日本で昔から語り継がれてきた妖怪たち。

彼らはいつの時代も、怖いもの見たさという私たちの好奇心をがっちり掴んで離さない、恐ろしくも愛おしいものたちでもあります。

「ろくろ首」という妖怪もまた、そのひとつ。

数百年前から愛され続けてきた怪異でありながら、意外に知られていないことがあるものなのです。

今回は、そんなろくろ首がどんな妖怪なのか、どんな怪談なのかといったことをご紹介します。

ろくろ首とは?ろくろ首は2種類いる!

「ろくろ首」という妖怪は、日本の妖怪の中でもかなりメジャーですよね。

長い首の妖怪、というイメージを持っている方も多いと思いますが、実はろくろ首は2種類いるということをご存じでしょうか?

ここでは、よく思い浮かべるような首の長いろくろ首と、別の種類のろくろ首をご紹介します。

お馴染みの「首が長~く伸びる」妖怪

行灯の灯りに照らされた女の首が、長く長く伸びてくねくねと宙を舞う……。

おそらく、多くの方が想像されるのがこの首が長く伸びるろくろ首だと思います。

蛇のようにうねうねと動く長い首は異様で奇怪、いかにも恐ろしげな様で、現代まで長く語り継がれてきました。

首が体から離れて飛び回る「抜け首」

ろくろ首といえば“首が伸びる”イメージがあるかもしれませんが、実は首が伸びないろくろ首もいることをご存じでしょうか?

それが、首が胴体から完全に離れる「抜け首」です。

抜け首は、首ひとつの身軽さで夜の闇を飛び回り、夜明け前にはもとの体に戻ります。

寝ている間に首が抜け出るので、自分が抜け首であることに気づいていないことも。

日本で広まったこの抜け首というろくろ首は、中国版ろくろ首の「飛頭蛮」がルーツという説もあります。

そして実は、昔はろくろ首といえば首が伸びる妖怪ではなく、この抜け首のことを指していたのです。

怪談に登場する「ろくろ首」ってどんな話?

ろくろ首が登場するお話は1つではありません。

今回は、数あるお話の中から2つをご紹介します。

轆轤首悕念却報福話(作者・十返舎一九)

九州・菊池家家臣の磯貝平太左衛門武連いそがいへいたざえもんたけつらは、菊池家滅亡の後に出家し、回龍と名乗り行脚していました。

そんなある日、甲斐の国(山梨県)の山中で野宿しようと横になった回龍のもとに、忽然と木こりの男が現れると、木こりは「山の夜は危険だ」と言って住処に招いてくれました。

木こりの小屋に着くと、中には上品な振る舞いをする4、5人の男女がいました。

こんな山の中に住んでいる人達なのに不思議だなぁと思い回龍が尋ねると、かつては身分が高かった者の家が没落し、ここで暮らしているのだと言いました。

夜も更け、読経を終えた回龍が水飲み場へ出ようとふすまを開けると、なんとそこには首のない5人の胴体が横たわっていたのです!

驚いた回龍でしたが、すぐに血の跡もなく、首に切られた様子がないことに気が付きます。

これは本で見たことがあるろくろ首だろうと考えた回龍は、ろくろ首は胴を隠せば首が戻れず死ぬはずだと思い出し、一人の胴を外へ放り出しました。

すると、森の中から話し声が聞こえるので向かってみると、5つの首が虫を喰って飛び回り、回龍が寝ている間に喰ってしまおうと相談をしているではありませんか!

そろそろ回龍が寝ている頃だろう……と様子を見に戻った首たちですが、回龍がいないだけではなく、胴が1つ無いことに気が付きます。

首たちは怒り狂い、隠れていた回龍を見つけて襲い掛かってきました。

剛腕の回龍は木を引き抜いて振り回し、飛びかかってくる首たちを返り討ちにしましたが、胴を隠した首だけは死んでも回龍の袖に喰いついたままで離れません。

豪胆な回龍は、なんとそのまま行脚を続け信州(長野県)へ。

諏訪の大通りで人殺しと勘違いされ捕まりますが、役人のひとりが甲斐の国のろくろ首の話を知っていたため釈放。

妖怪退治をしたと国守に感謝され褒美をもらい、また行脚へと発ったのでした……。

後日談
無事釈放され行脚を再開した回龍ですが、首を袖につけたままでした。

すると、山中で遭遇した強盗が回龍の首付きの衣服を気に入り、自分の衣服と交換して着て行きました。

その後、強盗は甲斐の国へろくろ首の家を訪ねて行き(廃屋で誰もいなかったので)、首を土に埋めて墳を建てたのだとか。

轆轤首(作者・石川鴻斎)

江戸時代、本石町(日本橋)の鐘撞き人のひとり娘は、色の白い美人にもかかわらず、やや首が長かったためろくろ首というあだ名で呼ばれていました。

娘はあだ名を恥じて家に閉じこもるようになりましたが、ある商家の息子が娘の容姿を気に入り結婚して婿入りします。

そして婚礼の後、初夜の夜更けに婿は目が覚めました。

灯りをともし、妻となった娘の艶やかな寝顔を見つめていた婿ですが、突然娘の首が伸び出したのです。

娘の首はあっという間に五、六尺(150cm~180cm)ほどの長さに伸び、ぐるぐる回り出します!

首は突然ぴたりと屏風の上で止まり、婿と目が合うと白い歯をのぞかせ微笑みました。

婿は恐怖に叫び声をあげ、気を失います。

すると、その声に驚いた娘は目を覚ましましたが、この時、娘の首は元の長さに戻っていました。

家人が医者を呼び、しばらくして婿は気がつきましたが、叫んだ訳をたずねても震えながら口を閉ざすばかりで、翌日実家に戻ってしまったのです。

この噂が世間に広まると、もう娘に縁談は来なくなっていましたが、あるとき神田の山口某という医師が、娘のあだ名を耳にして妻に迎えました。

その後、この医者が娘のろくろ首の病を治した……というお話です。

ろくろ首はいつ頃から存在するの?

ろくろ首は室町時代に怪異として登場した?

『轆轤首悕念却報福話』には、武士だった回龍が永享(1429~1411年)の頃に功を立てた、という記述あるので、出家した回龍がろくろ首に襲われたのは、室町時代の後半であると考えられます。

江戸時代の文献では、寛文3年(1663年)の仮名草子『曽呂利物語』、貞享3年(1686年)の怪談集『百物語評判』、享保17年(1732年)の怪談集『太平百物語』などに、女ろくろ首の目撃談が収められています。

橘南谿たちばななんけいの随筆『北窻瑣談ほくそうさだん』には、寛政元年(1789年)に越前国(福井県)の敦賀原仁右衛門つるがはらにんえもんの妻が目撃したろくろ首の話があり、南谿が仁右衛門の妻に直接話を聞いたと書かれています。

また、江戸時代前期頃までに怪異として伝わっているろくろ首の多くは、抜け首です。

江戸時代の怪談ブームを経て定着したろくろ首

江戸時代の中~後期になると、庶民の間で怪談が大流行しました。

もちろん、ろくろ首もそんな流行の中、歌舞伎や浮世絵などのさまざまな分野で登場します。

例えば、安永5年(1776年)の鳥山石燕『画図百鬼夜行』に描かれた飛頭蛮ろくろくびをはじめとして、天保5年(1834年)の北斎漫画『ろくろ首・三目の眼鏡』、天保12年(1841年)の歌舞伎『重扇寿松若』に登場するおつるのろくろ首、そして春画にまでろくろ首が描かれました。

この頃、絵では切断された首と抜けた首との見分けがつきにくいことから、首と胴体を線で繋げるように描き表すようになります。

こうした流行を経て、ろくろ首が世の中に定着したため、以前までは「ろくろ首=抜け首」だったのが「ろくろ首=首の長い女の妖怪」として定着していきました。

現代にも受け継がれる落語「ろくろ首」

古典落語にもろくろ首が登場します。

上方と江戸でバリエーションの違いはありますが、怪談話というよりは、ろくろ首がオチになって笑いを誘う内容になっているので、怖い話が苦手……という方には落語のろくろ首がオススメですよ!

落語「ろくろ首」のあらすじ
あるところに、いい年になっても遊んでばかりいる、ろくでなしの男がいました。

そこでご隠居が縁談を持ってくるのですが、相手の娘は美しくお金持ちでありながら一点だけ欠点があると言います。

その欠点こそが、「夜になると首が伸びる」ということ。

男は、それはろくろ首ではないかと怖気づいたものの、眠ってしまえば見えないか!と考え直し、とにかく婿入りすることになりました。

そして迎えた婚礼の晩、気になって眠れずにいた男は、娘の首が伸びるのを見てしまいます。

男は恐怖に飛び上がってそのままご隠居の家に駆け込みますが、「首が伸びるのは承知のはず」と取り合ってもらえません。

怖くて婚家には戻れないから実家に帰ると騒ぐ男に、ご隠居は「実家の母親も孫ができるのを“首を長くして”待っているのだ」と諭します。

それを聞いた、男が言いました。

「それじゃあ、実家にも帰れない!」

ろくろ首にまつわるこぼれ話

ろくろ首の「ろくろ」って何?

そもそも、ろくろ首の「ろくろ」とは何なのでしょうか?

ろくろ首の「ろくろ」の由来についてはこんな説があります。

①陶芸のろくろを回して土を伸ばす様子から
②井戸のろくろ(滑車)が釣瓶を上下する様子から
③傘を開くとき、ろくろという部分が上がって柄が長くなる様子から


つまり“ろくろ”が何を指すかははっきりとわかっていませんが、どれも身の回りにある伸びるものが由来となっているのではと考えられます。

男性のろくろ首っているの?

ろくろ首といえば女性ばかりの印象ですが、男性のろくろ首は存在するのでしょうか?

実は、女性のろくろ首に比べて数はとても少ないですが、男性のろくろ首の話もあるんです。

上記の「轆轤首悕念却報福話(十返舎一九)」に登場するろくろ首は男性です。

さらに、江戸時代中~後期の儒学者・平賀蕉斎ひらがしょうさいの『蕉斎筆記』では、腹が立つと夜中に首が抜ける“抜首病”である下総出身の男の話が紹介されています。

6月6日は「ろくろ首の日」?


ところで、「ろくろ首の日」という日があるのをご存じでしょうか?

正式に決まっているわけではありませんが、語呂合わせで6月6日がろくろ首の日とされているんですよ。

おわりに

今回は首が伸びる怪異、ろくろ首についてご紹介しました。

現代では、ろくろ首は首が長く伸びた姿の妖怪というイメージが定着していますが、もともとは胴体をおいて首だけが動き回る抜け首がろくろ首と呼ばれていたのです。

ろくろ首の首には、あざや印があるともいわれています。

心当たりがあるという方。

もしかしたらあなた、夜寝ている間に首が飛び回っているかもしれませんよ……。