本州のほぼ中央に位置し、1年を通して気候の変化が激しく、寒暖差が大きい福井県。

幸福度ランキングでは常に上位にランクインし、特に仕事や教育の面で高い評価を得ています。

また、福井県には日本最大の恐竜化石発掘現場があることから“恐竜王国”とも呼ばれており、勝山市にある「福井県立恐竜博物館」は、世界三大恐竜博物館の一つに数えられています。

このほかにも、サスペンスドラマ終着の舞台として有名な「東尋坊」や、越前港で水揚げされる「越前ガニ」など、観光スポット・グルメが充実した県です。

そんな福井県では、何百年も前から受け継がれてきた技術で作り上げた、30品目以上の伝統工芸品が存在します。

この記事では、その中でも経済産業大臣によって福井県の「伝統工芸品」として指定されている越前漆器、越前和紙、若狭めのう細工、若狭塗、越前打刃物、越前焼、越前箪笥をご紹介します。

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

本記事の内容は、令和4年(2022年)1月時点のものです。
掲載内容は変更していることもありますので、ご留意ください。

越前漆器

ものづくりが盛んな町として有名な鯖江さばえ市周辺を産地とする「越前えちぜん漆器」。

その起源は古く、1500年前に黒ぬりの椀をのちの継体けいたい天皇に献上したところ、その艶に感動した天皇から漆器作りを奨励されたのが始まりとされています。

江戸時代から明治時代にかけて、蒔絵まきえ※1沈金ちんきん※2といった装飾の技術が加わり、漆器の一大産地となっていきました。

越前漆器は軽さや丈夫さ、沈金や蒔絵を用いた優美さに定評がありますが、特に漆を塗った後に磨かず仕上げる“花塗り”を得意としており、深みのある艶が魅力的です。


※1 蒔絵まきえ:絵や文様を漆で描き、漆が固まる前に金や銀などの金属粉を表面にいて装飾する技法のこと。

※2 沈金ちんきん:漆器にノミで模様を彫り、できた溝に金箔や金粉をすり込む装飾技法のこと。

越前漆器は時代のニーズに合わせ、大量生産の技術も生み出し、今も外食産業や業務用漆器の8割以上を生産しています。

また、椀のほかに重箱や盆、花器など、幅広い製品を展開しています。

品名越前漆器
よみえちぜんしっき
工芸品の分類漆器
指定年月日昭和50年(1975年)5月10日


越前和紙

「越前和紙」は越前市を産地とする手すき和紙で、日本三大和紙の一つに数えられます。

約1500年前に岡太地区を流れる川に現れた女神が、村人に手すき和紙の技術を教えたのがルーツだと伝えられています。

トロロアオイの粘液を加えて作る越前和紙は、生成りの美しさと丈夫さを備えた最高品質を誇る和紙として、公文書やお札、短冊、色紙、ふすま紙など多種多様な和紙を生産してきました。

かつて、公文書として用いられた強靭な“奉書紙ほうしょし”、コウゾを用いた厚手の紙で武家社会において気風が合っていたことから好まれた“壇紙だんし”、滑らかな紙質で襖紙などによく用いられる“鳥の子紙”などがあります。

品名越前和紙
よみえちぜんわし
工芸品の分類和紙
指定年月日1976年(昭和51年)6月2日


越前和紙についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください♪

若狭めのう細工

若狭わかさめのう細工」は、小浜市に伝わる伝統的工芸品で、しま模様をもつ石英という石に、時間をかけて彫刻・研磨を施して形を作る貴石きせき細工です。

主に愛らしい動物や仏像、お椀や箸置きといった日用品、装身具などに仕上げられています。

若狭めのう細工は独特の焼き入れ工程により生まれる半透明の赤色や繊細な形・細工が美しく、日本の貴石細工のルーツともされています。

その歴史は古く、その昔、玉を信仰する鰐族わにぞくという渡来人の一族が、この地で玉を作ったのが起源とされています。

江戸時代に玉に美しい色を出す技術、明治時代に彫刻の技術が生まれ、若狭めのう細工の技法が確立されました。


※貴石:ダイヤモンドなど、とくに珍重される高値の宝石のこと。

品名若狭めのう細工
よみわかさめのうざいく
工芸品の分類貴石細工
指定年月日昭和51年(1976年)6月2日


若狭塗

小浜市で生産される「若狭塗わかさぬり」は、江戸時代に若狭の職人が中国の漆器を基に、海底の様子を図案化したことから始まったといわれている漆器です。

その後、原形を改良することで「菊塵塗きくじんぬり」、さらに「磯草塗いそくさぬり」を生み出し、今に伝わる若狭塗が完成しました。

卵の殻や貝殻、マツの葉を使って模様を表現し、その上に漆を塗り重ね、石や炭を使って漆を研いでいきます。

すると、まるで海底のような、神秘的かつ美しい模様がキラキラと浮かびあがるのです。

若狭塗の完成には数ヶ月から1年の歳月を要し、一つとして同じ物がないため、高級品として扱われてきました。

盆や重箱などさまざまな製品がありますが、近年では若狭塗の箸が広く知られています。

品名若狭塗
よみわかさぬり
工芸品の分類漆器
指定年月日昭和53年(1978年)2月6日


越前打刃物

越前市を産地とする「越前打刃物えちぜんうちはもの」は、鉄をたたいて作る刃物のことで、現在は主に包丁、なた、苅込はさみなどが作られています。

越前打刃物の歴史は、南北朝時代に京都の刀工がこの地へ移り住み、周りの農民のために鎌を作ったのが始まりです。

江戸時代には福井藩の保護を受け、漆かき職人が漆を求めながら刃物を売り歩いたことから、全国に販路が広がりました。

越前打刃物は、古くから伝わる火づくりの鍛造たんぞう技術と、包丁の刃の部分を2枚重ねてハンマーで叩き、素早く薄く延ばす“二枚広げ”や、鎌の刃先にあたる鋼を片隅から全体をひし形につぶす“廻し鋼着け”という独特の技法を使って仕上げるのが特徴です。

これらの技法によって生み出された越前打刃物は、薄く軽量かつ鋭い切れ味の刃物として国内のみならず、海外からも高い評価を受けています。


※鍛造:金属を叩いて圧力を加え、強度を高めながら形を成形していく手法のこと。

品名越前打刃物
よみえちぜんうちはもの
工芸品の分類金工品
指定年月日昭和54年(1979年)1月12日


越前焼

越前焼えちぜんやき」は、越前町で焼かれている陶磁器で、日本六古窯にほんろっこよう※1の一つに数えられています。

平安時代末期、この地域で常滑焼の技法を取り入れた作陶がはじまり、当初は壺や鉢など日用品が作られていました。

室町時代後期には、日本海側最大の焼き物の産地となり、越前焼も最盛期を迎えました。

鉄分の多い地元の土を使う越前焼は、釉薬ゆうやく※2を使わない焼き締めの素朴なおおむきや、灰が溶けて器にかかった自然の釉薬の風合いが人気となりました。


※1 日本六古窯:縄文時代から現在まで生産され続けている代表的な6つの窯(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称。

※2 釉薬:陶磁器の表面を覆っているガラス質の部分のこと。

越前焼は大物の成形にはろくろを使わず、ひも状にした土をねじりながら巻き付ける“ねじ立て”という方法を使います。

近年では、粘り強く丈夫に焼きあがる土の特性を生かした薄手の器も増えています。

品名越前焼
よみえちぜんやき
工芸品の分類陶磁器
指定年月日昭和61年(1986年)3月12日


越前箪笥

越前市や鯖江市で製造される「越前箪笥えちぜんたんす」は、深い艶と重厚感が味わい深い家具です。

江戸時代後期、越前指物の技術を活用し、釘を使わずに、凹凸おうとつをつけた木材を組み合わせる“ほぞつぎ”や“組つぎ”という技法を用いた越前箪笥の製作が始まりました。

明治時代になると本格的な箪笥職人が増え、昭和時代中頃には越前市の旧北陸道(国道365号線)沿いには箪笥屋が15店ほど建ち並び、「タンス町通り」と呼ばれるようになりました。

ケヤキやキリで作る越前箪笥は耐久性があり、実用性に優れていることに加え、重厚な鉄の金具と艶やかな漆塗りが魅力です。

これらは越前打刃物の技術や越前漆器の木目を生かす春慶塗しゅんけいぬり、黒色の光沢がある呂色塗ろいろぬりといった越前の伝統技術を取り入れたもの。

まさに越前箪笥は、工芸の発達した越前地方らしく、指物、打刃物、漆器の技術の粋が結集した木工品と言えます。

品名越前箪笥
よみえちぜんたんす
工芸品の分類木工品・竹工品
指定年月日平成25年(2013年)12月26日