東北の温泉地を中心に発展し、古くから日本人に親しまれてきたこけし。

こけしの起源には諸説あり、原型ともいわれる最古のものは、今から1300年以上前の奈良時代に作られていたという説もあります。

江戸時代後期には、子どもの顔や、さまざまな模様をほどこした木の人形が作られるようになります。

ロクロを使って木工品を加工する「木地師」という職人たちが作ったおもちゃが、今の「こけし」に繋がっていくのです。

こけしはその後、子供からも大人からも愛される工芸品となりました。

そして、こけしを作ってきた木地師は、「こけし工人」と呼ばれるようになりました。

作品としての「こけし」は、伝統を踏襲したものから、現代的な表現を用いたアートの要素が強いものまで、実にさまざまです。

そんなこけしの作り手である、こけし工人(こけし作家)とはどのような人たちなのでしょうか。

その魅力に迫っていきます!

こけしの作家 (工人)とは

日本には昔から、木材を使い、お盆やお椀などを作っていた木地師きじしと呼ばれる職人たちがいました。

材料である木材のある土地を求め、山々を探し続けていた彼ら。

材料が確保できる土地を見つけ、その周辺に腰を据えます。

ロクロを使って木材を加工し、挽きものと呼ばれるお盆やお椀などを作っていたのです。

温泉地は山間部にあることが多く、材料である木材が豊富にあったのでしょう。

彼らはやがて、温泉地でのお土産品である子ども向けの木の人形を製作し始めます。

手と足がなく、円筒の胴体に丸い球状の頭をつけ、顔や模様がデザインされた旧型の「伝統(旧型)こけし」の形は、江戸時代後期以降に定着していきました。

戦後になると、ロクロは用いながらも、これまでの型にはまらない自由な発想のデザイン、彩色のこけしも増えていきます。

これらは「新型こけし」と呼ばれ、伝統こけしとは区別されます。

さらに近年、より現代的なフリースタイルのこけしを「創作こけし」と呼ぶようになり、新たなこけしブームが生まれています。

こけしを「作品」としてとらえることも多くなり、こけし工人を作家と表現することも増えてきました。

伝統こけしの有名作家さん

古くから日本人を魅了してきたこけし。

いつも私たちの側にあり、いわゆる「こけし」としてイメージするのが伝統こけしではないでしょうか。

伝統こけしは、誕生の歴史が産地によって異なり、工人の師弟関係でもグループ分けされています。

作り方や形、彩色などのデザイン、特徴などで11系統に分類されています。

ここからは伝統こけしの作り手である工人を、系統とともにご紹介します。

沼岩蔵 (1876〜1950)鳴子系

宮城県の鳴子温泉を中心に発達した鳴子系のこけし。

首を回すとキイキイ、キュツキュツと独特の音が鳴ります。

この音が鳴るのは、頭部分を胴体部分にはめこむ手法をとっているためです。

鳴子系名人の一人として知られるのが、大沼岩蔵おおぬまいわぞうです。

カンナによる細かい仕上げをほどこしたり、胴体部分に紫を多く使った模様を描いたりと、凝った技巧の作品を残しています。

秀太郎(1895~1986)津軽系

津軽系こけしは、頭胴が一本の木から作られている、作りつけ方式という技法で作られるこけしです。

主に、青森県の温湯ぬるゆ温泉・大鰐おおわに温泉で作られます。

盛秀太郎もりひでたろうは温湯温泉の木地職人。

大正時代からこけしを作り始めた、津軽系の先駆けの人物だといわれています。

くびれのある胴にアイヌ模様が描かれたものや、ねぶたの影響を受けたという眉がつりあがったダルマ絵、裾が広がっているシルエットなど、特徴的な津軽系こけしを確立しました。

津軽藩の家紋である牡丹の花模様も多用しています。

20世紀の美術を代表する世界的巨匠の一人である、棟方志功むなかたしこうが、盛のこけしを「津軽美人の原点。日本一のこけし」と褒めたという逸話も残っているほど。

秀太郎こけしとして有名です。

久間俊雄(1948~2002)土湯系

鳴子、遠刈田と並び、こけし三大発祥の地とされる土湯つちゆ系は、土湯温泉をメインに発展しました。

頭が小さく、胴体がスリム、頭部には黒の蛇の目模様があったり、鯨目にたれ鼻、おちょぼ口などの表情が特徴的なこけし。

佐久間俊雄さくまとしおのこけしは、小ぶりの作品が多く残されています。

小さなこけしに精巧微細な描彩が施されているのが特徴で、それゆえ佐久間のこけしは希少価値が高く人気を集めています。

藤文吉(1922~2008)肘折系

山形県肘折ひじおり温泉を中心として発展した肘折系は、遠刈田系、鳴子系両方の流れをくんでいる系統。

差し込み式の頭部に、少し冷たい表情の笑顔が独特の風合いとなっています。

佐藤文吉さとうぶんきち のこけしは、黒い頭が特徴的。

そして、細くて長いすっとした目、太い眉が表情豊かな印象を醸し出しています。

戦後のこけしブーム期には高い人気を集めました。

部平四郎(1929~2013)木地山系

木地山系こけしは、秋田県の旧皆瀬みなせ村(現湯沢市)木地山をメインに発展していったこけしです。

一本の木で頭と胴を作る、作りつけ方式で作られる、小さめの頭とおかっぱ、どっしりと太い胴体が代表的な作風です。

梅花の模様をした、前垂れ姿もその特徴の一つとなっています。

阿部平四郎あべへいしろうのこけしは、木地山系こけしの特徴そのままの素朴な作風。純朴で可愛らしい笑顔のこけしは、現在もファンの心を捉えて離しません。

娘の阿部が、父の作風を受け継ぎつつ、さらに進化させたこけしを作り続けています。

モダンなこけし作家

ここまでは伝統こけしの工人をご紹介してきました。

伝統こけしから受け継いだ技法やスピリットを生かしつつ、自由な新しい発想のこけしも生まれています。

海外の展覧会に出品したり、若者向けセレクトショップで販売されたりと進化するこけし。

注目の若手こけし工人たちの作品、取り組みとは?

井昭寛 鳴子系

鳴子こけしで有名な鳴子温泉。

江戸時代から先祖代々、鳴子こけしを作り続けているのが櫻井家です。

現在の櫻井昭寛さくらいあきひろは五代目であり、大沼岩蔵いわぞう、庄司永吉えいきち、大沼甚四郎じんしろうといった、鳴子こけしの名工の作品を復元(写し)。

古いこけしの技法を再現しながらも、復元にとどまらないオリジナリティを持たせています。

数々のコンクールで受賞経験があり、平成28(2016)年「第58回全日本こけしコンクール」では「岩蔵型10・7号」が最高賞の内閣総理大臣賞を受賞しました。

先代の櫻井昭二も二度、内閣総理大臣賞を受賞しています。

井尚道 鳴子系

櫻井昭寛さくらいあきひろの息子で六代目の櫻井尚道さくらいなおみちも、常にこけしを進化・深化させるべく、挑戦しています。

先代の意思を受け継ぎ岩蔵、万之丞まんのじょう庄司永吉しょうじえいきちなどの伝統こけしと、様々な木地人形の製作を行っています。

一度別の仕事に就いたものの、平成27(2015)年に父・昭寛に弟子入り。

修行をしながら、若い感性を生かして海外進出なども提案しています。

田孝志 弥次郎系

世界的に有名な、アメリカのミッドセンチュリー期のデザイナー、チャールズ&レイ・イームズ。

家具やインテリアに興味のある方なら、きっとご存知、あの「イームズチェア」で知られる夫妻ですね。

彼らは世界中の民芸品を収集するコレクターでもありました。

その一部として自宅に並べられていたのが、弥治郎やじろう系こけし工人の鎌田文市かまたぶんいちの作品。

孫にあたる鎌田孝志かまたたかし
文市の個性の一つであった大きな目を生かした、ポップなこけしが人気を博しています。

モダンなこけしをご紹介!

井こけし店 Hagoromo(はごろも)

これまでのこけしとは異なる、パステル調の色彩に驚かされます。

海外では淡い色合いが支持されることを知った尚道のアイデアから生まれました。

井こけし店 Cozchi(こづち)・Kaguya(かぐや)

こちらは、蛍光色や極彩色が目を引く斬新なデザインとなっています。

藤康広 インディゴこけし

こけしといえば、鮮やかな色彩。

遠刈田系こけし工人の佐藤 康弘やすひろが作るインディゴこけしは、そのイメージをいい意味で裏切る、藍一色の作品。

藍色の絶妙な濃淡でつくられたこけしは、とってもクール。

人気セレクトショップ「BEAMS」との企画で作られ、若い世代にも人気を博しています。

こけしを購入したくなったら

伝統こけしからモダンなこけしまで、どれもインテリアに映えそうな作品ばかりでしたね!

こんなに個性豊かなこけしがあると知ったら、工人の作風を知り、作家にこだわって作品を購入してみたいですよね。

そんな時は、こけしや日本の民芸品にこだわったお店で購入するのがオススメ。

津軽こけし館のように、それぞれの地域の博物館でも購入可能です。

軽こけし館

伝統こけしを始め、こけしグッズやこけし雑貨を販売しています。

全国発送可のWeb Shopもあるほか、購入したいこけしの相談にも乗ってくれます。

青森県黒石市袋字富山72-1
TEL:0172-54-8181 / FAX:0172-54-8250

肆ひやね

書肆しょしひねやは、東京都千代田区内神田にある古書店なのですが、お店の二階には1000体以上のこけしが展示されており、その光景は圧巻!

コレクター垂涎すいぜんのものから、比較的お手頃なものまで購入できます。

東京都千代田区内神田2-10-2
TEL:03-3251-4147/FAX:03-3251-4127
営業時間 11:00~19:00

ケーシカ鎌倉

日本の伝統こけしとロシアのマトリョーシカの専門店です。

アーティスト・沼田元氣がプロデユースしており、伝統こけしの系統が全て揃っているという、他にはない品揃え。

包装紙もこけしデザインとなっているなど、店内の各所にこだわりが光ります。

残念なことにネット販売、通信販売は行っていないそう。

神奈川県鎌倉市長谷1-2-15

芸おもと

こじんまりとしたお店で、うっかりすると見逃してしまいそう。

しかし、一歩お店に足を踏み入れると、日本全国から集められたこけしが出迎えてくれます。

アンティークこけしも多く、益子焼や笠間焼なども扱っています。

神奈川県鎌倉市山ノ内514
TEL 0467-25-2692

芸品つちかね

こけしのみならず、日本の伝統民芸品や玩具、観光土産品、贈答品、行事や祝い事の記念品などが所狭しと並ぶお店。

「小江戸川越」の伝統民芸品、川越ならではの郷土品もおかれています。

埼玉県川越市新富町1-5-4
049-222-0836

おわりに

いかがでしたでしょうか。

気になる工人やこけしはいましたか?

ここではご紹介できなかったこけしも工人も、たくさんいます。

書籍や資料集、ネットでも、こけし工人や作家の情報を知ることができます。

できればお店に足を運び、こけしを直接手にとって、お気に入りの作家を探してみてくださいね。