こけしの由来

部屋の中にひっそりとたたずみ、独特な表情をたたえるこけし。

そのなんともいえない魅力にひかれ、こけしをコレクションする「こけ女(こけし女子)」も増えているといいます。

また、古くからつくられてきた伝統的なこけしだけでなく、モダンで新しい創作こけしや近代こけしも人気を集めています。

ミッフィーやドラえもん、ミッキーマウスなどの人気のキャラクターこけしも作られ、日本のお土産として外国人にも知られるようになりました。

そんなこけしは、江戸時代末期、東北地方の温泉地の土産としてつくられたことから始まりました。

今回は、古いけど新しい、日本人の心、さらには外国人の心にまで安らぎをもたらし続ける、こけしの魅力に迫ります。


こけしの意味

そもそも、「こけし」という名前はどこからきているのでしょうか。

江戸時代の男児、女児たちの髪型、芥子けし坊主に似ているからという説があります。

当時の子供たちは、お手入れがしやすいよう、頭頂部の髪だけを残して丸坊主にしていることが多かったのです。

これが芥子坊主、芥子の果実によく似ています。小芥子こけしというのが、その由来だとされます。

その他、木製の人形を意味する木偶でくから由来して「きでこ」と読んだり、木を削るということから「木削子こげし」、這子はうこ(這う乳児の人形という意味)と「きぼこ」といったり、地域でそれぞれ呼び名が異なっていたようです。

1940年(昭和15年)に戦前からあったこけし愛好家の会である「東京こけし会」で開催された総会によって、「こけし」と統一されることとなります。

ちなみに、こけしの由来が「子消し」、「子化身」であるという説が出回ったことがあります。

日本では敗戦直後の貧しかった頃、増えすぎた子供を減らすためにあえて産まず、中絶する間引き、口減らしという悲しい文化に由来するという説がありました。

こけしは、その子供を供養する象徴だった、という口伝えです。

この説は明確な根拠もなく、俗説だとされています。

一方でこういった話がたくさんあることから、こけしの存在は神秘的かつ多くの人の想像力をかきたてる存在であったことがわかります。

こけしの歴史となりたち

私たちがイメージする現在のこけしは、江戸時代中期以降、享保(1716~1736)に生まれたものだとされています。

ただそれよりずっと前、形は異なるものですが、すでにこけしの原型があったと言われています。

最古のこけしは、称徳天皇が世を治めていた時代(718~770年)につくられた木製の塔婆、いわゆる供養する塔のことです。

木地師と呼ばれる職人がつくったもので、百万個のその塔は「百万塔」と呼ばれていました。

その後、ろくろ挽きの技術を学んだ木地師たちは関東や東北、四国や九州へと散らばり、日本各地の湯治場(温泉街)へも移住します。

彼らはその腕でお盆やお椀を作るほか、木製のおもちゃもつくるようになります。

これらが私たちの知る「こけし」へとつながっていったと考えられています。

さて、そのこけしですが、古くから伝えられてきた「伝統こけし」と、その「伝統こけし」をベースにし、現代的なデザインをほどこした「創作こけし」があります。

東北伝統こけし11系統を画像とともに解説!

主に東北地方でつくられているこけしです。同じ東北地方でも、産地によって特徴が異なります。

こけしを作る職人(工人)の師弟関係、表現方法などにより11の系統にわかれています。

中でも、多くの系統がある宮城県が産地として有名です。

城県 - 鳴子系

鳴子温泉を中心に発展した系統で、土湯、遠刈田と並ぶ三大こけし発祥の地として知られています。

御所人形のような前髪が印象的で、胴体は菊の花やかえでが描かれ、全体的にバランスがよく、中ほどが細くなっています。

首ははめ込み式になっており、頭を回すと摩擦音がします。

城県 - 作並系

作並さくなみ温泉に広まった系統で、胴体がきわめて細いのが特徴です。

子供がにぎりやすい形状を重視したためだとか。

細い胴体のためバランスが悪く、たたせるために台座をつけるようになっています。

菊模様が印象的で、蟹のように見える胴のデザインは「かに菊」とも呼ばれます。

城県 - 遠刈田系

遠刈田とおがった温泉をメインとして発展。

鳴子、土湯とともに、伝統こけし三大発祥の地に数えられます。

頭部は放射状の「てがら」と呼ばれる華やかな模様が描かれています。

肩はなで肩、目はシャープな印象なのが特徴。

城県 - 弥次郎系

白石市の弥治郎やじろう集落を中心に発展、鳴子や遠刈田よりは歴史はやや新しいとされています。

細みの胴体にやや大きめな頭部が特徴的。

頭部には数種類のカラーでまるでベレー帽のようなろくろ模様があります。

島県 - 土湯系

土湯つちゆ温泉が産地。

宮城県の鳴子、遠刈田とおがったと並んで三大こけし発祥の地といわれています。

頭が小さく、胴体もスレンダーで女性的です。

くじらの背のようなくじら目でたれ鼻、おちょぼ口の愛らしい顔が特徴となっています。

首ははめ込み式で、回すとキイーッと音がします。

形県 - 肘折系

肘折ひじおり温泉を中心に発展、宮城県でも作られています。

一見した雰囲気は鳴子系、描き方は遠刈田系の特徴を取り入れており、両系統の特徴がブレンドされている系統です。

胴体はがっしり、目は笑っているような雰囲気に描かれています。

形県 - 山形(作並)系

作並系からの影響を受けた木地師によるものと伝えられ、作並系と同じ特徴を持っています。

胴に描かれた模様は多少異なり、菊のほか紅花や牡丹が描かれています。

形県 - 蔵王系

遠刈田系の流れにあるとされ、さしこみ型で大きな頭が特徴です。

頭部は遠刈田系と同じ放射状、もしくはおかっぱが多くなっています。

胴体には菊や桜などの花模様が描かれています。

田県 - 木地山系

木地山きじやま系は、太目の胴体とらっきょのような頭が1本の木で作られています。

素朴な雰囲気が伝わるこけしです。

胴体には、鳴子系に似た菊の花模様のほか、梅花の前垂れ模様が描かれています。

手県 - 南部系

頭がゆるく固定されたはめ込み式で、ぐらぐら動くのが大きな特徴です。

もともとは彩色もなく、「キナキナ」「きくらぼっこ」と呼ばれた子供のおしゃぶりだったとか。

重ね菊やヨダレ掛模様が描かれ、素朴な印象のものが多くなっています。

森県 - 津軽系

頭と胴体が1本の木から作られています。

頭部はオカッパ頭で、胴体には津軽藩家紋の 牡丹模様のほか、ねぶた絵(ダルマ絵)などが描かれています。

創作こけし

伝統的なこけしに対し、新しい自由な発想でつくられているのが、創作こけしです。

戦後、東北地方以外にも、オリジナリティあふれたこけしを制作する作家が現れました。

特に盛んなのは群馬県で、創作こけしの生産量は全国1位となっています。

前橋市総社町や天川大島町を中心に木のおもちゃや木工細工をつくる職人が多かったことも、その理由のひとつです。

特に知られているのが、群馬県の榛名山のふもとの榛東村に工房を持つ卯三郎こけしです。

卯三郎こけしは、榛東村出身のこけし作家岡本卯三郎によって生みだされました。

こけしはミズキという木を材料することがほとんどです。

しかし卯三郎はその美しい木目に着目、ケヤキや栗の木でのこけしづくりを手がけています。

また、特殊機械を用い、筆で描いた絵付けと彫刻や焼き絵も加え、こけしの世界に新しい風を吹き込んだ人物としても知られています。

型にはまらず、自由なモチーフが特徴の卯三郎の創作こけし。

ミッキーやミニーなどディズニーキャラクター、ディックブルーナのミッフィー(うさこちゃん)のこけし、ドラえもんやバカボンのこけしが人気を集めています。

その他の創作こけしについては、下記の記事でご紹介しています。

お気に入りの創作こけしが見つかるかもしれませんよ!

自分だけのこけしを入手しよう

こんなに多彩なこけしがあるのなら、ぜひ自分だけのこけしを手に入れてみたいと思いませんか?

通販などでお気に入りのこけしを探してもいいですが、やっぱり産地に足を運びたいもの。

温泉地でつくられていることが多いこけしですから、温泉旅行がてら出掛けてみることをオススメします。

中でも、訪れたいのは鳴子温泉。

鳴子温泉では、1年に1度、全国こけし祭りが開催されています。

この祭りでは鳴子系だけでなく、全国から名だたるこけし職人が集まり、実演販売を行っていて、伝統こけし工人が絵付けをしてその場で販売します。

絵付け体験もしているので、自分だけのオリジナルこけしをつくることも可能です。

そして、お祭りのパレードでは、事前応募制ですが、伝統こけしを模した「張りぼてこけし」に入ることもできます。

竹や木などで組んだ骨組みに紙を張り、こけしの模様を描いた張り子でつくられたこけしの中に人が入るユニークなイベントです。

張りぼてこけしと、こけし柄の浴衣で「鳴子踊り」を踊る地元の方々が温泉街を練り歩くパレードは、まさに圧巻です。

他にも、こけしの供養祭や奉納式、こけしコンクール、こけし座談会などなど、こけしにまつわるイベントが盛りだくさん。

こけし好きなら、行って損はないイベントです。

鳴子にはこけし関連の施設や工房もありますので、祭り以外にもみどころ満載です。

国こけし祭り

毎年8月末~9月上旬に開催予定。

子温泉郷観光協会

住所:宮城県大崎市鳴子温泉字湯元2-1
TEL:0229-82-2102 / FAX:0229-83-2094 / [email protected]

本こけし館

住所:大崎市鳴子温泉字尿前74-2

他にもこけしに関するおまつりはいくつか開催されています。

機会があれば、出かけてみてはいかがでしょうか?

こけしのお手入れ法

自分だけのこけしを手に入れたなら、いつまでも大切に飾っておきたいものです。

こけしの大敵は紫外線です。

日に当たると日焼けし、色があせてしまいます。

直射日光の当たらない場所に飾ることが基本です。

また、こけしは木でできていますから、湿気も大敵です。

シミやカビを生やしてしまう元になります。

手が汗をかいたり、濡れたりしているときはよく手を拭いてから触るようにしましょう。

ほこりが積もらないよう、ときどき乾いた布でさっと拭きます。

しまうときには、乾いた布でからぶきし、人形用の乾燥剤などを用いるのがオススメです。

エアコンの風があたる場所、温度変化が激しい場所にしまうのもやめておくほうがいいでしょう。

飾っておくだけで、和の心を感じさせてくれるこけし。きれいにしてあげると、より豊かな表情をみせてくれるはずです。

定期的にお手入れして、いつまでも大切にしてあげましょう。

おわりに

同じような印象に見えるこけしですが、地域や作り手によって、実に多くの種類のこけしがあるのですね。
素朴で可愛らしいこけしの存在は、これからも日本人の心を持つ存在としていき続けていくことでしょう。

日本の伝統的な人形といえば、ひな人形もありますよね。

下記の記事では、雛人形についてご紹介しております。