日本の伝統楽器の中でも、特に庶民に人気だったのが三味線です。

庶民文化が花開いた江戸時代には、なくてはならない楽器だったとも言えます。

同じ和楽器でも「琴」は、武家のお嬢様が習う、格式高い習い事であり、費用もかかりました。

それに比べて三味線は、「どこの町にも探せば師匠は必ずひとりはいる」と言われる程、メジャーな人気の習い事。

費用もそれほどかからないことから、人々に浸透していきました。

とは言っても、和楽器に触れることも少なくなった現代。

「三味線に興味はあるけれど、どんな曲があるのか分からない!」

そんな方も多いかもしれません。

そこで、今回はジャンル別に三味線で人気の曲をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

三味線で有名な曲

勧進帳(作詞・三世並木五瓶 なみきごへい)(作曲・四世杵屋六三郎 きねやろくさぶろう) 

歌舞伎音楽から発展してきたのが「長唄」です。

※長唄:正式には江戸長唄えどながうたと呼ばれるもので、江戸時代の元禄の頃、歌舞伎の演出として劇中に使われ発展した。歌舞伎では「長唄」の他に「義太夫」、「常盤津ときわづ」、「清元きよもと」などの三味線が使われるが、「長唄」は劇中の情景描写を担当し、他のものは登場人物の心情を表現する特徴がある。

歌舞伎とセットで有名なのが「勧進帳かんじんちょう」。

歌舞伎の演目としてもファンの多い作品ですが、長唄だけの曲としても高い人気を誇ります。

勧進帳は、源義経みなもとのよしつねが、兄の源頼朝みなもとのよりともから逃げるため、弁慶べんけい等の家来を連れて、奥州平泉に向かう途中の物語です。

山伏やまぶしに変装した義経一行が、関所について、役人・富樫左衛門とがしさえもんの問答(現代の職務質問)にあいます。

義経と見破られれば京都に送られ、殺されてしまう義経と弁慶。

富樫は、一行が本物の山伏かどうか、弁慶に山伏の修行に関する事柄に関して厳しい問いかけをします。

弁慶が機転を利かせて何とか質問をかわして、関所を通ろうとしたその時・・・逃避行のために強力ごうりきと呼ばれる荷物持ちに変装した義経が、役人に呼び止められてしまうのです。

弁慶はとっさの判断で義経を杖で叩き、疑いを晴らそうとします。

主君を打つことは、家来は絶対やってはいけない無礼なこと。

それを公衆の面前で行うことは、弁慶にとっても辛い行為ですが、義経を助けるためには他に方法がありません。

富樫は義経の変装を見破りますが、弁慶のその姿に心を打たれて、義経一行が関所を通ることを許可するのです。

役人富樫と弁慶の緊張する問答、弁慶の辛さをくみ取り義経を見逃すシーンなどは、人々の心を揺さぶる歌舞伎でも人気の演目の一つです。

長唄としての勧進帳の舞台は、三味線の他に唄とお囃子はやしと呼ばれる「笛」「小鼓」「大鼓」が一緒となります。

笛から始まり、その後、鼓同士の掛けあいがあり、唄へと繋がり三味線が入っていくのです。

一人三味線の時は細かい技術が光りますが、連弾となると迫力は倍増。

三味線と唄、お囃子が絡み合って圧倒されます。

演奏時間は約30分と長い曲ですが、飽きさせない魅力があるのです。

勧進帳は、確かな技術がないと出来ない曲目です。

直接聞けるチャンスがあれば、是非会場に行って生の演奏を聞いてみて下さい。

秋の色種 (作曲・十世杵屋六左衛門 きねやろくざえもん)

しっとりとした曲を好むなら、「秋の色種あきのいろくさ」がオススメです。

これは江戸時代後期に麻布不二見坂の南部侯邸なんぶこうていの新築祝いとして作られたと言われる長唄の名曲で、秋の草花や季節の移ろいが歌詞に入っています。

「秋草の 吾妻あがつま野辺のべのしのぶ草・・・」で始まるこの曲は、歌舞伎の演目として発展してきた長唄が、歌舞伎から独立し、長唄単独でも演目として成立する現代のスタイルの原型とも言える曲です。

自由な形式の新しい長唄は、別名「お座敷長唄」とも言われ、芸者・遊女などの社会を中心に広まっていきました。

この「秋の色種」は、幻想的な美しさと上品な雰囲気があり、日本舞踊でも人気の作品として踊られ、人々に親しまれています。

三味線は二重奏となっていて、同じフレーズを交互に弾く奏法である掛けあいです。

三味線で秋の虫の音(ちんちろりん)を表現しているところから、粋を好む江戸庶民にも人気となりました。

新娘道成寺(作曲・石川勾当 いしかわこうとう)

「"鐘に怨みは数々ござる 初夜の鐘をつく時は 諸行無常とひびくなり・・・"」

で始まるのが、「新娘道成寺しんむすめどうじょう」です。

時は平安時代、若く見目麗しい僧侶・安珍あんちんに恋をした娘・清姫きよひめ

僧侶に色恋は認められないため逃げる安珍を、純粋な気持ちで追いかける清姫ですが、やがて抑えがたい愛情は憎しみとなり、大蛇に姿を変えてしまうのです。

最後は道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を見つけ、鐘に蛇と成った体を巻き付け、自ら炎となって安珍を焼き殺してしまうという「安珍・清姫物語」は、女性の情念を表した悲恋物として有名です。

物語では、安珍を殺した清姫は、蛇のまま入水自殺をしますが、「新娘道成寺」では、安珍を殺した清姫は人間に戻ります。

そして、鐘に恨みを込めながら、女の執念や未練、愚かさ、恐ろしさ、可愛らしさなどを切々と唄いあげるのです。

地唄は箏・三味線・尺八の三曲合奏が基本となっていて、この曲も三味線の他に箏と尺八が加わります。

地唄は大人しい曲が多い中、この曲は華やかで唄も情感を込めて歌い上げることから人気があります。

同じ箏曲でも生田流・地唄の場合は「新娘道成寺」ですが、山田流の場合は「鐘が岬」と表題が変わりますが、どちらも同じ曲です。

また、この「安珍・清姫物語」は、能や浄瑠璃、歌舞伎でも演じられている、邦楽の定番の一つとなります。

三味線でオススメの曲

三味線は単独でも魅力的な楽器ですが、他の楽器と合わせると独特の世界観を出します。

何と言っても三味線は「絃楽器でありながら同時に打楽器の要素も含む」という、とても珍しい個性を持っているのです。

ここでは、アンサンブルとしてオススメな曲をご紹介します。

虫の音の手事  作曲:野村正峰(のむらせいほう)

箏の2パートと十七絃(低音専用箏)、三味線、尺八の五重奏の曲です。

前述の長唄の「秋の色種」をアレンジしたものですが、箏曲にはない長唄独特のリズムが、箏曲ファンの間でも人気を呼んでいます。

長唄の「秋の色種」のような歌は入りません。

純粋な器楽曲ですが、四種類の楽器と幅広い音域が曲に厚みを持たせていて、長唄とは違う面白さが魅力となっています。

千本桜  作詞・作曲・編曲:黒うさP

ボーカルに音声合成ソフト「初音ミク」を使用して作られた曲で、幼い子供から大人まで、幅広い層に人気があります。

インターネット上でも公開され、演歌歌手の小林幸子も歌い、紅白歌合戦にカムバックのきっかけともなったのも、この「千本桜」。

色々な人に歌われていてロングランヒットとなっています。

三味線の聴きごたえがあるのは、和楽器バンドの「千本桜」です。

イントロで弾かれる「蜷川にながわべに の津軽三味線は、インパクトがあり聞く人を一瞬で惹きつけます。

ビジュアル系なので「三味線は上手?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、確かな技術があるのは間違いありません。

まだ聞いた事が無いのなら、一度聞いてみて下さい。

尺八や箏、和太鼓の他津軽三味線といった和楽器、そしてギター、ベース、ドラムの洋楽器が加わります。

また、ボーカルは詩吟を得意とすることから、和製ロックバンドとして人気を集めています。

じょんがら  作曲:宮田耕八朗(みやたこうはちろう)

箏・十七絃・三味線の三重奏です。

津軽三味線・じょんがら節がテーマとなっています。

じょんがら節は、「津軽じょんがら節」とも言われる、青森県の津軽地方の民謡です。

一般には箏曲の三味線「中棹」が使われるため、津軽三味線のような重く大きな腹の底に響くような音色ではなく、少し軽い優しい感じの雰囲気ですとなっています。

低いパートを受け持つのは、十七絃と呼ばれる低音専用の箏で、最初から最後まで一貫してベースの役割を果たしていまするのです。

曲の構成は、三味線と十七絃で曲がゆっくりと始まり、徐々にテンポアップしていきます。

途中で三味線に替わり箏が入り十七絃との二重奏となり、じょんがらの旋律を受け継ぎ、更に加速していくのです。

「いったい、どこまで速くなるのか」は聞いている方だけでなく、弾いている方もドキドキするくらい、スピードが変化していき、最後は三味線と箏、十七絃の三重奏となり、強さと勢いをもって終わります。

箏曲の三味線は繊細なものが多いのですが、この「じょんがら」は、圧倒的な迫力があるのが魅力です。

「じょんがら節」の新たなイメージを感じられる曲とも言えるえるでしょう

三味線の練習に最適の曲

三味線は糸が三本なので簡単と思うかもしれませんが、意外と難しい楽器です。

なぜなら、自分で勘所かんどころを押さえて音程を作り出さなくてはいけないからです。

勘所は、音程を整えるために、指で絃を押さえるポイントのことです。

最初は、ゆっくりとしたフレーズの曲から始めると良いでしょう。

黒田節

「酒は飲め飲め 飲むならば日の本一ひのもといちのこの槍を・・・」と歌われる黒田節。

踊りも合わせることから、ゆっくり演奏するのが特徴です。

三味線のメロディーも歌と近いことから、弾きやすいので初心者向きの曲と言われています。

ただし、歌を全部知らない場合は、曲後半が難しく感じるかもしれません。

まずは歌を歌えるようにしてから、三味線のお稽古をすると良いでしょう。

さくらさくら

日本古謡の「さくらさくら」は、誰でも知っている曲ですし、フレーズも短いのでオススメです。

ただし三味線にも調絃ちょうげんと呼ばれる音合わせがあります。

「さくらさくら」は、本調子でも二上がりでも弾けますが、調絃が違うと左手で押さえる勘所のポジションも変わりますので、注意して下さい。

※ 本調子・・・実音で一の糸がD、ニの糸がG、三の糸がDの音程(一の糸のオクターブ上)
二上がり・・・一の糸がD、ニの糸がA、三の糸がD(一の糸のオクターブ上)

最初から色々な調絃の曲をやると、頭の切り替えが難しいですから、「最初に本調子を習ったのなら、しばらくは本調子」「二上がりで習い始めたのなら、次の曲も二上がり」でまとめることをオススメします。

おわりに

三味線は沢山のジャンルがあります。

もし実際に演奏したいと思われたのなら、ご自分の好きな三味線を見つけてみましょう。

最近はインターネットで動画などを見ながらお稽古も出来るようですが、三味線は基本が大切です。

できれば、基本だけでもプロに直接習うことをオススメします。

最初は難しいかもしれませんが、奥が深い分面白いのが三味線。決して焦らず、楽しみながらゆっくりお稽古してみてください!