京扇子は世界でも高く評価され、1200年の歴史がある日本の伝統工芸品です。
また、京扇子は工程ごとに異なる職人によって作られます。
一人ひとりの職人の高度な技術が今日まで受け継がれ、表現された京扇子は、日本人の暮らしの中に涼と彩を添えてくれます。
そこで、今日でも緻密なデザイン性と高度な伝統技術で作られている人気ある京扇子の魅力や歩んできた歴史などについて、迫っていきたいと思います。
京扇子とはどんな扇子?
扇子の中でも、京都扇子団扇商工協同組合の組合員だけが作ることができる扇子を「京扇子」といいます。
また、この京扇子の商標は、この組合員だけが使用できます。
京扇子の制作には、竹、紙や絹などが主に使われます。
特に京都の丹波地域で取れる真竹で作られた扇子が、良い扇子と言われています。
扇面に金銀泊や蒔絵などの絵付けが施されている京扇子は、高級な美術品としても評価されています。
京扇子の特徴
京 扇子は上品で華やか
京扇子は実用的なものから儀式的なものまで豊富な種類がありますが、どれも上品で趣があることが特徴です。
また、京扇子は、江戸扇子より線が細くて華やかさがあるところから女性的な印象が感じられるでしょう。
これらの特徴は、京扇子だけでなくほかの京都の伝統工芸品全体にも共通しています。
京都の職人は綿密な作業を得意とするため、そのような優美さが表現できるのでしょう。
分 業作業による87の制作工程
京扇子の制作工程は、87もあります。
これらの全工程は、熟練の職人たちによる分業作業によって作られ、使う人の手に馴染みやすいだけでなく、芸術的にも美しいです。
また、扇の芯に用いる細く薄い竹である扇骨の数も江戸扇子に比べて多く、折り幅は狭いので、扇ぐとしなやかな風を感じることができます。
今日では様々なタイプの京扇子が販売されていますが、主流となる昔ながらの京扇子の色や柄には、京扇子独特の特徴が現れています。
京扇子の歴史
京 扇子の始まりは平安時代初期
京扇子の元祖は、文字を書くために使われた、短冊状の細長い木の板である木簡から誕生したと伝えられています。
日本最古の扇は、京都の東寺の仏像の中から発見された檜扇※1です。
※1檜扇:男性貴族が宮中で使った木製の扇です。女性貴族が使う檜扇は、「袙扇」と呼ばれました。
この扇には、「元慶元年」(877年)と記載されています。
平 安時代中期
平安時代の中期頃になると、夏の時期に蝙蝠扇が使われるようになりました。
この蝙蝠扇の「蝙蝠」は「こうもり」と書いて「かはほり」と読みます。
蝙蝠扇は、細い扇骨が5本~6本しかなく、広げると蝙蝠が羽根を広げた姿に似ているところから、この名前が付けられました。
唐 扇の影響を受けた室町時代
平安時代より扇は儀礼や贈答などで使われていましたが、室町時代になると、能、茶道、香道などの専用扇子が作られるようになりました。
また、室町時代には、唐扇に影響を受けた竹と紙で作られた紙扇と呼ばれる扇子が出現しました。
海 外輸出が始まった鎌倉時代
13世紀頃になると京扇子は中国に輸出されるようになりました。
さらに京扇子は、インド経由でヨーロッパまで伝わっていきました。
中国やヨーロッパに伝わった京扇子は、現地で西洋風の文化が加わりました。
その後、新しい要素を取り入れた扇子は日本に逆輸入され、扇面に絹が貼られた絹扇が作られるようになりました。
国 内生産の90%を占める京扇子
今日、京扇子は扇子の国内生産の約90%を占め、国内外で芸術性の高さが評価されています。
また、京扇子は、国内外でも人気のある日本の伝統文化の一つとして、職人さんたちに引き継がれています。
京扇子の制作工程
京扇子の87にも及ぶ制作工程は、大きく分けて扇骨を作る「扇骨加工」、地紙をつくる「地紙加工」、扇骨と地紙の両方を貼り合わせる「仕上げ」の3つに大別されます。
いずれの制作工程も熟練した職人によって分業作業で行われています。
扇 骨加工
①扇骨加工と胴切
竹の節を取り扇子の長さに応じた寸法で輪切りに切断(胴切)します。
②割竹
蒸した竹を扇骨の幅に細かく縦に割ります。
③せん引き
割った竹の内側の白い部分と「カワ」と呼ばれる表皮の部分を取り除いた外側の部分にわけ、「カワ」の部分を薄く削り、一昼夜かけて乾かします。
④目もみ
扇骨がばらばらにならないための部品である要に通す穴を開けます。
⑤あてつけ
要の穴を開けて竹串や鉄串を通して扇骨を何百枚もまとめて並べ、板のようにします。
次にその扇骨の側面を削り、成型します。
⑥白ほし
白ほしは竹の青みを取るための作業です。
「あてつけ」で成型したほぼ完成状態の扇骨を屋外で太陽に当てて乾燥させます。
⑦磨き
乾燥させた扇骨を猪の牙で作られた「猪牙」と呼ばれる道具を使ってなめらかに磨きます。
⑧要打ち
親骨に中骨を挟み、④で開けた穴に目もみで開けた穴に要を差し込んで、留めます。
⑨末削
折目を施した地紙の扇面の中に入れる中骨を一枚ずつ細くて薄くなるように鉋で削ります。
中骨は、先端に向かって細くて薄くなります。
地 紙加工
①合わせ
2層に分かれている「芯紙」と呼ばれている薄い和紙を中心として「皮紙」と呼ばれている和紙を扇面の両側から糊で貼り合わせます。
②乾燥
扇面に貼った地紙を乾燥させます。
③裁断
地紙を複数まとめて扇形に切断します。
④色引き
地紙に刷毛を使って色を付けます。
⑤箔押し
地紙にのりを引き、箔(金・銀)を貼ります。
⑥上絵
一枚ずつ地紙に絵付けをします。
⑦折加工
厚い折目のついた2枚の型紙に地紙を挟んで均一になるように手早く折りたたんで、折目をつけます。
⑧中差し
中骨を差し込むために芯紙が2層に分かれるように竹べらを使って空間を開けます。
⑨万切
折目のついている地紙を折りたたんだ状態で裁断用の枠の中にまとめて入れて、万切包丁を使って扇子の大きさに切りそろえます。
仕 上げ加工
①地吹き
中差しで開けた穴に空気を吹き込んで、中骨が差し込みやすいように穴を広げます。
②中附
中骨を切りそろえて糊を塗ってから地紙の穴に中骨を差し込みます。
③こなし
糊で膨らんだ地紙をたたんだままで側面から拍子木で叩いて重しをかけます。
④万力掛け
地紙が厚い扇子は、板で地紙の部分を挟んで重しをかけます。
⑤矯め
親骨を温めて上の部分が閉じた時に「パチン」と音がするように内側に曲げます。
⑥先づめ
温めて曲げた親骨の先端の余分な部分を切り落とします。
⑦親あて
扇子の親骨に糊を付けて地紙と接着させて、「セメ」と呼ばれる紙帯で固定します。
京扇子の主な種類と使い方
扇子にはそれぞれの種類にあった使い方があります。
京扇子の主な種類と使い方について、ご紹介します。
涼 をとる夏扇子
夏扇子は、夏の暑い時期に扇子を扇いで涼を取る扇子です。
名前は「夏扇子」と呼ばれていますが、夏扇子だけでなくいつでも使える扇子です。
絹 地刺繍がしてある刺繍扇子
刺繍扇子とは、花などの絵図が刺繍され透けるくらい薄い絹地を扇子の紙の上に貼り合わせた扇子です。
この扇子は女性用で、夏扇子と同じように涼を取るために使われます。
舞 踊で使う舞扇子
舞扇子とは、日本舞踊などの舞踊全般で使われる扇子です。
大きさは、夏扇子より少し大きいです。
舞扇子の扇骨には、一般的な「白竹」、お稽古用の「塗骨」、舞台用の「煤竹」などがあります。
能 楽で使うぬり仕舞扇子
能楽で使う舞扇子です。
図柄に絢爛豪華なものが多いので、飾り用の扇子としても使えます。
金地の扇面に花や松が描かれている扇子は、派手で見る人を虜にする美しさがあります。
結 納や結婚式などで使う儀式用扇子
女性は金銀扇子、男性はモーニング扇子を使います。
金銀扇子は、その名の通り金色の扇子と銀色の扇子がセットになった扇子のことです。
また、モーニング扇子は、男性用の洋装扇子の総称であり、結納の席で男性が持つ白い扇子を意味します。
新婦となる女性は結納で房の付いていない金銀扇子、結婚式では房が付いている金銀扇子を用います。
茶 席で使う茶扇子
茶扇子は、茶席で使う扇子の総称です。
茶扇子は茶席の席であいさつをする時に客畳と道具畳の境界線を示す置物として、扇子を閉じたまま正座をした膝の前に置くものです。
飾 る飾り扇子
飾扇子は、扇子立てにのせて床の間や玄関などに飾る扇子です。
また、飾り扇子は家の繁栄や長寿の意味合いがある絵柄が描かれているので、縁起の良い扇子としてお祝いの贈答品
近年では、外国人へのお土産としても人気があります。
工房見学して学ぶ京扇子
京扇子の絵付け体験では自分の好きな文字や絵を扇面に書いた後、職人に扇子に仕立てていただき、体験から約1ヶ月で送付してもらえます。
必要な道具などは全て工房で用意されているので、気軽に参加できます。
また、工房体験の費用は、体験や仕立て費用と完成品の送料を含めて2000円から3000円前後とお手頃です。
見学や体験ができる京扇子の工房の多くは観光地の近くにあります。
実際に扇子制作の工程を見ながら扇子作りを体験してみませんか。
おわりに
1200年にも及ぶ歴史のある京扇子は、今でも日本人の暮らしの中で涼を取ったり彩を加えてくれます。
平安時代から受け継がれてきた京扇子を扇ぎながら京扇子の歴史や文化に触れてみませんか。
扇子は、暑い夏を心地良く過ごそうとした昔の日本人の知恵が凝縮されている、伝統工芸品の一つです。今では日本人の暮らしの中に浸透している扇子ですが、中国から伝わってきたうちわから誕生したことはご存知でしたか?
日本の伝統工芸品の一つとして、日本人に馴染み深いものである江戸扇子は、全制作工程を一人の職人さんが受け持ちます。
そんな江戸扇子がどのようなものなのか、ご存知の方は少ないと思います。
清水寺をはじめとする歴史ある寺社仏閣、庭園、史跡が点在する京都府では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた80品目以上の伝統工芸品が存在します。経済産業大臣によって京都府の「伝統的工芸品」として指定されている西陣織、京鹿の子絞、京仏具、京仏壇、京漆器、京友禅、京指物、京焼・清水焼、など17品目をご紹介します。
日本には何十年、何百年も前から受け継がれてきた技術を用いた、伝統工芸品が数多く存在します。技術の革新により機械化が進み、安価で使いやすい商品がどんどん市場に出回っている昨今、手作業で作られる伝統工芸品は需要が少なくなり、追い詰められているのが現状です。
伝統工芸士とは、経済産業大臣指定の伝統的工芸品の製造に従事する技術者かつ高度な技術・技法を保持する職人のことであり、国家資格です。この記事では、なるにはどうしたらよいのか、伝統的工芸品の種類や伝統工芸士の資格・認定について、女性工芸士の活躍のほか、もっと伝統的工芸品に触れるために活用したい施設などをご紹介します。