和楽器に詳しくない方でも、「三味線を知らない」という方は珍しいでしょう。

それほど三味線は、日本人に馴染みの深い楽器です。

ただし、三味線の事を知っているといっても、「糸が3本ある」「さおと胴があり、左手でげんを押さえ、右手でばちを使って弾く」ということくらいでしょうか?

知っているけれど、知らない……

この記事では、三味線の魅力や歴史、種類のほか、三味線を弾きたいと思ったらどうしたら良いかなどについて解説します。

三味線とは

三味線(しゃみせん)とは、動物の皮などを張った胴に、木でできた棹(さお)を貫通させたものに3本の糸(弦)を張った日本の弦楽器(弾きもの)です。

撥(ばち)を使い糸(弦)を弾(はじ)いて演奏します。

数え方の単位は“ちょうちょう)“・“さお”で、1挺いっちょう1棹ひとさおと数えます。

味線の部位名称

ここでおおまかにですが、三味線の部位名称について押さえておきましょう。

No.部位名称役割
天神(てんじん)三味線の最上部にあたる部位で、音の高さに関わる糸巻き・糸を巻く糸倉(いとぐら)・糸巻きを差し込む枠の畦(あぜ)などが含まれる。
糸巻き弦を巻き上げて張り具合を調節することで音程を決める。
上から一の糸巻、二の糸巻、三の糸巻と呼ぶ。
木でできており、張った糸を押さえて音程を決める部位。
持ち運びに便利な“三つ折れ”は、棹が天神も含めて上棹(かみざお)、中部を中棹(なかざお)・下棹(しもざお)と三分割できる。
1本の木でできているものは“延棹(のべざお)”という。
※天神~根緒の先にある中木先(なかぎさき)までを棹とすることもある。
3本弦で、向かって左手から一の糸、二の糸、三の糸といい、数が増えるほどに糸が細くなる。
絹糸やナイロン製の糸が使われる。
胴(どう)4枚の板で木枠を作り、皮を張ったもの。
音の響きに影響する部位。
猫皮(よつかわ)、犬皮(けんぴ)など動物の皮や合成皮を使用。
音質に関わってくる大事な部位。
3本の糸(弦)を通し、糸の振動(音色)を皮に伝える役割を持つ。
根緒(ねお)/音緖棹と胴を通った糸を結びつけるストッパー(組紐)。


三味線の魅力

最近では海外でも人気がある三味線。

その魅力は何といっても、表現力にあります。

野外演奏では、するどく切り込むようなばち音があるかと思えば、お座敷という狭い空間では優しくしっとりと粋な音色を出します。

大胆でありながら繊細という両極端の響きを持った楽器は珍しいといえるでしょう。

三味線の歴史

味線のルーツ

三味線のルーツはペルシャともチベットともいわれていますが、はっきりした事はわかっていません。

定説の一つとしては、中国・元の時代に生まれた楽器「三弦さんげん」が琉球に伝わって、今でも沖縄で弾かれている民族楽器「三線さんしん」になったという事です。

その三線が室町時代の終わり頃に日本本土に渡り、今の三味線へと変化していったといわれています。

味線を最初に手にしたのは琵琶法師だった?

しかし、三線では使用しないのに、なぜ三味線では「撥」を使うことになったのでしょうか……。

これは三味線を最初に手にしたのが、琵琶法師だったからという説が有力です。

琵琶の歴史は古く、奈良・東大寺の正倉院に「螺鈿紫檀五絃琵琶らでんしたんごげんびわ」という琵琶が収蔵されていることからもわかります。

本土には琵琶の演奏者は昔からいて、撥を使って演奏していたため、琵琶法師が三味線を伝える際に、三味線も撥を使う楽器としたのかもしれませんね。

在の三味線の形になったのは江戸時代

現在のような三味線の形に落ち着いたのは、江戸時代になってから。

当時の人々にとっての楽しみである歌舞伎や文楽、人形浄瑠璃といった芝居の音楽として使われるようになった三味線は、庶民の音楽としての人気を高めていきました。

そしてその後、常磐津ときわづ・長唄・小唄・箏曲そうきょく合奏など、さまざまなジャンルに使われるようになり、現代に至っています。


※筝曲:筝を使って演奏する曲のこと

三味線・三線、違いは?

三味線・三線の違いは、大きく以下3点が挙げられます。

1)大きさ
2)重さ
3)素材

それでは、具体的にどのような違いがあるのか見ていきましょう。

味線と三線の“大きさ”の違い

三線の全長が約70~80cmほどあるのに対し、三味線は約90~100cm程度あります。

三味線は、三線よりも少し大きさがありますね。

味線と三線の“重さ”の違い

重さは、三線が約1kg、三味線は約2~3kgです。

大きさに比例して、三味線の方が三線よりも重量があります。

味線と三線の“素材”の違い

三線は胴に蛇の皮が張られており、水牛の角で作った爪ではじきながら演奏します。

琉球王国の時代には、宮廷音楽楽器として使われましたが、明治以降は庶民にも広がり、今では沖縄の民謡には欠かせない楽器となっています。

一方で、三味線の胴には蛇皮を使いません。

一般的には猫皮を使うといわれていますが、実際は猫の皮だけでなく、犬皮も昔から使っていたのです。

そんな中、最近は合成皮も出てきました。

本土には琉球にいるような大きな蛇がいないということから、三味線に蛇皮を使うことが出来なかったからだといわれています。

水牛の爪を使わないのも同じ理由なのでしょう。

三味線の種類

三味線の種類は大きく分けて3つに分類され、役割も以下のように異なります。

三味線の種類役割
1細棹(ほそざお)華やかで小気味の良い高音を出すのに優れた三味線。
テンポの早い曲調などに向いている。
主な用途:長唄、学校教材や初心者の入門用など
2中棹(ちゅうざお)細棹よりも音は大きめ、伸びが良くしっとりと艶(つや)のある音色を出すことができる三味線。
箏(そう)や尺八などとの合奏用に改良された三味線“新内(しんない)”も中棹に分類される。
主な用途:小唄、民謡など
3太棹(ふとざお)深みがあり、大きな音が出るため野外でも迫力のある演奏ができる三味線。
主な用途:津軽民謡、義太夫など


棹の太さ面幅つらはばが変わるだけと思われるかも知れませんが、実際は棹の太さだけではありません。

棹が太くなるに合わせて、胴も大きくなります。

胴が大きくなると、音も大きく、音域も低くなるのです。

もちろん、三味線に合わせた小物も変わってきます。

速い曲を弾く“津軽三味線”に合わせるばちは先端が小さく、同じ太棹でも“義太夫三味線ぎたゆうしゃみせん”は浄瑠璃の伴奏演奏をするために大き目の重い撥を使うのです。

また、棹のすべりを良くするための「指掛け」も、他の三味線よりも幅広いタイプを使います。

中棹を使う小唄は、撥を使いません。

浄瑠璃の流派の一つである“新内節しんないぶし”の高音用には極端に小さな撥となるのです。

箏曲の地歌になると、先端が幅広の撥を使います。

これは三味線の撥の中でも一番大きいタイプで、「津山撥つやまばち」と呼ばれるものです。

このように、棹の太さで胴の大きさは変わりますが、小物は三味線の用途によって使い分けなくてはいけません。

三味線が他の楽器よりも専門性が高く、個性豊かなので、このこだわりは避けられないものなのです。

三味線の種類について、より詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください♪

三味線を弾きたいと思ったら

学は避けた方が良い

最近はネットやDVDを使えば、色々なことが独学でできるようになりました。

ただし、それを三味線に当てはめるのは難しいようです。

三味線は、楽譜だけでは読みとれない微妙なニュアンスや独特のがあり、ちょっとしたコツで音の良否も変わります。

楽器の構えや姿勢は、見た目だけでなく音の善し悪しにも大きく影響するのです。

また、専門性が分かれるため、それぞれの分野によっても撥の持ち方・弾き方が変化しますから、独学で学ぶのは避けた方が良いでしょう。

体的にどんな三味線が弾きたいのかを決め、楽器は体験してみてから購入するのがオススメ

「三味線を弾いてみたい」と思った時には、どんな三味線を習いたいのかを具体的に決めてから、その世界の先生を探すことをオススメします。

例えば、吉田兄弟さんのような三味線を弾いてみたいと思ったら、津軽三味線となります。

津軽三味線は華やかで力強く、とっても魅力的。

三味線の種類は「太棹ふとざお」ですが、これは胴が大きいため、三味線の中でも高価な楽器となります。

習いたいと思っても、急に楽器を揃えるのではなくて、何度か体験をしてみてから購入を検討した方が無難です。


長唄や小唄は、三味線と唄がセットとなります。

お稽古場によっては唄か楽器どちらかしか習えない所もありますから、もし三味線を習いたいと思うなら、その旨を最初に先生に伝えましょう。

箏曲そうきょくの場合は、筝曲の二大流派である生田流の地歌と山田流では中棹と細棹と三味線の種類が変わります。

もちろん演奏出来る曲も違い、地歌は大きな撥で粋に弾き、山田流は平撥という小ぶりな撥で勢いよく弾く曲が多いのです。

とはいっても、中棹ちゅうざお細棹ほそざおは併用できます。

もし、手元にどちらかの三味線があるなら、まずは先生に相談しましょう。

無理に買い替える必要は無いこともありますよ。

和楽器の豆知識

そう」といわれても、ピンとこない方も多いかも知れません。

「箏」とは、一般的にいわれている「琴」のことです。

「大正琴」と区別するために「和琴」といわれる場合もあります。

箏曲そうきょくの2大流派が「生田流いくたりゅう」と「山田流やまだりゅう」です。

この二つの大きな違いは「琴爪ことづめ」にあります。

琴爪とは、琴(箏)を演奏する時に指につけるものですが、生田流が使う琴爪は、角爪と呼ばれる四角いタイプで薄いもの。

音も軽やかで華やかです。

対して山田流の琴爪は、丸爪と呼ばれる楕円形のもので厚みがあり、優しく深みのある音色が特徴なのです。

「関西の生田流、関東の山田流」といわれる時代もありましたが、交通網が発達した現代では、どちらも全国区となってきました。

なお、琴(箏)がメインでそれに合わせる三味線として、琴(箏)教室の中には三味線も教えてくれるお教室もあります。

興味のある方は流派にこだわらず、まずは体験してみるのも良いでしょう。

おわりに

糸が3本しかないので簡単と思われやすい三味線ですが、その奥は深く難しく多彩を極めます。

日本人が作りだした三味線は魅力がいっぱいですから、チャンスがあったら、ぜひチャレンジしてみて下さい。

新しい世界が広がるかも知れませんよ。