古くから身近な計算道具として親しまれてきた「そろばん」。

小学校で出会ったという方も多いのではないでしょうか。

電卓やパソコンの発展とともに一度は衰退しましたが、近年、能力開発ツールとして再び脚光を浴びています。

右脳を鍛え、集中力や記憶力を高める効果が注目され、今では子どもからシニアまで幅広い世代に親しまれています。

今回は、そろばんの国内シェアNo.1を誇る「播州ばんしゅうそろばん」の歴史や特徴、魅力などについて詳しく解説します!

播州そろばんとは?

播州そろばんとは、兵庫県小野市(旧播磨国はりまのくに・播州)を中心に作られているそろばんです。

計算道具としての使いやすさはもちろんのこと、木の美術品としての価値を併せ持っています。

こだわりの材料と伝統的な技法で、一つひとつ丁寧に作り上げられる播州そろばん。

思わずため息が出るほどの美しさで、昭和51年(1976年)には、通商産業省(現・経済産業省)の伝統的工芸品に指定されました。

播州そろばんは、実用性とブランド力を兼ね備えた素晴らしいそろばんなのです。

播州そろばんの歴史

播州そろばんの起源は、長崎県から伝わった“大津そろばん”だといわれています。

商業が盛んな大阪や京都に近い滋賀の大津では、近江商人が行き交っていたため、そろばんの生産が盛んでした。

天正8年(1580年)、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が小野市の隣にある三木市にあった三木城を攻め取ります。

この合戦の折、三木の住民たちの一部が大津に逃れました。

その住民たちが大津でそろばんの技法を習得し、帰郷して製作を始めたのが播州そろばんのおこりとされています。

江戸時代初期になると、そろばんの入門書ともいえる『塵劫記じんこうき』(吉田光由著)が出版されたのを皮切りに、日本の数学(和算)は高度なものに発展しました。

土木工事や年貢の計算、商いといった、生活に必要な計算がそろばんを用いることで簡易にできるとあり、武士・農民・商人の階級を問わず普及していきます。

このような流れもあり、日本各地に寺子屋が設けられ、「読み、書き、そろばん」の習得がすすめられました。

そして、寺子屋が増えるにつれて、そろばんの人気も高まっていきます。

第二次世界大戦後には学校教育法が施行され、経済の発展とともに播州そろばんの需要も飛躍的に伸びました。

当時は、そろばんを使えることが就職の条件になるなど、そろばんの全盛期といえる時代でした。

その後、電卓やパソコンの普及によりそろばんの需要が減少したものの、現在は能力開発ツールという新たな魅力で復活の兆しを見せています。

播州そろばんの伝統と歴史を守り、その素晴らしさを継承するチャレンジは今も続いているのです。

播州そろばんの特徴と魅力

播州そろばん最大の特徴は、その製作方法にあります。

播州そろばんの製作工程は大きく珠作り・珠仕上げ・ひご竹作り・組み立ての4つに分業化されており、伝統工芸士をはじめ、高度な技術を持つ職人たちが厳選された材料を使い、一つのそろばんを作り上げていきます。

贅を尽くした技の結集による完成度の高さは、播州そろばんの魅力といえるでしょう。

い木工技術による使いやすさ

播州そろばんは、職人の高い木工技術で削られた均一な珠が特徴で、美しいだけでなく、珠はじきの良さと止まりやすさを兼ね備えた使い勝手の良さがあります。

柘植つげかばなどの珠、煤竹すすだけの軸、黒檀こくたんの枠を用い、伝統技術で作られるそろばんは、その絶妙な使い心地に定評があります。

術品と称される美しさ

使いやすさと並んで定評があるのは、播州そろばんの美しさです。

丁寧に磨き上げられた枠や珠はしっとりとした艶を放ち、手にはなんともいえない贅沢な感触が伝わってきます。

また、珠を弾く音も美しく、伝統的工芸品と称されるのもうなずけます。

播州そろばんの作り方

播州そろばんは、圧倒的な生産量で全国シェアNo.1を誇っています。

一つひとつが職人の手づくりであるにもかかわらず、大量生産ができるのはなぜでしょうか。

その理由は、播州そろばんの特徴で述べた「分業化」にあります。

ここからは、分業化された播州そろばんの作り方についてご紹介していきます。

州そろばんの材料

播州そろばんは、材料にもこだわりがあります。

珠には柘植つげかば、軸に煤竹すすだけ、枠には黒檀こくたんなどが主に使用されています。

たとえば珠には斧が折れるほど堅いといわれるオノオレカンバという丈夫な木材を使用するといった具合に、部品それぞれの役割に沿った材料が厳選されています。

また、材料の違いによって使い心地や仕上がりの色合いも変わるため、自分の好みに合ったそろばんを見つけるのも楽しみの一つでしょう。

州そろばんの製作工程

播州そろばんの製作工程を大まかに分類すると、次の通りです。

珠作り/珠削り

原木をしっかりと乾燥させ、輪切りにします。

輪切りにした木を、機械を使って丸い形に打ち抜き、削りながら珠の形を作っていきます。

珠の中心に穴を開けるなど、寸分の狂いも許されない珠作りの作業。

全ての珠がちょっとの狂いもなく同じ形となるよう、機械任せにせず都度、確かな経験を積み熟練した感覚を持ち合わせた職人のチェックが入ります。

珠仕上げ

美しい珠に仕上げるために面取り、染色、艶出しをおこないます。

ひご竹作り/軸作り

竹を寸法に合わせて切り、小さく割っていきます。

それを加工して丸いひごにした後、染色し、磨いて仕上げていきます。

組立

珠を入れた後、裏板や枠を順番に組み立てますが、ただ組み立てるだけではありません。

木を削り、磨き、枠には穴を開けるなど、細かな作業がおこなわれます。

上下の枠は“おがみ合わせ”にする等、組み立てにももちろん、伝統的な技法が用いられます。

最後に、紙やすりやむくの葉で磨き、艶を出せば完成です

これらの工程を経て作られる播州そろばんには、珠の滑りや止めのこだわり、枠の内側や外側の色の濃淡の仕上げの違いなど、随所に職人の巧みな技が見受けられます。

播州そろばんも例外ではない後継者不足問題
400年以上の歴史を持つ播州そろばんですが、職人の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題となっています。
四分業制が取られるものの、珠削りや珠仕上げ、ひご作りなど、それぞれ1~2名しか職人が残っておらず、危機的状況に・・・・・。
そのような中、平成26年(2014年)には、小野市と播州算盤工芸品協同組合が後継者の募集を行い、組み立て職人の伝統工芸士が弟子を取るなどして人材の育成が進みます。
とはいえ、技を磨くのも一朝一夕にはいきませんし、どこか一つの工程がなくなれば、そろばんが作れなくなってしまいます。
素晴らしい品質で国内No.1のシェアを誇る播州そろばんの存続が危ぶまれているという現実を見過ごすことはできません。

播州そろばんの種類

播州そろばんには、さまざまな種類があることをご存じでしょうか。

伝統的工芸品としての播州そろばんをはじめ、カラフルなデザインのもの、計算以外の機能を持ったものなど、時代に合わせた播州そろばんが続々と登場しています!

アイデアにあふれた播州そろばんをご紹介していきましょう♪

統的工芸品の播州そろばん

まずは、「伝統工芸品としての播州そろばん」です。

現在もその伝統的な技法は受け継がれ、独自のブランド力をもって発展を続けています。

木製で重厚感があり、珠弾きや使い勝手は本格的。

作り手が明確でアフターフォローの対応もバッチリなので安心して使えますね♪

伝統的工芸品とは?
経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のことを指す。
要件は、
・技術や技法、原材料がおよそ100年以上継承されていること
・日常生活で使用されていること
・主要部分が手作業で作られていること
・一定の地域で産業が成り立っていること

ンタッチ播州そろばん

便利な機能が魅力の「ワンタッチ播州そろばん」。

上部のボタンを押すことで、瞬時に珠をご破算できる優れものです!

そろばんの枠を持ち、全ての珠を下げ、人差し指で五珠をあげる…という一連の手間が省けます♪

スピードが重要となる検定や競技大会で威力を発揮します。

ご破算が苦手な方や、ちから加減が難しいお子様は、ワンタッチ播州そろばんを試してみてはいかがでしょうか?

ラー播州そろばん

「カラー播州そろばん」は、見ているだけで気持ちが明るくなる豊かな色彩が目を惹きます♡

かわいらしいサイズやカラーですが、本格的な使い心地はもちろん健在ですよ!

お子様に興味を持ってもらうきっかけや、贈り物に最適なアイテムですね♪

育玩具としての播州そろばん

近年、人気が高まっている「知育玩具としての播州そろばん」。

幼児期にカラフルな珠を見ることや、手指を使うことが、脳の発育に繋がるのだそうです。

遊びながら脳に刺激を与えられるアイテムとして定評があり、広い年齢層にお楽しみいただけます♡

赤ちゃんだけでなく、足し算、引き算、かけ算九九など、数の概念が必要となってくる小学校にあがってからのお子様にもオススメです♪

播州そろばん関連施設・組合

ここまで、播州そろばんの魅力について詳しく解説してきました。

さらに知っていただくために、播州そろばんを身近に感じられる施設をご紹介します。

百聞は一見に如かず!

見て、触れて、播州そろばんの素晴らしさを体感してください♪

ろばん博物館(小野市伝統産業会館内)

小野市の伝統産業会館にある「そろばん博物館」は、播州そろばんの資料が豊富に展示されています。

原材料や製造道具を見ることができ、条件が整えば実演を間近で目にすることもできます。

※そろばん組立の実演:15名以上の団体かつ要事前予約

施設名そろばん博物館(小野市伝統産業会館内)
住所〒675-1378
兵庫県小野市王子町806-1 小野市伝統産業会館
開館・営業時間9:00~16:00(16:00最終受付)
定休日12月28日~1月4日
入館料無料
アクセス・神戸電鉄粟生線「小野駅」 より徒歩約15分
・JR加古川線「小野町駅」 より徒歩約40分
・らんらんバス(市内循環コミュニティバス)「小野商工会議所前」バス停下車すぐ


情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

リジナルそろばん製作所「そろばんビレッジ」

兵庫県小野市にあるオリジナルそろばん製作所「そろばんビレッジ」は、お好みのオリジナルそろばんを作ることができる施設です。

カラフルなそろばんの材料は、子供たちだけでなく、大人からも大人気!

施設名オリジナルそろばん製作所「そろばんビレッジ」
住所〒675-1333
兵庫県小野市垂井町644-5
開館・営業時間平日 11:00~17:00(要予約)
土日祝 11:00~17:00(予約優先)
定休日火曜日 ※臨時休業あり
入館料要問い合わせ
製作体験費■そろばん製作
・持ち運びらくらく!9桁 1,800円
・自宅学習に便利!12桁 2,300円
・授業にオススメ!15桁 2,800円

■今始めるなら100玉そろばん 3,000円

■玉色選べるそろばん時計 4,000円(送料別)

■オシャレに魅せる木のホルダー 800円

※すべて税込価格
アクセスらんらんバス(市内循環コミュニティバス)「垂井町公民館前」バス停よりすぐ


情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

州算盤工芸品協同組合

兵庫県小野市の「播州算盤工芸品協同組合」では、伝統的工芸品に指定された播州そろばんの存続と発展を目指し活動しています。

また、地産地消の実現に向けて、兵庫県内、小野市内にある木と竹を播州そろばんに利用。

環境保全も意識しながら、SDGs(エス・ディー・ジーズ)に取り組んでいます。


※SDGs:“Sustainable Development Goals”の略。平成27年(2015年)の国連サミットで採択され、令和12年(2030年)までに世界中の環境問題や人権問題などの課題を解決していく「持続可能な開発目標」のこと。

施設名播州算盤工芸品協同組合
住所〒675-1372
兵庫県小野市本町600


情報は変更となる場合がございます。詳細は、公式サイトをご確認ください。

おわりに

美しい佇まいで、伝統的工芸品と称される播州そろばん。

同時に、人々の暮らしに欠かせない身近な道具として親しまれてきました。

電卓やパソコンの普及により需要は減少しましたが、脳トレアイテムへの参入や時代に合わせたデザイン、アイデアがあふれる機能の導入など、新たな可能性に挑戦しています。

伝統と歴史を守りながら進化し続ける播州そろばん。

豊富な種類の中から用途に合った播州そろばんを選んで、ぜひお手元においてください。