早池峰神楽はやちねかぐらは、岩手県花巻市大迫町おおはさままち大償おおつぐないたけという2つの神楽座に伝承されている神楽を演じる民俗芸能のことです。

岩手県教育委員会の調査によると、岩手県には422件の神楽を演じる団体があり、特色として多くが山伏神楽の影響を受けているといいます。

山伏とは、山にこもって厳しい修行を行う修験道しゅげんどうのことを指し、日本独特の宗教のことをいいます。

「早池峰神楽」もその一つで、霊山として早池峰山を信仰していた山伏によって演じられた、「祈祷の舞きとうのまい」が起源とされています。

ここでいう「祈祷の舞」とは、信仰における重要な舞で、神の化身となった神楽が舞いを奉納する神事のことを指します。

早池峰神楽には大変多くの舞が集約され、室町時代に完成される以前の能の姿を色濃く映し出し、大変希少性の高い民俗芸能であることから平成21年(2009年)にユネスコの無形文化遺産に登録されました。

早池峰神楽のルーツ

地元の人によれば「早池峰神楽」は、そもそも、山伏による早池峰山を霊山とする信仰が無ければ、成し遂げられなかった民族芸能とされています。

早池峰山に一番近い、がく地区の早池峰神社には、早池峰神楽に通じる確かな記録資料は残されておりませんが、山伏によって伝えられたとされる、獅子頭ししがしらが奉ってあります。

また、大償おおつぐない地区に伝えられている神楽の伝授書には、長享ちょうきょう2年(1488年)の記述が残されています。

やがて、明治時代にはいると、山伏によって受け継がれてきた早池峰神楽はやちねかぐらは、岳地区や大償地区の一般の人々に伝承されるようになり現在に至っています。

そもそも、「早池峰神楽」の神楽とは何?

神楽という言葉は、神座かむくらが語源とされ、天上におられる神々が、地上に降りてこられた際の、神の宿るところとする神座を指しています。

はじめは山の峰や巨木などを神座としていましたが、次第に、集落の神社やめん装束しょうぞく採物とりものをつけて、舞いを演じる人を神の宿る神座としました。

「神楽」とは、神事舞の代表的なもので、信仰における神事として奉納する歌舞のことです。

「早池峰神楽」、舞曲の種類

早池峰神楽の舞曲には、
・「式舞しきまい
・「神舞かみまい
・「荒舞あらまい
・「座舞」
・「狂言きょうげん
・「権現舞ごんげんまい
などがあります。

まず、最初に式舞が演じられ、その後に、神舞、荒舞、座舞、狂言を披露し、最後に権現様ごんげんさまと呼ばれる獅子頭の「権現舞」で締めくくられます。

一つめの舞:式舞とは

早池峰神楽の舞は、まず必ず最初に6つの「式舞しきまい」が演じられ、演目は
・「鳥舞とりまい
・「翁舞おきなまい(白翁の舞)」
・「三番叟さんばんそう(黒翁の舞)」
・「八幡舞はちまんまい
・「山の神舞やまのかみまい
・「岩戸開の舞いわとびらきまい
の順に演じられ、これらは役舞あるいは座舞とも呼ばれることがあります。

また、式舞には表舞と裏舞があり、昼夜続けて奉納される場合には、昼には表舞を、夜には裏舞が演じられています。

山の神舞やまのかみまいでは、一人の舞でありながら、その動きには躍動感があり、勇壮で荒々しく40分にも及ぶ舞が演じられます。

早池峰神楽の舞の中でも、見ごたえのある集大成の舞ともいわれています。

神舞や狂言からなる舞。

式舞の後に続いて、
・神舞
荒舞あらまい
番楽舞ばんがくまい
女舞おんなまい
・狂言
が演じられます。

たとえば、神舞は神話を内容としている舞で、幕内から演者が登場する際には、必ずお面をつけ神霊の化身となって現れ、「ネリ (人間の体を借りた神の化身)」の舞を演じます。

狂言では、台詞とは別に舞う人と観客たちのアドリブで演じるやりとりがあり、おもしろおかしくユーモアたっぷりな演目でとても人気があります。

そのことから「お道化っこ(オドケッコ)」などと呼ばれることがあります。

しめくくりの舞、権現舞とは

神楽の最後に必ず締めくくりとして演じられる「権現舞ごんげんまい」といわれる獅子舞は、特に格式が高く、最も重要な神事の舞として扱われます。

権現とは、単なる獅子を指すのではなく、神が仮の姿として宿る「神の化身」である獅子頭を指し、権現様といわれています。

最後にこの権現舞を演じることで、1連の早池峰神楽の舞が完結する構成になっています。

ユネスコ無形文化遺産に登録された経緯

早池峰神楽は、早池峰山を霊山として信仰した修験者しゅげんしゃによって伝えられ、その後は約500年もの間、民間人によって伝承されてきました。

集落の人口が減り、「神楽」の後継者不足などから、早池峰神楽は急速に失われつつあるとし、昭和51年(1976年)5月4日に、国の重要無形民俗文化財に指定しました。

また、室町時代に大成される以前の、能の姿を色濃く映し出す希少性の高い民俗芸能であることから、国としても強く推進し平成21年(2009年)9月30日には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。

早池峰神楽の魅力

早池峰神楽の地元の方のインタビュー記事によると、早池峰神楽の見どころは何ですか?

の質問に「初めて早池峰神楽を見るときは、頭でいろいろ考えるのではなく、早池峰神楽のリズムや太鼓や足踏みの音など、見たまま、感じたままを五感で感じとり、心の奥底から楽しんで欲しい。」と、早池峰神楽の楽しみ方が、真に心に伝わってくるお話でとても印象的でした。

ユネスコ無形文化遺産「早池峰神楽」は、壮大な神々の化身となって、ある時は荒々しく、ある時は繊細に、洗練された神楽を演じます。

「岳神楽」と「大償神楽」のそれぞれの特徴や違いについて

岳神楽と大償神楽にはそれぞれに特徴があります。

岳地区は早池峰山にもっとも近く、早池峰の神を奉る早池峰神社がある地区で、早池峰山を霊山として信仰した修験者「山伏」によって伝えられたとする獅子頭が神社に残されています。

大償神楽がまつられる大償地区は、岳より12kmほど下流に位置している地区で、早池峰山開山の祖である、田中兵部が建立したといわれる大償神社があります。

そこには大償神楽の伝授書があり、長享2年(1488年)の記述が残されていることから、早池峰神楽は500年もの間、継承されてきた民俗芸能であると考えられています。

岳の神楽と大償の神楽の違いとは

山の神舞やまのかみまいで演じられるお面については、大償の神楽では「」、の表情。

岳の神楽は「うん」の表情が見て取れることから、両神楽は「阿吽あ・うん」の対と考えられています。

また、神楽を舞う時のテンポに関しても、一般的には大償神楽が7拍子、岳神楽が5拍子と違いが見られます。

演目に関しても、実際に見た人の感想では、岳神楽はどちらかといえば気迫のこもった力強い男舞が、大償神楽は繊細で優雅な女舞が魅力だといいます。

そこらへんにも注目してみると面白いかも知れません。

ユネスコ無形文化遺産に登録されたその後の変化

これまでも、地元では「早池峰神楽」の保存・伝承に力を注いできましたが、ユネスコ無形文化遺産に登録された以降は、岳地区と大償地区とで合同会議を設け、あらためて岩手県花巻市の地域と、両神楽のあり方を見つめ直したということです。

その結果、花巻市の無形民俗文化材に指定されている、八木巻やきまき神楽と岳神楽、大償神楽の3つの民俗芸能を保存・伝承する目的として、一般の人々に向け定期公演を行う方針であると発表しました。

毎月第2日曜日は「神楽」の日「早池峰神楽」を見に行こう!

ユネスコ無形文化遺産に登録されてからは、毎月第2日曜日を「神楽の日」と決め、会場は岩手県花巻市大迫交流活性化センター(早池峰ホール)において、3つの神楽を月替わりで公演しています。

ユーモアたっぷりの狂言や神々の化身となって演じられる、気迫のこもった神楽を間近で観てみたいと、全国各地からたくさんの観光客が訪れるそうです。

また、花巻市総合文化財センターでは、早池峰神楽の資料や、お面などが一堂に展示されるとともに、子々孫々に渡り永続的に保存されます。

詳しく知りたい方は、大迫神楽の日実行委員会:大迫総合支所地域振興課にお問い合わせしてみてください。

おわりに

ユネスコ無形文化遺産「早池峰神楽」は岩手県花巻市の岳と、大償の2つの集落に継承されてきた民俗芸能です。

日本全国にある神楽の中でも、室町時代に大成される以前の、能の姿を色濃く映し出している希少性の高い民俗芸能といわれています。

ユネスコ無形文化遺産に登録されてからは、定期的な公演で気軽に観ることができるようになりました。

神々の化身となって、ある時は荒々しく、ある時は繊細な気迫のこもった神楽の舞は、観る者の心を魅了してやみません。

ぜひ早池峰神楽の魅力を五感で感じてみてはいかがでしょうか。