「石川県の食器」「石川県の器」といえば、多くの人が輪島塗や九谷焼、あるいは山中漆器を思い浮かべるのではないでしょうか。
これらは伝統的工芸品の一つであり、昔から多くの人を魅了してきました。
伝統的工芸品とは、伝統工芸品の中でも、経済産業大臣が指定する代表的な工芸品のことです。
石川県には上記以外にも、「金沢漆器」と呼ばれる伝統的工芸品があります。
今回は、この美しい「金沢漆器」について取り上げていきます。
金沢漆器とは?
金沢漆器とは、石川県金沢市周辺で作られる漆器(漆工芸品)のことを指します。
漆器の加飾には蒔絵・卵殻・平文などがありますが、金沢漆器にはこれら全てが伝えられています。
現在も機械で大量生産するのではなく、主に美術工芸品として茶道具、調度品、高級家具などが制作されています。
また、鞘に漆を塗る鞘塗りの種類も多く、その技術の高さから金沢漆器特有のものとして評価されています。
昭和55年(1980年)には、経済産業大臣から国の伝統的工芸品に指定されました。
金沢漆器の歴史と成り立ち

石川県の県庁所在地である金沢は、京都の文化を色濃く受け継いでいます。
現在でも加賀料理などにその片鱗を見ることができますが、金沢漆器の場合は一概に「京都風のものだ」とは言えない特徴を持っています。
江戸時代には、江戸、つまり関東からの文化の影響も受けるようになっていました。
今日見られる金沢漆器にも、江戸の文化の影響が見て取れます。
金沢漆器は、加賀藩の三代目藩主前田利常の声に端を発しています。
彼は江戸や京都という当時の文化の最先端の土地から多くの名工を加賀に招きました。
そのなかにいた2人の蒔絵師が、それ以降の金沢漆器の技術の基礎をもたらしたとされています。
その名工のうちの1人は五十嵐道甫、もう1人は清水九兵衛です。
五十嵐道甫は京都の、清水九兵衛は江戸の技術者です。
江戸と京都、2つの都市の職人が与えた影響は非常に大きかったのですが、時代を経るに従い、金沢漆器独特の美しさや技法も持ちうるようになります。
このときに招かれた名工たちは、金沢漆器だけでなく「九谷焼」の文化にも大きく寄与しました。
複雑な歴史をたどることになる古九谷※1もまた、このときに集められた名工によってもたらされたとされています。
※1元禄初年頃まで続いた九谷焼の古いかたちだと言われているが、その後に一度廃止されている。170年ほどしてから復興されたが、この「復興後の古九谷」は「古九谷」としては扱われないことも多い
金沢漆器の特徴について

金沢漆器は、とても美しいものですが、なかなか面白い特徴があります。
この漆器は、「まきえ」による美しく優美なデザインが特長なのですが、同時に、非常に武家的な性格を持つ器でもあります。
このため、金沢漆器はしばしば、「貴族文化と武家文化が高いレベルで融合した器である」と称えられます。
金沢漆器は、貴族的な繊細さと上質さを持つと同時に、蒔絵による豪奢な美しさも持ち得ます。
このような特徴はほかの漆器と一線を画すものであり、非常に特徴的です。
現在でも「蒔絵」を重視する傾向が極めて強く(むしろ、現在ではほとんどが蒔絵であるともされています)、蒔絵を非常に重んじている文化でもあります。
ただ、現在は、木地師(木からお椀の方を作る人)を育てていこうとする気風も強くなっています。
金沢漆器にも使われている加賀の蒔絵技法は、非常に評判のよいものです。
現在では特に「加賀蒔絵」と呼ばれ九谷焼などにも蒔絵の手法が用いられていることもありますが、この金沢の蒔絵は高台寺蒔絵(桃山文化の代表ともいえる蒔絵技術・文化)の流れを汲んでいます。
このような特徴を持つからか、金沢漆器は特に「蒔絵の金沢漆器」として讃えられることが多いものでもあります。
金沢漆器は茶道具によく使われています。
ただ、それ以外にも、調度品などにも使われてきました。
蒔絵の優美な美しさは、今も昔も、常に人の心をとらえてやみません。
蒔絵をつくる際には、金箔が用いられることもあります。
多くの人が知っている通り、石川県は金箔の名産地です。
金を叩いて伸ばして作る美しい粉末であり、九谷焼などでもこれを使った食器があります。
金沢漆器の人間国宝
金沢漆器において有名なのは、特に下記の先生でしょう。
大 場松魚
1916年に生まれ、伊勢神宮の御神宝など手掛けた名手です。
自然の風景をモチーフにした作品を多く作り、紫綬褒章まで受賞した人間国宝でもありました。
平文と呼ばれる、金を模様に切って漆器に貼ってそして研ぎだす手法をもっとも得意とした作家でもあります。
寺 井直次
1912年に生を受け、卒業制作である「鵜文様飾筥」が翌年の改組第一回帝展で入選を果たしたという人物です。
非常に研究熱心な人で知られており、卵の殻を使った蒔絵などにも取り組みました。
社会・公共に大きな貢献をしたとして、瑞宝章も受賞しています。
輪島塗・山中漆器との違いについて
金沢漆器を語るうえでは、「金沢漆器単体」だけを見ていては片手落ちというものです。
石川県には、上でも述べたように、「輪島塗※2」「山中漆器」の2つの有名な漆器があります。
この2つと比べなければ、金沢漆器の特徴を十分に伝えることはできません。
※2「輪島塗り」と記すこともある
輪 島塗

名前の通り石川県輪島市で作られるものです。県庁所在地である金沢とは異なり、輪島は非常に静かな土地であり、そこで輪島塗は育ちました。
漆に混ぜ物をして作った独自の材料を使って作り上げられるのが特長です。
「器」として使われることが多いのですが、額に入れられて絵のように飾られることもあります。
1400年ごろから始まったとされていて、沈金※3が特長です。
蒔絵も用いられますが、「蒔絵」という意味では金沢漆器の方が有名でしょう。
輪島塗の場合は、その美しい塗りが最大の特徴であるとして称賛されます。
これは、輪島塗の場合はそれぞれの過程(中塗りなど)において、専門職の人間が分業で担当していることが理由ともいわれています。
そのため、輪島塗は「塗りの漆器」として讃えられています。
※3ノミで模様を彫ったのち、そこに漆を入れて金粉などを入れて仕上げる方法
山 中漆器
金沢漆器・輪島塗とはまったく異なるものです。
金沢漆器と輪島塗が漆を強く塗るのに比べて、山中漆器は「木の風合い」を非常に大切にします。
木地がはっきりと確認できる仕上がりになっているものが多く、また特に「日常生活に使う器である」という特徴を持っています。
温かみを感じさせるデザインであり、普段使いにぴったりのものです。
もちろん漆も入れられるのですが、その姿は、一目で輪島塗や金沢漆器とはまったく方向性が異なるものだということが分かるでしょう。
このため、山中漆器は「木地(を重要視する)漆器」としてよく取り上げられます。
なお、山中漆器の歴史が始まったのは1600年ごろだと考えられています。
同じ石川県という土地で育まれてきた漆器であるのに、この3つはまったく違う性質を持ちます。
蒔絵が有名な金沢漆器、塗りの美しさと堅牢さが讃えられる輪島塗、そして木目のぬくもりがしっかりと感じられる山中漆器は、それぞれが独特の風合いを持っており、私たちの目を楽しませてくれます。
どれが良い・悪いといえるものではないため、好みで選び分けるとよいでしょう。

日本には漆器の産地が30近くありますが、中でも「山中漆器」は生産額が産地全体の70%を占め、日本一を誇ります。古くから木地挽物技術に優れ、高齢化が進む全国の産地から木地の注文がくることもあり、山中は木地の生産規模でも日本一です。
金沢漆器が欲しくなったら

金沢漆器を手に入れるためには、インターネットの通販が便利でしょう。
お重などが比較的よく出ています。
金沢駅のなかにも漆器を扱った店舗は数多く存在し、美しい石川県の漆器を見ることができます。
現在は新幹線が通ったこともあり、都心部からのアクセスも楽になりました。
ぜひ一度足を運んでみてくださいね。

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