令和6年(2024年)1月1日に起こった能登半島地震。

隣接する富山県氷見市もまた、大きな被害を受けました。

今回は、氷見市への復興貢献や、全国各地域の隠れた食材の存在を広める活動を続けている、Human Being株式会社の代表取締役・布村充司ぬのむらあつしさんに独占取材。

同社と氷見市のプロジェクトメンバーによって開発された「SAKEKASU syrup」の魅力と、その想いを伺いました。

「酒粕」とは?

酒粕さけかすとは、日本酒を製造するときに発生する白い固形物のことです。

日本酒の材料となる、米や米麹、酒母などを混ぜて発酵させた状態のものを“もろみ”といいます。

この醪を絞ることで日本酒と酒粕に分けられるのです。

酒粕には、形状や製法によっていくつかの種類があり、板状の“板粕”や、柔らかく溶けやすい“ばら粕”、ペースト状に練り上げた“練り粕”などがあります。

近年、その栄養価の高さから注目されている酒粕は、甘酒や粕汁としての使い道が一般的ですが、スイーツや漬物に利用するのもオススメです。

「SAKEKASU syrup」とは?

「SAKEKASU syrup」は、富山県氷見市に蔵を構える高澤酒造の純米酒粕と、熊本県天草市の天草レモン、北海道産のてんさい糖のみで作られた無添加の微アルコールシロップです。

酒造りで大量廃棄されている酒粕に価値を見出し、これを再利用することで、消費者と生産者、両者の幸せを生み出すとともに、地域の活性化や持続可能な社会作りへの貢献を目指し開発されました。

癖のあるイメージが強い酒粕を、苦手な方でも美味しくいただけるよう、何度もバランスを調整した商品で、素材の甘味や酸味がやさしく溶け込んだ、奥深い味わいが特徴です。

現在は、北海道から沖縄まで、全国各地の飲食店で使用され、好評を集めています。

SAKEKASU syrupのオススメポイント

ここからは、Human Being株式会社の代表取締役・布村さんに聞いた、SAKEKASU syrupのオススメポイントをご紹介します!

酒粕」は栄養豊富で健康に良い!

酒粕に含まれるペプチドには、血圧の上昇を抑えてくれる効果があるほか、白米の約10倍も含まれる食物繊維には整腸作用も期待でき、体の働きを助ける成分がたくさん入っているのだとか。

この他にも多くの健康成分が含まれており、SAKEKASU syrupを日常の食事に取り入れるだけで、効率的にこういった栄養が取れるので、健康維持にとても役立つのだそうです。

でも美味しく飲めるよう、独特の風味を調整

酒粕の独特の風味を極限まで抑え、苦手な方でも美味しく飲めるように開発されたSAKEKASU syrup。

今回取材にあたり、私たちワゴコロ編集部のメンバーでSAKEKASU syrupを実際に試飲させていただきました。

シロップ自体の味は、例えるなら濃厚だけどマイルドな乳酸菌飲料のよう!

酒粕の特徴でもあるお米の甘味は残しつつ、あの独特な風味がいい感じに抑えられており、レモンの酸味がマッチしていました♪

試しにオレンジジュースと合わせて飲んでみましたが、柑橘系とは相性抜群!

SAKEKASU syrupとオレンジジュースを1:1にすると、インド料理屋さんで出てくるような、“ラッシー”に近い舌触りと味になりました。

SAKEKASU syrupはもったりとしたとろみのある液体なので、マンゴージュースやグアバジュースなど、味がしっかりめの割り物と合わせると、より飲みやすくなりそうだと思いました♪

使 い方は無限大!

SAKEKASU syrupは、料理にも、スイーツにも、ドリンクにも使える優秀な商品です。

例えば、お酒やジュースの割り物に、野菜を漬けて漬物に、サラダのドレッシングに……と、さまざまな使い道があります。

特に乳製品との相性が良いため、牛乳と混ぜたり、アイスクリームにかけたりするのがオススメなのだそう!

SAKEKASU syrupが完成するまでのストーリー

毎年新酒が出来る時期になると、酒蔵から余った酒粕が届けられたという布村さん。

しかし、酒粕という素材はなかなか使いどころが難しく、余ってしまう現状に困っていたそうです。

同世代であった高澤酒造の杜氏である高澤龍一たかさわりゅういちさんと話し合い、この酒粕を、うまく富山県の地産物として循環させて消費すると共に、地域活性化に繋げられないか、と考えました。

少しずつ、この考えに共感してくれた様々な方達との出逢いが広がり、酒粕を使ったオリジナルドリンクの開発がスタート。

布村さん

「時間をかけて実験を繰り返しながら、ある程度形になった時期に、ちょうどコロナウイルスの流行がはじまってしまい……。

飲食業界は大きな打撃を受け、新商品の開発どころではなくなり、一旦このプロジェクトはボツになりかけていました。

ですが、しばらく経ったある日、1冊の本に出会ったんです。」

その本とは、クールジャパン関係の政府委員を勤める、楠本修二郎氏が書いた『おいしい経済 -世界の転換期 2050年への新・⽇本型ビジョン-』だったそうです。

布村さん

「単純な味覚の美味しい、だけでなく、これからは、日本の地形や独自の文化を含めた、“Japanese Craft”としての美味しいをもっと広めていくべきである、といった内容が書かれていて、その内容にすごく共感したんですよね。

この本を読んだことで、忘れかけていた、“隠れた地域の魅力を世に発信することの大切さ”を改めて実感しました。

SAKEKASU syrupのプロジェクトも、やはりもう一度実現まで持っていこう!と、心に決めました。

どうやったら受け入れやすく、皆に美味しいと思ってもらえる商品ができるのか、日々試行錯誤を続け、こうして、令和5年(2023年)4月に、土地の特徴を活かして栽培された、究極の天然素材だけで作る“SAKEKASU syrup”が完成しました。

そしてこのSAKEKASU syrupを最初に評価し、世の中に広めたいと声を挙げてくれたのが、東京の飲食店オーナーの仲間たちでした。

我々は人生かけてこの飲食という仕事をしているにもかかわらず、特にコロナ中は悪者扱いされていました。

本当に辛かった。

この仕事でもっと、直接的に社会のため、未来のために役立つことをしなければならないという想いが強くなっていたので、オーナー仲間の存在は心強かったです。」

SAKEKASU syrupで能登半島震災の復興支援

こうして誕生したSAKEKASU syrupですが、令和6年(2024年)1月1日に起こった能登半島地震で、本商品の開発に携わった多くのメンバーが被災をしてしまったそうです。

布村さん

「まずは飲食店卸からスタート、そして一般向けは年末の発売開始を考えていました。

ですが、年始にこんなことが起こり、一緒にプロジェクトを進めてきた氷見市の仲間たちのお店も被災してしまいました。

酒粕を下ろしてくれている高澤酒造もその一つで、仕込み用の蔵が崩れ、商品の2割ほどが廃棄になるなど、大きな被害を受けています。

仲間たちの苦しむ姿、そしてそれと同時に前に進もうと踏ん張る彼らの姿を見て、少しでも貢献できないか、と、急遽一般向け発売を前倒しすることにしました。

Makuakeでクラウドファンディングを募集し、支援金を被災した仲間たちの復興のために使用させていただく代わりに、返礼品としてSAKEKASU syrupをお届けしました。

高澤酒造もこれから再建に向けて動きはじめるなど、まだまだ完全復活とは言えない状況ですが、人と人の繋がりを大切にしながら、我々にできることをやっていきたいと思っています。」

者の方に伝えたいこと

布村さん

「今回のこの地震のことを、皆さんにはずっと心に留めておいていただきたいです。

地震は、私達がコントロールできるものではありませんし、これからも絶対に起こってしまう災害です。

今回被災したプロジェクトメンバーの一人は、“子供の頃から見ていた当たり前の景色が崩れて、ブルーシートで覆われてしまっている景色を見ると、あまり自覚はなくてもやっぱり心が傷ついているものだ”と言っていました。

だから何かしてくれ、ということではありませんが、とにかくこういうことが起きたという事実を忘れずに、この先に繋げていくことが、今回起きたことを無駄にしないための方法だと思います。

たまに思い出して、周りの方と話して、それが被災地に観光に来てくださるきっかけになったら、もっと嬉しいです。」

これからの目標

布村さん

「まずは、SAKEKASU syrupを、たくさんの店で使ってもらうことを目標にしています。

北海道から沖縄まで、現在もさまざまな地域の飲食店でSAKEKASU syrupをご使用いただいています。

味覚の美味しいはもちろん、それを越えた“美味しいのアップデート”を飲食店から発信していき、もっともっとこの商品を多くの方に届けていきたい。

今は高澤酒造の酒粕でシロップを作っていますが、例えば他の酒蔵さんと同じシロップを作って、飲み比べできるようにする、とかも面白い。

そしてその先は、日本の地形や独自の文化を含めた、“Japanese Craft”としての美味しいをもっと広めていくためにも海外展開していきたいと思います。

最終的には、商品に関わってくれた方に地域の食や文化の魅力を伝えることで、日本の過疎地域を助けていけるような活動ができたら、とずっと考えています。

地方の埋もれているものを僕らなりにみつけ出して、その土地の誇りにできるような商品に発展させていきたいですね。

一人でなく多くの力が集まることで、こんなに美味しくて、世の中のためにもなる商品が生み出せるんだ、と。

今回のプロジェクトやクラウドファンディングを通じて、僕自身もお世話になった皆様に教わったことがたくさんありますし、そういった繋がりを大事にしながら、これからも奮闘していきたいです。」

取材を終えて

今回の取材を終えて、改めて、全国各地にはまだまだ隠れた日本の銘品が、数えきれないほどある、ということに気が付きました。

地元の人しか知らないような資源をみつけてうまく活用することが、直接的に過疎地域の問題解決になるほか、古くから日本人が培ってきた文化の数々を守っていくことにも繋がるのではないでしょうか。

日本の美しい文化を守っていくために、今を生きる私達が、その資源をどう活用していくのか。

布村さんのように、時代に受け入れやすくなる形にアップデートして魅力を発信していくことは、食はもちろん、伝統工芸や日用品など、さまざまなものにとってとても大切なことだと感じました。

布村充司氏の経歴

昭和51年(1976年) 富山市生まれ
平成11年(1999年) 東洋大学 卒業
平成27年(2015年)12月 Human Being 株式会社 設立
酒場あんぽんたん運営