伊賀焼とは、忍者の里としても名高い三重県伊賀地方の古琵琶湖層から採れる「伊賀陶土」を使用し、伝統的な技法を用いて伊賀市と名張市で生産される陶器のことです。

昭和57年(1982年)には、経済産業大臣から国の伝統的工芸品として指定されました。

今回はそんな伊賀焼の特徴から歴史など、幅広い魅力をお伝えしていきます!

伊賀焼とは?

忍者の里としても名高い三重県伊賀地方。

約400万年前、伊賀地方は古琵琶湖の底だったと言われています。

長い年月をかけて湖の底に堆積した古琵琶湖層から採れる「伊賀陶土」は、とても耐火性が高いことが特徴。

この陶土を使用し、伝統的な技法を用いて伊賀市と名張市で生産される陶器が「伊賀焼」と呼ばれています。

昭和57年(1982年)には、経済産業大臣から国の伝統的工芸品として指定されました。


伊賀焼の歴史

賀焼のはじまり

伊賀焼の歴史は古く、その起源は今から約1200年前の天平年間(729~749年)にまで遡ります。

当時、伊勢神宮の神瓶を作るため、丸柱寺谷(現伊賀市丸柱)の地に窯を興したのがはじまりとされています。

この頃の伊賀焼は、神瓶のほかに農業用の種壺や、生活雑器を中心に作られていました。

人に愛された古伊賀

時が下り天正12年(1584年)、伊賀領主となった筒井定次つついさだつぐは、茶人として有名な古田織部ふるたおりべと親交がありました。

この影響もあってか、お庭焼として茶壷や茶入、水差、花入等の作品を焼かせたことが古伊賀焼のはじまりだとされています。

特にこの時代に作られた物は「筒井伊賀」と呼ばれています。

筒井伊賀は、美しい緑色のビードロ釉をはじめ、古伊賀焼の特徴である焦げや火色などが味わい深く、多くの茶人を魅了しました。


寛永年間(1624~1644年)になると、大名茶人として有名な小堀遠州こぼりえんしゅうが伊賀焼の製作に携わり、それらは「遠州伊賀」の名で広まりました。

遠州伊賀は、筒井伊賀とは対照的に薄くてすっきりとしていることが特徴です。

その後、伊勢国津藩の2代目藩主となった藤堂高次とうどうたかつぐが京都から陶工を呼び寄せ、伊賀焼を作らせました。

この時に作られた伊賀焼は「藤堂伊賀」と呼ばれ認知されていきましたが、寛文9年(1669年)に原料であった陶土の採取が禁止となると、伊賀の陶工は信楽へと移っていき、伊賀焼は徐々に衰退していきました。

※お庭焼:大名などが自らの趣味に合わせて居城や藩邸の中に窯を作り焼いた陶磁器。

用品として再興した伊賀焼

しかし、江戸時代の中期になると伊勢国津藩9代藩主・藤堂高嶷とうどうたかさとが伊賀での作陶を推奨します。

京都や瀬戸の陶工を招くことで施釉陶の技術がもたらされ、これ以降、それまで伊賀で多く焼かれていた茶陶はほとんど焼かれなくなり、代わりに行平鍋、土瓶、土鍋などの生活雑器が中心に生産されるようになります。

この時期に作られた伊賀焼は「再興伊賀」と呼ばれ、現在の伊賀焼の基礎となっています。

そして、昭和57年(1982年)には国から伝統的工芸品に指定され、伝統的な技術や技法を用いて作られる伊賀焼の日用品は、今なお私たちを魅了し続けています。

伊賀焼の特徴

古くには茶陶として、現在では土鍋などとして広く愛されている伊賀焼。

長く愛される伊賀焼の特徴を紹介します。

格の美、破調の美

「古伊賀焼」と呼ばれる伊賀焼のはじまりとされる安土桃山時代は、新しい価値観が次々と生まれた変革の時代。

そんな時代の精神を反映するかのように、伊賀焼の伝統美には、あえて基本を崩し造形の極致を生み出す「破格の美、破調の美」というものが存在します。

例えば、古伊賀焼の水指や花入には、へら工具を使用した「山道手やまみちて」と呼ばれる波上の文様や格子状の押し型文様の他、歪み、緑色のビードロ、灰かぶりや焦げ、鉄釉を垂らすなどといった意匠が見られ、独特の侘びさびを感じさせてくれます。

賀に耳あり、信楽に耳なし

信楽焼の生産地である甲賀でも、伊賀焼と同じ古琵琶湖層の陶土を使用していたので、伊賀焼と信楽焼は見た目では区別がつきませんでした。

しかし、その後安土桃山時代に伊賀で茶陶が焼かれはじめると、伊賀焼には耳と呼ばれる取っ手が付くようになったのです。

これにより「伊賀に耳あり、信楽に耳なし」と言われるようになり、見分けがつくようになりました

この経緯から、古伊賀焼の水指や花入のほとんどに耳がついています。

中でも国の重要文化財に指定された「伊賀耳付水指 銘 破袋やぶれぶくろ」は、古伊賀焼の最高峰に位置する逸品です。

賀の七度焼き

「伊賀の七度焼き」というのは、伊賀焼を高温で何度も焼成することから生まれた言葉です。

何度も焼成を繰り返すことにより、陶土のガラス成分と灰などが合わさって美しい青ガラス質のビードロ釉が生じます。

さらに、火色や焦げと合わさった自然美はまさに侘びさびを体現したよう!

これが、茶陶において古伊賀焼の右に出るものなしと言われるほど高く評価される理由です。

賀焼と言えば土鍋

伊賀陶土は特徴的な粗土で、伊賀焼の特徴ともいえる日本でも珍しいほど高い耐火性はこの粗土によって生み出されています。

伊賀焼の原料である粘土は“蛙目がいろめ粘土”と“木節きぶし粘土”という2種類に分けられます。

蛙目粘土とは湖の河口付近に堆積した粘土で、粒子が粗く、重いという特徴があります。

一方、木節粘土は湖の中央部分に沈殿した粘土で、蛙目粘土とは異なり、粒子が細かく軽いことが特徴です。

この異なる性質の2つの陶土を混ぜ合わせ高温で焼成することにより、“呼吸をする土”と呼ばれるほど細かな気孔が生じます。

細かな気孔は熱を蓄えるので遠赤外線効果が高く、食材の芯までしっかりと火を通すことができます。

さらに、非常に冷めづらいので、伊賀焼の土鍋を火からおろした後も長い間とろ火で煮込んでいるのと同じ状態が保たれるのです。

じっくりじんわりと煮込むことによって、食材のうま味がじわじわと引き出されます。

伊賀焼の有名なお店・工房

谷園

天保3年(1832年)に築窯して以来、伊賀焼の伝統と技術を継承している長谷園。

7代目当主の長谷優磁ながたにゆうじ氏は「食卓は遊びの広場だ!」ということを理念にかかげ、常にライフスタイルや時代の変化を見据えたものづくりをされています。

中でも最大のヒット作は、炊飯土鍋「かまどさん」です。

かまどさんは、土鍋でご飯を炊くときに難しい、火加減の調整をしなくても美味しいごはんが炊ける!と人気の伊賀焼の土鍋です。

中火で13分炊いた後に20分蒸らすだけで、吹きこぼれもせず、ふっくらつやつやの絶品ご飯が食べられます。

伊賀焼の持つ特徴を最大限に引き出した現代の逸品です。

また、三重県伊賀市丸柱にある伊賀本店では作陶体験も行っております。

ぜひ一度足を運んでみてください♪

【伊賀焼窯元 長谷園 伊賀本店】
住所:〒518-1325
   三重県伊賀市丸柱569
営業時間:9時~17時
定休日:お盆・年末年始
アクセス:JR関西本線で伊賀上野駅下車(国道422号経由)タクシーで約10分

楽窯

職人による手作りという伝統を守り続けている土楽窯。

もちろん、土も釉薬も伊賀のものを使っていて、素朴で自然な風合いが魅力です。

そんな土楽窯で注目したいのが、独特な形をした「黒鍋」という土鍋です。

黒鍋は、非常に耐火性に優れていて、なんと耐えられる温度は約1000℃!

さらに、底が厚いので、土鍋としての一般的な使い方だけでなく、油を引いてステーキを焼く…なんてこともできちゃいます。

煮る・焼く・炒める・蒸すといったさまざまな用途に使えるため、一年中活躍してくれる伊賀焼の土鍋です。

【土楽窯】
住所:〒518-1325
   三重県伊賀市丸柱1043
営業時間:11時~17時
定休日:土日祝日、お盆、年末年始
アクセス: JR関西本線で伊賀上野駅下車(国道422号経由)タクシーで約15分

伊賀焼が買えるイベント

実際に伊賀焼を見て買ってみたい!という方もいらっしゃいますよね。

そんな方にオススメなのが陶器市などのイベント。

実際に手に取ることによって、自分にぴったりの伊賀焼を発見できるチャンスです!

緑伊賀焼陶器市

新緑伊賀焼陶器市は、その名の通り新緑の美しい5月に、伊賀焼伝統産業会館から長谷園までの道沿いに、伊賀焼を売っているテントが50軒ほどずらりと並ぶ恒例の陶器市です。

期間中は産業会館の入館が無料になるだけでなく、陶芸体験なども受け付けているのでより伊賀焼の魅力を知ることができるでしょう。

賀焼陶器まつり

伊賀焼陶器まつりは、昭和53年(1978年)に、青年陶器研究会が伊賀の各窯元から伊賀焼を集めて売りだしたことをきっかけにしてはじまった催しです。

約40軒の窯元や陶芸家たちとの交流を楽しみながら、会場を回ってみませんか?

もしかしたら思わぬ掘り出し物と出会えるかも……!

谷園窯出し市

長谷園窯出し市は、有名な伊賀焼の窯元である長谷園が毎年5月の2・3・4日に開催している、年に一度の大陶器市です。

毎年2万人もの人が訪れるというこのお祭りは、伊賀焼が売り出されるだけにとどまらず、美味しいグルメあり、楽しいイベントあり、施設展示ありと伊賀の一大イベントとなっています。

おわりに

古い歴史を持つ伊賀焼。

この地で採れる特徴的な土を用いて作られる伊賀焼は、今も昔も変わらず愛されています。

詫びさびを感じる古伊賀から、現代の土鍋まで、伊賀焼にはたくさんの魅力が詰まっています。

歴史に思いを馳せながら、伊賀焼を手にとってみてはいかがでしょうか。