日本の伝統的な計算道具である「そろばん」。
室町時代の頃に中国から伝わってきたといわれており、江戸時代に花開いた商業文化の中で日本に根付きました。
電卓やパソコンの普及した現代でも、そろばんは子どもに良い影響を与える習い事として人気を誇っています。
この記事では、そろばんの歴史や種類、使い方をはじめ、そろばんに取り組むことによるメリットやそろばんを実際に見ることのできる展示施設まで紹介します。
そろばんとは?
「そろばん」とは、計算を補助する道具の一つです。
横長の枠に串刺しの状態で並んだ珠を、指で弾いて上下させることで計算を行います。
串刺しの軸1列ごとが桁を表しているため、計算後、それを正しく読み取ることで数がわかる仕組みになっています。
行える計算は主に、足し算・引き算・割り算・掛け算の“四則演算”です。
西洋では「abacus:アバカス」、中国では「算盤」と呼ばれる道具とよく似た形をしています。
漢字表記の際は、中国語と同様の「算盤」や、「十露盤」「珠盤」などの文字をあてることが一般的です。
そ ろばんの歴史
そろばんの原型は、4000年~5000年ほど前、既に存在したといわれています。
例えば、古代メソポタミア文明では土の上に小石を置いて計算をしていました。
エジプトやギリシアでも、木の板などに象牙やコインを置く道具を使っていたことがわかっています。
室町時代、中国で書かれた日本についての本『日本風土記』の中に、そろばんと思われる表記があることから、その頃に中国から日本にそろばんが伝わってきたと考えられています。
また、現存する日本最古のそろばんも室町時代後期のものであるとされています。
その後、江戸時代の商業文化で計算力が重要視されたこともあり、急速に日本でのそろばんが発展していきました。
「そろばん」という名前の由来は、諸説あります。
最も有力なのは中国語で「算盤」を「スワンパン」や「ソワンパン」と発音するため、それが訛って伝わったという説です。
そろばんの使い方・やり方
そろばんは、左手を軽く添え、右手で珠を上下に弾いて使います。
珠を弾く指は、親指と人差し指です。
計算が1回終わったら添えていた左手でそろばんを手前に傾けて珠をすべて下に下げ、そろばんを平面に戻したところで、右手の人差し指(もしくは親指と人差し指の両方)で上にある珠の位置を元(珠の上部が枠の上側につくよう)に戻して次の計算に移ります。
そろばんの各部位には、それぞれ名称があります。
また、「そろばん用語」といって、計算をするにあたって使う独特の言葉も存在します。
ここからは、そろばんの各名称とそろばん用語について学びましょう。
そ ろばんの各名称
まず、そろばんの各部位の名称についてです。
そ ろばん用語
次に、そろばん用語についてです。
そろばん用語の中で最も有名な3つの言葉、
●「御破算」
●「願いましては」
●「御明算/御名算」
について説明します。
御破算(ごはさん/ごわさん)
「御破算」は、ひらがなでは「ごはさん」と書くことが一般的ですが、発音は「ごわさん」です。
計算が1回終わった後、リセットしてゼロに戻す動作を指します。
1)人差し指のみを使う方法
1.枠に添えている左手でそろばんを手前に立てるように傾け、全ての五珠を梁につけ、一珠を梁から離す
2.下ろした珠が戻らないように、そろばんを机上など平面に戻す
3.左端にある五珠と梁の間(五珠の下、梁の上)に右手の人差し指を差し込む
4.人差し指を右端の五珠の下まで滑るように移動させ、五珠を梁からすべて離す
2)親指と人差し指、2本使う方法
1.親指と人差し指の平同士を軽くひっつける(楕円を作る感じ)
2.机上などに平面に置かれたそろばん(五珠、一珠の位置は特に気にしない)の五珠と一珠の間に、1の形にした親指と人差し指の指先を差し込む
3.右から左に向けて指を滑らせ、梁から五珠と一珠を離す
そろばんによっては、枠外側の左上部分にボタンがあるものがあり、そのボタンを押すことで自動的に御破算の状態にしてくれる“ワンタッチそろばん”というものもあります。
願いましては
「願いましては」は、御破算に続いて使われます。
“次の計算を読み上げはじめる”という合図の言葉です。
「御破算で願いましては」で「この計算を終わりにし、次の計算をはじめます」という意味になります。
御明算/御名算(ごめいさん)
「御明算/御名算」は、計算後、誰かの答えが正解だった時に使う言葉です。
「御明算です」といわれたら「その答えは正解です」という意味になります。
そろばんに取り組む効果やメリットは?
電卓やパソコンが普及した現在でも、そろばんを使って計算に取り組むことには多くのメリットがあると考えられています。
まず、そろばんには「記憶力を向上させる」効果があります。
そろばんが上達すると、頭の中でそろばん珠をイメージして暗算する“珠算式暗算”の力が身につきます。
この力は脳を鍛え、記憶力アップに繋がります。
珠算式暗算で頭の中に珠をイメージする訓練は、右脳を活性化させます。
右脳はひらめきを司っているので、そろばんによる「発想力を養う」効果も期待できるといえるでしょう。
また、読み上げられる数字を聞き、限られた時間で間違えないよう計算に打ち込むため、「集中力を高める」ことが求められ、自然と忍耐力とともに磨かれます。
そろばんでは日々数字に向き合うので、小さな頃からトレーニングを続けると数の感覚や計算する力を自然と養うことが可能です。
これは、現代社会に必要不可欠な「情報処理能力を身につける」ことへも繋がります。
そろばんの種類と主な産地
現在、日本のそろばんは主に二つの産地で生産をしています。
一つが兵庫県、もう一つが島根県です。
ここでは、二大産地で作られているそろばんの特徴と、その他のそろばんについて学んでいきましょう。
播 州そろばん
「播州そろばん」とは、かつて“播州”と呼ばれた播磨国(兵庫県南部)の小野市を中心とした周辺地域で作られる、日本で最も多く生産されているそろばんです。
羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が播磨三大城※の一つに数えられた三木城に攻め込んだ際、住民は近江国(現在の滋賀県)の大津へ逃げました。
戦が終わり、そろばん作りが盛んとなった大津でその技術を取得した住民は、故郷に帰ってからそろばん作りを産業として発展させたのです。
そろばん作りには多くの工程がありますが、播州そろばんではどの工程にも専門の職人がいます。
そのため、部品ごとの完成度が非常に高いのが特徴といえるでしょう。
播州そろばんは、昭和51年(1976年)に国の伝統的工芸品にも指定されています。
※播磨三大城:現在の兵庫県姫路市にあった英賀城と御着城、兵庫県三木市にあった三木城の、かつての播磨国を代表する3つのお城を指す。
古くから身近な計算道具として親しまれてきた「そろばん」。小学校で出会ったという方も多いのではないでしょうか。電卓やパソコンの発展とともに一度は衰退しましたが、近年、能力開発ツールとして再び脚光を浴びています。今回は、そろばんの国内シェアNo.1を誇る「播州そろばん」の歴史や特徴、魅力などについて詳しく解説します!
雲 州そろばん
島根県東部に位置する仁多郡奥出雲町で作られるそろばんは、その昔、出雲国として別名“雲州”と呼ばれていた地域の名を取り、「雲州そろばん」といいます。
この土地でそろばん作りが発展したのは、江戸時代の終わり。
安芸国(現在の広島県西部)のそろばんを参考に作られたのがはじまりです。
180以上もの製作工程があり“質の雲州”ともいわれる雲州そろばんは、珠をなめらかに運ぶための工夫がされていることが特徴です。
その技術の高さから、播州そろばん同様、昭和60年(1985年)に国の伝統的工芸品に指定されています。
い ろいろなそろばんの種類
【日本最古の算盤】四兵衛重勝拝領算盤(しへえしげかつはいりょうそろばん)
日本最古のそろばんは、室町時代後期に作られた「四兵衛重勝拝領算盤」であると考えられています。
武将・黒田官兵衛の部下である久野四兵衛重勝が豊臣秀吉から贈られたもので、枠には高級木材である紫檀が使われ、四隅に銀細工、文字には銀象嵌が施されており、実用品というよりは美術品といえる、美しく華やかなそろばんです。
以前は前田利家の所持していたものが現存する最古のそろばんだといわれていましたが、大河ドラマ『軍師官兵衛』の制作をきっかけに、平成26年(2014年)に新たに発見されました。
ローマそろばん
古代ローマでは、青銅で作られたそろばんが使われていました。
「溝そろばん」ともいい、溝の中に玉をはめこむスタイルで、分数も計算できたといわれています。
中国そろばん
中国では一般的に五珠が2個、一珠が5個あるそろばんを使用していました。
この形が完成したのは16世紀後半だと考えられています。
珠の数が違うのは、当時、中国には十進法ではなく十六進法が使われている単位があったからです。
ロシアそろばん
ロシアには、「ショーティ」と呼ばれるそろばんがあります。
横置きではなく縦置きで使うのが特徴で、梁もありません。
珠は右から左に動かして使います。
他にも、目の不自由な方のために触ってわかる工夫を凝らしたそろばんや、先生と生徒が対面しながら弾けるそろばんなど、さまざまなそろばんがあります。
日本各地のそろばん博物館・関連ミュージアム
古くから計算を助ける道具として親しまれてきたそろばん。
全国各地には、そろばんを詳しく学べる博物館があります。
ここでは、そろばんに関する代表的な施設を紹介します♪
白 井そろばん博物館(千葉県白井市)
千葉県白井市の「白井そろばん博物館」は日本で唯一、そろばんの常設展示を行っている博物館です。
平成23年(2011年)にオープンした後、平成31年(2019年)には展示室を2.5倍に拡張しました。
そろばんに関する資料2,000点を所持しており、常時1,000点が展示されています。
そろばんに親しんでもらうためのイベントを積極的に開催していることでも有名です。
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。
日 本そろばん資料館(東京都台東区)
「日本そろばん資料館」は、東京都台東区にある全国珠算教育連盟の運営する資料館で、そろばん700丁、書籍1,500冊を所蔵。
そろばんだけでなく、珠算教育に関する資料も展示しているのが特徴です。
グッズなど、ユニークな展示品もあります。
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。
小 野市伝統産業会館「そろばん博物館」(兵庫県小野市)
兵庫県の小野市伝統産業会館「そろばん博物館」は、伝統的工芸品である“播州そろばん”の材料や製造工程に関する資料を見ることができる博物館です。
そろばん玉で作られた姫路城“播州そろばん城”も見ものです!
また、そろばん博物館のある小野市伝統産業会館は館内を見学することができ、そろばん組立の実演※を目の前で見ることも可能です。
※そろばん組立の実演:15名以上の団体かつ要事前予約。
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。
み ちのくそろばん博物館(宮城県仙台市青葉区)
「みちのくそろばん博物館」は、宮城県仙台市青葉区の珠算学院内にある東北初のそろばん展示室です。
約1,500点のそろばんを所蔵。
そろばんに関する珍しいグッズも収集しています。
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。
オ リジナルそろばん製作所「そろばんビレッジ」(兵庫県小野市)
兵庫県小野市にあるオリジナルそろばん製作所「そろばんビレッジ」は、11種類のそろばん玉を使ってオリジナルのそろばん作りが楽しめる施設です。
9桁から15桁のそろばんだけでなく、100玉そろばんなども手ごろな価格で作ることができます。
情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。
8月8日は「そろばんの日」
8月8日は「そろばんの日」です。
そろばんを弾く“パチパチ”という音から、この日が選ばれました。
この日には毎年、“全国珠算選手権大会”が開催されており、珠算や暗算など、各種競技の日本一を目指して選手たちがそろばんの腕を競っています!
おわりに
今回はそろばんの歴史や、種類、使い方などをご紹介しました。
電卓やパソコンが普及した現代でも、そろばんを使って計算に取り組むことで記憶力向上など、良い効果がたくさんあると考えられています。
播州そろばんの生産地である兵庫県をはじめ、日本各地にあるそろばんの展示施設では珍しいそろばんに触れることもできますよ。
動画サイトにもそろばんの使い方を紹介した動画がありますので、これを機に、そろばんをはじめてみませんか?
そろばん検定試験とは、そろばんを使った計算能力や、頭の中で計算する暗算能力を評価する資格試験です。日珠連の「日本商工会議所主催珠算能力検定」と、全珠連の「全国珠算教育連盟主催珠算検定」の2種類が代表的です。この記事では、そろばん検定の内容や主催団体による試験の違い、また具体的な申し込み方法について解説していきます♪
日本には何十年、何百年も前から受け継がれてきた技術を用いた、伝統工芸品が数多く存在します。技術の革新により機械化が進み、安価で使いやすい商品がどんどん市場に出回っている昨今、手作業で作られる伝統工芸品は需要が少なくなり、追い詰められているのが現状です。
伝統工芸士とは、経済産業大臣指定の伝統的工芸品の製造に従事する技術者かつ高度な技術・技法を保持する職人のことであり、国家資格です。この記事では、なるにはどうしたらよいのか、伝統的工芸品の種類や伝統工芸士の資格・認定について、女性工芸士の活躍のほか、もっと伝統的工芸品に触れるために活用したい施設などをご紹介します。