皆さんは、「民陶」という言葉をご存じでしょうか?
お殿様や、位が高く裕福な人達のために作られた陶器のことをお庭焼・御用窯というのに対し、民衆によって作られ、民衆が生活のために使う陶器のことを「民陶(民藝陶器)」と呼びます。
華美さや繊細さより、素朴さや丈夫さ、暮らしに馴染むことに重きを置く民陶は、人々の生活に寄り添う魅力があります。
日本人らしい暮らしが見直されているこの時代、改めて民陶の人気が高まっています。
小鹿田焼とは
大分県日田市で作られている「小鹿田焼」は、数々の民陶の中でも人気がある陶器です。
小鹿田焼独特の姿は、昔から守られているいくつかの決まりごとによって形づくられています。
小鹿田焼の特徴
民陶として愛される小鹿田焼には、民陶ならではの素朴な特徴があります。
製造工程の一つひとつにもその特徴が感じられます。
ここでは、どこかぬくもりを感じさせる小鹿田焼の特徴をご紹介します。
直 接絵を描かない
小鹿田焼では直接絵を描き入れることはありません。
この幾何学的な模様は「飛び鉋」という手法で施されており、ロクロの回転に合わせて鉋で模様をつけます。
また、皿に緑色や飴色の釉薬をかける「打ち掛け」という手法で多彩な器を生み出していきます。
機 械を使わない
20日ほどかけて原料である陶土を挽く唐臼は、川の流れを利用しています。
大きなししおどしのような姿から出る音は心地よく、日本の音風景100選にも選ばれています。
ほかにも、作陶に使うロクロは電力を使わず足で回し、焼くときには登り窯で薪を使って焼きます。
家 族で営む
小鹿田焼の技術は、親から子以外には他の誰にも教えないという、一子相伝のものです。
全ての工程で外部の手が入ることはなく、原土を水でかき混ぜて余分なものを取り除く「水簸」の作業は昔から女性の仕事でした。
手 作りの道具
成型用のヘラやコテ、鉋、叩き板など小鹿田焼づくりに必要な道具は職人の手作りです。
道具そのものを自分の手に馴染むように作るため、各職人の道具は少しずつ個性が出ます。
窯 元の名を入れない
原土の採取から全員で行うため、窯元はそれぞれ成型時に「小鹿田」という印を押します。
窯元個人の名を入れないことで、小鹿田焼の価値は上がったりせず、今でも民陶として手頃な値段や使い勝手のまま保たれています。
小鹿田焼の歴史
小鹿田焼は、筑前藩主・黒田長政によって朝鮮から連れられた陶工八山が、福岡県直方市の鷹取山に窯を開き、その後、八山の孫である八郎が1665年に小石原焼(福岡県)を開窯します。
その40年後の1705年、小鹿田の地に小石原焼の陶工・柳瀬三右衛門を招いて技術を伝授してもらいます。
こうして小鹿田焼が生まれることとなりました。
小鹿田焼は日田の各家庭で日常的に使われていましたが、その名は全国的なものではありませんでした。
しかし、1931年に民藝運動の創始者である柳宗悦氏が小鹿田を訪れた際、朝鮮風の手法が昔のまま残されていることを大変貴重とし、伝統技法を受け継ぐ民陶として小鹿田焼に価値を見出しました。
さらに、1954年には世界的陶芸家のバーナード・リーチ氏が小鹿田焼を気に入ったことや、民藝運動家たちの応援もあって、小鹿田焼の名は全国に広まっていきました。
そして、1970年、小鹿田焼は国の無形文化財として指定を受けました。
小 鹿田焼の里に行ってみよう!
現在小鹿田の里では、9戸が窯業を営み小鹿田焼の伝統的製陶技法を守り伝えています。
この小鹿田焼が生み出される「小鹿田焼の里」は、自然豊かでおだやかな時間が流れる素晴らしい景観を持つため、観光に訪れる人も多くいます。
小鹿田焼の里は窯業を生業とする皿山地区、農林業を生業とする池ノ鶴地区に分かれており、どちらでも水・土・木などの地域資源を生かした生活を営んでいます。
山間にあるだけに自然は厳しく、人々は昔から知恵を駆使して暮らしてきました。
ここでは時間の経過の中で集落の形成や生活・生業の在り方が変化しながらも、里と里山の関係が昔のまま壊れず維持されています。
この自然の力と人の知恵で築き上げた美しい風景を文化的景観として次世代へ継承するため、小鹿田焼の里は平成20年に九州で初めて国の重要文化的景観に選定されました。
"文化的景観とは…
地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの”
出典;文化財保護法第二条第1項第五号より
小鹿田焼の里を訪れた際は、ぜひ以下の注目ポイントをゆっくり見学してくださいね。
また、製作を行う工房内は立ち入りを禁止しているところもありますのでご注意ください。
鉤 屋造り
陶器の乾燥などを行う作業空間の庭を取り囲むようにL字の一端に住居、一端に作業場が配置されています。
唐 臼と水路
川の水を利用して陶土の粉砕を行います。
日本の音風景にも選ばれた心地よい音も堪能してください。
登 り窯
焼成は薪を使った登り窯で行います。
1年に5回、2、3ヶ月に一回のペースで焼成を行い、2日の間、一日6時間薪をくべ続けます。
タイミングが合うと、窯に成型した器を並べているところを見学できます。
小鹿田焼を購入するには?
小鹿田焼は全国的にも有名な焼き物なので、さまざまなショップで取り扱われています。
ネット通販もありますが、一つひとつ手作りのため色合いや形など、わずかな雰囲気の違いは実際に手に取ってみないと分かりません。
取扱店に足を運んでよく見比べてみると、お気に入りの一品が見つかるはずです。
電話 03-3958-5231
東京都豊島区長崎4-25-7
電話 03-3708-9311
東京都世田谷区玉川3-20-10 メリス玉川PART2-201
電話 072-695-8900
大阪府高槻市富田丘町6-14
日 田観光の際に購入することも
大分県日田市は城下町としてさかえた歴史のある町のため、観光地としても有名です。
観光の拠点となる豆田町のショップでも小鹿田焼を購入することができます。
小鹿田焼 大原
TEL:0973-22-7411
住所:大分県日田市港町1
おんた焼SAKO
TEL:0973-24-3822
住所:大分県日田市豆田町77-1
秋頃には小鹿田焼民陶祭で購入できる
毎年10月、小鹿田焼の里では全ての窯元がこの日のために製作した陶器を販売する「小鹿田焼民陶祭」が開催されます。
県外からのお客様も多く訪れ、1年でもっとも小鹿田焼の里が賑わう日となります。
また、窯元直売のため、ショップよりもお得に購入することもできます。
小 鹿田焼民陶祭について
おわりに
小鹿田焼の深い魅力を紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか?
民陶のため毎日の家庭料理はもちろん、ちょっと特別な日の料理にも合う万能なデザインです。
どんなインテリアにも馴染むので、飾って楽しむこともオススメです!
自分の手で作る、好みのものを収集する、日常の暮らしの中で使う…陶磁器には様々な楽しみ方があります。
なぜ日本の陶磁器は多くの人を引き付けるのか。
その魅力のワケを探っていきたいと思います。
日本は、およそ1万年以上もの「焼き物」の歴史を持つ国です。
現在も北海道から沖縄まで全国各地に陶磁器の産地が存在し、国内外から多くの焼き物ファンが訪れています。
粘土を成形し、高温の窯などで焼成し器や造形物を作ることを陶芸と言います。
火山の噴火によってできる岩石が長い年月をかけ砕かれ、有機物と混ざりあったものが粘土。
世界中に存在しています。
陶芸によって作られる陶磁器と呼ばれるものにはおおまかに2種類あり、土が主な原料で叩いた時ににぶい音がするのが「陶器」。