ユネスコ無形文化遺産「小千谷縮・越後上布」とは、新潟県の塩沢・小千谷地区で、古来より伝わる手織機の「いざり機」で、地面や床に座って織る麻織物のことです。
背丈ほどに伸びた原料の苧麻の刈取りから始まり、幾つもの工程を経ていざり機で織り上げ、しぼ取りは湯もみ・足踏みで落とし、雪ざらしをして仕上げます。
ユネスコ無形文化遺産に登録された小千谷縮・越後上布は“これらの工程を全て手作業で行うこと”と指定されています。
近年は、後継者の高齢化やその生産技術のまれにみる希少性から、早急に保護すべき世界の無形文化遺産として、平成21年(2009年)9月30日に、ユネスコ(国連教育科学文化機関)に登録されました。
そこで今回は、小千谷縮・越後上布の貴重な技法が、ユネスコ無形文化遺産に登録された理由やその後の変化、魅力などを余すところなくお伝えしていきます。
ユネスコ無形文化遺産【小千谷縮・越後上布】のルーツ
小千谷縮・越後上布の歴史は古く、平安時代後半には、苧麻の繊維を手作業で紡ぎ、さまざまな工程を経ていざり機で織りあげる生産技術が確立していました。
上質な平織の麻織物は、身分の高い貴族の衣服として重宝され、現在の京都や大阪方面に大量に出荷されていました。
後の江戸時代には、高い評価を得て幕府への貢物として上納されました。
古書にもその記述があり、「朝廷や将軍家への献上品として上質な麻織物(上布)が贈られた」とする内容の記録が残されています。
ユネスコ無形文化遺産に登録された理由
小千谷縮・越後上布は約1,200年もの間、新潟県の塩沢・小千谷地区の風土に根差し、その生産技術の技法が伝承されてきました。
時代の流れと共に、近年になって原料となる苧麻の生産もわずかとなり、後継者の高齢化が進み、その技術を保存・継承していくことが危うくなってきました。
そういった理由から、小千谷縮・越後上布は早急に保護すべき世界遺産として、2009年9月30日に、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界無形文化遺産に登録されました。
現在は、新潟県魚沼地方の塩沢・小千谷地区において保存会が設立され「苧績み」「いざり機」「絣づくり」の3部門の保存・継承に力を注ぐとともに、次世代の技術継承者を育成しています。
【 小千谷縮・越後上布】の希少性
古来より継承されてきた小千谷縮・越後上布の生産技術の技法は、苧麻といわれるイラクサ科の多年草の植物(別名カラムシ)の繊維から作られます。
今回、ユネスコ世界無形文化遺産の、登録認定を受けるにあたり、定めた認定条件は下記の通りです。
・全て苧麻を手作業で紡いだ糸を使用すること
・餅模様を織る際には、手くびりの技法を用いること
・いざり機で織ること
・しぼ取りを行う場合は、湯もみ・足踏みに限ること
・雪ざらしは、古来より伝わる手法でおこなうこと
と指定され、この条件をクリアするものとしています。
伝統技術:苧麻糸を100%使用
小千谷縮・越後上布は、刈取った苧麻を数時間水に浸けて皮をむき、肉質をこそぎ落として繊維だけの青苧を作ります。
青苧の繊維を爪で細かく裂いて手で紡ぐ、苧績みの工程をはじめとし、手くびり・いざり機・足踏み・雪ざらしなど、全部で60余りの工程を経て出来あがります。
ユネスコ無形文化遺産「小千谷縮・越後上布」の原料は、苧麻100%使用した麻織物でなくてはなりません。
伝統技術:いざり機での織り
いざり機は5世紀のころ中国から伝わってきた、布を織る手織機のひとつです。
小千谷縮・越後上布は、苧麻の糸を手で紡いだ後、いざり機で織り上げます。
農作業の傍ら、11月から3月の農閑期に行われ豪雪地帯である魚沼地方の風土が、乾燥を嫌う苧麻糸に湿気を与え小千谷縮・越後上布の生産に適していたと考えられています。
伝統技術:雪ざらし
製作する上で、「雪ざらし」のメリットは大きく、上質な麻織物に仕上げるための工程には欠かせない作業です。
新潟県は豪雪地帯で知られ、日中、積もった雪の上に越後上布を広げ、太陽に当てることでオゾンが発生し、そのオゾンが布目を通り気化することで、繊維を殺菌・漂白する効果があります。
この雪ざらしは3月頃に行われる工程で、汚れの付いた麻織物も不思議と汚れが落ちることから、天然のお洗濯として知られ春の風物詩となっています。
ユネスコ無形文化遺産に登録されるまでの過程
世界のグローバル化に伴い、時代と共に滅びゆく文化や技術、表現、知識など、形のない無形文化遺産を自国のみで、救済・保存・継承していくことが難しくなっています。
それでは、小千谷縮・越後上布が、ユネスコ無形文化遺産に登録されるまでの過程を見ていきましょう。
小千谷縮・越後上布~ユネスコ無形文化遺産登録への道
小千谷縮・越後上布の古法基づく生産技術は、1955年に日本の重要無形文化財に指定され、以降は伝承者の育成は公費で負担することができるようになりました。
しかし60もの工程を要する小千谷縮・越後上布の古法技術は、原料となる苧麻の生産量の減少や、後継者の高齢化により保存・継承が難しくなってきました。
そのような背景から、「緊急に保護する必要がある無形文化遺産」として、国を挙げて積極的にユネスコ無形文化遺産への登録を推進してきました。
その甲斐あって2009年には、小千谷縮・越後上布の生産技術が、ユネスコの無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表一覧表」に登録を果たしました。
ユネスコ無形文化遺産に登録されてからの変化
ユネスコ無形文化遺産に登録された後は、無形文化遺産基金による国際援助が受けられるようになり、広範囲に厚く、救済・保存・継承者の育成に尽力を注ぐことが可能になりました。
小千谷縮・越後上布の保存会を通じて、さまざまな取り組みがなされ、「苧績み」「いざり機」「絣づくり」などの技術講習会が開かれています。
近年は、次々と若手後継者の育成に成功し、1年に30ほどの反物が生産されるようになりました。
ユネスコ無形文化遺産に登録されたものの魅力
「小千谷縮・越後上布」は、これまで越後上布と呼ばれてきましたが、現在は平織のものは「越後上布」縮織のものは「小千谷縮」と区別されています。
では、それぞれの魅力について紹介していきます。
小 千谷縮の魅力とは
平織りの越後上布に横糸にひねりを加え織上げた小千谷縮は、生地表面にシボとよばれる波状の凹凸が全面に現れ、シャリ感が魅力の織物です。
江戸初期の頃、明石藩の藩士だった浪人により、小千谷地方の住民に「明石縮の技法」が伝授され、その技術を越後上布に応用したという説があります。
当時は「越後縮」と呼ばれ、さらさらとして着心地が良くとても人気があったようです。
越 後上布の魅力とは
奈良の正倉院に「越布」として今も保存されている「越後上布」は、湿気を含みやすく、汗をかいても乾燥しやすいという魅力があります。
さらりとした風合いが特徴で、四季がはっきりしている日本の蒸し暑い夏に「越後上布」の織物は最適です。
平安時代には位の高い貴族の衣服として重宝されてきた「越後上布」ですが、江戸時代後期に入ると木綿の生産が盛んになり次第に衰退していきました。
おわりに
ユネスコ無形文化遺産「小千谷縮・越後上布」は、千数百年も前から作られその「上布」が現在も奈良の正倉院に残されています。
その技術は今もなお継承され、本来の伝統技術である、苧麻の育成から、いざり機で織りあげる全ての工程を手作業で織り上げる、希少価値の高い織物です。
その希少性から2009年に、ユネスコ無形文化遺産代表一覧に登録され、現在は新潟県の魚沼地区・小千谷地区の保存会によって、「苧績み」「いざり機」「絣づくり」などの技術講習会が開かれ、後継者の世代交代にも成功しています。
希少価値の高い小千谷縮・越後上布に興味のある方は、ぜひ越後上布・小千谷縮布技術保存協会のHPをチェックして見てはいかがでしょうか。
ユネスコは、国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational Scientific and Cultural Organization)のことです。本記事では、日本で登録されているユネスコ無形文化遺産を一覧でご紹介します。
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