歌舞伎というと「敷居が高い」、「上流階級の人が観るもの」といったイメージがあり、厳しい観劇マナーがあるのでは…?と緊張してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、歌舞伎は元々江戸時代の庶民の娯楽であり、気楽に楽しむものです。
マナーについても、現代の映画を観るときと大きく異なることはありません。
ただ、そうはいっても歌舞伎特有のルールは存在します。
今回はそんな歌舞伎を観るときの「決まり事」をご紹介します。
江戸時代の観劇スタイル
TVもYouTubeもない江戸時代、庶民の娯楽といえば「芝居見物」、つまり歌舞伎を観に行くことでした。
そんな大衆の娯楽だった歌舞伎の客席は人種のるつぼ。
上質な着物に身を包んだ良家のお嬢様から、長屋の八っつぁん・熊さん※まで、様々な人たちが芝居を楽しんでいたのです。
※八っつぁん・熊さん:そそっかしく喧嘩(けんか)っぱやい江戸っ子で、長屋住まいの職人のこと
そのため、基本的に上演中も飲食は自由。
後ろを向いて知り合いとおしゃべりをしたり、お酒を飲んだりと、お芝居の内容なんてろくに観ていない人もたくさんいました。
歌舞伎の演目が時に「くどく」、やたらと説明くさい部分があるのはそういった人への対策で、おしゃべりが終わってどこから芝居を見始めてもある程度ストーリーがわかるようになっているのです。
現在のように歌舞伎を格調高くかしこまって観劇するようになったのは明治時代になってからで、歌舞伎を西洋の人たちに見せても恥ずかしくないものにするという「演劇改良運動」が起こってからのことです。
基本的なマナーは映画を見るときと同じ
ルールやマナーが厳しいと思われている歌舞伎ですが、基本的なマナーは映画館で映画を観るときと変わりません。
一般常識の範囲内といえます。
携 帯の電源を切っておく
上演前に必ずアナウンスされるのが「携帯の電源を切っておく」ということです。
これは今では一般常識。
ちなみに、公式にアナウンスはされていませんが、歌舞伎座などでは上演中電波が通じなくなるようにジャミング(妨害電波を出して通信できなくすること)されているようです。
静 かな場面では音に注意!
歌舞伎は娯楽であり楽しんで観るものですから、面白い場面や興奮するシーンでは笑ったり、声を上げても一向に構いません。
しかし、静かな場面やシリアスなシーンでは話し声は厳禁です。
また、意外と耳障りな音を出してしまうのが「コンビニ袋」。
飲み物を出そうとして「ガサガサ」と音を出してしまっては、せっかくの名シーンが台無しです。
このあたりも映画館と共通だと思います。
で きれば途中でトイレに立たない
クライマックスを迎えた場面で、前の人が急に立ち上がり、大事なシーンを見逃してしまってはがっかりです。
そのため、上演中、緊急の時以外はトイレなどに立つことは控えるようにしてください。
歌舞伎は通常昼の部・夜の部に分かれ、それぞれ踊り一つ、お芝居二つくらいの計3演目で構成されています。
各演目の間には幕間(休憩時間のこと)が10~30分ほど用意されていますから、トイレはその時に行くようにしましょう。
録 音撮影は禁止 盗撮ダメ、絶対!
これも映画と同じですが、舞台を録音したり、撮影したりすることは厳禁です。
桟 敷席以外は上演中の食事はできない
歌舞伎が上演される劇場には舞台の上手下手(右側左側)に「桟敷席」と呼ばれる掘りごたつ式の席があり(桟敷席がない劇場もあります)、その席では食事が用意され、食事を楽しみながらお芝居を観ることができます。
ただ、桟敷席以外の席では、基本的に上演中の食事はできません。
基本的に飲み物のみとなります。
もちろん飴・キャンディ的なものであれば問題ありませんが、クチャクチャと音を出してガムを噛んだり、バリバリとおせんべいを食べたりするのはNGです!
歌舞伎を観劇するときの服装は?
歌舞伎を観に行くというと、上品な和服に身を包んでというイメージがあるかもしれませんが、実際には極端にラフな服装でなければ問題ありません。
逆に長時間の観劇となるため、ある程度リラックスできる服装の方が疲れず、向いているともいえます。
ただ1点注意していただきたいのは「帽子」です。
最近はファッションとして室内でも帽子を脱がないとことが増えています。
その場合いわゆる「キャップ」であれば問題ないことが多いのですが、つばのついた「ハット」の場合、高さがあると後ろの人の邪魔となり、舞台が見えなくなってしまう可能性があるため、そのような場合は帽子を脱ぐようにしてください。
大向こうは誰でも掛けて良いもの?
歌舞伎の芝居中に「成田屋!」、「待ってました!」、「日本一!」という声が客席から掛かることがあります。
あれは「大向こう」と呼ばれるもので、芝居を盛り上げるために重要な役割を果たします。
この大向こう、実は「誰が掛けてもOK」なのをご存じでしょうか?
大向こうは元々、自分が贔屓にする役者に対して「○○さーん」「サイコ~」というように声援を送るものです。
ですからその役者のファンであれば誰が掛けても構わないわけです。
ただ、大向こうはお芝居の重要な場面で役者が決め台詞を言ったり、見得をした場合に掛けるもの。
そのため、タイミング悪く掛けてしまうと、芝居のリズムが崩れ、場の空気が乱れてしまいます。
そこで、現在では「大向こうさん」と呼ばれるプロの方が掛けることがほとんどとなっていますが、お芝居をよく理解して慣れてきたら勇気を出して掛けてみることをオススメします。
また、女性が大向こうを掛けるのを「NG」としているサイトを見かけますが、昭和の名優六代目中村歌右衛門のある熱狂的女性ファンは、歌右衛門が出てくると「役者の神様!」という大向こうを掛けることで有名でした。
女性が掛けても問題ありません。
▼大向こうについてより詳しく知りたい方はこちら
歌舞伎芝居は、江戸時代のニュースとワイドショーを兼ねた舞台芸術。
古来、当時世間を賑わせていた事件を演劇にし、江戸の大衆に伝えていました。
芝居、という字のごとく、まさに芝の上でわいわいと観ていた時期もある歌舞伎には、今も、その名残があります。
「大向こう」と言われる独特の掛け声もその一つ。
子どもを連れて行ってもOK?
お子さんをつれての観劇も基本的には大丈夫です。
ただし、泣いたり騒ぎ出してしまったりした場合などは、一旦ロビーに連れ出すなどの配慮が必要となります。
また、歌舞伎座には託児コーナーがあり(予約制)、あらかじめ予約しておけば、お子さんのことを気にすることなく、心ゆくまで歌舞伎を堪能することができます。
楽屋には行って良いの?
何度も歌舞伎を観ていると、役者の生の姿が見たい、もっと近くで役者を見たいという欲求が生じます。
そこで、「楽屋」を訪ねることを考えるのですが、これはなかなかハードルの高いものです。
「 つて」が無いと基本的に楽屋には入れない
楽屋はあくまでも劇場の「裏」の部分であり、基本的にお客さまにお見せするものではありません。
また、楽屋にいる間の役者は忙しく、自分の出番から逆算して顔(化粧のこと)を始め、衣装を着けて準備しなければなりません。
そのため、基本的には一般の方は楽屋に入ることはできないと考えられた方が良いということになります。
も し楽屋訪問ができることになったら「手ぶら」では行かない
ただ、役者と直接仲良くなって「今度楽屋に遊びに来てくださいよ」と言われたときは別です。
きっちりと連絡を取り、どのタイミング、時間で訪問すれば邪魔にならないかを確認し、楽屋にお邪魔しましょう。
また、その時「手ぶら」で訪問するのは失礼にあたります。
お弟子さんや付き人さん、他のスタッフさんたちで食べられるようなお土産を持参して、「これ、皆さんで召し上がってください」と手渡すのがマナーです。
楽 屋口での出待ちはマナーを守って
楽屋を訪問できるほどの「つて」が無い場合、楽屋口でいわゆる「出待ち」をすることが役者と直接ふれあうチャンスとなります。
ただ、楽屋口は様々な人が出入りするため、あまり他の役者さん、スタッフの方の邪魔にならないよう、マナーを守って役者さんとの交流を楽しむようにしてください。
おわりに
芝居は楽しむことが一番大事です。
一般的な観劇のマナー、ルールに加え、歌舞伎特有の「決まり事」をご紹介してきましたが、基本的に歌舞伎は「娯楽」です。
そのため、「芝居を楽しむ」ことが一番大事なことであり、マナーやルールも、「他のお客さまも芝居を楽しむため」に気をつけるというだけのことです。
今回紹介した歌舞伎の決まり事を覚え、ぜひ歌舞伎を楽しんでみてください!
日本の伝統芸能の代表と言われる歌舞伎。
そのため「一部のセレブな方々が着物やブランド物に身を包み観劇するもの」というイメージを持たれがちです。
しかし元々歌舞伎とは、武士の教養だった「能」に対する庶民たちの大衆娯楽で、時の政府である幕府や親から「歌舞伎なんか見てはいけません!」と叱られる対象だったのです。
派手な衣装、大がかりな舞台装置、生で演奏される長唄や鳴物などの音楽…歌舞伎を特徴づける独特の要素はたくさんありますが、中でも歌舞伎を歌舞伎らしくしているのはその独特の「メイク(化粧)法」ではないでしょうか。
今回はそんな歌舞伎のメイクについて、詳しくお伝えしてまいります。
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