刀鍛冶は、日本刀を作る職人で、刀工、刀匠ともいいます。
日本刀とは折り返し鍛錬など日本特有の製造方法で作られた反りのある刀で、平安末期の11~12世紀頃に成立したとされています。
以降、これが日本刀の主流になり、時代の変化に応じて様々な形状、種類の刀が作られました。
太刀(刃を下にして腰に佩く)、打刀(一般的な刀、刃を上向きに腰帯に差す)、脇差(約30cm以上約60cm以下)、それより短い短刀などが代表的なものです。
武士を中心とした時代には、刀の需要が高まり多くの刀鍛冶が誕生しました。
なかでも大和国(奈良県)、山城国(京都府)、備前国(岡山県)、美濃国(岐阜県)、相模国(神奈川県)の五か国の集団が有名で、五ヶ伝と呼ばれています。
また、この五つの国以外にも、相模国の正宗や貞宗、伊勢国の村正など後世に名を残す刀鍛冶はさまざまな場所で生まれました。
日本刀は武器としてだけではなく武士の魂を表すものとしても大切にされ、日本人の魂としても伝えられてきました。
日本刀についての精神性や魅力が知りたい方

日本刀は優れた武器であると同時に美しい芸術品であり、さらに日本人の精神性を象徴するものとしても受け継がれてきました。古来より武器としての強い信頼と神秘的な美しさを持つ刀剣類には神が宿ると考えられ、江戸時代、日本刀は「武士の魂」を表わすものとなりました。
日本刀の特徴

日本刀の特徴は「折れない、曲がらない、よく斬れる」という刃物として理想的な性質をすべて兼ね備えている点にあります。
折れにくければ曲がりやすくなりますが、これらの相反する条件を満たすための創意工夫と匠の技が、日本刀には凝縮されています。
あわせてその芸術性も高く評価され、美術工芸品としても親しまれています。
日本刀を見ることのできる国内の博物館やカフェを知りたい方

日本刀を見ることができる博物館やカフェをご紹介します。
日本刀の製造工程
日本刀の優秀さはその製造工程に凝縮されているといっても過言ではありません。
工程は流派などで違いがありますが、一般的な方法をここではご紹介します。
日本刀の材料は、砂鉄を木炭などを燃焼させた熱によって還元する日本古来の「たたら製鉄」を使って作った玉鋼。
玉鋼はもろさの原因となる不純物がとても少ない超高純度の鋼。
長い歴史の中で生み出された玉鋼の特質が存分に生かされ、美しく丈夫な日本刀が作られます。
水へし、小割り、積み沸かし
まずは材料である玉鋼を選別する作業からです。
熱した玉鋼を叩いて薄く打ち延ばし、水に入れて冷やすと、もろい部分が砕け落ちます。
次に玉鋼を小さく割って硬さで選り分け。
同じ種類の玉鋼を積み上げて和紙で包み、泥水とワラ灰をかけて加熱(沸かす)します。
叩いて固め、玉鋼を塊にします。
折り返し鍛錬

この鉄の塊をより強い鉄にしていくのが折り返し鍛錬。
熱して長方形に打ち延ばし、切れ目を入れて折り返します。
これを10~15回。
師匠の合図で弟子が槌で叩くと赤い火花が飛び散り、不純物が弾き出されます。
折り返すたびに鉄の層が倍々に増え、強くねばりのある鉄へ鍛えあげられます。
この鍛錬で、硬い皮鉄と柔らかい心鉄の2種類の鉄を作ります。
造りこみ
性質の違う皮鉄と心鉄を組み合わせて鍛接し(固めて)、一塊にします。
この複合構造が、「切れ味良く折れず、曲がらない」日本刀の秘訣。
この組み合わせ方法も種類がありますが、一般的なのは皮鉄で心鉄を包む方法です。
これにより外側は硬く鋭い一方で、内部の柔らかい部分が衝撃を吸収し折れにくい刀ができます。
ただし、折れない秘訣はこれだけではありません。
焼き入れ作業を施し、さらに強くしなやかな刀を作ります。
焼き入れ

素延べ、火造りの作業で刀身の形にのばして整えた後に焼き入れを行います。
焼き入れは、高温に加熱して急速に冷やすと硬くなる鉄の性質を活用したもの。
ただし刀身全体を急速に熱して冷やすと、柔らかい部分まで硬くなってしまいます。
そこで、焼刃土と呼ばれる断熱材の役割を果たす土を刃の部分に薄く、棟の部分に厚く盛り分けることで、硬さを調節します。
刀身を800℃程度まで熱し、水に入れて急激に冷やします。
この時大切なのは火の温度。
温度が高すぎると刃に亀裂が入り、低すぎると焼きが入らないのです。
そのため焼き入れは暗室で行い、刀鍛冶は炎の色で温度を見極め、水中に入れます。
この時、あわせて反りも生まれます。
焼刃土を薄くした刃の部分は水中で急冷されると「マルテンサイト」という硬い組織に変わり、土の薄い棟側に比べて体積が大きく膨張するため、刀に反りが生まれるのです。
刃の部分は硬く、刀身全体では強靭性をもつ刀身になりました。
仕上げの研ぎとなかご仕立て、銘を入れる銘切りを行なって刀鍛冶の仕事は終了です。
なお、その後も研ぎ師など多くの職人たちの手を経て日本刀が完成します。
折り返し鍛錬、造りこみによる複合構造、焼き入れ・・・と、日本刀のなかには驚くべき技術が詰め込まれています。
しかもそれらは炎の色、温度、音、槌を叩く強さ、場所、タイミングなど、どれをとっても刀鍛冶の五感を使った鋭い感覚と経験、確かな技術があってこそ実現するものです。
詳しく日本刀の製造工程について知りたい方

日本刀の材料になる良質な鋼、玉鋼。玉鋼は純度の高い鉄で、鍛接しやすく、熱することで硬く粘り強くなり、錆びにくく研磨しやすいという特性があります。硬さや靱性が日本刀にぴったりの奇跡の鉄ともいえます。純度の高い脆さが少ない玉鋼を使うことで薄く打ち延ばし、折り返し鍛錬することが可能になりました。

造りこみした鉄の塊を加熱して四角い棒状に叩いて伸ばす作業です。ここでだいたいの刀の寸法や姿形の原型が決まります。刀鍛冶は出来上がりの寸法を考えながら幅、長さ、厚みなどを念入りに調整します。
日本刀の美しさ

日本刀は、美術工芸品としても高く評価されています。
とくに実用性を追い求める過程で、刀剣本来が持つ魅力を引きだした美意識に注目が集まっています。
刀姿
とくに刀身全体の流れるような反りが刀の魅力の一つです。
反りのおかげで馬上から引いて斬ることが可能になった実用的な面もあります。
地鉄
地鉄とは、折り返し鍛錬により、折り返した層が刀の表面にあらわれる様々な模様のことです。
樹木の年輪のような杢目が表れた杢目肌、樹木の板目のような板目肌など様々な種類があります。
刃文
焼き入れの時に熱の通りの違いによって刀身に表れる模様を刃文といいます。
直線状の模様の直刃と直線でない乱刃があり、乱刃には蛇行している「湾れ」、丸い文様が連続した「互の目」など多様な種類があります。
焼刃土の付け方で様々な文様が生み出されるので、刀鍛冶の腕の見せ所です。
このように日本刀は、刀鍛冶の叡智と技で鉄の持つ性質を超えた「折れずに曲がらない」という機能を実現し、それに伴って至高の美と精神性も生み出しました。
まさに日本のモノづくり文化の神髄ともいえる存在です。
現在の刀鍛冶
2018年時点で現在も約200人の刀鍛冶が活躍しています。
刀鍛冶になるには刀匠資格を持つ刀鍛冶の下で5年以上の修行を積んだ後、文化庁主催の研修会を終了して認定を受けることができます。
日本刀に携わる職人たちについて

今回は鍛錬を終えた後の刀の研ぎについてご紹介します。刀鍛冶は自らも簡単な研ぎをしますが、本格的な研ぎは研師に託します。
刃物の研師の役割は「切れ味をよくすること」。ただし日本刀の研師の場合は、それに加えて、その刀のもつ本来の美しい姿、持ち味を最大限引き出し、一番よく見えるように表現していく役割があります。

刀鍛冶が刀身を形作り、研師がそれに磨きをかけて刀身は完成します。ただし日本刀は刀身だけで使うのではなく、刀身を入れる筒状の鞘と一組になっています。その鞘を作るのは鞘師。鞘師は主に拵の下地と白鞘の2種類の鞘を作ります。

刀といえば、組みひも(糸)で巻いた独特のひし形模様のある、握りの部分の柄が気になる人もいるのではないでしょうか。
柄巻はただデザインだけでなく、刀を持った時のすべり止めと握りをよくするためのものなのです。
さらに柄を補強する目的もあります。

刀身は刀鍛冶が作りますが、それで終わりではありません。その刀身に合わせて鞘を含めた刀装具が作られます。それらの製作は分業制で、その1人がハバキを作る白銀師です。ハバキとは刀身の根元、刀身と鍔の間に装着してある金具。鍔の上に金色の金具が装着してあるのに見覚えのある人も多いのではないでしょうか。