夏の風物詩の一つ「うちわ」は、手に持ってあおぐだけで涼やかな風を起こせることから、古くより日本人の暮らしの中に根付いてきました。

今でも、年間1億本を超えるうちわが国内で生産されていますが、その約9割が、讃岐うどんでも有名な香川県丸亀市で作られていることをご存じでしょうか?

この記事では、日本一のうちわどころが誇る「丸亀うちわ」の歴史や特徴、その伝統の技についてご紹介します。

丸亀うちわとは?

提供:(公社)香川県観光協会

香川県丸亀市では、古くより職人たちの手作業によって竹製のうちわが作られてきました。

現在では竹製のほかにも、プラスチック製のうちわも生産されており、国内で作られるうちわの約9割が丸亀市で制作されています。

その中でも、「丸亀うちわ」と称されているのは、江戸時代から約400年以上続く伝統的な竹製うちわのことです。

丸亀うちわは、平成9年(1997年)に国の伝統的工芸品に指定されています。

亀うちわの特徴

丸亀うちわの特徴は、1本の竹材から職人たちの手作業で1枚のうちわが作られていることです。

また、丸亀うちわが発展した背景として、うちわの材料がすべて近隣の四国内で調達できていたことにあります。

丸亀では、丸亀うちわを詠んだ、こんな詩が伝わっています。

“伊予竹に土佐紙貼りてあわ(阿波)ぐれば 讃岐うちわで至極(四国)涼しい”

骨となる竹は伊予(愛媛県)から、紙は土佐(高知県)から、紙糊は阿波(徳島県)からと、昔はもちろんのこと、現代においても、すべての材料を近場で調達できることは、丸亀うちわの一つの強みとなっています。

丸亀うちわの歴史

それでは、丸亀うちわはどのようにして作られるようになったのか、その歴史を紐解いていきましょう。

亀うちわのはじまりは江戸時代?

讃岐国さぬきのくに(現在の香川県)の金毘羅大権現こんぴらだいごんげん(現在の金刀比羅宮ことひらぐう)を参拝する、“金毘羅こんぴら参り”が人々の間で流行しはじめたのは、江戸時代のことといわれています。

その金毘羅参りの土産物として、寛永10年(1633年)に考案されたのが、朱色の地に“金”の印が入った「渋うちわ」で、これが丸亀うちわのはじまりとされています。

男竹を使った丸い柄をした渋うちわは、柿渋塗りの丈夫な造りをしており、海の玄関口となった丸亀港では、この土産物の渋うちわが飛ぶように売れ、次第に全国に知れ渡っていきました。

なお、丸亀うちわの起源については諸説あり、江戸時代に丸亀藩が藩士の内職に推奨した「女竹丸柄めだけまるえうちわ」の存在や、奈良うちわを手本とする「男竹平柄おだけひらえうちわ」の説もあります。

男竹おだけ(雄竹):真竹まだけ破竹はちく孟宗竹もうそうちくなどの大きく、かんの太い竹を指す。なお、男竹よりも棹が細い篠竹しのたけ川竹かわたけなどの笹系のものを女竹めだけ(雌竹)という。

亀が「日本一のうちわどころ」の地位を確立した大正~昭和期

明治時代には、既に地場産業となっていた丸亀うちわは、より生産量を増やすために、製造が比較的簡単な平柄うちわが主流となっていきます。

大正時代に入り、うちわ作りの工程の機械化によって生産量が格段に伸びたことで、丸亀は「日本一のうちわどころ」となり、昭和30年代(1955年~1965年頃)には最盛期を迎えます。

在の丸亀うちわ

提供:(公社)香川県観光協会

その後も、国内生産シェア9割を占める丸亀のうちわ産業は、現在、工芸品としての丸亀うちわと、工業製品としての丸亀ポリうちわ(プラスチック製のうちわ)の二本柱で営まれています。

また、丸亀うちわが伝統的工芸品に認定されたことで、職人の手仕事によって生み出される丸亀うちわの魅力に再び脚光が当たるとともに、この伝統を引き継ぐ後継者育成にも力が入れられています。

丸亀うちわの作り方

1本の竹材から47の工程を経て作られる丸亀うちわは、大きく「骨」づくりと「貼り」の2つの作業に分けることができます。

それでは、丸亀うちわの作り方について、みていきましょう。

骨」づくり

まず、丸亀うちわの本体となる「骨」を作っていきます。

竹挽たけひき~ふしはだけ

まずは、1本の竹をそれぞれ中心に節が残るよう、40~45㎝ごとの長さに切断します。
(竹挽き)

切断した筒状の竹は「くだ」と呼ばれ、数日水につけて柔らかくします。
(水かし)

柔らかくなった管を、一定の幅で縦に割っていきます。
(木取り)

木取りした1本1本の、節を含む内側の身を削り取ることで、一定の厚みに整えます。
(ふしはだけ)

き~柄削えけず

切り込み機に竹材を固定し、刀を使って穂先に切り込みを入れていきます。

この時、切り込みの数はうちわの種類によりますが、35~40本程になるよう等間隔に割いていきます。
(割き)

そして、切り込みを入れた穂先を握り、左右にねじりながら、切り込みを節までもみおろします。
(もみ)

次に、穴あけ用のキリを使って、節に“鎌(弓竹)”を通すための穴を開けます。
(穴あけ)

節に通す鎌は、丸亀うちわの丸みを出すのに重要な役割を担っており、一本一本、職人が切り出し用の小刀を使って削り出しています。
(鎌削り)

また、うちわの持ち手となる柄の部分を、手になじむよう削り整えます。
(柄削り)

編み~

節に通した鎌の先に糸を結び付け、穂一本一本に糸を編んでいきます。
(編み)

糸を編み込んだら穂を広げ、穂と糸山が綺麗な左右対称の曲線になるよう整えたら、糸をもう一方の鎌の先に結び付けます。
(付け)

これで、丸亀うちわの土台となる「骨」の完成です。

骨づくりを専門とする職人のことを、「骨師」と呼びます。

うちわをあおいだ時のしなり具合が決まるため、うちわの良し悪しに影響する重要な工程です。

貼り」

次に、「貼り」の作業に入ります。

耳摘み~あご切り

骨のいらない部分を切り落とします。
(耳摘み)

片面ずつ、穂に刷毛で薄く糊をつけ、紙を貼り付けます。
(糊付け)(貼り)

さらに、紙を貼った上からたわしでこすり、穂の筋を出していきます。
(貼立)

一旦うちわを干した後、うちわの種類によっては、鎌の下の部分の余った紙をやすりで取り除きます。
(あご取り)

型切り~耳貼り・元貼り

たたき鎌を使って、穂をうちわの形にたたき切ります。
(型切り)

型切りしたうちわの縁に、細長いヘリ紙を貼り、さらに、鎌の両端に耳を、取っ手の根元部分に元飾りを貼ります。
(へり取り)(耳貼り・元貼り)

完成(筋入れ・名入れ)

最後にうちわをローラー機に通し、穂の筋をしっかり出してたら、丸亀うちわの完成です!
(筋入れ)

この時に、名前を入れることもあります。
(名入れ)

どの工程にもコツが必要で、一朝一夕では身に着けることができない精緻で熟練された、職人のなせる技が用いられています。

丸亀うちわの伝統工芸士とニュー・マイスター

その昔、「骨」づくりと「貼り」の作業は分業で行われていましたが、近年では、基本的に職人一人ですべての工程を担っています。

現在、丸亀うちわの職人として国家資格を有する「伝統工芸士」は、9名いらっしゃいます。
※平成30年(2018年)4月現在

また、後継者の育成として、平成11年(1999年)より開催されている丸亀うちわ技法・技術後継者育成講座の修了生の中から、さらなる修行と実務を重ねた「丸亀うちわニュー・マイスター」と呼ばれる職人28名が、伝統工芸士とともに丸亀うちわの継承と発展を支えています。

丸亀うちわづくりを体験できる体験施設

提供:(公社)香川県観光協会

ここまで読み進めていく中で、丸亀うちわを作ってみたい!と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここでは、実際に丸亀うちわ作りを体験できる、2つの体験施設をご紹介しましょう。

※本記事の内容は2020年1月時点のものです。
 掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については、事前に各施設へお問い合わせください。

ちわ工房「竹」(香川県丸亀市)

うちわ工房「竹」は、丸亀市の中心に鎮座し、高石垣が美しいことで有名な丸亀城の敷地内に併設されている体験施設です。

丸亀うちわの販売はもちろんのこと、職人たちによる丸亀うちわ作りの実演とともに、骨づくりから貼りまで体験できる、丸亀うちわの製作体験も行っています。

場所がら、貼りの糊が乾くまで、丸亀城を散策するのもオススメです♪

住所:〒763-0025
   香川県丸亀市一番丁丸亀城内
営業時間:10:00~16:30
休館日:毎週水曜日、年末(12月27日~31日)
入場料:無料
体験内容:うちわ製作体験 約1時間程 1,000円/1本
     予約制(10:00~16:00)
アクセス:JR丸亀駅から徒歩15分

ちわの港ミュージアム(香川県丸亀市)

提供:(公社)香川県観光協会

丸亀港にそびえ立つ「うちわの港ミュージアム」は、愛称“ポルカ(POLCA)”の名で親しまれており、丸亀うちわの歴史と魅力を伝える総合博物館です。

館内は展示室のほか、職人たちによる実演コーナーや、さまざまな種類の丸亀うちわを販売するショップもあります。

さらに、丸亀うちわの貼りができる体験教室も!

工作感覚で貼りの体験ができることから、子供たちからも人気です。

住所:〒763-0042
   香川県丸亀市港町307-15
開館時間:9:30~17:00
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
年末年始(12月29日~1月3日)
体験内容:うちわ貼り体験 約40~50分程 800円/1本
     予約制 (①9:30~11:30 ②13:30~15:30)
アクセス:JR丸亀駅から徒歩11分

おわりに

ひと昔前の日本では、うちわは夏の涼をとるだけでなく、家内の必須道具として、火を起こしたり、食べ物を冷ましたりなど、暮らしの中に当たり前にあるものでした。

現代では夏の風物詩となりましたが、ぜひ次の夏は、プラスチック製のうちわではなく、伝統的な丸亀うちわを手にしてみるのはいかがでしょうか?

丸亀うちわを一振りすれば、その扇ぎやすさと心地よい風に、きっと虜になることでしょう。

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