使えば使うほど味が出る金工品の魅力
金属製品は使い続けることで、その表情を変化させていきます。
使う人の手の脂の付き方、使用頻度、普段の手入れの仕方などにより、変化の仕方も1つ1つ異なります。この経年変化は、金属を「育てる」という言葉でよく表現されます。
人の手によって長く使われた金属の表面にはなんとも味わい深い表情が生まれ、年月を重ねるごとに深みを帯びていきます。
金工品の経年変化を愉しむ
製品の素材となっている金属の種類によって、経年変化の仕方は異なります。
例えば鉄瓶の場合は、お湯を沸かした回数に伴い、内部に白い膜が付着していきます。
これは湯垢で、水に含まれているミネラル分が沈着したものです。
鉄瓶の内部全体が真っ白になるくらいの湯垢が着く頃には、赤錆の出る心配がなくなり、程よく鉄分の含まれた美味しいお湯が沸かせるようになります。
赤錆
鉄瓶の内部は金気止めという処理をしてあります。錆止めの一種です。
これは炭を燃やして1000度以上の高温で焼く仕上げ方法です。
この作業によって鉄瓶の内部には酸化皮膜という皮膜が出来ます。これがさび止めの役割をしています。
この皮膜は、使ううちに剥がれてきますので、その間に湯垢を付けたいところです。
ミネラル豊富な水や井戸水、外国のミネラルウォーターをつかって鉄瓶でお湯をわかすとすぐに付きます。
それこそ数回沸騰させただけで湯垢がついてきます。
湯垢がついてくると内部が白っぽくなってきます。そうするとサビなくなります。
それでもどこか一部は赤茶けて、錆びてきますが、全く気にしないで良いです。そのうち落ち着きます。
そもそもサビは体に毒ではありません。
赤錆を沢山飲むとお腹がゆるくなる程度で、鉄分は人間の体にもともとあるので害毒ではありません。ご安心ください。
鉄瓶の表面には着色のため漆が焼き付けてありますが、お湯を沸かすたびに底の方は火で焼けて漆が取れてきます。
同じ鉄製品でもフライパンの場合、また違った変化があります。
鉄製のフライパンは、使う前の油慣らしから始め、使うたびに油が染み込んでいきます。
そうして使い込んだフライパンには油がしっとりと馴染み、黒々とした艶が出てきます。
表面の手触りも、新品のさらりとした感じから、ざらりとした風格のあるものへと変化していきます。
銅製品の経年変化としては、変色が挙げられます。
銅は空気に触れることで酸化が始まり、光沢のある赤褐色から次第に濃い飴色へと変化していきます。
これは銅の表面に酸化被膜ができることで起きる変化です。
銅製の薬缶であれば、火にかけた時の熱を直接受ける底の部分の方が変色の度合いが大きくなります。
お湯を沸かす回数を重ねることで、銅肌が徐々に変色してゆく様子を楽しむことができます。
鎚起により作られた製品であれば、規則的な槌目の美しさに変色による艶が加わり、その魅力は時間を忘れて眺めてしまうほどです。
いずれも丁寧に使い込むことで、新品のころの眩しいような光沢とは違う、重厚感のある艶やかさが生まれます。
銅製品と同様に、銀製品にも経年変化による変色が起きます。
銅製品と違うのは、銅が酸化によって変色するのに対し、銀は空気中に含まれる硫黄成分に反応して変色していくということです。
この現象を硫化といいます。
もともと銀は貴金属の中でも明るい光沢を持つ金属です。
その色の変化は銀白色からはじまり、だんだんと黄みを帯び始め、その後に赤、紫、青、最後は黒色に変色します。
段階を踏んで変色していく中で、様々な色の混じり合った銀は大変幻想的な美しさを魅せてくれます。
そしてゆっくりと時間をかけて、墨のような落ち着いた黒色に変色した銀は、ゆるぎのない静かな存在感を漂わせます。
金工品を長く使い続けるために
金工品として販売されている製品は人の手によって丁寧に作られたものであり、正しい手入れをすることによって半永久的に使い続けることができます。
鉄 製品の手入れ方法
鉄製品は使い始める前に、必ずならしの作業を行います。
鉄瓶なら、軽くすすいだ後に2〜3回お湯を沸かします。
沸かしたお湯が透明になったら、飲用水として使用可能です。フライパンなら、お湯で洗って空焚きし水分を飛ばした後、油を塗って熱し、フライパンに油を十分染み込ませます。
このとき野菜くずを炒めると、鉄特有のにおいが取れます。
使用後も正しい手入れをすることで錆の発生を抑制することができます。
鉄瓶でお湯を沸かしたあとは、必ずお湯をすべてポットなどに移すか捨ててください。
中に水分が残ったまま冷めると錆の発生の原因となります。
お湯を沸かしたときの余熱で水分を蒸発させるか、軽く空焚きして内部を乾燥させます。
長時間の空焚きはしないよう注意してください。
フライパンの場合は、使用後はお湯か水で、洗剤を使わずに洗います。
洗剤を使うと、せっかくなじませた油まで落としてしまうからです。
フライパンに傷をつけないよう金属製のたわしは使わず、亀の子たわしやナイロンブラシで汚れを落とし、火にかけて水分を飛ばします。
時々で良いので油を塗って、油分を補給してください。
南部鉄器は鉄を溶かし型に流し込む、鋳金(ちゅうきん)という技法で作られています。解けた金属を流し込む型を鋳型といい、生型と焼型の2種類あります。今回は、焼型を使用した鉄瓶の製造工程をご紹介します。
銅 製品の手入れ方法
調理器具の場合は、調理後すみやかにお皿などに料理を移し替えます。
使用後は中性洗剤とスポンジで洗い、水分をしっかりと拭き取って乾燥させてください。
銅は柔らかい素材なので、クレンザーなどの研磨剤や金たわしで洗うと傷や変形の原因となります。
着色してあるものだと色落ちの原因にもなります。
また、水分が残っていると、黒い斑点や緑青が浮き出てきます。
緑青は銅に出る錆の一種で、出たとしても使用には問題なく、人体に対しても無害なものです。
ですが、そのままにしておくと広がっていってしまうので、まずは緑青が出ないようにしっかりと乾燥させるようにしましょう。
それでももし緑青が出てきてしまった場合は早めに爪楊枝などで削り落とし、柔らかい布で拭いてください。
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銀 製品の手入れ方法
銀製品は簡単に変色すると思われる方も多いと思いますが、使用後にきちんと汚れを拭くだけで変色をかなり遅らせることができます。
装飾品は磨きクロスで軽く拭き、銀食器なら中性洗剤で汚れを完全に落としてから、しっかりと水分を拭き取ってください。
もし変色してしまったら、専用のクリーナーも多数販売されていますが、もっと身近なものでお手入れをすることも可能です。
例えば重曹を使用したやり方があります。
ぬるま湯に浸した柔らかい布に重曹をつけて変色した部分を磨き、別の柔らかい布で乾拭きしてください。
細工の細かな部分には歯ブラシや爪楊枝を使い磨きます。
重曹なら、銀食器など口に入れるものでも安心してお手入れができます。
古くから愛されてきた銀器。
その歴史は古く、現在日本では東京が主要な産地となっている。
「東京銀器」は昭和54年に経済産業大臣より伝統的工芸品として指定され、台東区や荒川区を中心に、アクセサリーや日用品など幅広い銀製品が作られている。
東京都台東区浅草に工房を構える銀泉いづみけんもその一つだ。
おわりに
手入れをしながら自分だけの経年変化が楽しめるのも、金工品の魅力の一つです。
時とともに変わる金属の表情を楽しみながら、長く使い続けてみてください。
手をかけた分だけ、その品だけが持つ唯一無二の輝きを見せてくれるはずです。
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