箱根寄木細工とは?

箱根寄木細工とは、神奈川県箱根町周辺で作られる伝統ある木工芸品です。

箱根町周辺の山で採取される、木の自然な彩りや木目を生かして作られる精巧な幾何学模様は、日本人だけではなく海外の方からも愛されています。

また、他に例を見ない独特で貴重な木工芸品として、昭和59年(1984年)には経済産業大臣より国の伝統的工芸品の指定を受けています。

この記事では、箱根寄木細工の歴史や特徴、魅力、作り方などについてご紹介します。

箱根寄木細工の歴史

そもそも「寄木細工」とは、いろいろな種類の木材を組み合わせ、木の色や木目の違いを利用して模様を作る木工技術のことを指します。

この寄木細工のはじまりは、古代西アジアにあり、シルクロードを経て日本へ伝来したと考えられています。

寄木細工が日本で盛んに作られるようになったのは、江戸時代後期のこと。

江戸幕府三代将軍・徳川家光が浅間神社の増改修にあたって全国から名工たちを駿府城下(現在の静岡県静岡市葵区あたり)に呼び寄せます。

浅間神社の改修が終わった後も、多くの職人が駿府すんぷ城下に住み続けたことにより、静岡で寄木細工が発展していったと言われています。

そして、箱根の畑宿はたじゅくに生まれた石川仁兵衛いしかわにへいという職人が、静岡で寄木細工の技術を学びます。

箱根へ戻った仁兵衛は、東海道を旅する人々の土産品を作るために箱根寄木細工の技術を考案しました。

当初は色の違う木材を組み合わせた乱寄木という柄や、単位模様という柄が主流でしたが、後に連続する細かな紋様の小寄木が誕生し、その伝統技法が今に伝えられています。

箱根寄木細工の特徴や魅力

然が織りなす美しさ

色鮮やかで美しい箱根寄木細工は、種類の異なる無垢むくの木が持つ色の特性や、神代木じんだいぼくが持つ深みのある色合いが活かされています。

神代木とは、数千年もの昔に火山の噴火などによって地中に埋められてしまった「埋もれ木」のこと。

土砂によって酸素が遮断され、腐敗していない状態で偶然にも掘り起こされた希少な木材なのです。

このように、箱根細工は自然豊かな木の色合いが特徴の一つとなっています。

しき幾何学模様

箱根寄木細工の模様は、配色の並びによって印象がガラリと変わります。

さまざまな色合いと木目を活かした木材を寄せ合わせ、継承された高い技術で作られる精緻な幾何学模様は、思わず感嘆の声が出てしまいそうな美しさ。

また、箱根寄木細工の模様には一つひとつに意味が込められていたり、由来があったりします。

伝統的な模様に込められた意味を知るのもまた面白いですね。

密箱

秘密箱とは、箱の側面を少しずつ順番に動かさないと蓋が開かない仕掛けが施された、木工細工の箱のことです。

もしかしたら、箱根寄木細工と言われて一番に思い浮かぶのは、「秘密箱」かもしれません。

秘密箱は、仕掛けをスライドさせる回数が多くなるほど開けることが難しくなります。

回数が少ない箱だと4回ほどで開けることができますが、回数が多い箱となるとスライドさせる回数が100回を超えるものもあるのだとか。

そんな秘密箱の表面が箱根寄木細工の技法で装飾されているのは、箱を美しく装飾するとともに、仕掛けのため表面に施された材木の繋ぎ目を隠す効果もあるのです。

日本で最初の秘密箱は、江戸時代に箱根の指物職人であった大川隆五郎が考案したものだとされます。

とても面白い秘密箱ですが、仕掛けの構造が複雑なため、伝統的な秘密箱を作れる職人は大変少なくなっているそうです。

遊び心が刺激される秘密箱の複雑な仕掛けと、箱の表面に貼られた箱根寄木細工の精緻で美しい模様は魅力的で、日本国内外問わず多くのファンがいるんですよ。

箱根寄木細工の作り方

精密な幾何学模様が美しい寄木細工は、一体どのように作られるのでしょうか?

その伝統の技法をご紹介しましょう。

根寄木細工に用いられる木材

寄木細工の原材となる木材は50種類以上もあります。

そこで、代表的な木材を簡単に説明しますね。

寄木細工の色と使用する木材の種類

白色系あおはだ、みずき、まゆみ、もちのき、しなのき、せん
淡黄色系まゆみ、にがき、ニセアカシア
黄色系にがき、うるし、はぜのき、くわ、しなのき
緑色系ほおのき、はりえんじゅ
茶色系あかくす、いちい、えんじゅ、かつら、くるみ、くすのき、けやき、さくら、しなのき、ちゃんちん、もっこく、たぶのき、ナトー
褐色系けやき神代、ウォールナット、マンソニア
灰色系ほおのき、あおはだ、たも神代
黒色系かつら神代、くり神代、くろがき、コクタン
赤色系バドック、レンガス


根寄木細工の作り方

種木作り

①作成したい寄木模様に適した色合いの木材を選び、寄木細工専用の型に合わせて模様のパーツを手鋸のこぎりで切り出します。
切り出したパーツを型に入れ、さらに手鉋かんなで丁寧に面を整え仕上げます。

②完成した模様のパーツを一組ずつにかわという接着剤で組み合わせ、模様がズレないようにしっかりと紐で締めて接着します。

③上記の作業を繰り返しながら、大きな模様材を作っていきます。
できあがった大きなパーツの塊を種木たねぎと呼びます。

種板(たねいた)作り

種木たねぎをいくつかに切り、寄木のブロックを作っていきます。

⑤模様の異なる寄木のブロックを板状に寄せ集めて接着し、美しい幾何学模様の元となる種板を作ります。

ヅク(ズク)削り

⑥特殊な大きい手かんなを使って、種板を薄く削り出します。
これが「ヅク(ズク)」と呼ばれる物です。
「ヅク(ズク)」は手鉋で削られた状態だと縮んでいるので、アイロンで伸ばし、木箱などの木製品の表面に接着剤を塗布して貼り付けて、寄木細工の完成です!

根寄木細工の無垢作りとは?

さきほどご紹介したヅク(ズク)貼りの寄木細工とは異なり、模様を組み合わせて作った種寄木たねよせぎそのものを、ロクロで引いて立体的な器や丸盆などの木製品に加工する技法のことを「無垢作り」と言います。

丸みを帯びた形にも加工できることが特徴です。

その丸みの付け方によって現れる模様も異なり、ヅク(ズク)貼りによって作られる工芸品とは一味違った魅力があります。

箱根寄木細工の職人たち

根寄木細工の伝統工芸士

伝統工芸士とは、後継者不足などによって低迷している伝統的工芸品産業の振興を狙って誕生した制度です。

伝統工芸士には、国が指定した伝統的工芸品を広めて、高度な技術や技法を伝えていくことが求められており、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づく国家資格です。

そして、箱根寄木細工にも、それを体現している伝統工芸士たちがいます。

本間昇(ほんまのぼる)

高度経済成長期であった昭和40年代~昭和50年代(1960年代~1970年代)、伝統的な日本の文化や技術への関心は人々から薄れかけ、それに伴い寄木細工も衰退してしまいます。

しかし、そんな時期にも手作りのものが復活する時代は必ず来ると考えた本間氏は、箱根寄木細工の素晴らしさを多くの人々に広めるとともに、職人を目指す若者の研修の場として、本間寄木美術館を設立しました。

同時に、本間木工所という箱根寄木細工の製作と販売を行う工房も作り、寄木細工職人の高度な技を間近で見学できるようにするなど、寄木細工を現在へと繋ぐ貢献をした人物です。

金指勝悦(かなざしかつひと)

寄木の里である箱根畑宿はたじゅくに生まれた、「無垢むくの寄木細工」の第一人者とも言える伝統工芸士です。

金指氏の作品には、長い年月をかけて継承されてきた寄木細工の優れた伝統の技に加え、新しさと独自の手法・デザインが取り入れられています。

代表的な作品は、なんといっても箱根駅伝で往路優勝校にだけ贈られるトロフィーでしょう。

その年の明るいニュースをテーマにして趣向を凝らし作られるデザインは、設計図というものが一切ないといいます。

そのため、試行錯誤して生まれた試作品と本物とでは、色と形が全く同じということはないのだそうです。

木細工の若手職人集団「雑木囃子」

「さまざまな種類の木を用いながら、若いチームで新しい囃子はやし(≒リズムや音楽)を奏でていこう」という思いが名前に込められた「雑木囃子ぞうきばやし」は、平成17年(2005年)に箱根寄木細工に携わる若手職人たちが立ち上げた集団です。

卓越した寄木細工の伝統を継承しながらも、若い感性で現代の暮らしに溶け込むような新しい寄木細工のアイテムを生み出す創作活動をしています。

また、産地である箱根周辺や国内だけではなく、海外にも積極的に発信しています。

雑木囃子ぞうきばやしの若い職人のセンスで作られた寄木細工の作品は、多様な木の合わせ方と形によって、渋さと可愛さが絶妙にマッチしているところが魅力。

雑木囃子によって手がけられた作品は、カードケース、豆皿、箸置き、ボタン、ブローチ、茶筒、ぐい呑み、スピーカーなどさまざまです。

例えば、雑木囃子ぞうきばやしのメンバーである篠田英治しのだえいじ氏は、時計ブランド「ICETEK(アイステック)」とのコラボレーションで、ブランドのアイコンであるダイヤモンドを寄木細工でデザインに落とし込み、モダンに仕上げています。

寄木細工が体験できる工房やキット

間寄木美術館

伝統工芸士である本間昇氏が設立した本間寄木美術館。

この美術館には、本間昇氏が長い年月をかけて収集した貴重な箱根寄木細工や木象嵌が展示されています。

江戸時代から昭和初期に製作された寄木作品が約500点以上所蔵されており、その内約200点が常時展示されていて、年間で3~4回程度の展示替えが行われています。

本間寄木美術館の天井は、市松いちまつ六角目玉ろっかくめだま亀甲きっこううろこあさくずし・四引よんびきなど、合わせて36種の日本古来の伝統模様を使った箱根寄木細工で彩られ、天井を見るだけでもその美しさに感動すること間違いなし!

1階の本間木工所には寄木工房と寄木ショップがあり、箱根寄木細工体験教室も行われています。

自分で選んだ木材を組み合わせて模様を決め、寄木コースターを作って楽しみましょう!

住所:〒250-0311 
神奈川県足柄下郡箱根町湯本84
アクセス:箱根湯本駅から小田原行バスに乗車後「山崎」バス停で下車、徒歩約2分。
営業時間:平日10:00~16: 00 土日休日9:00~16:30
定休日: 基本元旦のみ  ※臨時休館日あり

根寄木細工専門店 箱根丸山物産

箱根丸山物産は、箱根寄木細工を専門に取り扱っている老舗の工芸品店です。

秘密箱をはじめ、写真立てや丸盆、携帯ストラップ、財布など豊富な寄木細工が揃っています。

土地の特産品と一目で分かる箱根寄木細工は、海外の方へのお土産にも大変喜ばれているようです。

そして、箱根丸山物産本店では、寄木細工の代表的な作品である「秘密箱」の体験工作ができるんです!

作る前から何を入れようか考えるのが楽しいですね♪

住所:〒250-0521
神奈川県足柄下郡箱根町箱根17
アクセス:箱根湯本駅から箱根町線箱根町港行バスに乗車
「箱根関所跡」バス停で下車、徒歩約1分
営業時間:9:00~17:00
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、しばらくの間は10:00~16:00の短縮営業
定休日:年中無休

木細工を自宅で体験できるキット

なんと、寄木細工はお家でも作れてしまうんです!

寄木細工 工作キット4個セット

寄木の技法である「ヅク(ズク)」と「ムク」の良さを体感できるこちらのキットでは、三色の木のパーツを組み合わせ、ボンドで接着してコースターを作ることができます。

木の組み合わせ方によっては、コースター以外の物も作ることができるので、自分の工夫次第というところも楽しめるポイント!

手作り工作キット 寄せ木アートB

たくさんある寄せ木のパーツを見ただけでも、大作ができ上がりそうな予感がしますね!

まずは何を作るのかデザインを考えてから作り始めるのもいいし、己の感性に任せて感覚的に組み合わせて作っていくのも面白そうです♪

おわりに

天然木ならではの色彩や木目、材質の異なる木材が職人の手により、精緻を極めた幾何学模様へと変化する箱根寄木細工。

伝統を継承した職人によって、優れた技術と新たな技法やデザインで進化し続ける箱根寄木細工は、魅力満載で今もなお人々に愛されている伝統的工芸品です。

それは、同じものが二つとないからこそ、日本だけではなく、海外の方をも惹きつけて止まないのでしょう。

この記事を読んで下さった一人でも多くの方が、箱根寄木細工に対して興味を抱いていただけると幸いです。