日本芸能を語るには切っても切れない音楽であるお囃子はやし

歌舞伎やお能などの伝統芸能で、太鼓の音と共に登場したり、音色に合わせて舞う役者さんを見たことのある方も多いでしょう。

今回は、邦楽囃子方はやしかたとして公演に出演されるだけでなく、お囃子を広めるためにさまざまな活動をされている福原鶴十郎さんに独占インタビュー!

邦楽囃子方として活動する上での想いや、今後の目標を伺いました。

お囃子とは?

お囃子とは、歌舞伎や日本舞踊などの日本芸能を盛り上げる音楽のことです。

400年前に歌舞伎が流行した頃からお囃子は取り入れられ、現代まで引き継がれています。

「囃子」は、「やす(盛り上げる)」という言葉が語源になっているそうです。

その名の通り、さまざまな楽器を使用し、三味線や唄と共に音楽を盛り上げたり、舞台の効果音として鳥の声や風の音などを表現したり、お芝居のはじまりの合図を奏でたりします。


四拍子しびょうしと呼ばれる、太鼓・大鼓おおつづみ小鼓こつづみ・笛の4種類を中心に、お囃子に使われる楽器の種類はなんと40種類以上!

舞台上で観客に姿を見せて演奏することを「出囃子でばやし」、黒御簾くろみすと呼ばれるオーケストラボックスの中で演奏することを「蔭囃子かげばやし」と呼び、お囃子は主にこの2か所で舞台を盛り上げています。

邦楽囃子方・福原鶴十郎とは?

舞台で小鼓、太鼓、笛などを演奏する者を、「囃子方はやしかた」といいます。

今回取材をした福原鶴十郎ふくはらつるじゅうろうさんは、江戸時代から続く福原流の邦楽囃子方です。

父・福原鶴二郎つるじろうさんより手ほどきを受け、18歳ではじめて歌舞伎座や国立劇場に出演。

平成2年(1990年)には初代・福原鶴十郎を襲名し、現在は各地に稽古場を開いて指導を行っています。

プロの芸者さんから、趣味で鼓を習いたい生徒さんまで、さまざまな方に向けてオープンな姿勢で鼓の魅力を教えています。

その他にも、鼓を体験できるコンサートを開催したり、日本の伝統イベントに出展したりと、お囃子を普及するために日々活動しています。


福原鶴十郎×Q&A

では、ここからは福原鶴十郎さんに、邦楽囃子方としての活動や今後の活動への想いをインタビューした様子をお届けします!

囃子の世界の魅力は?

」や「リズム」を活用して、音のないところに音をつけていく、という作業に魅力を感じています。

海で崩れる波の音や、障子が揺れる風の音はもちろん、音が存在しない雪の風景などにも音を付けて観客に情景を想像させるというのが、とてもユニークだと感じます。

あとは、楽器がたくさんあることも魅力の一つですね。

さまざまな楽器があるので、相手が求める“欲しい音”を的確に作り出すことができるのは、良い点だと思います。


奏をするときに心がけていることは?

日本人のDNAには、「音の揺らぎ」や「余韻」というものへの心地よさがあるらしいんです。

「ヨオー」みたいな掛け声とか、和楽器の発する音の伸びを長年聴いてきたからなんでしょうか。

太鼓を叩いた後、笛を奏でた後に残る余韻の音というのを大切にしている音楽なので、演奏をする時はそういったことにも意識を配って、心地の良い音楽を心がけています。


成したい目標はありますか?

割と僕も年齢を重ねてきたので…今後は自分というより、邦楽の世界というものを少しでも皆さんに知って頂きたいですね。

例えば、海外の方に日本文化を聞かれたとき、少しは答えられるようになる人が増えたらいいなあと思っています。

日本の古典音楽をわかりやすい形で体験してもらって、少しでも「おもしろいな」「楽しいな」と思っていただけるような場所を多く作ることが、僕の今の目標です。

代の変化に合わせて工夫していることはありますか?

我々の世界は、本来は口伝くでんの方法を使って、口で教えることが普通なんです。

鼓であれば、「タッポン」「チリカラ」のような感じで。

楽器が奏でる音を、譜面には落とさず口で再現して教えるんですね。

ですが、やっぱりそれだけだと覚えきれない方が多いので、最近では譜面や音源を渡したり、拍子で教えたり、現代の方でも取り入れやすい、覚えやすい方法を模索しながら指導しています。

中でも譜面は、お囃子を普及させるという意味でもとても重要な手段の一つなので、各自先生方が自分で作ってお渡ししているところが多いです。

あとは、最近はSNSも使ってネットでも情報を発信していくように心がけていますね。

事を見ている方に一言!

伝統芸能の世界って、なんだか敷居が高いように感じるかと思うのですが、年々その敷居は崩されてきています。

正座が苦手な方のために椅子に座ってやるお教室を開催していたり、先ほどお伝えしたように、楽譜を作って読み方を学ぶところからはじめたり。

少しでもお囃子の世界に入りやすいような工夫を皆さんしていますし、何よりとてもユニークで面白い楽器が多いんです。

音楽に限らず、せっかく日本人に生まれたからには、一度は伝統的な日本文化を体験してみてほしい!というのが、僕の想いです。

やってみて楽しければ続ければ良いし、つまらなかったら他のものをやればいい。

ずっと続けろ!なんて言わないので、ぜひ一度でも体験してみてほしいなと思います。

なにをやればいいかわからないという方も、ご連絡頂ければいつでもご紹介しますから、ちょっとでも時間ができたら、ぜひ一度挑戦してみてくださいね!


インタビューを終えて

私自身、お囃子というものを体験したことがなく、インタビューに伺う前は、知識もほとんどありませんでした。

ご指導される様子を見学させていたいただく中で、太鼓を使った風や波の音をはじめて聴かせていただいたのですが、不思議と音色から情景が想像できることにびっくりしました!


洋楽にはない、譜面で書き表せない独特のリズムと響きこそが、日本の古典音楽の魅力なのだなと気が付くと共に、風景に音を探し出して再現しようとした昔の日本人の姿が少し見えたような気がして、さらに古典音楽を知りたいと思うことができました。

現代では、舞台を観に行ったり、コンサートに足を運ばないとほとんど知ることのできない古典音楽。

「厳格で一般人には入りにくい雰囲気があるな…」と思っている方も、ぜひ一度会場へ足を運び、お囃子の音に耳を澄ませてみてください。

自然の動きを反映した音楽に、きっと感動すること間違いなしです!

福原鶴十郎氏の略歴

1965年生まれ 幼少より父、福原鶴二郎より邦楽の手ほどきを受ける。
18才より歌舞伎座、国立劇場などの歌舞伎公演、舞踊会、演奏会等に出演。

1988年 東京都大田区に稽古場を開く
1989年 静岡県浜松市に稽古場を開く
     浜松中央検番の師匠となる
1990年 初代福原鶴十郎を襲名
1999年 浜松新教場「鶴翔館」を設立
     福島県いわき市に稽古場を開く
2015年 麹町に鳴り物以外の邦楽器も体験できる稽古場を開設
     併せて定期的に邦楽ライブを開催する。
2016年 静岡お稽古場、鶴静会を開く
2018年 和ごと株式会社設立
2021年 和ごと株式会社制作にて「お囃子を学ぶ」「三味線を学ぶ」
    「お囃子の勧め小鼓編」のDVDを発行
2022年 浜松やらまいか大使に就任

長唄協会会員
東京都大田区邦楽連盟会長
いわき邦舞邦楽連盟副会長
和楽器普及協会相談役
NHK文化センター浜松講師
読売文化センター大森講師

現在、東京を中心に各地で演奏活動と邦楽指導、普及にあたる