伝統的な舞台芸能の一つである能。
そんな能には流派というものは存在しているのでしょうか。
また、それぞれの流派にはどのような特徴があるのでしょうか。
今回はそんな能の流派に関してご紹介します。
能には流派があるの?
日本の伝統文芸である能。
そんな能の世界には、流派というものが存在するのか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
能とは舞台上の役割によって担当する一家が違うという、完全な分業制によって成り立っている演劇です。
そのため、能にはたくさんの流派があります。
また、能の流派について理解するには、能の役の種類についても理解しておく必要があります。
能には
1. シテ方
2. ワキ方
3. 狂言方
4. 囃子方
という4種類の役があり、それぞれの役に流派が存在しています。
そのため、一言で「能の流派」を語ることは難しく、この記事では、能の主役であるシテ方
の流派を中心に解説していきたいと思います。
能 を演じるシテ方には5つの流派がある
能の主役を演じるのはシテ方と呼ばれる人々です。
シテ方は主役格である
・シテ
・シテツレ
・子役の子方
・地謡
・舞台美術である作り物の作製
など非常に多くを担当します。
昔はシテ方の流派によってそれぞれオリジナルの演目があり、演目のレパートリーに差がありました。
現在ではほとんど同じ演目を上演していますが、現在でも台詞や謡、演出に違いがあります。
そんなシテ方には5つの流派が存在します。
5つの流派とは、
1. 観世流
2. 宝生流
3. 金春流
4. 金剛流
5. 喜多流
です。
それぞれの流派を一つずつ見ていきましょう。
能のシテ方五流の一つ、観世流
シテ方五流の一つが、観世流です。
能を大成させた世阿弥の父、観阿弥を祖とする流派です。
観阿弥の子、世阿弥が二代目観世大夫になったのですが、その子である観世元雅が早世したために、甥の音阿弥が後を継ぎ、芸を発展させていきました。
観 世流の特徴とは?
観世流の特徴は、優美かつ繊細な芸風です。
室町時代に唯一幕府の保護を受けていた流派でもあり、江戸時代に指定されていた四座の中でも筆頭の位置でした。
また、現在でも最大の流派であり、所属する能楽師の数が最も多いのが観世流です。
現代では、二十六世宗家の観世清和氏を筆頭に活動をしています。
観世清和氏は数々の新作能を製作するなど、能の普及に勤められています。
シテ方五流の一つ宝生流
次にご紹介するのは、シテ方五流の一つ宝生流です。
初代宗家は観阿弥の長兄、宝生大夫とされています。
宝生大夫は、大和国(現在の奈良県)を中心として活躍した猿楽である大和猿楽の外山座に加わっていました。
江戸時代、加賀前田藩が宝生流を好んだことから、現在でも東京と北陸で大きな勢力を持っています。
宝 生流の特徴とは?
宝生流は重厚な芸風で知られています。
その一方で「謡宝生」とも呼ばれる細やかで優美な節回しの謡も特徴的な流派です。
観世流に次ぐ第二の規模を持つ流派で、徳川第五代将軍の徳川綱吉も宝生流を好んだことが知られています。
現代では、宗家二十世の宝生和英氏を中心に活動が行われています。
女性能楽師である松田若子氏も宝生流です。
松田氏は女性能楽師の可能性を切り開いています。
シテ方五流の一つ金春流
次にご紹介するのは、シテ方五流の一つ金春流です。
六世紀に活躍した秦河勝を遠祖とし、室町時代、観阿弥とほぼ同時代に活躍した五十四代目が、金春権守という芸名を使ってから金春流と呼ばれるようになりました。
金 春流の特徴とは?
金春流の特徴として、世阿弥の娘婿となった金春禅竹や、その禅竹の孫、金春禅鳳など理論家、能作者を輩出したことが挙げられます。
特に禅竹は、「芭蕉」「定家」など世阿弥とは異なる幽玄美をもった作品を作ったことでも知られています。
古来の型を残す雄大で勢いの良い型、自在で闊達※な謡などを特徴とした芸風です。
※ 闊達:心が大きく、小さな物事にこだわらないさま
現代では、八十世宗家の金春安明氏を中心に活動しています。
その他にも金春流には能に馴染みの薄い層への能楽の普及に努める、山井綱雄氏など様々能楽師の方々がいます。
シテ方五流の一つ金剛流
次にご紹介するのは、シテ方五流の一つ金剛流です。
金剛流は、大和猿楽四座の一つ「坂戸座」の坂戸孫太郎氏勝を流祖とする流派です。
世阿弥と同時代に活躍したのは金剛権守で、重厚な芸風により高い評価を得ていました。
金 剛流の特徴とは?
金剛流は幕末期から明治にかけ、優れた才能を持つ太夫を生みました。
特に金剛唯一は「土蜘蛛」という演目で、土蜘蛛が糸を投げる演出を生み出すなど、能の世界に新たな風を吹き込みました。
しかし、昭和11年(1937年)、二十三世金剛右京が没し、坂戸金剛は消滅してしまったため、現在は、弟子筋の野村金剛家が宗家となり、京都、東京などを中心に活動しています。
芸風は、「舞金剛」といわれ、華麗で優美な舞で知られています。
シテ方五流の一つ喜多流
シテ方五流で最後に紹介するのが喜多流です。
喜多流は江戸初期に二代将軍徳川秀忠に仕えた金春流の門人、喜多七大夫が創立しました。
のちに、上記の四流に加えて一流としてみなされました。
現代では金剛永謹氏が二十六世宗家を務めています。
他にも、次期宗家の金剛龍謹氏は海外公演などにも参加し、活躍されています。
喜 多流の特徴とは?
芸風は、武士道的精神主義が濃く、質朴かつ豪放な気迫に満ちたものとなっています。
江戸時代に地方大名たちから指示された名残もあり、現在でも地方で根強い人気を誇る一派です。
徳川幕府が解体された後、一時は廃絶の危機に陥りましたが、喜多六平太という名人が登場したことにより、流派が存続することとなりました。
現代では喜多流には宗家がいません。
しかし、喜多流で活躍している能楽師の方々はいます。
友枝昭世氏もその一人で、平成20年(2008年)に重要無形文化財、人間国宝に認定されています。
ワキ方・狂言方、伴奏担当の囃子方にも流派がある
能にはシテ方以外にもシテ方の相手方を演じるワキ方、能の中の狂言部分や、能の間に上演される狂言を演じる狂言方、楽器の演奏を担当する囃子方などの役職があります。
もちろん役職ごとそれぞれに流派があります。
ワ キ方の流派は3つ
能でシテ方の相手方を担当するのがワキ方と呼ばれる役職です。
室町時代にシテ方から独立し、ワキ、ワキツレと呼ばれる役を演じる専門職となりました。
そんなワキ方には流派が3つあります。
その3つとは、宝生流、高安流、福王流です。
現在は三流ですが、廃絶した流派に進藤流と、春藤流という二流がありました。
宝生流は、シテ方の宝生流と区別して「下掛かり宝生流」と呼ばれることもあります。
狂 言方の流派は二つ
能の狂言部分を演じる狂言方には流派が二つあります。
その二つとは大蔵流と和泉流です。
この狂言方は、狂言だけで舞台を上演することもあり、活躍の場は能の舞台だけではありません。
そのため、狂言師の野村萬斎氏の名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
彼は和泉流の狂言師です。
昔、能は一日に何本も上演していたので、その能と能の間に狂言が演じられていました。
その名残で、現在も能と狂言を同じ公演で見ることは少なくありません。
和泉流と大蔵流では狂言の台詞や演出方法が異なります。
大蔵流は約180曲、和泉流は約250曲の狂言をレパートリーに持っています。
同名の作品もありますが、内容は異なっている場合もあり、見比べるのも面白くなっています。
囃 子方には笛方・小鼓方・大鼓方・太鼓方の四つの役がある
能や狂言の伴奏、囃子を担当する囃子方には、笛方・小鼓方・大鼓方・太鼓方の4つの役があり、以下表にまとめた通りそれぞれの役に流派があります。
鼓とは日本の伝統楽器で、砂時計型の胴の両面に、革を張り、緒と呼ばれる紐で強く張った打楽器の一つです。
小さく方に乗せて演奏される鼓が小鼓、大きく膝の上に乗せて演奏されるのが大鼓です。
楽器ごとに、伝統的な奏法が受け継がれています。
明治以前は、シテ方の流派ごとに囃子方が専属でついていたのですが、現在は自由契約制となっています。
そのため、現存する流派の数が楽器ごとで異なっています。
おわりに
今回は能の流派について解説しました。
伝統的な舞台芸能の一つである能は、完全な分業制から成り立っており、それぞれの役職に流派があるということを理解していただけたと思います。
また、流派によって演出や内容に差があること、流派ごとに特徴があることも掴んでいただければ幸いです。
能の流派について理解を深めると、能の鑑賞の際により深く能を楽しむことができること間違いなしです。
ぜひ、みなさんも、日本の文芸の良さが詰まった能に触れてみてください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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