日本人の生活に深く溶け込んだお寺と神社は、異なる施設でありながらも、明確な違いがわからない方も多いのではないでしょうか。

普段から何気なく訪れているお寺と神社には、参拝方法や建物など、実はたくさんの違いがあります。

パワースポットめぐりや御朱印集めが人気の現代だからこそ、ぜひ知っておきたいお寺と神社の違いについて、徹底的に解説します!

お寺と神社の定義

お寺と神社では、両社を明確に区別するための定義も違いますので、それぞれの定義を知っておくことで、両社の違いがより分かりやすくなります。

知っているようで知らないお寺と神社、定義について詳しく説明します。

お寺と神社の大きな違い

お寺と神社の一番大きな違いは宗教で、お寺は「仏教」を、神社は「神道」を信仰しているのが特徴です。

仏教は古代インドで生まれた後に中国を経て古墳時代(6世頃)に伝来したとされていて、神道はそれよりも古くに日本で誕生したと考えられています。

寺(仏閣)とは

お寺や仏閣とは、仏教において宗教活動の中核を担う建物や聖域のことであり、仏像が安置されていて僧侶が修行に励む場です。

全国に7万7千ほどのお寺が点在しています。

仏教は13の宗派に大別され、お寺ごとに特色や寺号、寺格が異なります。

全国のお寺の数
文化庁宗務課が公表する『宗教年鑑 令和5年版』のP47より、令和4年(2023年)12月31日現在の仏教系の宗教法人数は、文部科学大臣所轄が488、都道府県知事所轄が76,380とあります。
そのため、仏教系の宗教法人数は合計は76,868となります。
出典: 宗教年鑑 令和5年版

社とは

神社とは、神様が住む聖域のことであり、神道における祭祀施設です。

神社は小さなものから大きなものまで含めると全国各地におよそ8万4千社もあるとされていて、さらに登録されていない小さな神社や宗教法格を持たないものを含めると20万社を超えるともいわれています。

神社によっても社号や社格、ご祭神の神様などに違いがあります。

なお、令和5年(2023年)度における全国のコンビニエンスストア(以下コンビニ)数が約5万7千店ほどなのに対し、神社仏閣の数は15万を超えるため、コンビニのおよそ3倍の数となります。

全国の神社の数
文化庁宗務課が公表する『宗教年鑑 令和5年版』のP47より、令和4年(2023年)12月31日現在の神道系の宗教法人数は、文部科学大臣所轄が212、都道府県知事所轄が84,120とあります。
そのため、神道系の宗教法人数の合計は84,332となります。
出典: 宗教年鑑 令和5年版

お寺と神社の違い① 祀っているもの

お寺と神社では祀っている対象が異なるとともに、実際に祀っているものを目で見られるかどうかも違います。

寺:仏を祀る

お寺に祀られているのは「仏様」であり、お寺には仏様の姿をかたどった「仏像」が安置されています。

仏像を大きく分けると、如来にょらい菩薩ぼさつ天部てんぶ明王みょうおう・その他の5種類。

有名な仏像は、薬師如来やくしにょらい阿弥陀如来あみだにょらい弥勒菩薩みろくぼさつなどです。

中には秘仏ひぶつと呼ばれる非公開の仏像もありますが、多くの場合、お寺に安置されている仏像は拝むことができます。

社:神を祀る

神社では、信仰・崇拝する神様を祀ります。

そのため各神社には、神様が宿るという「ご神体」が祀られています。

もともと神道では、「八百万やおよろずの神」という言葉に象徴されるほど、自然界における多種多様なものに神様がいるという考え方があり、ご神体も山や岩などの自然から土地、鏡や勾玉などのモノまでさまざまあります。

ご神体は、参拝客から見えない場所に安置されている場合が、ほとんどです。

お寺と神社の違い② 入口・建物

口の違い

お寺と神社では、まず入口から大きく異なります。

寺院で参拝客を出向かえてくれるのが、「山門」というお寺の正式な入り口です。

山門は、もともと「三門」と表記されていて、参道沿いに3つの門が建てられていたり、3つの煩悩から開放される“三解脱門さんげだつもん”の思想に由来したりしています。

一方の神社では、「鳥居」が参拝客を出迎えてくれます。

昔の日本では、鳥居は屋根のない門を意味する「於上不葺御門うえふかずのみかど」とも呼ばれていました。

鳥居は、人間の暮らす俗世と聖域との境界を表す結界であり、聖域への入口でもあります。

物や建造物の違い

入口を抜けた先にある境内の建物や建造物も、お寺と神社では造りが違います。

寺院建築は、中国から伝わった建築様式が日本流にアレンジされた様式といわれていて、代表的な建物は本尊が安置された本堂や床の間、違い棚などを備えた書院、台所や僧侶が住む庫裡くりです。

お寺の建物は木材や石、土壁が、屋根は大陸から伝来した瓦が多用されている場合がほとんどです。

対して、神社建築は日本固有の建築様式であり、ご神体が安置された本殿や祭祀を行うための拝殿、神さまへのお供え物をささげる幣殿へいでんなどが主な建物になります。

神社の建物も、お寺と同様に木材を用いた様式が多いものの、屋根は檜皮ひわだかや、木を薄く削ったこけらなどをはじめとする自然を生かした材料や銅板をいた様式が多いのが特徴です。

お寺と神社の違い③ 守衛

お寺には金剛力士像(仁王像)が、神社には狛犬といった守衛の像が鎮座しているのが一般的です。

左右が一対となったそれぞれの像は、片方が口を開けていて、もう片方が口を閉じていることから、「阿吽あうん」と呼ばれていて、物事の始まりと終わりを表しているといわれています。

お寺と神社の違い④ 勤める人

お寺では出家して仏道の修行に励む僧侶や尼僧、神社では祈祷や祭事を中心となって執り行う宮司や禰宜ねぎなどの聖職者が仕事に従事しています。

また、神社では神楽を舞ったり、事務的な仕事をしたりして神職を支える、巫女みこという聖職者もいます。

お寺と神社の違い⑤ お参りの目的・願望

お寺は仏教の修行や苦しみと煩悩から解き放たれ精神が楽になる解脱を目指す場、神社は神様が住む場といった役割の違いから、お寺と神社の参拝の目的や願望も異なります。

それぞれの寺社に祀られている仏様と神様によってご利益は異なりますが、お寺は現世での幸せを願うとともに死後に苦しみがなく楽しみに満ちた極楽浄土に行けるように祈る場です。

それに対して、神社は神様に対して感謝の気持ちを伝える場であり、現世の幸せを願う場なのです。

お寺と神社の違い⑥ 参拝方法の違い

寺の参拝方法

お寺では境内(山内)に入るには山門をくぐります。

そのとき敷居を踏まないようにしましょう。

左右どちらを歩くかの指定はないといわれています。

入口近くに「手水舎ちょうずや(ちょうずしゃ、てみずや、てみずしゃ)」があります。

ここで身を清めます。

手水舎の手順

・ひしゃくに水を汲みまず左手を清めます。

・持ち替えて、右手を清めます。

・ひしゃくの水を口に含み、飲まずに吐き出します。ひしゃくには口をつけないように、ひしゃくから左手に水を入れて行います。

・もう一度左手を清めます。

・ひしゃくを立てて、柄の部分をすすぐように水を流します。

・ひしゃくを置きます。


お香を焚いている常香炉じょうこうろがあれば、その煙で身を清めます。

体の悪い部分は煙を浴びると良くなるといわれています。

本堂参拝の手順

・お賽銭は基本的に投げたりはせず、静かに入れます。

鰐口わにぐちや鈴があれば鳴らします。

・静かに合掌します。音を立ててはいけません。

・最後に一礼します。


※鰐口:鉄や銅でできた音を鳴らす道具(仏具)で、鈴と同じように高いところに吊されています。

鳴らす回数に決まりはありません。

社の参拝方法

神社の境内に入るには鳥居をくぐります。

まず一礼をし、鳥居の左側を左足から入ります。

鳥居や参道の真ん中は、神様の通り道なのであけるようにします。

神社では時計回り(左側通行)で歩くのが原則です。

伊勢神宮内宮ないくうは例外で、反時計回り(右側通行)です。

反時計回りの理由はいくつかあるようですが、三重県の伊勢市を流れる五十鈴川の流れが右側だからという説が有力な理由といわれています。

手水舎の作法はお寺と変わりません。

本殿の参拝手順


・鈴があればまず鳴らします。

・お賽銭を静かに賽銭箱に入れます。

・二礼します。

・二回音を立てて柏手かしわでを打ちます(二拍手)。

・そのまま両手を合わせてお願い事をします。

・一礼します(二礼二拍手一礼)。

(出雲大社や宇佐神宮は二礼四拍手一礼とされています)

必要に応じて、

・授与所でおみくじを引いたり、お守りやお札を授かったりすることもできます。

・御朱印を授かります。

伊勢神宮の参拝方法

伊勢神宮には内宮と外宮があります。

おはらい町やおかげ横丁があるのが内宮です。

五十鈴川に架かる宇治橋を渡り、鳥居をくぐると境内です。

一般に神社は左側通行ですが、この内宮は右側通行になっています。

理由は参拝前のみそぎをする川(五十鈴川)が参道の右側を流れているため、といわれています。

「禊ぎ」とは身を清めることであり、その昔伊勢神宮の風習として川に入って身を清めていました。

今でも禊ぎ場「御手洗場みたらしば」が残っており、河原に降りて手を洗うことはできます。

しかし身体的理由や、天候などにより河原に降りられないこともあり、手水舎が用意されています。

手水舎も右側にあります。

右側通行して反時計回りで参拝します。

伊勢神宮でも「外宮げくう」は左側通行です。

葬儀時の参拝方法

参拝のときと拝礼方法が少し変わります。

・神主に一礼すると玉串たまぐし=おさかきが渡されます。

根元が右側になった形で渡されますので、そのまま玉串をのせる台の前に進みます。

・一礼して玉串を時計周りに回して根元を祭壇の方に向けて置きます。

・二拍手をします。そのとき音は立てません(忍び手)。

・二礼します。

拍手の作法
拍手の音はどのくらい出すのがいいのでしょうか。
実は、いつものお参りと葬儀のときでは適切な大きさが異なります。

いつものお参り
拍手(柏手)は祀ってある神様を呼び出すために行うので、できるだけ大きな音を出すのが良いといわれています。
神社でも神棚でも同じです。
左右の手を上下に少しずらすと大きな音が出ます。
その際、指の節が合わないようにずらすといいでしょう。
節が合ってしまうと「節合わせ」→「不幸せ」になってしまいます。

葬儀のとき
葬儀(お通夜や告別式)のときは、柏手の音を立ててはいけません。
葬儀のときは祭壇に祀ってある神様を呼び出さない、亡くなった人の魂を目覚めさせないためといわれています。
音を立てないのは五十日祭(仏式の49日の法要と同じ)までです。
音を出さない柏手の方法がわからないときは、神主の仕草を真似するといいでしょう。

有名なお寺・神社

全国各地の有名な寺社としては、巡礼旅に欠かせない三重県の伊勢神宮や香川県の金刀比羅宮、ユネスコの世界文化遺産である京都府の清水寺や賀茂御祖神社かもみおやじんじゃ(下鴨神社)、広島県の厳島神社などが挙げられます。

また、京都府の伏見稲荷大社や貴船神社などの総本宮も要チェックです。

特定のお願いに特化したお寺・神社

切りのご利益があるお寺・神社

人間関係や悪癖、病気などの悪縁を断ち切って、良縁を結びたい方には、京都府の安井金毘羅宮やすいこんぴらぐうや菊野大明神、東京都の豊川稲荷東京別院や縁切榎、神奈川県の東慶寺などの寺社がオススメです。

結び・恋愛のご利益があるお寺・神社

恋愛成就や縁結びなどの恋愛運アップに評判の寺社は、島根県の出雲大社、東京都の東京大神宮や赤坂氷川神社、神奈川県の江島神社、栃木県の日光二荒山神社、佐賀県の武雄神社などです。

除け・厄払いのご利益があるお寺・神社

自身にすでについてしまった災厄を払ったり、災厄を寄せ付けないように祈願したりする場合は、東京都の日枝神社や西新井大師、山形県の立石寺、京都府の八坂神社などが人気です。

問・合格祈願のご利益がある神社

志望校への合格祈願や資格試験、就職試験など受験生の信仰を集めるのが、福岡県の太宰府天満宮や京都府の北野天満宮、山口県の防府天満宮など、学問の神様・菅原道真を祀る天満宮です。

産祈願のご利益があるお寺・神社

安定期を迎えた妊娠5か月ほどのいぬの日に行うことの多い安産祈願。

東京都の水天宮や鬼子母神、神奈川県の鶴岡八幡宮、奈良県の帯解寺おびとけでらなどが、安産祈願のご利益で有名です。

この記事でご紹介している寺社はあくまで一部であり、全国には他にも特定のご利益で知られるお寺と神社が数多くあります。

ご自身の求めるご利益のある神社仏閣を調べて足を運んでみませんか?

神社とお寺の行事

神社は「現世」、お寺は「死後」を意味します。

それぞれで開催される行事にはどのような違いがあるのでしょうか?

社の行事

神社では主に人生の地点に関わる行事が催されます。

「お宮参り」「七五三」「成人式」「結婚式」「厄払い」「地鎮祭」などです。

また収穫などを祝う「祭り」なども開催されます。

しかし、境内で「葬儀」を行うことはほとんどありませんし、お墓も境内にはありません。

寺の行事

お寺で執り行われるのは「葬儀」や「法事」が主になっています。

お墓もお寺の境内にあります。

お寺のお祭りは縁日といわれるように、開祖の誕生日などに祭り(法要)が行われます。

釈迦の誕生日(花祭り・4月8日)や各宗派の開祖の誕生祭(名称はさまざま)があります。

日蓮宗のお会式のように、亡くなった日に盛大な法要を営む宗派もあります。

一般的には春・夏の「お彼岸」もお寺の大きな祭事といえます。

ただ、お寺では近年では神社ほど「現世」「死後」の区別がなくなっています。

お初参り(お宮参り)や七五三、結婚式を行うお寺も増えています。

まとめ

お寺と神社は、「日本人の心の拠り所」と称されるほど、日本人にとってなじみ深い宗教施設であり、混同されがちです。

しかし、宗教や信仰の対象、参拝方法、行事などを詳しくみてみると、お寺と神社の実態は大きく違います。

それぞれの特色や違いを把握しておくことで、いざという時に自分に合った寺社を見つけやすくなりますので、ぜひこの記事で自社の知識を深めた上で、寺社巡りに出掛けてください。