扇子は、暑い夏を心地良く過ごそうとした昔の日本人の知恵が凝縮されている、伝統工芸品の一つです。
今では日本人の暮らしの中に浸透している扇子ですが、中国から伝わってきたうちわから誕生したことはご存知でしたか?
この記事では、うちわと扇子の違いだけでなく、扇子の種類の一つである、京扇子や江戸扇子にはどのような違いがあるのかなど、細かく解説していきたいと思います。
扇子とは?

扇 子の「扇」と「子」の意味
扇子の「扇」の字には、風を起こす道具という意味があります。
その一方、実は「子」の字には実質的な意味はありません。
「子」という字は、中国語の接尾語であり、前にある漢字の響きを調える役割しかないのです。
例えば、「子」が付く日本語の言葉には、「帽子」、「椅子」、「様子」などがあります。
しかし、どの言葉も最初の一文字が意味を表しているので、「子」は単なる接尾語として付いているだけです。
扇 子は日本の伝統文化の良さが凝縮されている一品
扇子は気軽に涼がとれる実用的な道具です。
一方で、美麗な絵図は高い芸術性も持ち合わせています。
扇子を開くしぐさの優雅さは、その場の雰囲気を趣のあるものにしてくれます。
扇子は、華やかさと奥ゆかしさという日本の伝統文化の良さが濃縮された伝統工芸品なのです。
また、扇子は常に我々の暮らしに密着して発展してきた道具でもあります。
かつては、貴族しか使用できなかった扇子ですが、昨今では、海外の方からもその芸術性と機能性が高く評価され、身近に日本の伝統文化が感じられるお土産として人気があります。
知っておきたい扇子の部位の名称
扇子の各部位には名称がついています。
ここでは部位の中でも日本人なら知っておきたい部位の名称をご紹介します。
扇子の構造は意外と単純です。
骨組の部分は「扇骨」と呼ばれ、布や紙を貼り付けた部分は「扇面」といいます。
扇子はこの「扇面」と、扇骨である「親骨」、「中骨」、それから留め具である「要」の4つの部位から成り立っています。
扇 面
扇面は扇子の表面に紙や布が張られている部分のことです。
扇面に紙が貼られたタイプは、「地紙」とも呼ばれます。
また、布や紙を両面に貼るか否かで「両貼り」「片貼り」と呼び方が変わります。
扇面は扇ぐという実用的な面でも、絵が描かれるという芸術的な面でも非常に重要なため、扇子の部位の中でも最も大事とされています。
また、扇子は扇面が広い「地長」と、狭い「地短」という分類もすることができます。
親 骨
親骨は、扇を広げて一番外側に一本ずつある少し太い骨です。
扇子を閉じると、重なり合う骨を親骨で挟むような形になります。
骨には一般的に竹や木が使われます。
加えて親骨は、扇子を閉じた時に収まりが良い状態にするために扇子の先端部でしっかりと閉じられるように内側に曲げられています。
親骨で両端にある一番太い竹は、熱を加えて内側に向けて“反らして”作ります。
この“反らして”を「ためる」と言うところから、「ため」と呼ばれます。
また、扇子を購入した際に先端に付いている「責め」(責め紙)は、捨てずに扇子と同様に大事にしましょう。
これは、売っている扇子が開かないようにするためのものですが、実は保管する際に使用するととても便利なのです。
扇子は使用していると次第に広がり、形が崩れてしまうことがよくあります。
しかし、この責め扇子の親骨の先端部分を覆っておくと、扇子が広がることを防いでくれるため、美しい状態を保つことができるのです。
中 骨・仲骨
中骨は、親骨に挟まれた内側の扇骨です。
親骨より薄くてしなやかであり、少し細く、たくさんある骨です。
扇面が両貼りの扇子では、2枚貼り合わせて紙や布の間に中骨が差し込まれて扇子が作られます。
要 ・要目
「要」は、と中骨を一点で留めている部分や、留めている金具を指します。
この「要」(要目)が壊れてしまうと扇子がバラバラになってしまうため、重要な部分です。
そのため、「要」は「肝心要」という言葉の語源とも言われています。
また、平安時代初期の頃は、要の部分がカニの目に似ているので「蟹目」とも呼ばれていました。
要の部分は、一般的にプラスチックや金属で作られています。
扇子の大きさを表す呼び名
扇子の大きさを表す呼び名には、「寸」と「間」の2つがあります。
寸
「寸」は、扇子の骨の長さを表す単位です。
一寸は3㎝です。
例えば、7寸寸の扇子は約21㎝(7x3)、9寸の扇子は約27㎝(9x3)です。
間
「間」は、扇子で使われている親骨と中骨を合わせた骨の数です。
例えば、28本の中中骨と2本の親骨から作られている扇子の間(骨の数)は、30間(本)です。
うちわから誕生した扇子の歴史

今日使われている折り畳みの扇子扇子は、江戸末期頃に中国から伝わったうちわが日本で進化したものです。
しかし、日本の扇子の起源となる歴史は、江戸時代より更に前の平安時代初期から始まります。
日 本で最初に扇子が作られた平安時代
日本で最初に作られた扇子は、平安時代に発明された檜扇と呼ばれるものであったと言われています。
この檜扇は、紙が貴重だった平安時代に儀式の記録などを書いた「木簡」という細い木片を閉じ合わせたものが最初だと言われています。
平安時代末期頃になると、扇骨に透かし彫りをした「透扇」などが誕生しました。
しかし、扇子は貴族、僧侶、神職の人達だけしか使用できず、一般庶民の使用は禁止されていました。
両 面に紙が貼られた扇子が誕生した鎌倉時代
鎌倉時代になると扇子は禅僧などによって中国に渡りました。
それまでの扇子は、片面に紙が貼られたものしかありませんでしたが、中国で両面に紙が貼られた扇子が作成されるようになりました。
これを唐扇といいます。
その後、この扇子は中国からヨーロッパにも伝わり、羽根が付いた西洋風の扇子が誕生しました。
唐 扇が伝来してきた室町時代
室町時代になると唐扇が日本にも伝来してきました。
そして、この西洋風である唐扇の様式が日本の扇子にも取り入られるようになりました。
う ちわから扇子が誕生した江戸時代
江戸時代に、中国で誕生した表裏の両面に紙が貼られているうちわが日本に伝来し、今日でも日本で使われている扇子の原型はここから誕生しました。
また、江戸時代には、日本の扇子が中国やインドを経由してヨーロッパにも伝わっていきました。
ヨーロッパで紙貼りが絹貼りとして普及した扇子は、やがて日本にも取り入れられ、絹が貼られた扇子(絹扇)が誕生しました。
現 代の日本の扇子せんすはほとんどが国内市場にとどまる
日本の扇子は大正時代の中頃まで海外に輸出されていましたが、現在は市場のほとんどが国内に留まっています。
扇子は末広がりなので、縁起やおめでたいものとして結納、結婚式、お宮参り、七五三などの儀式では必需品です。
そのため、今日でも扇子は日本人の暮らしの中に受け継がれているのです。
避けたい扇子の使い方3選
扇子には日本の伝統文化や趣が凝縮されていますが、使い方次第では、扇子の持つ雅な趣も台無しになってしまいます。
そこで、扇子の使い方で避けたい使い方について、3つご紹介します。
パ タパタ”と音を立てて大きく扇ぐ
扇子を“パタパタ”と音を立てて大きく扇ぐことは避けましょう。
夏の暑い日は扇子を“パタパタ”と音を立てながら大きく扇いで早く涼みたい気持ちも分かります。
しかし、これらのしぐさ(行動)は、扇子の持つ優雅さや趣を消してしまいます。
扇子はゆっくりと扇いだ方が、優雅さを損ないません
「 扇面」が野暮ったい扇子
扇子の図柄の好みは人ぞれぞれですが、開いた時に粋や優雅さが感じられる扇子を使いましょう。
扇子を使う場合、扇子の図柄は自分が思っている以上に回りの人の注目を浴びます。
そのため、あまり野暮ったい図柄の扇子は避けましょう。
「 開け」・「閉め」がガサツ
扇子の開け・閉めをガサツに行うことは、避けましょう。
扇子は真横に引っ張ったり大げさに開けたり、雑に閉じたりしないで、丁寧に取り扱いましょう。
右手の親指で親骨を少しずつずらすようにしていくとスムーズに開きます。
また、閉める時は、その逆です。
一般的な扇子の使い方
一般的な扇子の使い方について、4つご紹介します。
開 け方
右手で親骨が上になるようにして要を持ち、左手で扇面の紙(絹)の部分の下を持ちます。
次に、左手の親指で親骨を向こう側に押し開き、1本ずつ丁寧に開きます。
最後の2~3本位の骨は親骨に付けたまま開かないで残します。
扇 ぎ方
扇ぐときは、できるだけ顔の下の方で扇ぎましょう。
男性の扇ぎ方は、扇子を4本の指で握り親指を立てて扇ぎましょう。
女性の扇ぎ方は、4本指をまっすぐ伸ばし、親指で挟んで手の甲を相手に見せるようにし、向こうから手前に扇子を動かして扇ぎましょう。
扇 子で歯を隠す
笑う際は、自分の歯が他人に見えないように扇子で口を隠しましょう。
京扇子と江戸扇子の違い

扇子は最初に京都で誕生し「京扇子」となり、その後、江戸に伝わって「江戸扇子」が誕生しました。
「京扇子」と「江戸扇子」には、どのような違いがあるのでしょうか。
一 番の違いは制作の仕方
京扇子の制作は分業制ですが、江戸扇子の制作は最初から最後まで一人で行います。
京扇子は、87にも及ぶ制作工程をそれぞれの専門の職人さんが分業制で制作します。
この分業制の背景には、京都の人々の横の繋がりを大事にする気持ちと、それぞれの専門性の高い熟練した職人の技を生かして質の良いものを作ろうとする気持ちがあると言われています。
一方、江戸扇子は30にも及ぶ制作過程を最初から最後まで一人で行います。
現在、これらの全ての工程の制作に対応できる職人さんは数人しかいません。
図 柄の違い
京扇子の図柄は華やかで雅さがありますが、江戸扇子は“粋”ですっきりとした図柄が多いです。
図柄や色目には、江戸らしさや京都らしさが表れています。
京扇子の図柄は華やかで雅さがあり細々しているので女性的ですが、江戸扇子は地味ですっきりとした図柄が多いので“粋”があり男性的です。
間 数(骨数)の違い
京扇子は間数が多く、江戸扇子は少ないです。
通常、京扇子の骨は30本(間)位です。
しかし、多いものでは、100本(間)程度になるものもあります。
江戸扇子の骨は、15本(間)から18本(間)位なので折り幅も広くなります。

京扇子は世界でも高く評価され、1200年の歴史がある日本の伝統工芸品です。この記事では、今日でも緻密なデザイン性と高度な伝統技術で作られている人気ある京扇子の魅力や歩んできた歴史などについて、迫っていきます。

日本の伝統工芸品の一つとして、日本人に馴染み深いものである江戸扇子は、全制作工程を一人の職人さんが受け持ちます。
そんな江戸扇子がどのようなものなのか、ご存知の方は少ないと思います。
扇子とうちわの違い
扇子とうちわはどちらも手に持って扇いで風を起こす道具ですが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
誕 生した場所の違い
うちわは中国で発明されて日本に伝来してきたので、扇子よりうちわの歴史の方が古いです。
うちわは、中国や古代エジプトで扇子が発明される前から使われていました。
7世紀頃、うちわが日本に伝来した後、今日使われている持ち運びに便利な折り畳み式の携帯タイプの扇子が誕生しました。
持 つ部分の違い―「要」と「柄」
うちわを扇ぐときは、「柄」の部分を持って扇ぎます。
一方、扇子を扇ぐときは、「要」の部分を持ちます。
用 途の違い
扇子はうちわとは違い、涼む他にも冠婚葬祭、茶道、能などにも使われます。
おわりに

現代の日本では、蒸し暑さを乗り越えるため扇風機やクーラーが必需品となっていますが、実は昔からの道具である「うちわ」が見直されているのをご存じでしょうか?
今回は、京都・丸亀と並んでうちわの三大生産地として名を成す、熊本県の「来民うちわ」をご紹介します。

古くより日本人の暮らしの中に根付いてきた「うちわ」。
今でも、年間1億本を超えるうちわが国内で生産されていますが、その約9割が、讃岐うどんでも有名な香川県丸亀市で作られていることをご存じでしょうか?
この記事では、日本一のうちわどころが誇る「丸亀うちわ」の歴史や特徴、その伝統の技についてご紹介します。