軒下で風に揺らめき、軽やかな音色をたてるガラス風鈴。

ガラス風鈴は、私たち日本人にとって夏の風物詩の一つともいえますが、庶民の間で親しまれるようになったのは、江戸時代末期のことでした。

そのガラス風鈴の伝統の技を、唯一今に引き継いでいるのが「江戸風鈴えどふうりん」です。

この記事では、300年前と変わらない製法で、一つひとつすべて手作業で作られている江戸風鈴の伝統の技に迫ります。

江戸風鈴とは?

「江戸風鈴」という名称は、“江戸時代と同じ製法で、江戸(東京)で作られた風鈴”として、そう呼ばれています。

実はこの名称は、昭和になってから生まれたものです。

その名付け親となったのが、先代からガラス風鈴の技術を引き継いだ、篠原風鈴本舗の二代目・篠原儀治しのはらよしはる氏でした。

儀治氏は、昭和40年(1965年)頃、商業的なガラス風鈴が世に出回る中、江戸から続く伝統的なガラス風鈴を守り伝えていくために、自らの風鈴を「江戸風鈴」と呼び、自身のブランドとしたのです。

そのため、江戸風鈴を名乗れるのは、儀治氏の技術を引き継ぐその一門、「篠原風鈴本舗」と「篠原まるよし風鈴」だけとなっています。

実際に、伝統的な製法でガラス風鈴を製作しているのも、都内ではこの2つの工房が残るのみとなっています。

江戸風鈴の特徴

江戸風鈴の特徴は以下の3つです。

宙吹き

宙吹ちゅうぶきとは、型を使わずに息を吹き込んで成形する技法のことです。

一般的に、丸いガラスを形成する際には簡単に同じ形を作れることから、型を使用して吹いていきますが、江戸風鈴では難易度の高い宙吹きで作ります。

宙吹きを一人前に吹けるようになるには、10年以上の修業が必要なのだとか。

また、型を使用して作られた風鈴とは違って、宙吹きで作られる風鈴は一つひとつの大きさや形、音が微妙に異なります。

ギザギザの鳴り口

軽やかで優しい音色を奏でる江戸風鈴。

実は、あえて口玉から風鈴の本体を切り離す際にできる、鳴り口のギザギザを少し残しています。

こうすることで、風鈴の内側にあるぜつと呼ばれる部品が風鈴にぶつかる音だけでなく、風が風鈴に触れただけでも擦れる音が鳴るようになり、音の響きが美しくなるのです。

内側の絵付け

量産品の風鈴の場合、風鈴の外側に柄シールを貼り付けたり、絵付けがされるのですが、そうすると雨風で柄が落ちてしまうことがあります。

そこで、江戸風鈴ではガラスの艶やかさの中で色が長持ちするよう、風鈴の内側に手描きで絵付けを行います。

こうしてすべて手作業で作られた江戸風鈴は、一つとして同じもの・同じ音色はなく、世界でたった一つの風鈴となるのです。

江戸風鈴の歴史

江戸風鈴の歴史を知るために、風鈴について紐解いていきましょう。

風鈴の起源は、中国の占い道具である「占風鐸せんふうたく(せんぷうたく)」に由来し、これが日本に伝わってきて、お寺の屋根の四隅に下げられる青銅製の「風鐸ふうたく」となりました。

風鐸の音には魔除けの効果があると信じられており、平安・鎌倉時代には、貴族たちが風鐸に代わる「風鈴」を縁側に下げていたという記録が残っています。

ガラス製の風鈴が登場したのは江戸時代になってからで、長崎のガラス職人が見世物として売り出したのがはじまりのようですが、現在の価値にして約200~300万円もする大変高価な品でした。

これは、当時の日本にはガラスの原料を作る技術がなく、海外から輸入される原料はとても貴重だったからだといわれています。

明治20年(1887年)代にはガラス製品の値段が下がり、庶民でも手にすることができるようになると、徐々にガラス風鈴の需要は高まり、軒下に下がるガラス風鈴の光景が夏の風物詩の一つとなっていきました。

このような世の中の明治24年(1891年)、篠原風鈴本舗の初代・篠原又平氏が生まれ、身につけられたガラス風鈴の技術は二代目・篠原儀治氏に引き継がれていき、江戸風鈴というブランドが誕生したのです。

また、江戸風鈴の絵柄として、現在は金魚や花火といった夏らしいものが好まれますが、地に魔除けの朱色を使用したものや、福を呼ぶ縁起物などが伝統的な絵柄です。

こうした絵柄は、そもそも風鈴が魔除け効果のある風鐸から派生した、魔除けの鈴であったことを物語っているのです。

江戸風鈴の作り方

それでは、300年前と同じ製法で作られている江戸風鈴の作り方を、ワゴコロ編集部が体験した際の動画や写真とともにご紹介しましょう!

工程その1「宙吹き」

【1.口玉くちだまを吹く】

共竿ともざおと呼ばれる長いガラス棒を使って、1,300度前後もある窯の中から、溶けたガラスを少し巻き取ります。
ガラスがピンポン玉ほどのサイズになるよう、共竿に息を吹き込み、「口玉くちだま」を作ります。
この口玉を後で切り落とすことで、風鈴の鳴り口となります。

【2.風鈴本体を吹く】

次に、風鈴本体を作っていきます。
先ほど作った口玉を再び窯に入れ、口玉の先に溶けたガラスを少し多めに巻き取り、少し膨らまします。

【3.風鈴を吊るす紐を通すための穴をあける】
本体が少し膨らんだら、素早く共竿に細い針金を差し込み、本体の頂点に穴を開けます。
この穴が、風鈴を吊るすための紐通しとなります。

【4.本体を膨らます】
そして、本体を窯に戻し少し温めたら、最後に強く息を吹き込みながら、本体を目標の大きさまで一気に膨らまします。

ここまでが「宙吹き」と呼ばれる工程になります。

宙吹きのポイントは風鈴の形が綺麗な丸になるよう、吹いている間も共竿をずっと空中で回し続けることです。

本体が吹き終わったら、共竿から切り落とし熱を冷まします。

冷めたら、石を使って本体から口玉を切り落とし、鳴り口を作ります。

そして、鳴り口をやすりで整えたら、風鈴本体の完成です!

工程その2「絵付け」

次に、絵付けの工程です。

江戸風鈴の絵付けは、すべてガラスの内側に描いていきます。

はじめに、輪郭線となる黒い線を描きます(素描すがき)。

そして、黒い線が乾いたらその中を塗り(中塗なかぬり)、さらに乾かした後、地となる色を全体に塗っていきます(朱色の場合は、赤塗りと呼ぶ)。

そうして全体が乾いたら、紐を通し、江戸風鈴の完成です!

職人さんが実際に宙吹きをされている動画をみると、さっと手早く美しい丸い風鈴ができていますが、素人がこの宙吹きをすると大変なことになります!

ワゴコロ編集部が実際に篠原風鈴本舗さんで風鈴作り体験をさせていただいた際の記事もございますので、ぜひ職人技と比較してみてください……!

江戸風鈴作りを体験してみよう!

「篠原風鈴本舗」と「篠原まるよし風鈴」では、江戸風鈴作りを体験することができます。

※本記事の内容は2020年12月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に各店舗へお問い合わせください。

江戸風鈴 篠原風鈴本舗

「篠原風鈴本舗」は、大正4年(1915年)創業。

江戸風鈴の名付け親であり、江戸川区の無形文化財に認定されている二代目・篠原儀治氏が会長を務めています。

儀治氏の長男である三代目・ゆたか氏亡き後、現在は、彼の妻・篠原惠美氏が取締役兼職人となり、2人の娘さんを含む5人の職人たち、そして黒猫の黒マルとともに工房を営んでいます。

住所:〒133-0065
   東京都江戸川区南篠崎町4-22-5
営業時間:9:00~18:00(12:00~13:00は昼休み)
定休日:日・祝日
体験内容:予約制
・絵付け体験 1時間程 1,500円(税込)/1個
・ガラス吹き+絵付け体験 1時間45分程 2,000円(税込)/1個
アクセス:都営地下鉄新宿線「瑞江駅」北口より徒歩約12分

江戸風鈴 篠原まるよし風鈴

「篠原まるよし風鈴」は、篠原儀治氏の次男・篠原正義氏が平成2年(1990年)に独立し構えた工房です。

新御徒町駅の駅前に伸びる佐竹商店街にあり、軒先は店舗、1階の奥が工房、2階が絵付け会場となっています。

妻で女将の延子氏と、正義氏の技を引き継ぐ2人の息子さん、そしてミックス犬の風太、ミドリガメのカメ男とともに、江戸風鈴を使ったさまざまなプロジェクトに挑戦中。

住所:〒110-0016 
   東京都台東区台東4-25-10
営業時間:10:30~18:00(日曜のみ11:00~17:00)
定休日:公式ホームページをご確認ください
体験内容:予約制
・絵付け体験 30分~90分程度 1,650円(税込)
・ガラス吹き~絵付け体験 1時間~2時間程度 2,000円(税込)
※詳しくは、「篠原まるよし風鈴」の公式HPをご覧ください。
アクセス:・つくばエクスプレス「新御徒町駅」A2出口よりすぐ
     ・JR山手線「御徒町駅」より徒歩8分
     ・都営地下鉄大江戸線「新御徒町駅」改札口より徒歩1分
     ・東京メトロ日比谷線「仲御徒町駅」より徒歩6分
     ・東京メトロ銀座線「稲荷町駅」より徒歩6分

江戸風鈴が彩る夏のイベント

「江戸風鈴の音色ってどんな音なんだろう?聞いてみたいな……」

そんな風に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

最後に、江戸風鈴が彩る夏のイベントを2つご紹介します。

※本記事の内容は2020年12月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に各寺社へお問い合わせください。

ほおずき市(あさくさかんのん浅草寺)

浅草寺の「ほおずき市」は約200年前から続く縁日で、毎年7月9日・10日に開催されています。

「ほおずきの実で水を飲むと、大人も子供も病気が治る」といわれており、境内ではほおずきを売る屋台が軒を連ねます。

そのほおずきとセットで売られているのが江戸風鈴で、中には、江戸風鈴が欲しくてほおずきを買う人も多いとか……。

ほおずき市では、江戸風鈴の涼やかな音色が響き渡る中、夏の下町情緒も楽しめます。

開催日:毎年7月9日・10日 8:00~21:00頃まで
住所:〒111-0032
   東京都台東区浅草2-3-1
アクセス:・東京メトロ浅草線「浅草駅」A4出口より徒歩5分
     ・東武スカイツリーライン「浅草駅」より徒歩5分
     ・東京メトロ銀座線「浅草駅」より徒歩5分
     ・つくばエクスプレス「浅草駅」より徒歩5分

縁むすび風鈴(川越氷川神社)

「縁むすび風鈴」は、縁結びの御利益があるとして有名な川越氷川神社にて、平成6年(1994年)より開催されており、若い世代やカップルの間で話題となっています。

境内には2,000個以上の江戸風鈴が飾られ、そのうち、メインの「風鈴回廊」では500個の江戸風鈴が吊り下げられます。

風に揺れる江戸風鈴の軽やかな音色とともに、昼は透き通るガラスの美しさを、夜はライトアップされた神秘的な美しさを、どうぞお楽しみください。

開催日:7月初旬~9月初旬 9:00~21:00まで
住所:〒350-0052 
   埼玉県川越市宮下町2-11-3
アクセス:
・お車の場合 関越自動車道 「川越I.C.」から約20分
※休日は駐車場が大変込み合っており、ご利用できない場合があります。

・電車・バスの場合
JR・東武東上線「川越駅」より東武バスで約10分
「川越氷川神社」下車 徒歩0分
小江戸巡回バスで約20分(土日祝は約30分)

西武新宿線「本川越駅」より東武バスで約7分
「川越氷川神社」下車 徒歩0分
小江戸巡回バスで約15分(土日祝は約25分)

※なお、天候や新型コロナウィルスの影響などで開催が中止になる場合もございます。

イベントにおでかけの際には、必ず公式HPをご確認ください。

おわりに

現代の日本では、住宅事情により、軒下や窓辺に風鈴を飾るのが難しい場合もあります。

ならば、この情緒あふれる江戸風鈴を、お家の中で楽しむのはいかがでしょうか?

エアコンや扇風機などの風があたるところに吊るしたり、また今では、風鈴のためのスタンドも発売されているので、インテリアとして取り入れるのもオススメです。

江戸風鈴の優しい音色とそのかわいらしい佇まいに、癒されてみませんか?