最近では、三味線や和太鼓を演奏するロックバンド“和楽器バンド”が人気を集めていることもあり、聴くだけではなく「三味線を自分で弾きたい!」という方も増えてきました。

では、三味線を始めてみたい場合、何から準備をすればいいのでしょうか?

三味線を買う?教室を探す?

ちょっと待って、焦らないでください!

三味線の種類は多々あるのです。

三味線を揃えたり習ったりする前に、まずは「どんな三味線の音色が好きなのか」を確認してみるのが良いでしょう。

そこで今回は、三味線の種類(太棹・中棹・細棹)とその特徴についてご紹介します。

三味線の種類

三味線の種類は、大きく太棹ふとざお中棹ちゅうざお細棹ほそざおの3つに分けられます。

その名の通り、さおの太さが違うのですが、棹の太さに合わせて胴体も変わり、音色も変化します。

そのため、ジャンルによっても使う三味線の種類が異なってくるのです。

三味線の種類ジャンル
1太棹(ふとざお)津軽民謡、義太夫、浪曲など
2中棹(ちゅうざお)小唄、民謡、新内節、常磐津、清元など
3細棹(ほそざお)長唄、河東節(かとうぶし)など


三味線の種類1「太棹」~個性が強く、大きな音と迫力が特徴~

太棹ふとざお」の三味線は、胴体も大きいものとなります。

胴体が大きいと胴体に張られている皮も厚くなるため、音量が大きくなるだけでなく迫力に満ちた音色になるのが特徴です。

太棹を使う三味線の種類は、「津軽三味線」と「義太夫」、「浪曲ろうきょく」の3種類となります。

これら3つの三味線には、どのような特徴や魅力があるのでしょうか。

それぞれの三味線について深掘ってご説明します。

軽三味線

津軽三味線つがるしゃみせん(つがるじゃみせん)」は、もともと、青森県津軽地方で発達した民族音楽です。

目の見えない男性が、門付かどづとして各家々や祭・神社などで演奏して金銭をいただき生活していたのが始まりと言われています。

野外で人々の気を惹くためには、大きな音が必要です。

太棹三味線は、胴体が大きいため大きな音が出ることから、門付けする際の専用楽器として発達してきました。

そのため、「習い事」として一般に普及してきたのは最近の事です。

軽快なばちさばきは迫力があり、人々を魅了する事から、海外でも人気を博しています。


※門付け:日本の大道芸の一種で、人家の門前に立って音曲を奏するなどの芸をし、金品をもらい受けること。芸能の総称およびそれを行う者の総称。


津軽三味線について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください♪

太夫三味線

江戸時代に上方かみがた(今の関西地域)で発展してきたのが、文楽ぶんらく(人形浄瑠璃)です。

そして、文楽の音楽を“義太夫ぎだゆう節”と言います。

人形の舞台の脇で、太夫たゆうという語り手と、三味線の演者が二人一組で舞台を盛り上げる音楽を努めるのです。

太夫は姫君や町娘、老人、子供などさまざまな登場人物を、声を変えながら語り分けます。

そして、三味線は太夫の声に合わせながら、舞台の雰囲気を盛り上げなくてはいけません。

太夫の声に負けない迫力や、悲哀に満ちた繊細な音を要求されるのが「義太夫三味線ぎだゆうしゃみせん」なのです。

伴奏の三味線奏者と語り手の2人で舞台を演じる「浪曲ろうきょく」は、今ではあまり演奏されなくなっています。

小舞台で人気を集めた時代もありましたが、昭和にTVがお茶の間に普及したことから、ビジュアルが地味な浪曲は、衰退してしまいました。

しかし、「ジャズのセッションのよう」とも言われており、そのライブ感も魅力の一つ
なので、ぜひ一度聞いてみてください。

三味線の種類2 「中棹」 ~他の楽器や人の声と合わせやすい音域が特徴の一番身近な三味線~

中棹ちゅうざお」の三味線は、庶民の生活の中に溶け込み、愛されてきた楽器の一つです。

他の楽器や人の声と合わせやすい音域が特徴で、幅広いシチューションで使われてきました。

また、皮も太棹三味線ほど大きな皮を使わないで済むので、作りやすいという利点もあり、中棹三味線は庶民の間に普及していきました。

さまざまな地域で歌われていた民謡やお祭りの伴奏など、郷土芸能にも欠かせない楽器として活躍してきました。

中棹」の三味線が使われるお祭り

徳島県の「阿波踊り」

徳島県の「阿波踊り」は全国的にも有名ですよね。

「踊るアホに見るアホ・・・」の歌でも知られる阿波踊りは、自由奔放な男踊りと両手を高く上げたまま華やかに足並みを揃える女踊りがあります。

この阿波踊りの軽快な「お囃子おはやし」というリズムを支えるのが、中棹三味線やかね(丸い皿型の金属製打楽器)、大太鼓、締太鼓です。

富山県の「おわら風の盆」

富山県富山市八尾地区で長年伝えられてきたのが「おわら風の盆」です。

テレビドラマや映画にもなった高橋治たかはしおさむの小説、『風の盆恋歌』のストーリーとも相まって人気を集めました。

三味線で奏でられた哀愁漂う「越中おわら節」の旋律は郷愁があり、元気で軽快なお囃子を支える三味線音楽とは別の、寂しく切ない面を見せてくれます。

「中棹」の三味線が使われる民謡

福岡県の「黒田節」や群馬県の「八木節」、山梨県の「武田節」や山形県の「花笠音頭」、熊本県の「おてもやん」・・・全国には数えられないほどの民謡があります。

踊りも付いているのが一般的で、三味線を中心に笛や太鼓が伴奏として使われます。

こうした民謡に使われる三味線というと、中棹を使うのが一般的です。

中棹は何と言っても一番利用度が高く、広く世間に普及しているため、手に入りやすいことから、民謡にも広まっていったようです。

その地域でしか知られていない曲があるというのも、民謡の魅力でしょう。

中棹」の三味線が使われる箏曲(生田流・地唄)

琴(箏)には「生田流」と「山田流」の二大流派がありますが、生田流では中棹を使います。

生田流は繊細で華やかな琴(箏)が特徴ですが、生田流の三味線は地唄と呼ばれるものが多いです。

この「地唄」は、もともと「地元の唄」というもので、地域の風景を唄いながら、尺八や琴(箏)、三味線の三曲合奏として発展してきました。

唄の伴奏を務める三味線は、唄を引き立たせる役割があるため、ゆっくりと落ち着いた雰囲気のメロディーのものが多いです

※唄のない曲の場合は、速い曲想のものもある。


琴(箏)と合奏をするため、三味線も琴(箏)と同じ音域が必要となります。

琴(箏)は絃が十三本あるため、2オクターブの音域が出ます。

絃が3本しかない三味線も、糸の太さを変えて同じ音域が出る工夫をしましたが、太棹は低音、細棹なら高音が中心となるので、琴(箏)と同じ音域が作りやすい中棹三味線が使われるようになりました。

三味線の撥としては一番大きな「津山撥つやまばち」を使うため動かしにくく、あまり激しい奏法では弾けませんが、その分、唄の伴奏として曲を引き立てる効果があります。

三味線の種類3 「細棹」 ~細やかな撥さばきが特徴~

「細棹(ほそざお)」は、細くて繊細な分、扱いも大変な三味線です。

ただし、音は軽く華やかなので、舞台でも聞き映えがします。

細棹の特徴でもある細かい撥さばきは、三味線の真骨頂とも言えます。

細棹」の三味線が使われる長唄

歌舞伎舞踊の伴奏音楽として誕生した「長唄ながうた」で使われる、細棹三味線の洗練された艶っぽい音色と高度なテクニックは、聞く人を魅了して止みません。

ただ最近は、長唄を習う人が減ってきたと言われています。

実は長唄を習う方は、花柳界の芸者さん達が多かったようです。

芸者さん達が、お座敷で弾く三味線は、長唄でした。

お座敷は場所も狭いので、大きな低い音の出る太棹などよりも、小さな高い音が中心の細棹三味線の方が、お客様の前で演奏するのに適していたのでしょう。

芸者さんも少なくなってきている昨今、長唄人口も減少傾向にあります。

細棹」の三味線が使われる箏曲(山田流)

箏曲の二大流派の一つ、山田流が使う三味線は、細棹と言われています。

ただし、最近は中棹を使うことも増えてきました。

使う撥は平撥ひらばちと呼ばれる小さなタイプのため、動かしやすく速い曲も弾きやすいのが特徴です。

箏曲の中でも「手事てごと」と呼ばれる、唄のない部分を華やかに弾く曲では、琴(箏)と競い合うように弾く三味線が魅力的と言われています。

山田流の三味線として人気が高いのは、高音を活かした「都の春」などが有名です。

ただし、生田流と同じような地歌系の曲を演奏する場合は、津山撥を使います。

歌舞伎の中で使われる三味線音楽

江戸時代に生まれた庶民の娯楽「歌舞伎」は、音楽と舞踊、演技から成り立っています。

三味線音楽は「義太夫ぎだゆう」の他に、「常盤津ときわづ」、「清元きよもと」、「長唄」などが歌舞伎では使われ、さまざまな発展をとげてきました。

ここで、歌舞伎の中で使われる4種類の三味線音楽についてご紹介しましょう。

義太夫

義太夫三味線】でも前述した通り、「義太夫(義太夫狂言)」では太棹を使います。

低く大きな音の出る太棹三味線は、歌舞伎の劇中で登場人物が感情を込めて熱く語る時や状況が大きく変化する時に、セリフと一緒に使われます。

義太夫狂言など歌舞伎の演目について詳しく知りたい方は、こちらの記事を御覧ください♪

常磐津

浄瑠璃の流れをくむ「常磐津ときわず」は、感情移入することなく、サラっと弾くのが特徴です。

唄の発声も技巧的なことを避けているため素人でも聞きやすく、歌舞伎のストーリーを把握しやすくしています。

使う三味線は中棹です。

清元

歌舞伎では主に伴奏音楽として使われる、浄瑠璃の一つである「清元きよもと」。

清元は常磐津と似ていますが、技巧的な発声と繊細な節回しが魅力となっています。

男と女の色恋などを表現する時に使われることが多いようです。

使用する三味線は、常盤津と同じ中棹になります。

長唄

義太夫・常磐津・清元は、登場人物の状況説明や心情を表しますが、「長唄ながうた」は他の3種類の三味線と違い、主に劇中の情景描写を担当します。

使う三味線は細棹

皮をきつく張った甲高かんだかい音色の長唄三味線は、歌舞伎の舞台の中でも場面展開の際などに独特の雰囲気を演出してくれます。

長唄は、歌舞伎と一緒の舞台もありますが、現在は長唄だけの演奏機会も多く、華やかな舞台は定評があるのです。

三味線を習う場合の注意点

味線の値段を知ろう

三味線を習う場合は、ジャンルごとに注意が必要です。

例えば、「津軽三味線」を習いたいと思ったら、津軽三味線は胴体が大きいため、他の三味線よりも高額です。

また、撥も衝撃を吸収しやすい「べっ甲」を使います。

このべっ甲も、ワシントン条約で捕獲が制限されているタイマイ(赤海亀)の甲羅を使うので、決して安いものではありません。

三味線や撥を購入する際は、お稽古場の先生などと相談して、買い直さなくても済む品を選びましょう。

味線が習いたいことを最初から先生に伝えよう

「長唄」では、“唄う人”と“三味線を弾く人”に分かれます。

三味線が習いたければ、最初から先生に希望を伝えてください。

「箏曲」は、生田流でも山田流でも、基本は「琴(箏)」です。

先生によっては「三味線は教えない(出来ない)」という方もいらっしゃいますので、そのお教室で三味線も教えて貰えるかどうかは、最初に確認しましょう。

「お稽古場の演奏会を見に行ったら、三味線が入っている曲もあった」といっても、その三味線はゲストが弾いている場合もあります。

おわりに

三味線の種類とその特徴についてご紹介しました。

三味線は、絃楽器でありながら打楽器の要素も含む、世界でも珍しい楽器です。

その音色も独特で、魅力が尽きることはありません。

興味があったら、ぜひチャレンジしてみてください。

最初は難しいと感じても、続けると新しい自分に出会えるかもしれませんよ!