指物とは、釘を使わずにホゾや継ぎ手で木材を組み、且つ外側に組み手を見せない細工を施した木工品をいいます。

指物と言うよりは和箪笥、和家具と言った方が、想像しやすいかもしれません。

指物と言われる由縁(ゆえん)は、物差しを多用し、木を組んで制作することから来ています。

その仕上がりは、正確な設計と熟練の技術が必要な、まさに職人の手仕事です。

昔は、花嫁道具である箪笥や乱箱(小さな雑貨などを入れる小箱)、仏壇などは、指物師に頼んで作ってもらったと言います。

昔から家にある、ちょっとした和風の小箪笥も、もしかすると時代物の指物かもしれません。

今回は、日本の伝統工芸でもある「指物」をご紹介します。

指物の歴史 古くは仏教伝来から

指物の歴史は古く、奈良時代に遡ります。仏教伝来と共に、社殿や仏具の木工が伝えられ、その技術は、朝廷の調度品にも使われるようになります。

平安時代になると、貴族や僧侶が使う家具に、指物の技術が使われるようになりました。

釘を使わず、木を組んで作られたこの技法は「はこづくり」といわれ、薬やお香、硯や筆などを入れる箱のようなものだけではなく、和家具の前身となる、帳台ちょうだい(寝所として屋内に置かれた調度)、脇息きょうそく(すわった時、わきに置いて、ひじをかけ、体をもたせかけるための道具)、几帳きちょう(室内の仕切りや装飾)などの制作に使われるようになります。

この、筥づくりの職人たちは、貴族や僧侶が使う道具を作成する特別な職人として、漆工職人と共に特権階級の人々により保護されました。

指物の技術が一般家具に使われるようになったのは、安土桃山時代になってからです。

しかし、その頃でもまだ貴族文化が中心となっていた時代のため、貴族用の調度品や茶道具、仏具など、雅で豪華なものが好まれています。

現在に見られる、木目を活かした指物家具が作られるようになったのは、江戸時代になってからです。

特に、元禄以降は町人の文化の発展が著しく、「雅」よりも「粋」という、素朴で木目を活かしたもの、いわゆる「江戸好み」が生まれます。

また、町人が裕福になるにつれ、指物家具は一般にも使われるようになりました。

有名な指物の流派

指物は伝統的な流派がいくつか存在します。

中でも特に有名な3つの流派と、指物から誕生したといわれる工芸品についてご紹介します。

江戸指物

伝統工芸に指定されている江戸指物は、武家道具 から発展しました。

江戸時代に入ると、徳川家康が全国にいる名工を日本橋に集めたことで発展し、やがて江戸好みである木目を活かしたシンプルなものが作られるようになります。

1997年に経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受け、現在は東京都の台東区・荒川区・足立区・葛飾区・江東区が主な産地となっています。

京指物

京都の指物は仏具・茶道具から発展しました。貴族の持ち物ということもあり、漆塗、蒔絵が施されることも多く、豪華絢爛なものが特徴です。

箪笥・飾り棚・机などの高級和家具は無垢板むくいた(合板ではない、丸太から切り出した木材)を用い、木目や素材を生かした箱物・板物・挽物ひきもの曲物まげものなどの茶道具は、桐・杉・欅・桑などが使われました。

1976年に、経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受け、現代の主要製造地域は京都市のみとなっています。

大阪唐木指物

遣唐使を通じて奈良時代に日本に伝えられました。

中国の珍しい木「唐の木」を使っているこということで「唐木指物」といわれるようになったといいます。

安土桃山時代の茶道や貴族の住まいであった書院造の発展により普及され、江戸時代には長崎に運び込まれた唐木材を大阪の薬種問屋(薬の材料や調剤薬を扱う商人)により大阪に運ばれ、作られたと言われています。

大阪唐木指物は、拭き漆(薄く塗ること)を幾重にも重ね鏡のような光沢を持ちます。

1977年に、経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受け、現在は大阪府、兵庫県姫路市、 奈良県奈良市、和歌山県有田市が産地となっています。

堅牢で重厚な上品さが特徴で す。

寄木細工

指物ではありませんが、指物工芸と同じ日本の木工として伝えられているものに寄木細工があります。

指物工芸の際にでた端材を組み合わせて作られたと言われており、17世紀半ばに駿府すんぷの浅間神社建立にあたって全国から集められた職人によって誕生したと考えられています。

この後、寄木細工の技術が箱根に伝わり、現在に至っています。

寄木と指物の技術を使って作られる箱物は、古くから箱根の土産物として栄え、現在は箱根駅伝のトロフィーでも有名です。

一定の操作をしなければ開かない「秘密箱」は、指物と寄木の技術を合わせた工芸品で、海外でも高い評価を得ていますが、高度な技術や細工を必要とするため、職人が少なくなっています。

指物の家具の魅力

箪笥(たんす)

指物の代表的な家具です。花嫁道具となるような大きな箪笥も作られましたが、大きなものは加茂桐箪笥、仙台のけやき箪笥が有名で、江戸指物では小物入れなど小ぶりなものが作られました。

本体には桑、ケンポナシ、杉、栗などの木材を使用し、内部は桐材を使ったものが多く見られます。

漆塗り、蒔絵が施されることもあり、金具は錺職かざりしょく(金属に細かい細工をほどこす職人)によるものです。

乱箱

大小一対になった蓋のない箱。

旅館などで、浴衣やタオルが入っているトレイのようなものです。

着物を三つ折りにしたものが入る大きさになっており、桐が使われています。

漆塗や蒔絵が施されているものもあり、取っ手の部分を松や半月の形にするなどの工夫も楽しいです。

机と座卓

現在のテーブルや机のこと。

とはいえ、椅子を使うものではなく、座って使用する平机です。

東京の上野の池の端にある指物の「池之端京屋」は、川端康成や吉川英治などの名前が顧客名簿にあり、多くの小説にその名前が登場しています。

当時の文豪たちは、腕の良い指物職人に頼んでまでも、机にこだわっていた証と言えるでしょう。

几帳(きちょう)

几帳は、今ではめったに見なくなった、和家具のハンガーラックのことです。

着物を広げてかけることができます。

昔は嫁に行く娘の部屋に花嫁衣装を衣桁にかけるシーンがドラマにありましたが、それすらも時代劇の中だけのシーンになっています。

衣桁(いこう)

衣桁は、衝立のようなものに着物や洋服をハンガーにかけることができるハンガーラックのことです。

部屋の角を利用することもできる、和風デッドスペース家具とも言えるでしょう。

おわりに

日本の繊細で正確な技術を集結した指物は、日本古来の木工です。

衣類の湿気を防ぎ、食品の乾燥を防ぐ呼吸する指物家具は、現在、指物技術を使った和家具は海外から輸入された組み立て式の手軽な家具に押され、その存在も危うくなりつつあります。

腕の良い指物師が作った箪笥は、空の引き出しを収めると、空気が押され他の空の引き出しが開くと言われます。

是非実際に触れてみて、その柔らかで滑らかな感触を体感してみてください。