人々を魅了し、感動を与える伝統芸能。

伝統芸能という言葉を紐解いていくと、長い歴史を紡いできた日本の大切な芸能文化が詰まっていることが分かります。

古くから守り続けてきた日本の伝統芸能にはどのようなものがあるのか、その種類や特徴を見ていきたいと思います。

そもそも伝統芸能ってなに?

舞台などで人の動きによって生み出される表現や、修行や稽古を重ねて身につけた、あらゆる技能のことを「芸能」といいます。

ですから、例えば漆器や織物、華道、香道や相撲も芸能に含まれます。

それでは「伝統芸能」と聞いて、思い浮かべるものは何でしょうか?

「伝統」とついているので、古くから日本で行われてきた芸能なのだろうなと想像がついても、「これ!」といったイメージは、あまりないかもしれませんね。

実際、伝統芸能の指し示すものは非常に幅広く、どこまでを「伝統芸能」とするかの判断は個人によって曖昧であり、具体的にどういったものが伝統芸能に含まれるのかは定義されていません。

ざっくりと言ってしまうと、伝統芸能とは古くに誕生し時代とともに姿を変え、その世界の独特の「しきたり」なども含めて、一定の様式や型が伝承されてきた芸能すべてに当てはまるのです。

例として、相撲や能楽、歌舞伎、人形浄瑠璃といった芸能は、室町時代から江戸時代に、京都、大阪、東京といった都市において洗練され、完成されてきました。

また、舞踊などでも家元という独自の規定により、その伝統が受け継がれてきました。

芸能は神様へ捧げるものだった

昔は化学や医療が今ほど発展していなかったため、何かが起こるたびに人々は儀式を通して神様にお願いをしていました。(何も起きなくても定期的に行うものもあります)

しかし、神様は常に人間の傍にいるわけではなく、年に一度、もしくは何年かに一度しか人間の傍に降りてこないと考えられていました。

そこで、人々は滅多に降りてこない神様をお迎えするにあたり、神様と共に食事をし、おもてなしの酒盛りをして、神様を崇めたのです。

これが祭りの始まりであり、この祭りの場で神様に捧げるために演じられた歌や舞などが、芸能の始まりといわれています。

当時、神様への儀式は全国各地で行われていたため、踊りや歌に地域性が加わり、たくさんの芸能が生まれたそうです。

ですので、その地域の芸能を紐解いていくことで、その土地でどのようなことが行われていたのかを解き明かすこともできるかもしれませんね。

伝統芸能と民俗芸能

では、「伝統芸能」に対して、「民俗芸能」と呼ばれているものがあることをご存知ですか?

民俗芸能とは、その地域の特色が色濃く入っている芸能を指します。

例えば、沖縄では芸能として受け継がれてきているけれど、東京ではそもそも見たことがない、といったものです。

先ほど神様への捧げものとして全国各地で芸能が誕生したと言いましたが、その一部が今も民俗芸能として生きているのです。

しかし、伝統芸能と民俗芸能の括りも曖昧で、日本各地のさまざまな神社や寺院などに伝わっている「神楽」もその一つです。

神楽は、笛、太鼓などによる囃子の音に合わせて舞われます。

地域によってはこれに歌謡や台詞が加わるものもあり、地域特有のものともいえるため、
文献によっては「神楽」は民俗芸能に分類されることがあります。

伝統芸能の種類

日本の伝統芸能は、大きく分けて全部で7種類あり、その中でさらに細かく分かれていきます。

例えば、「歌」にカテゴリーされている「和歌」ですが、和歌はさらに長唄、短歌、連歌…と細分化されます。

それでは、それぞれの伝統芸能を簡単な解説とともに見ていきましょう。

日本舞踊

日本舞踏のカテゴリーには15個の伝統芸能があります。

神楽かぐら
神様に奉納するための舞踊です。
現代でもお正月や神社のお祭りなどで見かけることがあるのではないでしょうか?

田楽でんがく
音楽に合わせて舞います。
もともとは田植えを始める前の儀式として舞われていたといわれていますが、未解明の部分が多いようです。

雅楽ががく
中国・朝鮮半島から渡来してきたものが日本で根付いた伝統的な音楽です。
宮内庁では、現在も雅楽隊がいます。

舞楽ぶがく
雅楽の中の一つとされることもあります。
舞を伴った雅楽を指すといわれており、演目に合わせ面を付けて踊ります。

猿楽さるがく
猿を使った芸という意味ではなく、平安時代までは喜劇的な舞を指しました。
鎌倉~室町時代に演劇的な要素が強まったものが能や狂言となりました。

白拍子しらびょうし
女性(遊女)や子供が男装をして舞うのが主流でしたが、男性の白拍子もいました。
現在ではあまり見ることがなくなってしまった伝統芸能の一つです。

延年えんねん
寺院で行われる僧侶の集まりの後に、僧侶や稚児が行っていました。
延年は貴族芸能と庶民芸能が混ざったものの総称です。

曲舞くせまい
物語に韻律いんりつをつけて踊られるものです。
男性と子供が踊り手になることが主流ですが、男装した女性が踊る女曲舞もありました。

上方舞かみがたま
上方(=近畿地方。大阪や京都)で作り上げた日本舞踏の一つです。
座敷で舞うことが多かったため「座敷舞」とも呼ばれています。

大黒舞だいこくまい
門付芸の一種です。
門付とは人の家の門前に立ち、曲を演奏したり舞ったりして金品を受け取ることです。
お正月に大黒点の仮面をつけて宝の槌を振って祝うもので、現在も民俗芸能として山形県と鳥取県に残っています。

恵比寿舞えびすまい
満面の笑みを浮かべた恵比寿天の仮面をつけて、釣竿を使って舞います。
漁師の生活に密着しており、大漁祈願と航海安全祈願を願って沿岸地方で舞われていました。

纏舞まといまい
まといとは江戸時代に火消し(現在の消防団)の各組が使用していた旗印の一つです。その纏を振り上げながら舞うものです。

念仏踊ねんぶつおど
さまざまな様式があるものの、念仏を唱えながら踊るものです。
歌い手と踊り手が別々の場合もあれば、すべてを一人で行う場合もあり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。

盆踊ぼんおど
地域によって踊り方は様々ありますが、お盆の時期に死者を供養するための踊りです。

歌舞伎舞踊かぶきぶよう
歌舞伎の演目の中で出てくる劇中の舞踏のことです。

演劇

演劇には大きく分けて3つあり、その中でも「能楽」はさらに2つに分けられています。

能楽のうがく
能と狂言の総称です。
国の重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。

のう
もともと特定の芸能を指すものではありませんでしたが、猿楽が盛んになってくると、猿楽の総称としても使われるようになりました。

狂言きょうげん
能とは違い、お面を被らずに演じることが多い会話劇や喜劇のことです。

歌舞伎かぶき
江戸時代に流行した派手な出で立ちや行動を好んだものを指す「かぶき者」の装いや動きを取り入れた「かぶき踊り」が発祥だといわれています。
国の重要無形文化財に指定されており、ユネスコ無形文化遺産でもあります。

人形浄瑠璃にんぎょうじょうるり
日本固有の人形劇のことで、三味線と浄瑠璃に合わせて人形を操って演じられます。
国の重要無形文化財、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。

演芸

演芸は、全部で13種類あります。

講談こうだん(講釈)
釈台しゃくだいと言われる小さな机の前に座って、張り扇といわれる扇を机に向かって振り下ろしながら尺を取って、歴史などを語るものです。

落語らくご
最後に必ず「落ち」がつく話をして、聞いている人たちを笑わせるものです。
落語において話は「噺」とも表記されます。

浪花節なにわぶし(浪曲)
三味線に合わせて物語を話すものです。
語り芸ともいわれています。

奇術きじゅつ
現在では手品やマジックといわれたりしています。
人の錯覚を利用して、あたかも不可思議なことが起こっているように見せかける芸です。

萬歳まんざい
現在では漫才と言われ、人を笑わせる話をします。
もともとは、新年の言祝ことほぎの話芸でした。

にわか
宴の席や路上で突然芝居を始めることをいいます。
昔は、即興の芝居だけではなく歌舞伎の演目や面白い話などの芝居をしていました。
茶番ちゃばんともいいます。

梯子乗はしごの
消防団が使うような長い梯子を使って、梯子の上で曲芸を行うもののことをいいます。

女道楽おんなどうらく
三味線や太鼓を用いる演芸で、演じ手の人数は決まっていません。
しばらくは継承者がいませんでしたが、上方落語協会員の内海英華うつみえいかが復活させました。

太神楽だいかぐら
寄席で行われている舞や傘回しなどの曲芸です。
もともとは、神楽の一種でした。

かみきり
紙を鋏で切り、好きな形を作り上げる芸です。
客席からの要望に応えて、紙を切ることもあります。

曲独楽きょくごま
独楽こまを使って曲芸を行うことを指します。
大衆演芸として行われることがありますが、他にも宗教儀式であったり、富山の薬売り・香具師の商売上の方便で使われたりもします。

うつし絵
背景や人物などを描き写すことを指します。
影絵とも呼ばれ、絵を映し出す装置を手で持って物語を表現します。

花火はなび
火薬と金属の粉末を混ぜて作られ、火をつけた際の破裂音や燃焼の色、形状を演出するものです。
主に夏の風物詩として古くから親しまれています。

その他

伝統芸能はその他にも、「歌」、「音曲」、「工芸」、「芸道」のカテゴリーがあります。

それぞれを、名前だけ紹介します。

和歌俳諧琉歌
長歌俳句
短歌連句
旋頭歌
片歌
連歌

音曲
雅楽邦楽浄瑠璃節
謡物筝曲義太夫節地歌
歌舞琵琶曲豊後節長唄
管弦胡弓楽常磐津節萩江節
舞楽尺八楽富本節歌沢
三味線楽清元節端歌
地歌新内節小唄
河東節都々逸
宮園節民謡
長唄(奄美民謡)

上記の他、工芸では彫金・漆器・陶芸・織物、芸道では茶道・華道・武道・書道・華道があります。

伝統芸能の継承

伝統芸能の現状

これまで紹介してきたように、伝統芸能は数多くありますが、一般化されているものはごくわずかです。

半数以上が聞いたことのない名前だったのではないでしょうか。

「伝統芸能」は独自の世界観やしきたり、制度によって受け継がれてきたため、伝統芸能の一家に生まれなければ、なかなかその世界に飛び込むことが難しいというのも現状です。

継承していく意味

古くから存在してきた芸能を継承していくということは、「日本」を引き継いでいくという意味があり、文化財としてだけではなく、地域の特性をそのまま残していくということにも繋がります。

新しいものがどんどんと増えている中で、忘れ去られてしまうにはもったいないものが伝統芸能の中にはたくさんあります。

一度失ってしまえば、復活させることが困難だという認識を持ち、国内外問わずもっと広めて、多くの人に触れてもらうことが大事なのではないでしょうか。

おわりに

今回紹介した伝統芸能の中にはすでに廃れてしまった伝統芸能もありますが、まだ残っている伝統芸能もあります。

どれだけ多くの伝統芸能を、後世まで伝えられるのかは、私たち一人ひとりの認識によって変わってきます。

たとえ、自分が伝統芸能の担い手にならなかったとしても、観客として伝統芸能を盛り上げていきたいものですね。