによるものと、漬物のように漬け込んで、微生物に乳酸発酵させる方法があります。

山の「黒茶」

黒茶こくちゃは、まず蒸熱した茶葉を揉みながら冷ました後、温度管理をしながらカビ付けし、約1ヶ月発酵させます。

その後発酵した茶葉を2~3日天日干ししたら完成です。

この黒茶を使った独特の飲み方に「バタバタ茶」があります。

黒茶を茶袋に入れて沸かし、小ぶりの茶碗に取って塩とともに加え、2本がくっついた茶筅(バタバタ茶筌、夫婦茶筌)を振って泡立てて飲みます。

茶筅を振る動きから「バタバタ茶」と呼ばれているそうです。

※ 泡立ちやすくなるので入れていたそうですが、現在は入れないことも多いそうです。

知の「碁石茶」

2段階の発酵を経て作られる、黒色で四角い形が特徴のお茶です。

一次発酵では蒸した茶葉をカビ付けし、その後、桶に漬け込んで乳酸菌で二次発酵させます。

漬け込んだ後、茶葉を3cm角にカットし天日干しして仕上げます。

その際、庭に並べられている様子が、まるで碁石が並べられているように見えたことからこの名前が付いたとされています。

島の「阿波晩茶」

阿波晩茶あわばんちゃは乳酸菌発酵による酸味やコクが特徴のお茶です。

大きく育った茶葉を整形せずに作るので、落ち葉のような外観をしています。

抽出すると黄金色のお茶になります。

夏まで成育した茶葉を熱湯で釜茹でし、茶葉を擦った後、酸素を抜きながら樽に押し詰めて微生物発酵させます。

約2週間~1ヶ月間漬け込んだら、茶葉を樽から出し、天日乾燥して完成です。

媛の「石鎚黒茶」

石鎚黒茶いしづちくろちゃは「碁石茶」同様、蒸した茶葉をカビ付けで一次発酵、漬け込んで二次発酵させて作ります。

石鎚黒茶の場合、一次発酵の後に茶葉の揉捻工程があるのが特徴です。

二次発酵が終わったら天日乾燥させます。

その名の通り黒色の茶葉ですが、入れると山吹色のお茶になります。

日本茶の地域ブランドは今後も拡大

今回ご紹介したもの以外にも、日本茶には、各地に伝わる製法や飲み方があります。

加えて、各地に合ったチャの品種改良や高品質化も進んでいます。古くから伝わるもの、新しく登場したのを合わせて、日本茶の種類やブランドは今後ますます増えていくでしょう。

身近な産地のものから、全国的に評価の高いお茶まで、豊富な種類の日本茶を、ぜひたくさんお試しください。