今は都会ではあまり見かけなくなりましたが、昔は夏になると必ずといっていいほど、家々の軒先に吊るされていた風鈴。
皆さんは風鈴というと、どのような素材のものを思い浮かべますか?
代表的なのは、ガラス製の江戸風鈴と鋳物製の南部風鈴です。
今回は、岩手県の名産品「南部風鈴」について、その特徴や歴史など詳しく解説していきます。
南部風鈴で有名な工房、数百個もの南部風鈴が奏でる音色が楽しめるイベントも合わせてお伝えします♪
最近の日本の夏は、まさに酷暑と言うにふさわしいですね。本当に困ったものですが、昔から日本人は夏を少しでも涼しく過ごそうと、工夫をしてきました。その1つが風鈴です。今回は日本の夏の風物詩、風鈴の魅力について伝えていきたいと思います。
涼やかな音色が特徴の「南部風鈴」とは?
南部風鈴とは、岩手県の伝統的工芸品・南部鉄器で作られた鋳物製の風鈴です。
まずは、その特徴から見ていきましょう!
岩手県の伝統的工芸品である南部鉄器は、主に「盛岡市」と「奥州市水沢」で作られています。最近ではモダンなデザインも増え、海外でも人気となっている南部鉄器について、その魅力や正しい使い方、老舗の工房をご紹介します。
南 部風鈴の特徴
南部風鈴の最大の特徴は「音」です。
他の風鈴では出せない、高く澄んだ音で、「リーン」と長く音色を奏でること。
その秘密は、良質の砂鉄や岩鉄(鉄鉱石)を原料に、密度の高い鋳物・南部鉄器で作られているからです。
また、南部風鈴の美しい音色は、環境省が選定する「残したい“日本の音風景100選”」にも選ばれているんですよ♪
南部鉄器(風鈴)の歴史と背景
次に、癒し効果の高い南部風鈴がどのような背景から作られるようになったのか、その歴史を紐解いてみましょう。
平 安時代末期に近江から鋳物職人を招いたのが始まり
岩手県の中でも、南部鉄器の産地として有名なのが奥州市水沢と盛岡市です。
歴史として古いのが水沢の鉄器で、そのルーツを辿ると、今から900年以上前の平安時代末期まで遡ります。
“後三年の役”で勝利し、後に岩手県の平泉に中尊寺を建立した藤原清衡が、近江国(現在の滋賀県)から鋳物職人を招き、仏具を作らせたのがはじまりだとされています。
一方、盛岡では江戸時代に、京都から招いた釜師に茶釜を作らせたことからはじまり、茶釜にツルと口を付けて鉄瓶にしたことで、手軽に愛用されるようになりました。
南 部風鈴ができたのは昭和になってから
水沢と盛岡で作られた鋳物が、「南部鉄器」と呼ばれるようになったのは、昭和になってからのことでした。
生活様式が大きく変わった戦後、昭和34年(1959年)に水沢と盛岡の鋳物組合が共同して“岩手県南部鉄器協同組合連合会”を設立したことをきっかけに「南部鉄器」という名称に統一されました。
そして、南部鉄器において量産が可能な“生型”という製法を本格的に取り入れるようになると、南部風鈴や花瓶、鍋などが作られるようになります。
伝統工芸品として歴史の古い南部鉄器ですが、南部風鈴としては、まだそれほど歴史があるわけではないんですね。
南部鉄器は鉄を溶かし型に流し込む、鋳金(ちゅうきん)という技法で作られています。解けた金属を流し込む型を鋳型といい、生型と焼型の2種類あります。今回は、焼型を使用した鉄瓶の製造工程をご紹介します。
南部風鈴の工房
現在、岩手県南部鉄器協同組合連合会に加盟する南部鉄器の工房は70社以上あります。
ここでは、南部風鈴を制作している代表的な4つの工房をご紹介します。
岩 鋳(いわちゅう)
明治35年(1902年)創業の「岩鋳」は、国内でも珍しい大きな工場を持つ南部鉄器の工房です。
独自の技術により開発したカラフルな色の南部鉄器は、おしゃれな伝統工芸品として海外でも大人気なんですよ!
今では、製品の半分近くが欧米・アジアを中心とした海外で販売されています。
また、岩鋳の工場はショップが併設されたテーマパーク型になっていて、南部鉄器の展示ギャラリー、職人さんが実際に作業している様子を見学できるコーナーもあります。
運が良ければ、高温で真っ赤になった鉄を型に流し込むシーンが、間近に見られるかも知れませんよ。
住所:〒020-0863
岩手県盛岡市南仙北2-23-9 岩鋳鉄器館
営業時間:8:30~17:30
定休日:火曜日、12月31日、1月1日
入場料:無料
アクセス:
【バスの場合】
・JR「盛岡駅」より岩手交通バス「川久保」下車 徒歩5分
【自動車の場合】
・東北自動車道「盛岡南IC」より約4km
※営業時間や定休日などは変更となる場合がございます。
詳細は公式HPをご確認ください。
鈴 木盛久工房(すずきもりひさこうぼう)
寛永2年(1625年)より15代続く、南部鉄器の老舗「鈴木盛久工房」。
13代目・鈴木繁吉盛久氏は、人間国宝として文化庁から無形文化財に認定。
現在の15代目・鈴木志衣子盛久氏は、女性らしい感性で若い世代の人にも使ってもらえるような、おしゃれな日用品の制作にも力を注いでいます。
住所:〒020-0874
岩手県盛岡市岩手県盛岡市南大通1-6-7
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜日
入場料:無料
アクセス:
【バスの場合】
・JR「盛岡駅」より岩手交通バス「盛岡バスセンター」下車 徒歩3分
【自動車の場合】
・東北自動車道「盛岡南IC」より約7.6km
※営業時間や定休日などは変更となる場合がございます。
詳細は公式HPをご確認ください。
小 笠原鋳造所(おがさわらちゅうぞうじょ)
父の跡を継ぎ、60年以上鉄器職人として作品を作り続け、料理研究家・栗原はるみとのコラボでも注目された小笠原陸兆氏の工房である「小笠原鋳造所」。
デザインは至ってシンプル。
シンプルがゆえに洗練されたデザインは、和洋中問わず食卓をおしゃれな空間へといざなってくれます。
また、生型製法で作られているため、価格もリーズナブルなのが特徴です。
残念ながら、平成24年(2012年)に小笠原陸兆氏が亡くなられ工場は閉鎖してしまいましたが、今でも小笠原氏がデザインした鉄器は、周辺の工場で製作され、ネットなどでも購入できるようになっています。
南部鉄器を使うのがはじめてという方なら、リーズナブルな価格の小笠原氏の作品から手に取ってみるのも良いかも知れませんね。
及 富(おいとみ)
江戸時代前期の元禄年間に“盛耕堂”として創業、嘉永元年(1848年)に“宝生堂 及川勘太郎”と改名。
その後、及川富之進から「及富」と名乗るようになり、令和3年(2021年)現在は7代目となります。
最近では、ゴジラ生誕65周年を記念して制作した“南部鉄瓶ゴジラ”が、日本鋳造工学会主催の“キャスティングス・オブ・ザ・イヤー賞”を受賞し、話題になりました。
住所:〒023-0105
岩手県奥州市水沢区羽田町宝生57
営業時間:9:00~17:00
定休日:土日祝日(展示スペースのみ営業)
アクセス:JR東北新幹線「水沢江刺駅」下車 徒歩10分
※営業時間や定休日などは変更となる場合がございます。
詳細は公式HPをご確認ください。
南部風鈴の音色を感じられるイベント
自宅で南部風鈴を楽しむのも素敵ですが、旅先で南部風鈴の音色を楽しめたらより思い出深い旅になりそうじゃないですか?
そこで、南部風鈴の地元・岩手県と古都・京都の2箇所で、南部風鈴が楽しめるイベントをご紹介します。
※本記事の内容は2021年1月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に各施設
へお問い合わせください。
【 水沢駅の風鈴】「残したい“日本の音風景100選”」にも選出
毎年6月から8月にかけ、涼やかな音色を奏でるJR東北本線・水沢駅構内の南部風鈴。
別名「風鈴駅」とも呼ばれる水沢駅では、昭和38年(1963年)からさまざまな形の南部風鈴をホームに飾り、駅に訪れる人々を涼やかな音色で歓迎します。
その心地よい美しい音色は、環境省が選ぶ「残したい“日本の音風景100選”」にも選ばれるほど。
住所:〒023-0828
岩手県奥州市水沢東大通り1-9-1 JR東北本線水沢駅ホーム内
開催時期:6月~8月
アクセス:
【電車の場合】
・JR東北線「水沢駅」ホーム内
【自動車の場合】
・東北自動車道「水沢IC」より4.2km 「水沢駅」ホーム内
【 清水寺の風鈴】10年以上続く、震災復興祈願の音色
岩手県から遠く離れた、古都・京都の清水寺でも、夏になると約500個もの南部風鈴がお寺の回廊に飾られ、涼やかな音色で参拝者を迎えてくれます。
平成22年(2010年)からはじまったこの取り組みは、東日本大震災の早期復興の祈念がされてきましたが、令和2年(2020年)は新型コロナウィルスの早期終息の祈念も新たに加わりました。
住所:〒605-0862
京都府京都市東山区清水1-294
開門時間:6:00~18:00
※ただし、時期により閉門時間が異なるので詳細は公式HPをご覧ください。
開催時期:7月~8月末
アクセス:
・JR「京都駅」より京都市交通局(市バス)206系統(東山通北大路バスターミナル行)、100系統(清水寺祇園 銀閣寺行)「五条坂」下車 徒歩10分
・阪急電鉄「河原町駅」より京都市交通局(市バス)207系統(東福寺・九条車庫行)「清水道」下車 徒歩10分
・京阪電鉄「清水五条駅」より徒歩25分
おわりに
いかがでしたか?
岩手県が世界に誇る伝統的工芸品・南部鉄器で作られる南部風鈴。
その涼やかな音色が五感を刺激し、蒸し暑い日本の夏に涼を運んでくれる……実に風情のある風景ですよね。
鉄器職人さんが丹精込めて丁寧に作り上げた南部風鈴は、その丈夫さから手入れをしながら使えば、子や孫にまで受け継ぐことができるといわれています。
今年の夏は、南部風鈴の美しい音色で涼をとってみませんか?
江戸風鈴とは、江戸時代と同じ製法で、江戸(東京)で作られているガラス風鈴のことです。ガラス風鈴が庶民の間で親しまれるようになったのは、江戸時代末期のことで、ガラス風鈴の伝統の技を唯一今に引き継いでいるのが、江戸風鈴です。 今回は、300年前と変わらない製法で作られている江戸風鈴の伝統の技に迫ります。
ワゴコロ編集部が全国の伝統工芸体験を紹介していくワゴコロ体験レポート。今回は、“江戸風鈴製作体験”をしに、江戸川区にある「篠原風鈴本舗」さんに行って来ました!
日本の夏の風物詩・風鈴とは言いますが、都会暮らしの方などは、風鈴を持っていない方のほうが多いのではないでしょうか。そこで今回は、風鈴をもっと身近に感じていただくための情報をご紹介していきます。
金工とは金属に細工をする工芸、あるいはその職人のことを指し、金属を加工して作られる工芸品のことを金工品と言います。日本に金属とその加工技術がもたらされたのは、弥生時代初期、紀元前200年頃のこと。中国大陸・朝鮮半島から伝わった金工技術によって剣や銅鐸、装身具などが作られ、材料として青銅や鉄が使われていました。
日本の夏の風物詩として親しまれている「風鈴」。風に揺らめく姿とその涼やかな音色は、まとわりつくような蒸し暑さを和らげ、癒しと清涼感を与えてくれますね。今回は、必要な材料がセットになった風鈴の手作りキットと、伝統ある風鈴作りを体験できる工房をご紹介していきます!