着物好きの憧れ、「結城紬」。

結城紬は、国の重要無形文化財に指定されているだけでなく、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。

また、日本三大紬の一つとしても名高い結城紬ですが、実は日本最古の絹織物だということをご存知でしょうか?

この記事では、結城紬の特徴や歴史、種類、制作工程などをご紹介します!

結城紬とは

結城紬とは、茨城県結城市周辺と、隣接する栃木県小山おやま市、下野しもつけ市などで生産される絹織物です。

特に名前にも冠される結城地方は、主要な生産地の一つである集落を「蚕守こもり」、鬼怒川きぬがわを「絹川」と表記した時代があるほど、養蚕産業が盛んな土地柄でした。

昭和52年(1977年)には国の伝統的工芸品の指定を受け、そして平成22年(2010年)には記録に残る最古の絹織物として「結城紬」はユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されました。

結城紬の歴史

結城紬の歴史は、奈良時代まで遡ります。

結城紬を含むすべての紬の原型は、その当時、朝廷に献上されていた糸が太い絹織物である「あしぎぬ」という布とされています。

結城地方で作られていた絁は、質素で丈夫なことから鎌倉時代には「常陸紬ひたちつむぎ」と呼ばれ武士に好まれ、この地方の名産品となりました。

当時の領主だった結城氏の名から、やがて「結城紬」という呼称が広まり、室町時代頃に定着したといわれています。

また、江戸時代には京都や信州から染工や織工が招かれて技術を伝えました。

さらに江戸中期に編纂された『和漢三才図会わかんさんさいずえ』という百科事典には、「紬は常州結城に出るものを上とす」との表記があります。

結城紬はこの頃から、最上級品として扱われていたんですね!

明治時代にはかすり亀甲きっこうなどの複雑な模様が織られはじめて、結城紬はおしゃれ着として広く普及していきます。

現代では色柄ともに種類豊かになり、手頃な価格の反物を生産する織元も出てきて、結城紬は時代に合わせた変化を遂げています。

伝統的な着物を、現代的な感覚で着られるのは嬉しいですね!

また近年では、後継者不足を補うための取り組みとして、栃木県小山市では市職員として「紬織士つむぎおりし」の採用をはじめました。

紬織士は4年間の研修を経て、後継者の育成業務にあたります。

令和2年(2020年)の時点で、小山市には2名の紬織士が在籍しています。

結城紬の特徴

高級着物の代表でもある結城紬には、どのような特徴があるのでしょう。

ここでは3つの特徴をご紹介しましょう。

らかな手触り

結城紬は糸に糊を付けて織るので、最初は少し堅く感じます。

しかし、真綿から取った糸で織りあげた生地は軽く、着るほどに体に馴染んでいきます。

馴染んだ結城紬は柔らかく、ふっくらとした肌触りで、しかも皺になりにくい!

高級着物の代表ともいわれる結城紬ですが、最初は寝間着にして柔らかくする、なんて話もあるそうですよ。

・柄(模様)

明治時代頃までは、伝統的な十字絣※1や亀甲絣※2が主流でしたが、昭和のはじめ頃からは自由な柄ものが出回るようになりました。

また、藍、茶、浅葱、鼠色が中心だった色も種類が増え、近代では多彩な色ものが見られます。

なお、無地よりも縞、縞よりも絣、さらに織柄の模様は細かいほど高価になります。


※1 十字絣:細く、白くかすったように染め残した糸を交差させて織ることで、十字の模様にしたもの。
※2 亀甲絣:亀の甲羅を表した六角形の模様を連ねるもの。

城三代

昔、仕立てたばかりの堅い結城紬を手に入れた店の主人は、店で働く丁稚でっちと呼ばれる若者(または弟子)に着せ、柔らかくこなれてから自分のものにしたそうです。

それほど堅く丈夫な結城紬は、母、娘、孫と三代に渡って愛することで味が出るといわれ、「結城三代ゆうきさんだい」という言葉ができました。

現在では糸が改良され、すぐに柔らかな風合いが楽しめる結城紬ですが、長く愛される丈夫さは今も健在です。

結城紬の種類や「証紙」って?

結城紬には、「本場結城紬」と「結城紬」の2つの種類があります。

そのうち「本場結城紬」を名乗れるのは、本場結城紬卸商協同組合に認定された「証紙」の付いた反物だけです。

一方で、「結城紬」とだけ呼ばれる反物にも「証紙」が付いています。

こちらは決して偽物、というわけではありません。

混同されることも多い結城紬の種類や証紙について、ご紹介します。

場結城紬とは

本場結城紬は、その制作工程のすべてが手作業で行われます。

そのうち、「糸紡ぎ」「絣括り」「地機織り」の3工程が、昭和31年(1956年)に国の重要無形文化財の指定を受けました。

本場結城紬と認められた反物には、「結」のマークの入った証紙が付いています。

かつての織物はすべて本場結城紬とほぼ同じ製法で織られていましたが、現代ではその技法もさまざまに変化しています。

結マーク

この結マークは、本場結城紬卸商協同組合が発行しています。

「茨城県本場結城紬織物協同組合」と「栃木県本場結城紬織物協同組合」に加盟した業者の反物のうち、本場結城紬検査共同組合の検査に合格したことを証明する「合格証」を発行されたものだけが結マークの証紙を付けることができます。

結マークの証紙が付いた反物は量産が難しいため、値段も高く、希少価値があるのです。

なお、合格証には

①地機で平織り
②地機で縮織り
③高機で平織り
④高機で縮織り

の4種類があります。

一般的には「高織」のほうが値段が安く、市場にも多く流通します。

城紬(本場結城紬以外の結城紬)とは

「本場結城紬」とは別に、「紬」のマークの証紙が付いた結城紬の反物があります。

これは工程の一部を機械化することでコストを下げたり、生産数を増やしたりしている織元の結城紬です。

こちらも本場結城紬と同じく真綿から紡いだ糸を使用しているので、柔らかな風合いはそのままに楽しむことができます。

紬マーク

茨城県結城郡石下町を中心に、鬼怒川沿いの地域で作られる「いしげ結城紬」と呼ばれる反物を扱う組合が、茨城県結城郡織物協同組合です。

そして、この茨城県結城郡織物協同組合の組合員が作ったいしげ結城紬に付くのが紬マークです。

いしげ結城紬の制作工程の一部は機械で行われており、安定した生産量を確保しやすいので、価格は安く設定されています。

「本場」と付かないから「本物の結城紬ではない」、ということではなく、紬マークの結城紬は、消費者のニーズや時代に合わせて改良された反物なのです。

城紬だけが付けることのできる「証紙」

「結」マークと「紬」マークはどちらも正式な結城紬の証紙に付けられますが、それらの反物は違う製法で作られています。

その製法によって、「本場結城紬」と呼ばれたり「結城紬」と呼ばれたりするのです。

それぞれ違った良さがありますので、2つのマークの違いを理解すれば、自分がどんな結城紬を求めているのか見分ける手掛かりにもなりますよ!

結城紬の作り方

20以上の工程を経て完成する結城紬。

ここでは、国の重要無形文化財の指定条件の3工程を含めた4つの工程について焦点を当ててご紹介します。

つむぎ

乾燥させて紡ぎやすく加工した真綿を「つくし」という糸巻きのような道具にかけて、指先で糸を引き出します。

手作業で紡ぐので糸の太さには個体差がありますが、ムラなく、よりをかけない糸(無撚糸)で良質な真綿を作るのには経験が必要で、「綿かけ8年、糸つむぎ3年」ともいわれています。

なお、一反分の綿を紡ぐのに2ヶ月以上かかることもあります。

括り

紡いだ糸を経糸たていと緯糸よこいとにし、糊を付けて補強しながら、印を付けて糸で括ります。

こうして染めることで、絣模様を織るための糸ができるのです。

括りと染色は絣の色数分繰り返します。

絣括かすりくくりは染めムラができないよう力加減を均一にして糸を括る必要があるため、作業はすべて一人で行います。

模様によっては1ヶ月から3ヶ月、複雑なものになるとそれ以上かけて行われることもあります。

たき染め

絣括りをした糸を棒の端に縛り付け、たたき台にたたき付けて染色していきます。

たたき付けることで括った糸の際まで染料が入り込み、ムラなく糸を染めることができるのです。

機織り

染色し、括った糸を取り外してできた糸は、「地機じばた」で織り上げます。

地機は日本で最も古い織機といわれており、織機の内側に足を入れて座り、全身を使って織りあげます。

一反織るのに1ヶ月から、精巧なものになると1年以上かかる作業です。

結城紬の体験施設

結城紬ってステキ!でも着物を仕立てるには予算が……。

そのような方は、まずは機織りや染めの体験ができる施設で結城紬に触れてみてはいかがでしょうか?

むぎの館

つむぎの館は茨城県結城市にある、結城紬ミュージアムです。

敷地内には資料館のほかに古民家や土蔵などの歴史ある建物がズラリ!

歩くだけでも楽しい施設です。

結城紬の反物や着物の展示を見るだけでなく、自分で染物や機織りの体験もできますよ♪

住所:〒307-0001
茨城県結城市大字結城12-2
営業:平日 10:00~16:00(入館は15:30まで)
   土・日・祝 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 火曜日・水曜日・年末年始
体験内容・料金:入館無料(資料館・染織体験は有料)
アクセス:JR水戸線「結城駅」より徒歩約15分

情報は変更になることもあります。詳細は、公式サイトをご確認ください。

城市伝統工芸館

結城市伝統工芸館は、結城紬の制作過程の映像鑑賞や実演の見学、本場結城紬の機織り体験ができる施設です。

入口には、茨城県本場結城紬織物協同組合員合作の“特大暖簾”の展示も!

駐車場の設備もあり、コンパクトな施設なので「もう少し遊びたい」というときにもぴったりです♪

住所:〒307-0001
茨城県結城市大字結城3018-1
営業:10:00~16:00
休館日 毎週水曜日・年末年始
体験内容・料金:はた織り実演、体験等。入館無料(機織り体験は有料。要予約)
アクセス:JR水戸線「東結城駅」より徒歩7分

情報は変更になることもあります。詳細は、公式サイトをご確認ください。

おわりに

歴史と伝統ある結城紬。

日本が世界に誇れる文化の一つです。

着付けが難しい……高いから、汚してしまったら大変……

このような心配をお持ちの方は、まずは小物など、身近なものから結城紬を取り入れてみてはいかがでしょうか?

良いものは、長く使うほどに愛着が沸きますよ!

いつかは結城紬を身につけたいと思っていた方も、今回はじめて知った方も、この機会にぜひ結城紬を身近に感じていただけたら幸いです♪