日本の伝統的な諸芸の一つである「茶道」は、古くから受け継がれる作法に基づいて行われます。

日本の生活様式や時代背景にも影響を受けており、世代を超えて現在まで継承されてきました。

今回は、茶道とは何か、歴史や作法、流派、道具などをご紹介します!

茶道とは

「茶道」とは、亭主が美味しいお抹茶を点て、客人に振る舞う日本の伝統的な芸道の一つです。

もてなす側にも、もてなされる側にも十分な知識やマナーが要求され、まるで一つの儀式のようでもあることから、英語では“tea ceremony”と訳されています。

茶道では、おもてなしを受け、客人の心が満たされることで生まれる一体感「一座建立いちざこんりゅう」と、人生で一度の出会いを大切にする「一期一会」の心を大事にすることが求められます。

人との交流を大切にしながら自分自身と向き合うことで、心を豊かにし、人間性を磨くことができるのです。

ただお抹茶を頂いて楽しむというだけではなく、日本の歴史や伝統文化などにまつわる教養を深めていくこともできます。

茶道の歴史

では、茶道はどのようにして日本で広まっていったのでしょうか。

ここでは、茶道が現代までどのように普及していったのか、その歴史をご紹介します。

平安時代】日本へ茶が伝来

「茶」は、奈良時代から平安時代にかけて唐(中国)へ派遣されていた留学僧たちが、日本へ持ち帰ったことで伝来したといわれています。

平安時代初期に書かれた、日本最古の茶に関する記述である『日本後紀』には、留学僧の一人である永忠えいちゅうが、嵯峨天皇にお茶をふるまったという内容が記されています。

こうして、留学僧たちから貴族階級へと茶が伝えられました。

この頃飲まれていた茶は、現在の形とは異なるもので、茶葉を団子状にまるめた“団茶だんちゃ”というものでした。

団茶は、火であぶった後、粉にした団茶を湯へ入れて煮てから飲むもので、滋養強壮や、体調不良の際、それを治すために飲まれていました。

鎌倉時代】茶を飲む習慣の確立

“茶を飲む“という文化が発展したのは、鎌倉時代初期だといわれています。

臨済宗りんざいしゅうの開祖・栄西えいさいが宋(中国)からお茶を持ち帰り、日本最古の茶の本である『喫茶養生記きっさようじょうき』を執筆しました。

この本には、栄西が宋で学んだ茶の栽培方法や飲み方、効能などが記されていました。

栄西が持ち帰った茶は団茶とは異なり、茶葉を粉末状にしたもの(抹茶)で、薬や儀式の際に飲むものとして使用されていました。

その後、栄西の弟子である明恵みょうえが茶の栽培をはじめたことで、現在も茶の産地で有名な京都・宇治や静岡・清水をはじめ、日本全国に栽培方法が伝わっていきます。

こうして次第に茶は“薬”から、“液体を飲んで楽しむもの”として親しまれるようになっていったのです。

鎌倉時代末期には、茶を飲んでその味や香りから産地を当てる“闘茶とうちゃ”という遊びが武士の間で流行し、僧侶や貴族だけでなく武士層へも喫茶の文化が浸透していきました。

室町時代】佗茶と流派の誕生

茶道の歴史を語る際に外せないのが、僧侶・村田珠光むらたじゅこうです。

室町時代には、茶道具や飾り物に、中国からの舶来品である高価な唐物を使用した「書院の茶」が生まれました。

珠光は、室町時代中期に、この書院の茶とは意趣が異なる、“草庵そうあん”と呼ばれる簡素な茶室で、唐物以外の日本製の道具も用いて、客をもてなしました。

これが、静寂に美しさを感じる精神性を重視した「佗茶わびちゃ」の様式の源流といわれています。

その後、豪商の武野紹鴎たけのじょうおうに引き継がれた侘茶の精神 は、弟子の千利休へとまた受け継がれたことで、さらに確かな文化として独自に成長していきました。

この頃には、幕府の儀礼に侘茶が採用されるなど、武士の嗜みとしても広く行われるようになり、大名達によって多くの流派が誕生しました。


※唐物:中国からきた舶来品のこと。茶道具では、天目茶碗や茶入れなどが例として挙げられる。

江戸時代~現代】茶道の普及

「茶道」という言葉が最初に使われたのは、江戸時代に発表された『長闇堂記ちょうあんどうき』や『茶道四祖伝書さどうしそでんしょ』だといわれています。

江戸時代中期には、町人階級の間でも広く茶道が流行していきました。

それと共に、茶道は楽しむためにする芸事といった側面が強くなっていきます。

この流れを断ち、茶道の本質を思い出そうと、寺院を中心に千利休が唱えた佗茶の精神である「和敬清寂わけいせいじゃく」という標語が掲げられたことで、改めて茶道の存在は確立され、現在まで伝わる文化として成長を遂げました。

これまでも茶道の流派はいくつかありましたが、江戸時代にはさらに多くの流派が誕生。

現在もっとも有名な、千利休の子孫が起こした「表千家」「裏千家」「武者小路千家」の三千家が誕生したのも、江戸時代です。

その後、戦争の時代を経て、明治時代には両家の子女が通う学校の教養科目に茶道が組み込まれるなど、日本人の教養として広く親しまれるようになりました。

もともと男性中心であった茶道界も、時代と共に女性の人数が増え、年代問わず楽しめる芸道として長く続いています。

茶道の歴史についてさらに詳しく知りたい!という方は、下記の記事もチェックしてみてくださいね。

茶道の魅力

ここからは、茶道がなぜ人気なのか、その魅力をご紹介していきます。

利休が説いた「四規七則」

四規七則しきしちそく」とは、茶道において重要な心構えである“利休七則”と、“四規”の言葉を合わせたものです。

四規とは、「和敬清寂」の四つの文字のことで、亭主と客人が互いに敬い合い、心や場の雰囲気を清らかに保つべきである、という茶道の心を示しています。

一方、利休七則とは、千利休が説いた、客をもてなす際の七つの心構えのことです。

内容は、以下の通りです。

一則:茶は服のよきように点て(心をこめる) 二則:炭は湯の沸くように置き(本質を見極める) 三則:夏は涼しく冬は暖かに(季節感をもつ) 四則:花は野にあるように(いのちを尊ぶ) 五則:刻限(こくげん)は早めに(心にゆとりを持つ) 六則:降らずとも雨の用意(やわらかい心を持つ) 七則:相客(あいきゃく)に心せよ(たがいに尊重しあう)

茶道は、このような精神を基本として、他人と交流することで、自分自身も成長することを目的とした芸道なのです。

まさに、日本人の心を示した文化ともいえますね。

しい趣味のきっかけになる

茶道を行うお茶席には、焼き物、四季折々の草花、掛け軸、お菓子といった、日常生活ではなかなか感じることのない風情のある品々が並んでいます。

そういったものに触れることで、より感性が磨かれ、茶道だけでなく、さまざまな事柄に興味の幅を広げていくことができます。

茶道から派生して、陶芸や華道(生け花)、和菓子作り、古物収集などといった、新たな趣味をみつける方も多いようです。

座ができない人には「立礼式」も

茶道というと、長時間正座を続けるのが大変そう、というイメージを持っている方も多いかもしれません。

ですが、最近ではお茶席やお稽古で脚が辛くないよう、“正座イス”という、正座に見せかけて座ることのできるイスを使うことが許される場も増えています。

洋式の椅子に座ってテーブルで頂く、「立礼式りゅうれいしき」という茶道も広まりつつあります。

正座でなくても茶道を楽しめる工夫や方式が増え、より気軽にはじめることができるようになってきているのです。

茶道の基本の作法

茶道の作法やマナーで大切なことは、日常生活のマナーと同じく、目上の方を敬い、一緒にお茶席に入る方を大切にし、不快感を与えないことです。

例えば、お茶を飲む際には茶碗の絵柄を汚さないよう正面を避けていただく、亭主であれば、汚れたものを客人に見せないよう運ぶことなどが挙げられます。

細かなルールがあって難しいと思われがちですが、すべて意味のあるルールのため、意味を理解すればそれほど難しいものでもありません。

ここでは、いくつかある作法の中から、席の座り方とお茶菓子の食べ方の二つについて、ピックアップしてご紹介します。

の座り方

まず、客人をもてなす亭主の一番近くには、正客しょうきゃくという主賓が座ります。

基本的には、一番目上の方が正客となります。

その次に、次客じきゃく三客さんきゃくと数字で続き、最後に末客まっきゃくの順番で座ります。

正客は、代表者としてお茶や道具について質問をし、末客は、茶道具が回ってきた際に亭主の元に道具を戻す役割があります。

茶会に慣れていない場合は、最初と最後を避けながら真ん中あたりに座るのがオススメです。

菓子の食べ方

茶菓子は、お茶を飲む前にいただくことで、後の抹茶の味をより引き立てるという役割があります。

茶菓子が回ってきたら、左隣の方に「お先に」と挨拶してから、自分の懐紙に取りましょう。

食べる時は、懐紙ごと手のひらに乗せ、お茶が出されるまでに食べきります。

茶菓子が大きい場合は楊枝で切り、お饅頭の場合は手で割るなどしていただきましょう。

以下の記事では、上記の作法以外にもさまざまなマナーをご紹介しています。

ぜひチェックしてみてくださいね!

初心者が揃えたい茶道具

茶道をはじめる時に気になるのが、道具の用意ではないでしょうか。

茶道の道具には、お稽古で欠かせない道具から、持っていると便利な道具まで幅広くありますので、茶道をはじめる前に、必要な道具を抑えておきましょう。

初心者が揃えておきたい道具には、下記のようなものがあります。

帛紗ふくさ
出帛紗・古帛紗だしぶくさ・こぶくさ
懐紙かいし
菓子切かしきり
扇子せんす
白靴下しろくつした


お道具の中には、帛紗や古帛紗など、流派によって異なるものがあります。

各流派で使われているものを事前に調べて、セットで購入すると便利です。

また、稽古場の先生や先輩方に、上記のような茶道具を揃えることができるお道具屋さんやお店を教えていただくのもオススメですよ!

各道具についてもっと詳しく知りたい方は、下記記事もご覧ください!

茶道の流派

江戸時代に多くの流派が誕生し、その後も分裂を繰り返した結果、現在は遠州流、松尾流、宗徧そうへん流、石州せきしゅう流、藪内やぶのうち流、江戸千家流など、100を超える茶道の流派が存在しているといわれています。

中でも、千利休を源流とした茶道の流派として、代表的な三つの流派は「三千家さんせんけ」と呼ばれています。

ここからは、そんな「三千家」について、それぞれの特徴と違いをご紹介します。

表的な三千家

三千家は、「表千家おもてせんけ」、「裏千家うらせんけ」、「武者小路千家むしゃこうじせんけ」の三つをまとめた呼び名です。

現代においても広く親しまれている三派であり、千利休のひ孫にあたる3人がそれぞれ成立させたものです。

流派(表千家・裏千家・武者小路千家)の違い

すべて千利休の侘茶を基にしているとはいえ、それぞれの流派には、道具や作法に違いがあります。

一目でわかる違いと言えば、お茶席で使われるハンカチのような絹布「帛紗ふくさ」です。

表千家と武者小路千家の場合は、女性が朱色、裏千家だと赤色の帛紗を用います。

男性は、どの流派も紫色の帛紗です。

また、表千家と武者小路千家はお抹茶をあまり泡立てませんが、裏千家はお抹茶を泡立てる、といった特徴もあります。

各流派の特徴についてさらに知りたい方は、下記記事をご覧ください。

茶道をするなら

ここまで読んで、茶道をはじめたい!と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここからは、茶道を体験してみたい方がどのように茶道をはじめたら良いのか、その方法をご紹介します。

道教室に行こう

まず一つ目は、茶道教室に通う方法です。

体験レッスンや見学などがあるお教室が多いため、はじめてで不安な方でも、一度参加して実際の茶道の雰囲気を確かめることができます。

茶道教室へ行く場合は、教室の流派や特徴、アクセス、料金などを事前に調べておくのがオススメです。

ワゴコロでは、全国各地の茶道教室をご紹介していますので、気になる方はぜひご覧くださいね♪

宅で茶道体験をしよう

二つ目は、自宅で茶道体験をする方法です。

通販では、帛紗や懐紙など、必要な茶道具が揃った入門セットが販売されています。

まずは人前でなく、一人でどんなものか体験してみたい!という方には、こちらがオススメです。

おわりに

いかがでしたか?

今回は、日本で古くから親しまれ続けている伝統文化・茶道についてご紹介しました。

茶道は、お茶を楽しむ単なる喫茶の文化ではなく、自らの心や精神を鍛える、大変深い意味が込められた芸道です。

皆さまも、ぜひお休みの日には茶道にチャレンジして、日頃の忙しさから離れ、ゆったりと落ち着いた時間を過ごしてみてくださいね。