空前のこけしブーム。

その陰には、若手こけし工人こうじんたちの活躍があるのです!

今回は、注目の若手こけし工人たちを、その作風や経歴と共にご紹介していきたいと思います♪

佐藤英之(宮城:弥次郎系)

けし工人「佐藤英之」とはどんな人?

佐藤英之ひでゆきは福島県いわき市出身で、伝統こけし製作工房「木地処さとう」の3代目として作品製作に取り組み、今注目されている弥治郎系の若手こけし工人です。

佐藤英之の師匠は、父親の佐藤誠孝せいこう

佐藤英之は、幼少の頃から木地を使った物づくりが好きな男の子でした。

高校・大学から商社勤務時代まで、佐藤英之は親元を離れて過ごします。

佐藤英之はこけし工人の後は継がないつもりでしたが、大学入学後、亡き叔父(父の兄:光良)著書の「父のこけし」を読んでからこけしの世界に興味を持ちました。

佐藤英之は一度、商社に就職しましたが、平成14年(2002年)に商社を退職して約10年ぶりに帰郷し、父親で師匠の佐藤誠孝の下でこけし工人の修業をはじめます。

翌年の平成15年(2003年)に「弥治郎こけし工人総会」で弥治郎系伝統こけし工人に承認され、こけし工人としてデビューし、今日に至っています。

藤英之が作るこけしの特徴

佐藤英之のこけしの特徴は、手に取りやすい親しみさがあり、ロクロ線の模様に斬新さがあることです。

また、こけしの技術を活かして作ったこけし印鑑などには、こけしの面白さが感じられるところが特徴です。

藤英之の製作活動

佐藤英之、祖父・佐藤まことが作ったこけしの型「佐藤誠型」を中心に「小倉喜三郎きさぶろう型」や「大野栄治型」などのこけしを、平成15年(2003年)より前から“英之”の名前で作っていました。

4 代目・佐藤祐介はイケメン工人!?

佐藤英之の弟で製作工房「木地処さとう」の4代目・佐藤祐介ゆうすけは、イケメンこけし工人といわれ、今後が期待できる若いこけし工人です♪

佐藤祐介は幼少の頃から絵に興味があり、絵画関係の専門学校へ進学して絵画の腕を磨きました。

特に佐藤祐介の「にがおえ」には人気があり、「夏井裕」の雅号で地元いわき市を中心に現在も絵画の制作活動をしています。

平成21年(2009年)の秋頃から師匠の父・佐藤誠孝の下でこけし工人の修業をはじめ、同年5月に弥治郎系こけし工人として承認されました。

佐藤康広(宮城:遠刈田系)

けし工人「佐藤康広」とはどんな人?

佐藤康広やすひろは宮城県出身で、父が営んでいる仙台木地製作所を継ぎ、木地師の世界では若き匠と期待されている遠刈田とおがった系の若手こけし工人です。

佐藤康広の師匠は、日本の栄典の一つである黄綬褒章おうじゅほうしょうを受章した、父・佐藤正廣まさひろ

佐藤康広は高校生の頃からロクロで独楽こまづくりをはじめ、卒業後は測量会社で約8年間働きました。

34歳の時に測量会社を退職して本格的に木地職人の修業を開始し、翌年には独楽やこけしの作品発表をはじめました。

また、佐藤康広ドイツやロシア、メキシコなど、各国の工芸関係者との交流も活発に行い、その経験を作品づくりに活かしています。

藤康広が作るこけしの特徴

佐藤康広が作るこけしの特徴は、華麗さと頭部に赤い放射線の模様がある遠刈田系の特色を受け継いでいること。

そして、佐藤康広の作るこけしは大きめの頭に直胴で、とてもシンプル。

胴体には、桜、菊や梅などの花の絵柄が描かれているものが多いです。

また、青色染料のインディゴを使ったこけし作家としても有名です!

これは、ある活動の中でファッションブランドBEAMSのスタッフから「こけしには青系統の色を使った作品がない」といわれたことがきっかけで、青色染料を用いたインディゴこけしを作りはじめたそうです。

※インディゴ(Indigo):藍色の染料

藤康広の製作活動

佐藤康広は仙台木地製作所で同じ系統の工人たちが作った古作の作品を学びながら、独自の型作りの確立を目指してこけしの製作活動をしています。

作業場には愛猫の「楓」がいつも定位置に座って、佐藤康広の製作活動を見守っています。

我妻昇(宮城:遠刈田系)

けし工人「我妻昇」とはどんな人?

我妻昇わがつまのぼるは宮城県仙台市の出身で、遠刈田系の名工人たちの後継工人として期待されている若手のこけし工人です。

我妻昇の師匠は、同じ遠刈田系統のこけし工人の早坂政弘はやさかまさひろ

我妻昇は会社員の父親の長男として生まれ、幼少の頃から絵画が得意で、全国教育美術展にて特選受賞の経験がある少年でした。

我妻昇は学生時代から父親が設立したロクロ機械関係を取り扱う会社を手伝いながら、ロクロを使って独楽づくりをしていました。

大学では環境計画工学を学び、また、音楽も得意だったことからシンガーソングライターとして音楽活動もはじめました。

平成27年(2015年)から父親の会社で働くようになり、営業でこけし工人の工房を訪問しているうちに、工人たちの人柄や彼らの作品に感銘を受けて、次第にこけし製作に魅かれていきました。

そして、平成29年(2017年)末よりこけしの描彩の練習をはじめて、翌年の4月1日に最初の作品を「我妻昇わがつまのぼる」名義で発表。

その後も師匠の早坂政弘の下で弟子上がりをするまで修行を続け、今日に至っています。

妻昇が作るこけしの特徴

我妻昇が作るこけしの特徴は、伝統と独自の絵柄をバランスよく取り入れているところです。

また、昨今、若い女性の間で小顔が好まれている風潮を意識して作った創作こけしの「小顔のこけし」や東北地方ならではの「えじこ」こけしも、我妻昇のこけしの特徴の一つといえるでしょう。

そして、我妻昇の描彩はとってもオシャレ! 

日本のこけしとは思えないような、洋風な作品も多いんですよ♪

胴体も交互に細い線と太い線をつないで描彩され、手絡や面相、胴部には梅菊、あやめ、袖、いげたやロクロ模様が表現されています。

妻昇の製作活動

我妻昇は、今も音楽活動をしながら仙台でこけしの製作活動をしています。

さらに、日本の伝統こけし文化をヨーロッパ各地に伝えるため、他の伝統こけし工人達とともに、現地の大学と共同でこけし職人の展示会を開催するため、クラウドファンディングを行っています。

平賀輝幸(宮城:作並系)

けし工人「平賀輝幸」とはどんな人?

平賀輝幸ひらがてるゆきは宮城県作並の出身で、伝統工芸発展のためにこけしの製作活動をしている作並系のこけし工人です。

平賀輝幸の師匠は、作並系こけし工人の祖父・平賀謙次郎と父親・平賀謙一。

平賀輝幸は15歳頃からロクロに触れていましたが、高校卒業後から正式にロクロ修行とこけし製作をはじめました。

祖父と父親が健在の頃は、3世代一緒にこけし製作に取り組みましたが、現在は、地元で8代続く伝統的作並系の「平賀こけし店」の8代目として、こけし製作に取り組んでいます。

※作並系:細い胴と「カニ菊」という蟹に似た模様が特徴的なこけしの系統の一つ

賀輝幸が作るこけしの特徴

平賀輝幸が作る「平賀謙蔵型」こけしの特徴は、繊細なロクロ模様を使って作る“小さなこけし”、新しい技法を取り入れた“変わり型こけし”、祖父と父親から継承した胴が長い“長々こけし”、そして、“祝いこけし”の4種です。

特に祝いこけしは、冠婚葬祭に関わるこけし商品として、結婚、お誕生、新築などのお祝い用として使われています。

また、平賀輝幸が作る“雪うさぎ”というこけしは、こけしの頭の上に雪うさぎがちょこんと乗った、とても可愛らしいシリーズ♡

平賀輝幸の作る変形こけしはカラフルで、どこか北欧の雰囲気を感じるデザインになっています。

賀輝幸の製作活動

平賀輝幸は作並温泉の平賀こけし店8代目として、父親である7代目の故・平賀謙一のこけし技術を継承して伝統こけしの発展のために切磋琢磨して日々精進しています。

阿保正文(青森:津軽系)

けし工人「阿保正文」とはどんな人?

阿保正文あぼまさふみは、青森県出身。

こけし工人の高齢化が進んでいる中で、今後の活躍が期待できる貴重な津軽系統の若手こけし工人の一人です。

阿保正文の師匠は、父親の阿保六知秀むちひで

阿保正文は幼少の頃から絵を描くことが好きな少年でしたが、こけしにはあまり興味がなく本体にいたずら書きをする程度でした。

大学では農業を学びましたが、卒業後に父・阿保六知秀に弟子入りしました。

弟子入りした2年後には本格的なこけし製作をしながら、津軽系こけしの技術向上のために精進しています。

保正文が作るこけしの特徴

阿保正文が作るこけしの特徴は、師匠である父・阿保六知秀の特徴を継承していることと、津軽系こけしの特徴を取り入れた“マトリョーシカこけし”やリンゴ産地青森を表現した“りんごこけし”などの創作こけしです。

父・阿保六知秀のこけしの特徴は、目が黒目で本体が大きく、バランスと均整がとれており、阿保正文もこの特徴をこけしに継承しています。

そして、阿保正文のこけしは津軽系の特徴も継承しているので、おかっぱ頭でくびれた胴をしています。

描彩には、アイヌの文様に影響されたといわれている津軽系独特の模様や津軽地方の家紋の牡丹、ねぶた、だるまなどの絵柄を取り入れています。

また、創作こけしの“マトリョーシカこけし”は、ロシアの民芸品と同じように、こけしの中に一まわり小さなこけし、その中にはさらに小さなこけし、といった具合に5体の形が異なったこけしが楽しめるように作られています。

“りんごこけし”は約12㎝の小型ですが、おかっぱ頭にリンゴの葉っぱが付いた帽子をかぶり、真っ赤な頬に笑顔がかわいいこけしです♡

描彩には、リンゴの色に合わせて赤黄緑の三色があり、津軽系の伝統的な模様が描かれています。

このりんごこけしは、津軽系こけし(別名:温湯ぬるゆこけし)の伝統とリンゴ産地の青森を組み合わせた新しい感性と斬新的なデザインで作られているので、特に子供から若い女性を中心に人気があります。

保正文の製作活動

阿保正文は、師匠で父親の阿保六知秀と一緒に「阿保こけし屋」を経営しながら古くから継承している伝統を守りながら日々、新しい創作こけしづくりに挑戦しています。

石川美祈子(青森:津軽系)

けし工人「石川美祈子」とはどんな人?

石川美祈子みきこは、青森県弘前市の出身で師匠となる今晃こんあきらの作品に感銘を受けてこけし工人を志した、津軽系こけし工人です

石川美祈子は幼少の頃からモノづくりや工作などが好きな少女で、学校卒業後は東京で就職しました。

しかし、石川美祈子が32歳の時、雑誌「こけし時代」に掲載されたこけし工人・今晃の作品に感銘を受け、こけしづくりに興味を持ちはじめました。

2年後には故郷の青森に帰郷し、翌年には青森県石黒市にある津軽こけし発祥の地に立てられたこけし館で働きはじめます。

感銘を受けた今晃一家と石川美祈子の父親は偶然にも知己の間柄であったので、翌年にこけし館を退職して秋田県大館市にある今晃の下で木地の修業をはじめ、その翌年からはこけしの試作品づくりをはじめました。

石川美祈子は、平成30年(2018年)4月に開催された津軽こけし館30周年イベントで、師匠・今晃とのこけしづくりの実演でこけし工人としてデビューを果たしました。

川美祈子が作るこけしの特徴

石川美祈子が作るこけしの特徴は、彼女が作る伝統こけしと新しい創作こけしの両方に、師匠・今晃の特徴を継承しているところです。

石川美祈子の創作こけしの顔の表情には、どこか微笑ましさが表れており、見ているだけで癒される不思議な魅力があります♡

川美祈子の製作活動

石川美祈子は伝統や創作こけしだけでなく、こけしの形をしたペンダントなど新しいオリジナルのこけし作品の製作に挑戦したり、津軽系こけし工人たちと一緒に伝統こけし文化を広めています。

現在でも定期的に師匠の今晃の下に通いながら、故郷の青森県弘前市にある作業場や津軽こけし館で製作活動をしています。

おわりに

昨今のこけしブームの陰には、まさにこれら6人の若手こけし工人たちの活躍があるといっても過言ではないでしょう。

各工人が手掛けるこけしに興味が沸いた方は、ぜひ一度こけしを見に行ってください!

きっと、こけしの魅力にハマってしまうはずですよ♪