香道は茶道や華道と同じ日本独自の芸道のひとつで、礼儀作法や立居振舞、さらには古典文学の知識なども重視されますが、何よりも香りそのものを楽しむことに意義があります。

平安時代の貴族から受け継がれてきた、非常に繊細で高度な感性が秘められ、千年余にも渡る歴史があります。

現代での知名度は下がってしまいましたが、茶道や華道と同じく現代にも伝わる日本独自の芸道です。

今回は香道とは何か、歴史ややり方など、香道初心者の方に向けて興味が湧いてくる情報をお伝えします。

香道とは

「香道」とは、天然香木をたき、その香りから四季が存在する日本ならではの感性、和歌や故事、情景を鑑賞する芸道です。

楽しみ方は2通り。

聞香もんこう」と、香りを聞き分ける遊び「組香くみこう」があります。

香りを「聞く」という表現をしていますが、香道では香りを鑑賞することを「聞く」と言い、「嗅ぐ」という表現はしません。

現代の香道は、いくつかの香木が焚かれ、香りを聞きわける組香が主流となっています。

組香は香りを当てる競技ではあるものの、単に正しい香りを当てれば良いというものではなく、あくまで香りで表現された風情や世界観を楽しむことが大切なのです。

香道の歴史

今から1400年前の飛鳥時代、日本に仏教が伝来するとともに仏教儀式として香木が焚かれるようになります。

平安時代になるとお香は仏教儀式を離れ、貴族や宮廷で香りを聞いて楽しむ優雅な遊びとして洗練されていきます。

鎌倉時代に入ると武家の間でも香がたしなまれるようになり、室町時代には茶道、華道、能などとともに、貴族や武家など限られた上流階級の芸道として独自に発展します。

この時代の香木は、茶器とともに「一国に相当する」ほどのたいへん貴重な品で、東大寺正倉院宝物には、室町幕府八代将軍・足利義政や織田信長が木片を切り取った巨大な香木「黄熟香(おうじゅくこう)」が納められています。

当時の上流階級の人たちにとって、香道がどれだけ洗練された文化だったかがうかがえるエピソードですね。

徳川家康は1600年代初頭に朱印船による海外交易を行いますが、その主目的は香道で使用する極上の天然香木「伽羅(きゃら)」の買い付けをするためだったとも言われます。

江戸時代の中盤に差し掛かると、上流階級だけでなく豪商や町人の間でも香道が普及し、日本独自の文化として広く親しまれ現在に至ります。

香道で使用する香木について

先ほどからたびたび触れている「香木」ですが、どのようなものかご存知でしょうか。

香木とは、自然界の心地よい香りを放つ木のことを指します。

代表的なものに「沈香」「白檀」という木があります。

白檀は香りがあることで知られていますが、沈香はそのままでは香りを放つようにはなりません。

樹皮に傷がつき、菌が付着することで自ら樹脂を出し固まっていきます。

これをバクテリアが長い時間をかけて分解し、はじめて沈香となります。

このことからも分かるように、沈香は自然界の特殊な条件の元で出来上がるため、非常に希少で高価なものとして知られていました。

香木が初めて文献に現れる『日本書紀』※1には、推古天皇の時代に香木が淡路島に漂着したというエピソードが、下記のとおり記されています。

※1 奈良時代に成立した日本最古の正史

三年夏四月、沈水、漂着於淡路嶋、其大一圍。嶋人、不知沈水、以交薪燒於竈。其烟氣遠薫、則異以獻之。引用:日本書紀巻22/推古天皇(592-628年)

「枕水」とは水に沈むほど樹脂をたっぷり含んだ「沈香(じんこう)」のことです。

この文章には、

“島人が火にくべたところ、たいへんよい香りがしたので朝廷に献上した”

と書かれています。

このことから、奈良時代に成立した『日本書紀』では、すでに香木が朝廷に献上するほどのたいへん貴重な品であったことが分かります。

香道では香木の香りの違いを「酸(すっぱい)」・「苦(にがい)」・「甘(あまい)」・「辛(からい)」・「鹹(塩辛い)」 の5つの味で表現します。

さらに、香木が産出される地名などから

1. 「伽羅(きゃら)」
2. 「羅国(らこく)」
3. 「真南蛮(まなばん)」
4. 「真那伽(まなか)」
5. 「佐曽羅(さそら)」
6. 「寸門陀羅(すもたら)」

の6つに分類し、それら香りの分類を六国五味(りっこくごみ)」として体系づけています。

香木以外の他の香道の道具については、下記の記事をご参照ください。

香木のたき方

本格的な香道を楽しむ前に、まずは自分で香木の香りを楽しみたいという方に、多くの道具を使わない簡単な香木のたき方をご紹介します。

木を購入する

香木は数万円、数十万円するたいへんに高額なものもありますが、手軽に楽しむなら8,000円ほどのお試しセットがオススメです。

子香炉を使用する

12,000円~24,000円ほどする電子香炉を使えば、炭や灰を使わずとも電熱器の上に香木を置くだけで気軽に香りをおこすことができます。

温度を調節するつまみがついているので、各種の香木に最適な温度に調整できます。

薫(そらだき)に挑戦

電子香炉よりちょっと本格的な、聞香炉(ききこうろ)、香炉灰、香炭(こうたん)を使用して香木をたく方法です。

1. 香炭に火をつける
2. 聞香炉に香炉灰を入れ、火をつけた香炭をうずめて灰を温める(5分)
3. 熱くなった灰の上に香木を置く

詳しい手順は以下の動画で紹介されています。

おわりに

現代の日本ではさほど知名度は高くないものの、非常に長い歴史を持つ香道。

その魅力を、感じでいただけたでしょうか。

香道や茶道、華道など日本古来の芸道は「敷居が高いもの」という先入観で見られがちですが、初めから高額なものを購入する必要はありません。

だれでも気軽に始めることができます。

また、奥が深いため極めようと思えばどこまでも突き詰められるものです。

長い時間をかけて、人生をより豊かにしてくれる趣味の一つとして、あなたも日本の伝統的な香りの世界を楽しんでみませんか?