現代の歌舞伎も「伝統」の一部である

最近『ワンピース』や『NARUTO』といった漫画を原作とした新作歌舞伎が上演されています。

「あれ?歌舞伎どうしちゃったの?」「歌舞伎っぽくないね」という意見もありますが、実はこのような新たなものを取り入れる「活発な新陳代謝」こそ歌舞伎が400年にわたって生き残ってきた秘密なのです。

新陳代謝がなければ400年は続かない

歌舞伎というと「格式が高そう」「難しそう」「昔ながらの伝統的なお芝居」というイメージがあります。

しかしTVもネットもスマホもなかった江戸時代、歌舞伎はドラマであり、ワイドショーであり、ニュースであり、ファッションショーでもありました。

人々は歌舞伎という芝居を通して、政治的スキャンダルといったニュースを知ったり(仮名手本忠臣蔵など)、実話に基づく恋愛ドラマ(曽根崎心中など)を楽しんだり、着物の柄や髪型といったトレンドをつかんだりしていたのです。

そもそも歌舞伎の語源となった「傾く」とは、時代の最先端にいた若者たちが奇抜なファッションに身を包み、一般社会のルールから逸脱した遊びをしていた様子を指す言葉。

歌舞伎の根本には「伝統的」「保守的」といったイメージとは真逆の「常に最先端の新しいものを取り入れる」という精神があるのです。

またそうして常に新陳代謝を繰り返していなければ観客に飽きられ、400年もの間続いてくることはできなかったでしょう。

そこで今回は世代交代を果たした若手歌舞伎役者が中心となっている新作歌舞伎の数々をご紹介していきます。

どうぞ最後までお付き合いください。

新たな歌舞伎を創造する新作

コクーン歌舞伎

2012年に亡くなった十八代目中村勘三郎、中村橋之助(現中村芝翫)らが渋谷の複合文化施設であるBunkamura内シアターコクーンで1994年に始めたのが「コクーン歌舞伎」です。

古典歌舞伎の演目を新たな解釈、演出で上演するという試みで、本物の水や泥を使用した夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)など、椎名林檎の曲をメインテーマ曲にするなど、古典歌舞伎の殻を破る斬新な仕掛けで若者の街渋谷に歌舞伎ファンを呼び寄せることに成功。

※夏祭浪花鑑:元禄11年(1698年)冬に、大坂で起きた魚屋による殺人事件を題材にした人気演目。

現在は勘三郎の息子である中村勘九郎、七之助を始めとする若手俳優たちがその志を引き継いでいます。

平成中村座

江戸時代、江戸の市中には幕府公認の歌舞伎の芝居小屋がありました。

中村座、市村座、森田座の「江戸三座(えどさんざ)」です。

中村座はその中でも最も歴史が古く、由緒ある芝居小屋。

その中村座の座元(オーナー興行主)こそ中村勘三郎だったのです。

十八代目中村勘三郎(当時は五代目中村勘九郎)は江戸時代の芝居小屋を復活させ、活気のある当時の雰囲気の中で歌舞伎を見てもらいたいと考えていました。

そこで2000年に浅草の隅田公園内に江戸時代の芝居小屋を模した仮設劇場を設営。

「平成中村座」として毎年公演を続けることにしたのです。

江戸初期から続く中村座の歴史は今日まで、脈々と受け継がれています。

スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)

市川猿之助、市川段四郎などの 澤瀉屋(おもだかや)の家の芸はケレン(宙乗りなどの観客を驚かせる派手な演出法)や派手な立ち回りを活用したエンターテインメント性の高いものです。

そのエンターテインメント性を更に推し進め、現代の観客にも受け入れやすく創意工夫を凝らしたのが現四代目猿之助の叔父、二代目猿翁(えんおう 三代目市川猿之助)創始の「スーバー歌舞伎」です。

そのスーパー歌舞伎を継承し、更に発展させたのが四代目猿之助の「スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)」。

澤瀉屋以外の有望な若手歌舞伎役者、中村隼人、坂東巳之助(みのすけ)だけではなく、佐々木蔵之介や福士誠治など、現代劇の俳優を起用したり、主題歌の提供をゆずの北川悠仁に依頼したりと、それまでのスーパー歌舞伎以上にフレキシブルなものとなっています。

そして題材には国民的人気漫画『ワンピース』を採用。

これまで全く歌舞伎を見たことのない世代にも広く人気を得ています。

NARUTO

スーパー歌舞伎Ⅱワンピースで活躍した若手歌舞伎役者、坂東巳之助、中村隼人をメインに据えた新作歌舞伎。

敵のラスボスに市川猿之助と片岡愛之助(交互に出演)がどっしりと構え、脇を澤瀉屋一門が固めます。

先輩の舞台で活躍した若手が自分たちで一座を率いるというまさに「新陳代謝」をリアルに感じることのできる舞台です。

超歌舞伎『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』

ついに歌舞伎役者 中村獅童と初音ミクが歌舞伎で共演するという新作歌舞伎を超えた「超歌舞伎」!

歌舞伎の丸本物(人形浄瑠璃を歌舞伎化した義太夫狂言)の傑作、義経千本桜の主人公佐藤忠信(さとうただのぶ)を中村獅童が、ヒロインの美玖姫(みくひめ)を初音ミクが演じます。

一千年の時空を超えたスペクタクル活劇がニコニコ超会議の会場で披露されたのでした。

古典という土台があってこそ

麦わらの一味を演じようが、初音ミクと共演しようが、きちんと歌舞伎として成立するのは「古典という土台」があるからこそ。

今人気の若手歌舞伎役者たちも、幼い頃から日本舞踊や長唄、義太夫、鳴物といった厳しいお稽古をし、先輩たちが演じる古典歌舞伎の舞台を繰り返し、繰り返し見て日々勉強しているのです。

そんなしっかりとした土台があるからこそ、その上にどんな素材を乗せても、上手に料理することができるのですね。

この記事を読んで歌舞伎に興味を持った方、まずは今回ご紹介したような新作歌舞伎からご覧になってみてはいかがでしょうか。

伝統に裏打ちされた歌舞伎の力に、必ずや魅了されるはずです。

最近では、「シネマ歌舞伎」といって、映画館で映像を通して歌舞伎を観ることもできます。

これも昔では考えられなかったことですが、現代で技術が進歩したからこそできるようになったことです。

劇場の前方でしか観ることができなかった、歌舞伎俳優の細かな表情も楽しむことができますよ。