刀といえば、それを入れる鞘も気になる人がいるのではないでしょうか。

黒、朱色、金色など色鮮やかで、さらに文様が施された豪華なものまであります。

色がついたような鞘をとくにこしらえといいます。

刀身が完成すると、その刀身を入れる鞘を鞘師が朴木ほおのきで作ります。

鞘には刀身を保管しておくための白鞘と外出時に入れる拵があります。

武士が腰に差して歩いている鞘、つまり黒や朱色といった色や紋様がついたのが拵です。

この着色は漆を塗り固めたもの。

鞘師が白鞘と拵の形を作った後、塗師と呼ばれる職人が、拵に漆を塗って色や化粧を施し、美しく仕上げていくのです。

今回はこの漆塗りについてご紹介します。

漆の役割

鞘は丈夫かつ美しさが求められます。

そのために使うのが漆です。

漆は防水と防湿、耐久性に優れている上に、漆の薄い層を何層も塗り重ねていくことで日本独自の美の極致ともいえるしっとりとした光沢のある美しさを出します。

まさに、鞘は漆によって強度と美が加えられ、刀を入れる道具から美術工芸品へと変貌していくのです。

この鞘に漆を塗るのが塗師です。

漆塗りの工程

基本の黒塗りの鞘の工程です。

がため

後で塗る漆がしみこむのを防ぐため生漆きうるしをかけます。

地塗り(錆下地)

砥石の粉と生漆を混ぜたものを塗り、砥石で砥ぎます。

これを数回繰り返します。

砥ぐことで適度なくぼみを作り、次に塗る漆をつきやすくします。

塗り

黒漆を塗っては木炭で研いでいく作業を繰り返します。

塗り

油と砥粉とのこを混ぜたものを布に塗って磨く胴摺どうずりで表面を磨きます。

次に、艶付けの漆を摺り込んではふき取る摺り漆を何回も施し、鹿の角の粉を使って磨いて仕上げます。

この独特の艶を出す技法を蝋色塗ろいろぬりといいます。

この後に漆で紋様などを描いた上に、金銀を散らす蒔絵などを施すこともあります。

変塗について

目塗り

乾漆粉や炭粉をまいてザラザラした質感を表現

皮塗り

錆漆を使って松皮に似せて塗る技法。

桜皮塗り、竹塗りなどもあり

殻塗り

卵殻を割って付着させたもの

貝微塵塗り

砕いた貝をまき、蝋色仕上げしたもの

皮塗

鮫皮を木地に貼り、錆付や研出し、摺り漆したもの

このように、卵殻や葉模様など塗り方は様々で、鞘は日本の美ともいえる漆文化の技術の粋が集まっているといえます。

おわりに

漆職人は全国にたくさんいらっしゃるようですが、鞘を専門に扱う塗師は10人程度といわれています。

塗師は何度も塗りと研ぎを繰り返す根気のいる作業ですが、美しく仕上がった時の感慨は人一倍でしょう。

武士は権威と誇りを象徴する物として、鞘に競って華やかに意匠を凝らすようになりました。

その種類はじつに多彩で、様々な技法も用いられています。

その緻密で奥行きのある漆文化の美しさは見飽きることがありません。

拵をじっくり鑑賞して、そこに込められた美的世界に浸ってみてはいかがでしょうか。