日本には伝統的なものが数多くあり、染色せんしょく、染物技術もその一つです。

染色(染物)といえば着物をイメージする人も多いと思います。

着物の種類は染め方によって多種多様で、希少価値の高いものから日常的に着られるものまでさまざまです。

また、染め方の違いで着物全体の印象も変わり、着る人の雰囲気も変わります。

この記事では、染色(染物)の違いや種類、日本の染色(染物)を一覧でご紹介します。

日本における染色(染物)とは?

染色と染物の意味は異なり、ここでは日本における染色と染物について、お話していきたいと思います。

色と染物の違い

日本における染色とは、糸や綿・麻などの生地に染料を染み込ませていく技法のことで、無地染めや型染め、手染めなど、染め方によって染色の技法が変わってきます。

染料には、天然染料と化学染料を使用しますが、この染料の違いで仕立てが変わります。

一方、染物とは染めた布のことを指します。

一般的に日本では、布を織ってから染色する後染めをした織物を「染物」と呼び、白生地から様々な技法を用いて染めていきます。

着物の染めの種類には、友禅染め、ろうけつ染め、型染め、絞りなどがあり、着物になった時には、値段も大きく違ってきます。

つまり、染色とは技法のこと、染物とは染められた生地のことを指します。

日本における染色(染物)の歴史

染色(染物)の歴史はとても古くから始まっています。

世界に目を向けると、中国では紀元前3000年前から染色文化があったということが分かっています。

では日本ではいつから染色が始まって今に通じているのでしょうか。

始(縄文~弥生時代)の染色

布は実物が残りにくいものなので、確かなことは分かっていませんが、日本の染色の歴史は一説によると縄文時代(紀元前)には始まっていたといわれています。

当時は、「摺り染め」と呼ばれる手法で染色が行われていたそうです。

摺り初めは、植物や花、土などをそのまま摺り付けて色を付ける染色方法です。

また、巻貝から採取された染料によって染色されていたという説もあります。

代(~平安時代)の染色

古墳時代から飛鳥時代にかけて、摺り染めに加えて「浸し染め」という手法が使われるようになったといわれています。

浸し染めとは、糸や布を染液に浸すことによって色を付ける染色方法で、摺り染めよりもよく染まるため、主流になっていきました。

その後、奈良時代に入ると「天平の三纈さんけち」という染色技術が大陸からもたらされます。

三纈とは、﨟纈ろうけち夾纈きょうけち纐纈こうけちという三つの模様染めの総称のことです。

﨟纈は蝋を塗り、夾纈は布を板で挟み、纐纈は糸などを使用することによって、染料が染みこまないようにして布に模様をつける技術です。

これらの染色の技法によって日本でも本格的な染めが始まりました。

また、三纈は正倉院の宝物のなかに見ることができます。

さらに時代が下り平安時代になると、染物よりも織物が中心になったといわれています。

三纈の中でも、絞り染めである纐纈の技法のみが続いていたようです。

世と近世(~江戸時代)の染色

武士の時代に入り生まれたといわれるのが「辻が花染め」といわれる染色方法です。

辻が花染めはいつ確立したのか確かではないのですが、室町・安土桃山時代あたりの小袖などに見られる縫い絞りのことをいいます。

そして、さらに時代が下り、戦のなくなった江戸時代になると、染色技術は飛躍的に発展していきます。

特に「糊防染のりぼうせん」という染色方法が生まれたことにより、非常に細かな模様が付けられるようになりました。

また、糊防染の技術がさらに発展したものが、現在でも有名な「友禅染」です。

型染という同一の柄を大量に生産できる技術もこの江戸時代に作られ、多くの人がおしゃれを楽しめるようになりました。

現代の染物

明治の世に入り、イギリスなどの諸外国から化学染料が本格的に大量輸入されるようになりました。

色数が多く、発色が鮮やかな化学染料の普及は、染物業界に大きな衝撃を与えました。

それまでの植物から抽出する染料に比べて、化学染料は落ちにくく、品質も一定で大量生産が可能であったことから、これ以降染料は化学染料が中心となっていきます。

また、これらの化学染料は友禅染に使用する糊に混ざる性質を持っているため、ぼかし染などの技術をさらに発展させていきました。

日本の染色(染物)一覧

ここでは、日本の伝統的な染物の種類についてご紹介していきます。

京無地染

東京無地染とうきょうむじぞめは、様々な織模様のある白生地を、柄なしの単色に染め上げます。

無地染めをすることで、織模様である地紋が立体的に浮き上がり、シンプルでありながらも上品な装いとなります。

江戸時代には、紫紺で染める「江戸紫」が粋であるとして江戸っ子から人気を博しました。

普段使いから、紋を入れて礼装用としても着用可能で、幅広い着物として現代でも活躍している着物の一つです。

京染小紋

東京染小紋とうきょうそめこもんとは、いわゆる「江戸小紋えどこもん」のことです。

江戸小紋が進化し、様々な模様で遊び心がある小紋を「染小紋」と呼び、現在、東京で型彫りをして染められる染小紋は「東京染小紋」と呼ばれています。

型紙を使用して小さな柄を全体的に着物の模様にしたものですが、地模様になるので遠くから見ると無地に見えます。

地模様は地紋ともよばれ、あらゆる生地の地紋様のことをいいます。

生地に後から模様を描いたり 刺繍したりするのではなく、織の組織の違いのことを意味します。

カジュアルな装いから礼装まで様々なシーンで活躍できます。

京手描友禅

東京手描友禅とうきょうてがきゆうぜんは型染めではなく、すべて手描きで職人が一人で多くの工程を手掛けます。

東京手描友禅は、侘び寂びのある落ち着いた色彩の中に、江戸っ子らしい粋や洒落のきいたデザインが特徴です。

現在ではモダンなデザインも加わり、さらに魅力を増しています。

賀友禅

友禅の最高峰とも言われる加賀友禅かがゆうぜんは、金沢で職人が一つひとつ丁寧に手描きすることによって仕上げる着物です。

特徴的な柄は写実的で豪華な草花ですが、その種類は実にさまざま。

まるで自然の美しさが着物に現れたような、壮大な自然美が着物に再現されています。

格式が高く、華やかな着物として位置付けられています。

古屋友禅

名古屋友禅なごやゆうぜんは、元は京都や江戸からの職人によって技法が伝えられたことから始まっています。

名古屋の土地柄である堅実さや実直さが作品に反映されており、一色の濃淡で描かれる渋い柄が特徴です。

古屋黒紋付染

江戸時代末期に尾張藩の藩士などによって黒紋付染が作られるようになったのが名古屋黒紋付染なごやくろもんつきぞめです。

名古屋独特の「紋当網付もんあてあみつけ」という技法が名古屋黒紋付染の主流であり、染色時間が長いため黒色がしっかり染まります。

家紋の型を使って染める「浸染ひたしぞめ」と、後から家紋を手描きする「引染ひきぞめ」の方法で作られるのが特徴です。

松・鳴海絞

有松ありまつ鳴海絞なるみしぼりとは名古屋市の有松、鳴海地域を中心に作られる絞り染めのことです。

生地を絞って染め上げることで絞った部分が柄になるという仕組みですが、凹凸のある生地は肌に布がまとわりつくことがなく涼しげで、夏の浴衣に使用されることが多いです。

手蜘蛛てくも絞り
三浦みうら絞り
あらし絞り
すじ絞り

この四種類の絞り染めが代表的な柄です。

鹿の子絞

くくりの部分の染めが鹿の斑点に似ているという理由で、「鹿子絞こしぼり」と呼ばれています。

括りは一つひとつ手作業によって作られているのですが、熟練の職人でも一日に括れる粒は800~1200程。

そのため一反を括るのには一年以上もの時間が必要となります。

こうして、括りの技法によってさまざまな模様に仕上がり、小さい柄が集まることで立体的な柄が出来上がるのです。

友禅

友禅染の代表的なものの一つに京都府一帯で作られる京友禅きょうゆうぜんがあります。

手描き、型染め両方の手法で作られ、豊かな色彩と絵画調の表現で描かれる柄が特徴です。

全体的に散りばめられた花模様はとても華やかで、京都の風情ある土地や歴史を描いたような友禅です。

小紋

京小紋きょうこもんとは、京都で作られる小紋のことです。

京都の堀川は昔から染色職人が集まる地域であり、そこから京小紋が発展するようになってきました。

基本となる型紙が作成されたのは1200年程前といわれています。

京都ならではの柔らかく雅な色柄が特徴的ですが、江戸小紋と比べると柄も大きく、色鮮やかに仕立て上げられます。

黒紋付染

京黒紋付染きょうくろもんつきぞめは、喪服や留め袖などの冠婚葬祭の着物として着用されています。

黒引染くろひきぞめ黒浸染くろしんせんの二つの技法で染色され、深く上品な黒に染め上げることができます。

黒だけの染料を使わず、深みのある絶妙な黒色を出すために、紅や藍の染料を下染めに使用し、黒色の染料を使用します。

黒染料を刷毛で塗るのが「引染」、黒染料にひたす技法を「浸染」といいます。

球びんがた

沖縄で誕生した唯一の染物が琉球びんがたです。

他の地方の染物と比べるとはっきりとした色柄が多く、色鮮やかで大胆な色使いが特徴的です。

びんは「色彩」、がたは「模様」の意味があるともいわれています。

沖縄の独特な技法で作られる琉球びんがたは、その美しさと華やかさで人々を魅了し、高級品として扱われています。

二種類の染料

染色(染物)には二種類の染料を使用して染めます。

その種類とは「天然染料」と「化学染料」ですが、それぞれ用途が異なります。

然染料を使った染め方

天然染料とは、植物系、鉱物系、動物系の三種類の色素成分を利用して染め上げることです。

コストが高いことがデメリットではありますが、天然成分であるがゆえ、体に安全なことや天然成分でしか味わえない色が表現できます。

植物系の代表的な染料は「藍」です。

「藍染」という言葉を、耳にしたことがある人も多いでしょう。

奥深い藍の色が上品でエレガントな印象の着物が多く、高級品です。

動物系とは、巻貝から取り出される染料で「貝紫かいむらさき染め」といいます。

巻貝の内臓(パープル腺)から紫の色素の染料を取り出して染めていくと、赤紫の色に染め上がります。

鉱物系には「泥染どろぞめ」があります。

泥染の代表的な染物は、奄美大島で作られる大島紬です。

知名度も高い「大島紬」の深い茶色や灰色は、泥染で染め上げられていたのですね。

学染料を使った染め方

化学染料は海外より輸入されるもので、低コストでできるため量産ができるメリットがあります。

色の調整が可能で、一定の色に染め上げることができるためムラができないのが特徴的です。

天然染料もある程度の色の調整はできますが、一定の染めを可能にさせるのは化学染料です。

染め方の手法の違い

染め方の手法も二種類あり、「型染め」と「手描き染め」があります。

型紙を使用した型染めと、一柄一柄手で描いていく手描き染めは、着物に仕上がった時の雰囲気が全く異なります。

染め


型紙を使って染める技法のことです。

型紙を生地の上に置いて色を付けていくものや、のりを塗って染色していくものなど様々です。
型紙は何度も使用でき、同じ柄を何枚も作ることができるので、量産にはオススメです。

また、色を変えることで同じ柄でも着物全体の雰囲気が変わってきます。

型紙の大きさは小紋型と中型、大型とに分かれており、小紋の着物を作る際には小紋型を使用しますが、着物によっては何十枚も型紙を使う場合もあり、手間のかかることもあります。

ちなみに型紙で最高級といわれているのは、三重県で作られている「伊勢型紙」です。

描き染め

手描き染めはその名の通り、全て手描きで染め上げるものです。

使われる道具は筆や刷毛と呼ばれるもので繊細な絵には欠かせないものです。

また、色を自由に表現できるのも手書き染めの特徴です。

手描き染めにも技法があり、手描き友禅や、手描き更紗などがあります。

それぞれの職人さんの手によって描かれる曲線の加減や色使いで一点ものに仕立て上がります。

おわりに

染色(染物)は、着物には欠かせない技法の一つです。

着物は日本独自の伝統文化であり、それを絶やさないためにも染色(染物)の技法は語り継いでいきたい文化です。

縄文時代から続く染色技法。

今となっては天然染料だけでなく化学染料を用い、新たな色彩が生まれました。

長い年月をかけ、型染めや手描きなどさまざまな技法が誕生し、染物の種類も増えました。

最近では、冠婚葬祭以外でも、若者の間ではカジュアルに着物を楽しむようになってきました。

色彩豊かな着物は写真「映え」します。

日本の文化である染色(染物)を使った着物を着たり、その良さを周囲に語ることで、これからも残していきたいものですね。

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