着物は、日本の伝統工芸品の一つであり、古くから受け継がれる伝統的な手法によって職人の手で一つずつ丁寧に作り上げられる非常に奥深いものです。

洋服が一般的となった現代でも、成人式や夏祭りなどのイベントでは着用されることが多く、私達日本人の生活に深く根付いています。

この記事では、着物の知識をもっと知りたい!という方のために、着物とは何か、歴史や種類、魅力についてご紹介します。

着物とは?

着物とは、日本の伝統的な衣装のことです。

和服とも言われる着物は、一たんの布地から裁断した布を織り込んで縫い合わせた平面構造の衣服で、前開きの長着を帯で結ぶスタイルが基本です。

人の体の形に合わせて立体的に作る洋服とは異なり、平面構造で仕立てられていることから、人に着付けることではじめて衣服として完成します。

さらに、各パーツの形に合わせて裁断するのではなく、パーツの形に合わせて布を織り込んで縫い合わせているため、ほどけば反物に戻すことができるという特徴を持っています。

長い歴史の中で受け継がれながら変化してきた着物は、模様や装いなどに日本人の独特の感性と美意識が凝縮されています。

それは、洋服のように形としてのデザインがないため、柄染めや織物のデザインが発達したからだといわれています。

美しい色や模様に彩られ、帯や小物との組み合わせにより趣ががらりと変わるのも、着物の魅力の一つです。

着物の歴史

「着物」という言葉は、もともと日本で「着るもの」全般を意味する言葉でした。

明治時代に西洋文化が取り入れられ、洋服が一般的になったことで、洋服の対義語として和服という言葉が生まれると、和服が従来の日本の衣服を指すことから、「着物」も和服と同じ意味で使われるようになりました。

現在に伝わるような形の着物のはじまりは、平安時代だと言われています。

平安時代の貴族は、主に今の皇室関連や京都の伝統行事の中に見ることができる、十二単などの豪華な衣装を着用していました。

庶民の女性は、丈の短い“小袖こそで”に、“しびら”という着物を羽織り、ひだのある布を腰に巻いた服装が基本でした。

一方男性は、上半身に“直垂ひたたれ”と呼ばれる、前合わせに胸ひものついた衣服を、下半身に裾を絞った“括袴くくりはかま”をはいていました。

室町時代になると、平安時代には表着うわぎだった下半身用の袴やが省かれるようになり、当時貴族は下着として使っていた小袖が、表着となりました。

小袖は、たもとのない筒袖つつそでであることが一般的でしたが、この時期に袂を持つ小袖が登場し、それまでの小袖と区別するため、袂付きの小袖は“着物”と呼ばれるようになります。

江戸時代になると、着物は広い階級に着られるようになりますが、身分ごとに着物の素材や色に対して制限が付けられていました。

そんな制限がある中でもおしゃれを楽しもうと、庶民の間で着物の柄や帯の結び方が工夫され、着物文化が発展していきました。

その後も着物はさまざまな発展を遂げますが、明治時代の洋装化をきっかけに、徐々に洋服の着用率が上がっていきます。

現在では、主に成人式や結婚式などの特別なハレの日や、お祭に着用する衣装となっています。

しかし、最近はインターネットなどでも、昔の高品質な着物が手軽に購入できるようになりました。

観光スポットを着物で巡って写真を撮るなど、若い人を中心に再び関心が集まりつつあります。


※ハレ:日本の伝統的な世界観である「ハレとケ」の“ハレ”を指している。ハレは年中行事やお祭りなどの特別な日を、ケは普段の日常を指す。


さらに詳しく着物のルーツや現代の着物の楽しみ方を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください♪

着物のデザイン(柄・模様)と意味

着物には美しい模様や柄があしらわれていますが、それらには一つひとつ意味や願いが込められています。

着る人の幸せを願うものや、長寿や良縁を願うものなど、その意味はさまざまです。

ここからは、着用する際のシーンや行く場所、季節などに応じて選びたい方のために、着物の模様について、その種類と意味をジャンルごとに紹介していきます。

物模様

着物の柄のなかで最もポピュラーといえるのが、植物の模様です。

着物に限らず、古くから日本では、四季の彩を取り入れた作品が親しまれており、植物の模様はそういった季節を楽しめる柄として人気です。

松竹梅

松竹梅しょうちくばい」は、松、竹、梅の3点をセットにした、おめでたい吉祥きっしょう模様です。

一年中青々と茂る松は、長寿と生命の象徴、真っすぐに伸びる竹は子孫繁栄、冬に花が咲く梅は、忍耐力を表現しています。

この3つを組み合わせることで、生命の力強さを表しているのです。


※吉祥模様:縁起が良いとされる動植物や、モノなどを用いた模様の総称

「桜」は、“さ”が稲の神、“くら”が神の座を表すことから、繁栄や五穀豊穣の意味を持つ模様として用いられています。

また、春に芽吹くため、物事のはじまりや門出の際に良いともいわれています。

桜以外の花と組み合わせた模様もあるため、そういったものを選べば通年で着用できますよ♪

椿

「椿」は、その木が一年中枯れないことから、古来、邪気を払う神聖な植物とされてきました。

その花は油、薬などにも使用されるため、高貴な花としても尊ばれています。

冬の季節感を表す柄なので、冬に着るのがオススメですが、晩秋から春まで咲く種類もあるため、比較的長い期間着用できる模様です。

唐草

唐草からくさ」は、つる草が伸びて絡み合う様子を曲線で表した模様です。

つるが途切れることなく伸びる様子から、生命力の強さや子孫繁栄、長寿などを表す吉祥模様とされてきました。

古代エジプトが起源となっている模様で、菊、梅、桐などの植物とよく一緒に描かれています。

牡丹

牡丹ぼたん」は、花弁を重ねた大輪の花が映える模様です。

富貴ふうき、高貴の象徴ともいわれ、華やかな模様として利用されてきました。

“丹”の字には不老不死の仙薬の意味があるとされており、不老長寿の願いも込められた縁起の良い柄です。


※富貴:お金持ちで、身分や地位が高いこと。

何学模様

幾何学きかがく模様」は、円形や三角形、四角形、多角形などの模様を、規則正しく連続して並べた柄のことで、生地の地模様としてよく使われます。

図形のほかに、矢の形や籠の網目の形などユニークなものもあり、それぞれ柄によって意味や願いが込められています。

ここからは、そんな幾何学模様を種類ごとにご紹介します。

亀甲

亀甲きっこう」は、亀の甲羅に似ていることから命名された、長寿を願う模様です。

この亀甲模様を重ねることで、永遠の繁栄を意味する柄になるといわれ、縁起が良いため赤ちゃんの産着にもよく用いられます。

六角形を二重にしたり形を変えるなど、デザインのバリエーションも多く汎用性の高い柄でもあります。

漫画『鬼滅の刃』に登場するキャラクター・冨岡義勇が着用している羽織にも、亀甲の派生柄が用いられているんですよ。

七宝

七宝しっぽう」は、同じ大きさの円を重ねることで、ひし形と花弁を描き出した模様です。

“円”と“縁”をかけて、円満と繁栄への願いが込められています。

「七宝」という名前は、円(縁)への願いが、仏教における七宝(金・銀・水晶・瑠璃・瑪瑙・珊瑚・しゃこ)と同じように尊い、として名付けられました。

市松

「市松」は、色違いの正方形が交互に並んだチェック柄のような模様です。

正方形が途切れず並ぶことから、永遠、無限の繁栄などを表します。

かつては、“石畳”や“あられ”と呼ばれていたのですが、江戸時代に活躍した歌舞伎役者・佐野川市松さのがわいちまつがこの模様を入れた袴を着用して舞台に立ったことで、「市松」と呼ばれるようになったといいます。

青海波

青海波せいがいは」は、波に見立てた扇状の柄を重ねた模様のことです。

ペルシャ発祥の模様とされており、日本では雅楽“青海波”の装束に用いられていたため、この名前がついたのだとか。

落ち着いた波のように穏やかな暮らしが続くことを願う平和な模様で、四季の花などとよく一緒に使われています。

籠目

籠目かごめ」は、竹籠の網目を表した柄です。

魔除けの印である六芒星ろくぼうせいが重なるようにも見えるため、邪気を払うとされています。

通年で着用できる模様ですが、夏に着る着物や浴衣の場合には、水鳥や流水など、水辺の風景と組み合わせるのがオススメです♪

麻の葉

「麻の葉」は、その名の通り麻の葉に似た柄が連なった模様です。

麻の葉が、成長が早くまっすぐ育つという特徴を持っていることから、魔除けや子供の健やかな成長を願う意味が込められています。

そのため、赤ちゃんの産着にもよく用いられています。

この模様自体は平安時代に誕生したといわれていますが、江戸時代に活躍した歌舞伎役者・岩井半四郎が女形の衣装として麻の葉模様を着用したことから、若い娘の間で流行に火が付き、以降、女子がよく身に付けることが多い模様となりました。

物模様

古くから、縁起の良い鳥など、「動物」も着物の模様に頻繁に取り入れられてきました。

植物模様など他の模様と組み合わせながら、生き生きとした印象を与えてくれる愛らしい動物模様は、現在でも人気の柄となっています。

「鶴」は、長寿や生命力、夫婦円満などの意味を持つ模様です。

“鶴は千年”の言葉通り長寿のシンボルとして有名な鶴は、つがいが生涯添い遂げることから、夫婦円満の象徴とされてきました。

その優雅で気品がある姿は、幸せを願う場にふさわしいと、結婚式の打掛などに用いられています。

うさぎ」は、縁起の良い意味を多く持つ吉祥模様です。

中国には、月で兎が不老不死の薬を作っていると伝承があるため、兎は長寿の象徴であると考えられてきました。

日本でも“月には兎がいる”という言い伝えがあるため、そこから「ツキを呼ぶ」存在であるといわれるほか、子沢山なことから子孫繁栄や豊穣、跳ねて移動するという習性から飛躍という意味も込められています。

「蝶」は、卵から孵り幼虫へ、そしてさなぎを経て天高く舞い立つ成虫になるその成長ぶりに、出世や不死の願いが重ねられた、縁起の良い模様です。

産卵期にはつがいで過ごす様子が見られることから、夫婦円満の象徴ともされています。

単独では通年着られる模様となっていますが、春の花や秋草など、季節の植物と用いられることも多いようです。

景・自然模様

着物には、「風景」や「自然」を用いた模様も多くあります。

海、山、川などの景観や月、星などの自然現象のほか、流水など形のないものも取り入れられてきました。

日本人の自然に対する想いや美意識が垣間見える模様です。

流水

「流水」は、流れる水や曲線の水路などを模様にしたものです。

絶えず流れる水には、厄災を流し去り、火除けをしてくれるという意味が込められています。

四季の草花と描かれたものは通年着用でき、単独で描かれたものは夏に着用すると涼しさを演出してくれますよ♪

雲取り

雲取くもどり」は、雲がなびく様子を表した模様です。

雲には龍や神様が住んだとされていたことから、開運の意味があるといわれています。

また、その漂う姿から、自由な暮らしや輪廻転生の象徴ともされているそう。

草花などの模様を雲の中に描いた柄が、一般的です。

物模様

「器物模様」は、扇や御所車などの身近な道具を模様にしたものです。

草花など他の模様と組み合わせて用いられることも多く、バリエーションも豊富。

中でも平安時代の宮廷人が使っていた用具の模様は、“王朝模様”と呼ばれています。

扇面

扇面せんめん」は、扇を広げた様子を表した模様です。

その末広がりな形状から、縁起物として扱われている扇は、繁栄や開運の意味を持っており、晴れ着の柄にもよく用いられています。

草花などと一緒に描かれた優雅なデザインも多く、飾りひものついたものなど、一口に「扇面」といっても多彩なパターンがあります。

手毬

手毬てまり」は、家庭円満や良縁などの意味を持つ模様です。

家庭円満は丸くて愛らしい形から、良縁は製作時に使用される長い糸から取られています。

ある地域では、女子に魔除けとして手毬を贈る風習もあるそうで、どんな困難も丸く収め、丸々と育ち、弾むような幸せを得られる縁起物として扱われています。

貝桶

貝桶かいおけ」とは、貝の入れ物のことです。

平安時代、宮廷で対になる貝を探す “貝合わせ”という遊びが流行し、貝桶はこの時に使われる道具の一つでした。

対にならないとぴったりとはまらない貝は、結婚や貞操を意味し、そんな貝を入れる貝桶は、夫婦円満や永遠を表すとされてきました。

この柄は、主に礼装やひな祭りの着物などに用いられています。

組紐

組紐くみひも」は、糸を編み合わせた日本の伝統的な工芸品です。

組紐模様には、結ぶものということから、魔除けや良縁の願いが込められています。

その繊細で美しい柄は、着物に立体感などのアクセントを与えてくれます。

着物の格

着物には、着用するシーンやその時の立場にふさわしい「格」と呼ばれるものがあります。

着物の種類や紋の数などで決まるもので、主に“第一礼装”、“準礼装”、“外出着”、“普段着”の4段階に分かれます。

ここからは、それぞれの格について、詳細をご紹介していきます。

一礼装

「第一礼装」は、最も格式が高い着物のことです。

正礼装とも呼ばれ、冠婚葬祭や公的な儀式など、フォーマルな場で着用します。

例として、結婚式に新婦が着る打掛うちかけ、親族が着る黒留袖くろとめそで、袖が長いことが特徴の本振袖、葬式の際に着る黒喪服などが該当します。

礼装

「準礼装」は、第一礼装の次に格の高い装いです。

略式礼装とも呼ばれ、格式張らない入学式や披露宴などのイベントの時に着用するものです。

結婚式で親族が着る色留袖いろとめそで、訪問着、本振袖より短い袖の中振袖ちゅうふりそで小振袖こふりそでなどが該当します。

出着

「外出着」は、礼装ほどかしこまってはいないものの、カジュアル過ぎない場所に行く際に着る着物です。

少し格のあるものから趣味で楽しむ格の着物まで、4段階の中で最も幅広い場所で活躍するグループです。

生地全体に小さな模様が施されている“小紋こもん”が外出着の代表格で、シーンに合わせて模様を選び、おしゃれを楽しむことができます。

段着

「普段着」は、日常的に着用する着物です。

4段階の中では一番格が下の種類で、動きやすさや快適さ、お手入れが簡単で保存しやすいという特徴があります。

ウールや木綿の着物が例として挙げられ、夏祭りで着る浴衣もこのグループに入ります。

着物の種類

ここからは、それぞれの格ごとに、着物の種類を詳しくご紹介していきます。

掛(第一礼装)

打掛うちかけ」は、花嫁が結婚式で着る衣装の一つです。

羽織るように着用し、裾が長いことが特徴の打掛には、“白無垢“や”色打掛“などの種類があります。

白無垢は、打掛の中でも最上格のもので、挙式用に使われることが多く、小物も含めて白一色で統一するのが特徴。

色打掛は、赤や金などの豪華な色彩に、鶴や鳳凰など縁起の良い模様が描かれ、主に披露宴やお色直しで着用します。

留袖(第一礼装)

黒留袖くろとめそで」は、既婚女性が着用する、最も格式の高い第一礼装です。

黒い色の着物で五つの紋が付いており、上半身は無地、裾まわりにおめでたい柄が描かれていることが特徴です。

紋は描かれる場所ごとにそれぞれ意味があり、背中の中心はご先祖様の守護、左右の袖は兄弟や親戚との繋がり、左右の胸は両親への想いが込められています。

また、着物を広げた際に端から端まで絵が繋がっている“絵羽模様えばもよう”のものが多いのも特徴。

結婚式で、新郎新婦の母親や親族が着るのが一般的です。

紋付(第一礼装)

「黒留袖」と同様に、紋付の着物で「黒紋付くろもんつき」という、喪服として着用されることが多い第一礼装があります。

黒留袖は黒に模様入りの着物で、既婚女性のみ着ることができますが、黒紋付は黒一色に紋が入った着物で、未婚者でも着用できます。

現在は喪服として着られることがほとんどで、黒い帯と合わせるのが一般的ですが、決して喪服専用というわけではなく、黒以外の帯を用いて、慶事に着用することもありました。

黒羽二重五つ紋付

なお、男性の第一礼装は、羽織と袴の「黒羽二重五つ紋付くろはぶたえいつつもんつき」です。

羽二重という最高級の絹織物で出来ており、黒一色で、背中、両袖、両胸に五つの紋がついていることが特徴です。

袴は、最高級の生地である仙台平せんだいひらの縞柄を着用します。

結婚式で、新郎が着ることが多い礼装です。

振袖(第一礼装)

本振袖ほんふりそで」は、未婚女性が着用する、最も格の高い第一礼装です。

振袖は袖の長さによって本振袖、中振袖、小振袖の3種類に分けられます。

中でも、最も袖が長く格調の高い本振袖は114~124cmあり、花嫁が裾を引いて着用する例が多くみられます。

留袖(第一礼装・準礼装)

色留袖いろとめそで」は、黒留袖の色違いともいうべき着物で、黒留袖と同じように上半身は無地で、裾に絵羽模様が入っています。

赤や青など華やかな色の生地も多く、婚礼では未婚の親族などが着用します。

また、紋の数は五つ、三つ、一つのいずれかが入っているのが一般的で、それぞれ、五つ紋は第一礼装、三つ紋は準礼装と、紋の数で格が変わります。

振袖(準礼装)

「中振袖」は、3種類ある振袖の中で、2番目に長い袖の準礼装です。

袖の長さは約95~99cmで、未婚女性が結婚式の招待者として着用したり、成人式で身に着けたりします。

振袖(準礼装)

「小振袖」は、振袖の中で一番袖丈が短く格が低い着物です。

袖の長さは60~85㎝ほどで、一般的には膝ぐらいの位置になります。

袖丈が短く動きやすいため、ブーツや袴と組み合わせて卒業式でよく着用されています。

問着(準礼装)

訪問着ほうもんぎ」は、既婚未婚や年齢を問わずに着用することができる準礼装です。

裾だけに模様がある留袖と異なり、肩から裾にかけて絵羽模様が広がっているため、華やかな印象を与えてくれます。

柄や紋の有無により、セミフォーマルな場面でもカジュアルな場面でも着用できるため、結婚式から入学式、パーティーまで幅広く活躍できる便利な着物です。

け下げ(準礼装)

「付け下げ」は、訪問着に次ぐ格の準礼装です。

戦時中、派手な装いが禁止されたため、豪華な訪問着と同じ場面で使える着物を作ろうと誕生した背景を持っています。

訪問着との一番簡単な見分け方は、柄がシンプルであるかどうか、という点です。

訪問着より少し格が下ではあるものの、着用できるシーンはほとんど一緒です。

無地(準礼装)

色無地いろむじ」は、生地を黒以外の一色で染めた、柄のない着物です。

色留袖や訪問着と同じく、紋の数によって格が変わるのが特徴。

五つ紋や三つ紋のものはフォーマルな結婚式や入学式など、一つ紋のものは結婚式などのほか、多少気軽な場でも、紋のない色無地は普段着として、など、汎用性の高い着物となっています。

特に紋なしの色無地は、使い勝手がよく、人気があるのだそうです。

戸小紋の紋付(準礼装)

江戸小紋えどこもん紋付もんつき」は、江戸時代に武士が着用していた、肩が大きく張っていることが特徴のかみしもをルーツに持つ着物です。

そもそも“小紋”とは、緻密で細かい柄が繰り返される着物のことですが、江戸小紋はその中でも特に柄が細かいことが特徴です。

そんな江戸小紋を紋付として仕立てると、色無地と同じく準礼装としてセミフォーマルな場で着用できます。

紋(外出着)

小紋こもん」は、生地全体に同じ模様が繰り返し描かれた着物を指します。

江戸小紋は準礼装ですが、通常の「小紋」は、食事や観劇など気軽な外出に適したおしゃれ着です。

柄は多種多様なものがあるため、季節や行く場所に応じて選ぶのがよいでしょう。

少し格を上げたい時には、手毬や扇などの古典柄にするのがオススメです。

け下げ小紋(外出着)

「付け下げ小紋」は、付け下げと小紋をミックスさせた着物です。

小紋と同じく全体的に小さな模様がある着物ですが、付け下げ小紋は模様がすべて縫い目でつながり、向きもすべて揃っています。

それに対し小紋は、模様が縫い目で繋がっておらず、向きも一定方向ではなくランダムになっています。

付け下げより格は下ですが、小紋よりは格上に位置します。

ただし、紋は入れない着物であるため、フォーマルな場には向かず、同窓会や観劇などの軽いお出かけの時に向いている着物です。

の訪問着・無地の紬(外出着)

つむぎ」は、真綿から紡いだ紬糸つむぎいとを使った“織”の着物です。

そもそも、着物には糸を先に染めておく“織”の着物と、織り上げた後で染色する“染”の着物があります。

高級感のある染の着物に対し、紬のような織の着物は素朴な印象を与えてくれるため、普段着として着用されることが多いと言われています。

しかし、絵羽模様の入った紬や無地の紬は軽い訪問着として、小紋同様気軽なパーティーなどに着ていける着物です。

召(外出着)

御召おめし」とは、御召ちりめんの略称です。

ねじった糸を使って織り上げた着物で、生地の表面にほどよい凹凸があり、織の着物の中では最高級です。

小紋と紬と同じような外出着として、さりげなくおしゃれな装いができます。

り(外出着)

「絞り」とは、染めたくない部分を括ったり挟んだりした状態で染め上げて模様を作り出す技法のことです。

絵羽模様や袖の長さで訪問着、振袖として用いられる場合もあります。

しかし基本的に、絞りだけの着物は外出着とみなされるため、友人との食事や気軽なお出かけの際に着用するのがオススメです。

紗(外出着)

更紗さらさ」とは、木綿の生地にさまざまな色の天然染料を使って模様を染める技法です。

インド発祥とされるためか、異国情緒漂う色彩や、花や鳥の模様がその代表格です。

小紋よりも、よりカジュアルなシーンに合う着物です。

(普段着)

紬の訪問着・無地の紬(外出着)でも申し上げた通り、紬は、“織”の着物の代表格です。

もともとは残り物の繭で作られたもので、その丈夫さから、庶民の普段着として愛用されてきました。

現在では気軽な街着として用いられ、友人との食事、趣味の会などで活躍します。

(普段着)

かすり」は、わざと部分的に染め残しを作って染色された絣糸かすりいとを使って織られた着物です。

そのため、模様がところどころかすれて見えるのが特徴で、これがそのまま名前の由来になっています。

糸は絹や木綿、麻などが使用されており、普段着の位置づけではありますが、お稽古や街歩きなどにも着用できるため、一枚持っておくと便利な一品です。

八丈(普段着)

黄八丈きはちじょう」は、伊豆諸島の八丈島で織られる草木染の絹織物で、鮮やかで光沢のある黄色の格子柄が代表的です。

着物の色や帯との組み合わせによって、年代問わず着ることができるのも魅力的。

普段着や、粋な着こなしを楽しみたいお出かけの際にオススメです。

仙(普段着)

銘仙めいせん」は、絣模様が特徴の、平織りで作られる絹織物です。

平織とは、縦糸と横糸を一本ずつ交差させて織り上げる織り方のことで、固くて丈夫、摩擦に強い仕上がりになるため多様な着物に用いられています。

大胆でモダンな柄とにじんだ色の優しい風合いで、大正から昭和にかけて流行しました。

格としては紬の下、浴衣の上で、気軽な普段着として愛される着物です。

綿(普段着)

木綿もめん」は、綿糸で織り上げた、柔らかな手触りの着物です。

他の着物に比べて分厚いため、真夏以外であれば快適に着ることができるのも魅力です。

生地が丈夫なため家でも洗濯でき、普段着の代表格ともいえる便利な着物です。

ール(普段着)

「ウール」とは、羊毛で織られた生地のことです。

ウールの着物は、安価で丈夫、シワになりにくいという特徴があり、普段着として生活の中で着用できます。

裏地をつけない単衣ひとえ仕立てですが、厚手の生地のため夏以外に着用し、寒いときは羽織とのアンサンブルにするのがオススメです。

衣(普段着)

「浴衣」は、主に綿生地で仕立てられた薄手の夏用着物です。

蒸し風呂に入る際、やけど防止のために着られていた“湯帷子ゆかたびらが発祥とされており、他の着物と比べて長襦袢を着用せず、素足に下駄をはくことも特徴の一つ。

今では花火大会や夏祭りなど、夏のイベントにかかせない定番の着物です。

着物を着るには

着物は洋服に比べ、形やサイズがほぼ同じなので、自分の体型に合わせて整えながら着る必要がありますが、体型の変化に対応できる柔軟性が大きな利点でもあります。

そのため、着物を自分で着たい方は、まず着付け方法から覚える必要があります。

一見難しいようにも思えるかもしれませんが、各地に教室も開かれており、慣れればそれほど難しくありません。

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物の着付け方法

ここからは、女性が1人で着物を着用する際の方法を簡単に説明します。

1足袋をはく
2衿周りをあけて、肌着を着る
3衿芯※1を通した長襦袢(ながじばん)※2を羽織る
4左の脇の下(身八ツ口)から手を入れて右の衿を持ち、左右の半衿の高さを揃える
5衣紋を抜き、衿の角度を整えたら胸のすぐ下で紐を結んで固定する
6着物を羽織る
7着物の両側を持ち、裾の長さを合わせる
8位置が決まったら右・左の順に前を閉じる
9腰骨の部分で紐を結んで固定する
10腰回りや衿元の形を整えてみぞおちの辺りで紐を結ぶ
11おはしょりの見た目を整えて、伊達締めを巻いて固定する
12帯の端を肩にかけて、帯を巻いていく
13帯を好きな形に結ぶ
14完成!


※1衿芯:衿に入れ、綺麗な形に整えるための芯。
※2長襦袢:着崩れを防ぐための着物用下着。


帯は結び方に“お太鼓”や“文庫結び”など、さまざまなバリエーションがあるため、場面に合わせてお好きな結び方で帯を作りましょう。

最近では“作り帯”という、あらかじめ結んだ形に仕立てられた帯を使う方法もありますよ♪

着物の魅力

ここまで着物について種類や歴史などをご紹介しました。

では、着物にはどのような魅力があるのでしょうか?

ここからは季節感の表現や職人の技、コーディネートなど、着物を着用することで感じられる着物の魅力について紹介します。

季を感じられる

着物の大きな魅力の一つは、季節感を表現できることです。

直線的でシンプルな形が、織りの繊細さや大胆な柄、鮮やかな色彩を引き立て、四季のうつろいを美しく表してくれます。

そのため、着物や帯は、季節を先取りした風物詩を想わせる装いが“粋”とされています。

春には桜色の色無地に満開の桜模様の帯、桜が咲きはじめた頃には、散りゆく桜の着物に金色を使った帯、夏は絽や麻などの素材で涼を表すなど、見る人にも四季を感じさせるように心掛けるのがオススメ。

着物と帯の組み合わせに加え、小物の色・柄とのバランスを考えることにより、美意識や色彩のセンスも養われていきますよ♪

人の技を感じられる

また、着物や帯の生地が多様な技法と複雑な工程で作られているように、帯揚げや帯締めなどの小物にも、多くの熟練の技を見ることができます。

一見何気なくみえる着物姿には、日本の伝統工芸の数々が息づいています。

着物文化に触れることで、思いがけない興味を発見し、新たな自分に出会えるかもしれません。

しみ方は無限大

着物には、TPOに合わせた細かなルールがあります。

もちろん、冠婚葬祭の際は礼節に合わせることが大切ですが、家族や友人だけで集まる際には自分のテンションが上がる着こなしを楽しんでみてください。

着物と帯を推しカラーで統一したり、スカーフやアクセサリーを追加してみたり、スニーカーで合わせてみたり♪

こんなに素敵な文化ですから、もっともっと着物を着ていきましょう!

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回は、着物の多彩な種類と装いや、模様の意味をご紹介しました。

着物は知れば知るほど奥が深く、日本の伝統美が凝縮されていることを感じさせられますね。

さまざまなルールがあるようにも思えるかもしれませんが、あまり難しく考える必要はありません。

大まかな種類や特徴、着方さえ把握しておけば、あとはそれぞれの感性で個性を出せるのも着物の魅力です。

ぜひ、お気に入りの組み合わせをみつけて、自分だけの着物ライフを楽しみましょう♪