はじめに
福井県越前地方の岡太川流域で1500年程前から作られている、越前和紙。
「紙の王様」と呼ばれる越前和紙は、美しい生成り色で表面は滑らか、丈夫さと美しさを併せ持つ極上の和紙です。
日本伝統の文化が息づくこの越前和紙について、今回は詳しく見ていきたいと思います。
越前和紙の歴史
越前和紙の伝統は古く、日本に紙が伝来した4~5世紀には現在の福井県越前地方の岡太川流域で生産されていたと言われています。
越前和紙の起源には逸話があり、継体天皇がまだ親王であった頃に岡太川を訪れ、女神のような美しい女性から紙漉きの技術を伝えられたというものです。
当時の住民はこの女性を川上御前としてあがめ、岡太神社を建立しました。
現在でも福井県越前地方の無形民俗文化財として大切に扱われており、「神と紙の祭り」も開催されています。
薄くて丈夫な越前和紙は、紙幣としても用いられました。
古くは福井藩の藩札として、明治時代には全国で使われた太政官金札として使用されています。
機械での大量印刷が行われるまでは、日本銀行券、つまり私たちが使用さるお札にまで越前和紙が使われていました。
越前和紙が日本を代表する和紙であった証でもあります。
越前和紙の特徴
越前和紙は熟練した職人たちによって一枚一枚手漉きによってつくられています。
楮、三椏、雁皮などの原料を、トロロアオイという「ネリ」の入った槽で漉いていくのです。
このトロロアオイは「黄蜀葵」といい、糊のような形状で原料の繊維を上手に絡ませることができます。
こうしてできあがった越前和紙は、手漉きによってできるので温かみに満ちています。
和紙表面は優雅な肌合いで、紙そのものの持つ風格、強靭さは言葉ではすべてを語ることができません。
使う人の豊かな感性をくすぐる、日本文化が色濃く息づく和紙となっています。
越前和紙の品質
越前和紙は古来より上質の和紙として重宝されており、平安時代には紫式部や清少納言といった文学作品の紙として、江戸時代には幕府の御用紙として使用されてきました。
現在でも、高級木版画の用紙としても使われています。
その他にも、上質な越前和紙は美術工芸品や室内の内装にも使われています。
越前和紙の繊維は長く、繊維の隙間に水分を含むこともできるため、室内の湿度にあわせて、吸湿・放湿をしてくれます。
越前和紙は呼吸しているのです。
室内の湿度を調節してくれる機能があるので、結露やカビを防止してくれるだけでなく、花粉のような微小な物質を吸着する性質まであります。
楮や三椏といった自然の素材を原料としているので、シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを放出するようなこともありません。
越前和紙の種類
伝統の品質を持っている越前和紙はさまざまな用途で用いられています。
以下の部分でその種類について詳しく見ていきましょう。
奉 書紙
越前和紙の中でも、上質の楮を使って作られる和紙で公用紙として用いられてきたものです。
宮中の公文書として用いられた奉書紙は、御教書紙と言われ、高貴な人の間で重宝されてきました。
現在では、木版画や結納包、免状やのし紙といった特別な紙として用いられています。
生漉きの奉書紙は木版画用紙の最高級品とされているほどです。
檀 紙
檀紙は、奉書紙と比べ、紙肌がごつごつとした厚手の楮の和紙です。
荒々しい紙肌が中世の武家社会では重宝され、室町幕府では将軍の花押が捺印される御判御教書の料紙として使用されていました。
近世になると、和紙作成の技術として、独特の皺というしわが檀紙特有の味わいとして作られるようになっています。
波のような波皺、菱皺などの皺があり、免状用紙や茶席用の紙として用いられています。
書 画用紙
高い品質を持つ越前和紙は、書道の書画用紙としても多くの書家から愛用されています。
書家の要望に応え、雁皮や楮の他にも竹やわらを混ぜ合わせるなど非常に多彩な面も持ちます。
代表的な書画用紙としては、岩野平三郎製紙所で漉かれている雲肌麻紙があります。
鳥 の子紙
鳥の子紙とは越前を主産地とする和紙で、滑らかな紙質と色合いが鳥の卵に似ていることから命名されています。
襖や内装、印刷用紙など多様な使われ方がなされている紙で、特に襖紙としては有名で、虫害が少ないことから伝統的に使用されています。
上記の他にも、薄様紙や漉き模様鳥の子紙、美術工芸紙など多くの種類の越前和紙が生産されています。
越前和紙の人間国宝
1500年にもわたり作り続けられた越前和紙の歴史は、職人たちの歴史でもあり、多くの名工がうまれてきました。
名工として名高いのは故8代岩野市兵衛と9代岩野市兵衛で、この2人は重要無形文化財の人間国宝にも認定されています。
9代岩野市兵衛は84歳を超えた今でも健在で、2014年からは世界最大級の美術館であるルーヴル美術館にも和紙をおさめています。
ルーヴル美術館では数百年前の絵画や版画が数多く所蔵されていますが、当時のような楮や三椏を使用した紙が現代では手に入りにくく、絵画や版画の修復時に困難がありました。
ルーヴル美術館の学芸員が世界中の紙を検討する中で、最も高い評価を与えられたのが、9代岩野市兵衛が作る越前和紙だったのです。
9代岩野市兵衛手ずからの生漉越前奉書は多くのアーティストをとりこにしており、横山大観や草間彌生なども作品に用いています。
おわりに
このように古くから愛されてきた越前和紙は、伝統を受け継ぐ職人の手によって現在でも注目を浴びています。
福井県越前市には、紙漉き体験ができる「パピルス館」や越前和紙の歴史に触れられる「紙の文化博物館」などが集まった「越前和紙の里」があります。
江戸時代中期の紙漉き家屋を復元した「卯立の工芸館」では伝統工芸士による技も見ることができます。
越前和紙を肌で感じることのできる体験型パビリオンとなっていますので、興味のある方はぜひ足を運ばれてみてください。
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