昔と比べると、世の中は随分変わりました。

それでも人前で文字を書く機会というのは、意外と多いものです。

突然、「サインお願いします」なんて言われて、「もっと美しい文字が書けたらなぁ」と思った経験のある人は多いかもしれません。

美しい文字は、それだけでその人の品格や知的雰囲気をグッと上げてくれます。

ここでは、必要な道具も練習方法も分からないけれど書道を始めたい!という人のために、書道を始めるために必要な事を解説します。

筆の持ち方や姿勢、書道の基本、どんな風に練習を始めたら良いのかをオススメの書籍も含めお話していきます。

書道を始めるにあたって必要な道具

まずはどんな物が必要か、選ぶポイントは何かを解説します。

書道を始めるために必要な道具は、以下の6つです。

・筆
・墨
・硯
・紙
・文鎮
・下敷き

順に、それぞれの選び方を説明していきます。

筆の毛を「穂」、持つ部分を「軸」と言います。

良い筆の条件は「尖」「斉」「円」「健」の四徳が備わっている事。

それぞれの意味は、以下の通りです。

穂先が、とがっている事。穂先のまとまりが良い筆です。
穂先全体が、よく整っている事。穂を構成する毛がバランスよく配されている筆です。
穂全体がきれいな円錐形になっている事。墨を含んだ時に、不均等なふくらみやねじれを生じない筆です。
穂先の弾力がほどよく、筆がスムーズに運べる事。

未使用の筆の穂は、糊で固められ円錐形(とんがり帽子の形)になっている物が多いですね。

それを注意深く見れば、「尖」「斉」「円」が備わっているかどうかはわかります。

一方、「健」に関しては書いてみないと分かり難いですが、目で見て判断できるポイントが穂の色です。

穂には白色の物と茶色の物がありますが、初心者向けは茶色の物です。

主原料はイタチやタヌキや馬の毛などで、毛質はやや硬めで弾力があります。

白色の穂は羊の毛です。

柔らかすぎて弾力が殆どないため、書道を長年やっている人でも、使いこなすのが大変です。

書道が嫌いになり兼ねませんので、オススメしません。

中が茶色、表面が白色というような穂もありますが、敢えて選ばなくて良いです。

穂のサイズとしては、直径1㎝×長さ4㎝程度の、4号か5号の筆が半紙用に適します。

まずは小売価格1,000円程度の物が良いでしょう。

筆選びについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

墨は、大きく分けて「油煙墨ゆえんずみ」と「松煙墨しょうえんずみ」の2種類です。

油煙墨の原材料となる「すす」は、菜種油を燃やした物です。

光沢があり、磨った墨の色は真っ黒です。

松煙墨の原材料となる煤は、松の根や幹を燃やした物です。

カサカサしていて光沢がなく、磨った墨の色は青味がかっています。

太筆で半紙に漢字を書く、或いは小筆でかな文字を書く、そのいずれの場合も油煙墨を使います。

墨液を使って練習するのであれば、子供の頃、学校で購入した硯でも使えます。

ですが墨を磨って書こうと思うのであれば、その硯は使えません。

なぜなら、それは石のように表面をコーティングしたプラスチック容器だからです。

硯は水をためる部分を「墨池ぼくちう」「海」「池」、平らな部分を「丘」「陸」「岡」「墨堂ぼくどう」と呼びますが、その硯で墨を磨れば、1年も経たない内に丘のコーティングが全部はがれてしまいます。

従って、墨を磨って書きたいと思っているのであれば、硯は石でできた物を買いましょう。

オススメのサイズは、4.5平(しごひら、135×75㎜)、5.3寸(ごさんすん、150×90㎜)で子供の頃に購入した物とほぼ同じです。

漠然とした言い方ですが、表面がツルツルしている紙や柔らかい紙、薄い紙、厚い紙はやめましょう。

ツルツルしている紙は筆がすべって書き味が悪く、墨を吸いにくいので表面に墨がたまった状態になります。

手や洋服、紙の他の部分が汚れる原因にもなります。

柔らかい紙は墨を吸いやすいので墨が滲み、書いてる傍から破れる場合もあります。

紙には、機械でいた物、手漉てすきの物、中国製の物、日本製の物など、色んな種類がありますが、まずは上記以外で墨がにじみにくい紙をオススメします。

書道の紙選びについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

軽い物は紙を十分に押さえる事ができず、文字を書く力に引っ張られて紙が動きます。

これでは良い練習ができませんので、文鎮はしっかりと重さのある物を選びましょう。

敷き

書道で使う下敷きは、フェルト製の物です。

しわが付くと文字が書けませんので、保管には気を付けてください!

書道の基本所作〜筆の持ち方、書く時の姿勢〜

の持ち方

皆さんにオススメする筆の持ち方は、以下の2つです。

単鉤法(たんこうほう)

筆は親指と人差し指と中指で持ちますが、正面から見た時に人差し指だけが筆の前にかかり中指は筆の後ろで筆を挟むのが単鉤法です。
残りの2本の指は、中指に軽くそえるか軽く握るくらいの感覚で良いでしょう。

双鉤法(そうこうほう)

単鉤法に対して、中指も筆の前にかかるのが双鉤法です。
残りの2本の指は、単鉤法と同じです。


筆を持った時、或いは文字を書いてみた時に、ご自身になじむ方を採用して下さい。
大事なのは、軸のどこを持つかです。

下の方を持つのはオススメしません。

ちょっと崩してスピード感やリズム感のある文字を書く時、筆を自由自在に動かせない原因になる可能性があります。

道をする時の姿勢(座り方)

椅子に腰かける、座布団に座る、そのどちらでも良いですが、大事な事は机に対して真っ直ぐに座る事です。

座布団に座るなら、正座です。

足がしびれないように補助器具を使っても良いでしょう。

上半身は背筋をまっすぐ伸ばします。

机はおへその高さになるようにして下さい。

机に向って正座をすると、ちょうどその位の高さになりますよね。

椅子に腰かける場合は、座布団などで調整して下さい。

道をする時の服装

特に決まった服装はありませんが、最も気になるのは袖口です。

ふくらんでいたり、大きく空いていたりするものは、袖口が硯に浸かってしまう危険性が高いです。

そんな場合は、腕貫を使う方法もあります。

または、黒い衣類や着なくなった衣類なら、万一墨が付いてしまっても安心ですね。

書道初心者が知っておくべき書道の基本

道の三要素とは

書道には書き方として重要な、筆法ひっぽう筆意ひつい筆勢ひっせいがあります。

これを「書道の三要素」と言います。

それぞれの意味は以下の通りです。

筆法
書道をする時の腕の構え方や筆の持ち方、筆遣いや筆の運び方など、筆の使い方全般を指す言葉
筆意
筆を運ぶ時の書き手の意図や心構え、気持ち、感情
筆勢
筆の力、勢い

人の手によるしょは、三要素の違いによって見る人に与える印象が大きく変わります。

書き手の人柄や性格が分かる、と言っても過言ではありません。

画とは

文字は、何本かの線で構成されていますよね。

その1本1本を筆画ひっかく、または点画てんかくと言います。

画数とは筆画の数、筆順とは筆画を書く順番の事です。

本点画とは

基本点画とは書道の基本となる点画の事で、8つあります。

詳しくは、次章で解説します。

まずは臨書をしてみよう

書とは?

どんな世界にも「古典」があります。

長い時間を経ても尚、色褪せない優れた物、そんなイメージでしょうか。

臨書とは、古典をそっくりに書く練習方法です。

臨書には形を忠実にまねて書く「形臨けいりん」と、単に形をまねるのではなく、それを書いた人の筆意をくみ取りながら書く「意臨いりん」とがあります。

何度も何度も臨書を重ねる事で、手本を見なくても記憶で臨書が出来るようになりますが、これを「背臨はいりん」と言います。

字八法を書いてみよう

前章でご紹介した8つの基本点画が、「永」という文字に集約されています。

永字八法えいじはっぽう」は、それを表した言葉です。

それぞれの筆画の名称は下記の通りです。

この8つを習得すれば、どんな文字も楷書でなら書く事ができると言われます。

いきなり臨書は…という人は、「永」をとことん追求して下さい。

書道の5つの書体について

漢字の書体の1つです。

漢字の全ての筆画を続けて書かず、その都度、筆を紙から離して書く書体です。

書体には5種類ありますが、最後に誕生した書体だと考えられています。

漢字の書体の1つで、4番目に誕生した書体だと考えられています。

筆画を所々続けて書いたり省略したり、筆順が入れ替わったりします。

楷書を少し崩した程度の書体ですので、読むのは困難ではありません。

早く書く事を目的として生まれた書体です。

可能な限り点画が省略されていて、元の文字(楷書)が何なのかが分からないものも少なくありません。

その点が行書とは大きく異なります。

最も歴史のある書体です。

転折(文字の角などの方向転換の部分)を一画でカーブさせて書くのが特徴です。

私達が使う印鑑の文字が、篆書です。

横画は水平、縦画は垂直で、文字の形は左右対称です。

筆を運ぶ速さは一定で、筆の使い方に隷書ならではの特徴があります。

最も大きな特徴は、波のようにうねって見える「波磔はたく」と言われる線です。

篆書を簡略化したものが隷書で、隷書から草書と行書、そして楷書が生まれました。

以上、文字には5つの書体がありますが、学ぶ順番とすれば、楷書、行書、草書の順になります。

篆書や隷書は特殊なので、どうしても書けるようにならなければいけないというものではありません。

実際、長年書道を習っているけど一度も書いた事がない、という人は少なくないでしょう。

とは言えなかなか魅力的な書体ですので、書けるようになりたいと思うかもしれませんね。

その場合は先生に学ぶ事をオススメします。

独学で書くには、篆書と隷書は筆遣いや字形が大変独特で難しいです。

書道の入門~お手本を見て練習しよう~

手本の探し方

書道を始めるに当たっては、全くの独学以外に通信講座や書道教室を利用する方法もあります。

ですが、その前に1つとても大切な事があります。

それは、自分の好きな流派を見つけるという事です。

書道には様々な流派があり、流派によって書は全く異なる趣を持ちます。

つまり、流派によって美しいとする書の特徴に違いがあるという事です。

ですからまずは、ご自身の好きな流派を見つける事が大事だといえます。

その方法として、以下をオススメします。

覧会に行ってみる

お忙しいとは思いますが、展覧会に出かけてみてはいかがでしょうか?

展示されている作品は初心者にはいきなり書ける物ではありませんが、展覧会会場ほど、その流派の作風が明確に出る場はありません。

そこで自分の好き嫌いを確認し、好きな流派に関連した書籍で練習する事をオススメします。

書店に行ってみる

皆さんは、競書誌きょうしょしというのをご存知でしょうか?

書道教室では級位が取得できる所が殆どですが、競書誌はそのためのテキストで、会員にならないと手に入らない物です。

ところが、古書店にこの競書誌が売られている場合があります。

古書店に出かけてみて、皆さんの好きな流派の競書誌を購入するのもオススメです。

競書誌を見れば、各流派ごとに、漢字半紙作品、条幅作品、漢字かな交じり文、かな散らし書きなど、作品にも色んな分野がある事が分かりますので、練習できる選択肢が広がります。

当然ながら各流派の書家の研究やコラムのページも有りますので、勉強になります。

また級位を取るために頑張っている人達の優秀作品も掲載されていますので、皆さんのモチベーションになるかもしれません。

古書店には、当然ながら書道関係の書籍も多く販売されています。

そういった物が安く購入できれば、皆さんのやる気も益々UPするのではないでしょうか?

一方、せっかく手本を選ぶのだから普遍的な物をお手本にしたい、そう考える皆さんのために、次章では臨書の手本に多く用いられている古典をご紹介します。

書道入門者にオススメの書籍

書誌

競書誌の一部をご紹介します。

『書の教室』日本教育書道研究会発行

『書芸公論』寒玉会発行

『書学』日本書道教育学会発行

書で選ばれている書籍

初心者にも比較的とっつきやすい古典として、以下のものをご紹介しておきます。

これらは勿論、ネットでも購入できます。

楷書

欧陽詢おうようじゅん九成宮醴泉銘きゅうせいきゅうれいせんのめい』二玄社

褚遂良ちょすいりょう雁塔聖教序がんとうしょうぎょうのじょ』二玄社

顔真卿がんしんけい多宝塔碑たほうとうひ』二玄社

行書

王羲之おうぎし蘭亭叙らんていのじょ』二玄社

おわりに

筆を文房具店などで購入される書道初心者の方を時々見かけます。

書道専門店だと高くつく!との印象があるのかもしれませんね。

そんな事はありません。

是非、道具は書道専門店で相談しながら購入して下さい。

紙の試し書きも、できるかもしれません。

そして、とにかく書いて下さい。

理論ばかりで頭でっかちになるより、書く事が大事です。

ここでは実践に役立つ事を重視して、主に太筆を練習する場合について解説しました。

とにかく書道を始めたいんだ!という今のお気持ちを大切に、時に楽しく、時に凛と、書の道に邁進して下さい。