毎年秋になると各地で菊人形展が催されますが、皆さまは、実際に見に行ったことはあるでしょうか。

菊人形のことを、少し怖いと思っている人も多いのかもしれません。

しかし、それは菊人形のことをよく知らないからかもしれません。

今回は、より菊人形を知っていただくために、菊人形の歴史や魅力、菊人形をつくり上げる職人や菊人形祭りなど、ご紹介いたします。

職人さんたちの仕事を知れば、菊人形を見る目が変わるかもしれません。

菊人形とは

菊人形とは、衣装部分に菊の花や葉を使った人形のことです。

人形といっても、等身大の大きさです。
菊人形は一体、何のためにつくられているのでしょうか。

人形は何のためにつくられているの?

答えは簡単、人々が見て楽しむためです!

果たしてあの人形を見て楽しいのか……と不思議に思うかもしれませんが、菊人形が誕生したのは江戸時代(下記で詳しく)のこと。

今と比べると、娯楽がうんと少ない時代に、あざやかな菊人形は、かなり人々の目を奪ったことでしょう。

明治時代には、全国で菊人形興行が行われるほどの人気を獲得しました。

秋の風物詩として親しまれた菊人形の興行でしたが、時代が下ると人気は下火になっていきます。

ですが、今も職人たちの優れた技術に支えられ、各地では菊人形展が開かれています。

人形の発祥

菊人形の発祥は、はっきりとはしていませんが、江戸時代の文化年間(1804~1818年)に江戸・麻布狸穴まみあなの植木屋が始めた菊細工にまでさかのぼることができます。

最初は人形ではなく、帆掛け船や鶴などを作ったそうです。

その後、巣鴨の植木職たちの間でも菊細工が流行し、それが人気を博して各地に広まります。

特に本郷団子坂だんござかで行われた菊人形の見世物(明治9年から正式に興行化)は、大いに盛り上がりました。

当時、菊人形で表現されたのは、歌舞伎の名場面などです。

人形の顔も、当時の人気俳優に似せてつくられました。

確かにそれは人気が出そうですよね。

ちなみに、現在の菊人形展の多くは、NHKの大河ドラマをモチーフとしたもの。
歴史を踏襲とうしゅうしているのですね。

菊人形の作り方

菊人形はどのように作られているのでしょうか。

何人もの職人たちの技術を結集させ、やっと一体の菊人形が完成します。

完成後のメンテナンスも大変です。

栽培師による人形菊

菊人形に用いる菊は、私たちが花屋などで買うような一般的な菊ではありません。

菊栽培師(園芸師)によって育てられた、菊人形専用の人形菊です。

人形菊の茎は折れにくくなるよう、花も小ぶりで先に集まるように栽培されます。

人形の人形師

人形の手足と頭は、人形師が作ります。

まずは桐材きりざいに顔を彫り、目玉を入れます。

顔料(胡粉ごふん:貝殻由来のもの)を手作業で塗り、髪の毛(羽二重)を付けたら、さら胡粉ごふんを薄く塗り重ねていきます。

すると、まるで生きているかのような人形(生人形)の頭が出来上がります。

次に銅殻どうからという、菊人形の枠組み(着物の部分)を作ります。

巻藁まきわら(竹ひごを藁で包み、それを糸で巻いたもの)を全体のバランスをみながら、正確に組んでいきます。

着物は時代・性別によって異なるため、それらを理解したうえで表現しなくてはなりません。

こちらの作業は菊師(次に紹介)がやる場合もありますが、かつては銅殻どうからだけをつくる銅殻どうから師という職人もいました。

人形の衣装、つまり菊の部分は菊師が作ります。

根のついた人形菊(数株をまとめて水苔で巻き、ヒモなどでしばる)を人形につけていきます。

一体をつくるのに、およそ1日という時間がかかるそうです。

菊人形の展示期間中も、水やりは欠かせません(菊は生きてますから!)。

部分的に枯れることのないよう、細心の注意を払って水やりをします。

とはいえ、1週間~10日くらい程度で枯れてしまうので、菊の着せ替えが行われます。

菊をいったんすべて外し、また一からつけ直すのです。

このように、菊人形は職人たちの技術を結集させた、非常に贅沢なものだったのです! 

もう二度と「怖い」「気持ち悪い」なんて言えません……。

さらに、菊人形の興行ともなれば、大道具師・小道具師・照明技師などの専門家もたずさわります。

菊人形は決して一人の力ではなしえない、総合芸術なのです。

有名な菊人形祭り

ということで、そろそろ生の菊人形が見たくなってきませんか?

最後に菊人形を鑑賞できる、有名な菊祭りを3つご紹介します。

本松の菊人形

福島県二本松市の「二本松の菊人形」は、昭和30年から続く菊祭りです。

国指定史跡である二本松城跡で開催されています。

展示される菊は約3万株、菊人形も約100体以上という、まさに日本最大級の菊の祭典です!

令和元年(2019年)は「にほんまつMumフェスティバル2019」も同時開催されました。

Mumマムは菊の別名(英語で菊は“Chrysanthemum”です)で、欧米で品種改良された種のことを指します。

菊というと、仏花ぶっかをイメージする方も多いでしょう。

おしゃれなマムの展示やワークショップを通じて、新しい菊の魅力を感じてみてくださいね。


【二本松の菊人形】

■ 会場:福島県立霞ヶ城公園(福島県二本松市郭内3-232)
     カーナビでは「二本松市立二本松北小学校」に設定することが推奨されています。

■ アクセス:JR東北本線「二本松駅」より徒歩約20分(開催期間中はシャトルバスあり)

■ 開催期間:毎年10月中旬~11月下旬
※令和4年(2022年)10月8日(土)~11月13日(日)
※令和元年(2019年)は10月1日(火)~11月17日(日)


らかた菊フェスティバル

枚方ひらかた市の「ひらかた菊フェスティバル」は、ひらかた菊花展・市民菊人形展・枚方ひらかた宿街道菊花祭、その他の関連イベントが開催される菊をテーマにした一大行事です。

市民菊人形展では、市民ボランティアの方々が制作した作品が展示されます。

開催期間中は「ひらパー」ことひらかたパークでも、イベントが開かれます。

平成30年(2018年)は菊人形とデジタルを融合させた、新しい菊人形展「ひらパー×ネイキッド 新・菊人形展DRESS」が行われました。

毎年内容が変わるので、今年はどんなイベントになるのか楽しみですね。


【市民菊人形】

■ 会場・アクセス:「ひらかた賑わい課」(841-1475)までお問い合わせください。

■ 開催期間:例年10月下旬~11月中旬

島天神菊まつり

東京で菊人形を見るなら、湯島ゆしま天神の「湯島ゆしま天神菊まつり(文京菊まつり)」がオススメです。

毎年11月1日~23日、湯島ゆしま天神の境内で開催されています。

菊人形の数は少ないものの、約2千株の菊の花が展示され、“関東一の菊祭り”とも言われています。

珍しい「江戸菊」や葛飾北斎も描いた「巴錦ともえにしき」といった、古典菊と呼ばれる品種も鑑賞できます。

駅からも近いので、素敵な秋の休日が過ごせそうですね。


湯島ゆしま天神菊まつり】

■ 会場:湯島ゆしま天満宮(東京都文京区湯島3-30-1)

■ アクセス:地下鉄千代田線「湯島ゆしま駅」より徒歩約2分

■ 開催期間:毎年11月1日~23日頃

おわりに

映画『犬神家の一族』では、ショッキングなシーンに登場する菊人形。「怖い」「気持ち悪い」と思っていた方もいるでしょう。

しかし、菊人形は、職人さんたちが丹精込めてつくり上げた総合芸術なのです。

今では、若い人向けの菊人形展も盛んに行われるようになりました。

菊人形を鑑賞したことがないという方は、ぜひ一度、菊人形展に足を運んでみてくださいね!