小石原焼は、福岡県の中央部東端に位置する朝倉郡東峰村で作られている陶器です。
土の素朴な風合いとシンプルな模様が印象的な焼き物で、古くから生活雑器として人々の毎日の食卓を彩ってきました。
今回は、そんな小石原焼の特徴や歴史から、作り方、有名な窯元、陶器市の“民陶むら祭”まで、小石原焼を徹底的にご紹介します!
小石原焼とは?
小石原焼とは、鉄分の多い赤土で作った器に、白い土(化粧土)をかけ、道具や指を使って装飾を施した陶器です。
生産地である福岡県朝倉郡東峰村の小石原地区は、標高1000m級の山々に囲まれた盆地にある自然豊かな地域で、原料の赤土と、窯の燃料となる木々に恵まれていたことから、小石原焼が発展していったといわれています。
昭和50年(1975年)には、経済産業大臣によって国の伝統的工芸品※にも指定されました。
実は、伝統的工芸品に陶磁器が指定されたのは、小石原焼が初めてだったんですよ。
※伝統的工芸品:経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて認められた伝統工芸品のこと。
小 石原焼の特徴・魅力
小石原焼の特徴は、実用性と素朴な美しさを併せ持つ、「用の美(日用品の美)」にあります。
磁器のように軽くて丈夫なので、その扱いやすさから日常使いの器として重宝されてきました。
また、飛び鉋や刷毛目など独特の技法を使った、シンプルな模様も大きな特徴です。
小 石原焼と小鹿田焼の違いは?
東峰村と県を隔てた隣町の大分県日田市には、小石原焼とは兄弟窯とも呼ばれるほど深い繋がりのある「小鹿田焼」があります。
小鹿田焼は、江戸時代に小石原焼の陶工の一人が大分に招かれたことで築かれた焼き物です。
この2種類の違いは、飛び鉋や刷毛目など小石原焼と同じような装飾技法が使われる一方で、原料とする土の質が違うことにあります。
やわらかい赤土を使う小石原焼に対し、小鹿田焼の土は硬く黒味があります。
小石原焼の土は伸ばしやすく、自在な形の器を作ることが可能で、耐火温度も高いため高温で焼き上げることができ、丈夫な仕上がりになります。
一方、小鹿田焼の土は硬めで伸ばしにくい分、装飾の際に鋭角に切り込みが入るため、装飾が際立ちます。
また、小石原焼は現在50軒近くの窯元があり、さまざまなバリエーションの作品を作る一方、小鹿田焼は世襲制を取っており、一子相伝※で、開窯からの流れを受け継ぐ数軒が伝統を守り続けています。
※一子相伝:特別な技術を自分の子の中の一人にだけ伝えること
皆さんは、「民陶」という言葉をご存じでしょうか?お殿様や、位が高く裕福な人達のために作られた陶器のことをお庭焼・御用窯というのに対し、民衆によって作られ、民衆が生活のために使う陶器のことを「民陶(民藝陶器)」と呼びます。小鹿田焼は、人に寄り添ってきた民陶のひとつです。
小石原焼の歴史
江 戸時代に始まる小石原焼の由来
小石原焼は、福岡県直方市の鷹取山で作られる“高取焼”が起源とされています。
高取焼は、筑前福岡藩主・黒田長政が朝鮮から連れてきた陶工・八山によって、鷹取山に釜が開かれたことが起源とされています。
寛文9年(1669年)に八山の孫の八之丞が、中野(小石原皿山)に陶土をみつけ、この地に窯を開きました。
やがて八之丞らは、3代藩主・黒田光之が伊万里から招いた磁器作りの陶工から中国風磁器の製造方法を学び、その製法を自らの焼き物に取り入れました。
こうして、現代の原型となる小石原焼が生まれます。
当初、この焼き物は“中野焼”と呼ばれ、主に磁器が制作されていましたが、土が磁器づくりに合わなかったのか、製作が続いていた高取焼の技法を取り入れ、日常的に使う陶器を作るようになりました。
この陶器は昭和頃に“小石原焼”と呼ばれるようになり、そして現在に至ります。
民 藝運動との関わり
民藝運動とは、手仕事で作られた、庶民の日用品こそ美しいという「用の美」を提唱する考え方を主張する生活文化運動のことです。
昭和初期、民藝運動の指導者である柳宗悦や、イギリス人の陶芸家・バーナード・リーチらが称賛したことをきっかけに、小石原焼が注目されはじめました。
その後、昭和30年代の民藝ブームで、小石原焼は一躍人気が高まります。
昭和33年(1958年)にベルギーの万国博覧会で最高賞グランプリを受賞したことで世界的にも有名になり、昭和50年(1975年)に陶磁器としては日本ではじめての伝統的工芸品に指定されました。
今では50軒近くの窯元が、多彩な小石原焼の作品を生み出しています。
小 石原焼から人間国宝が誕生
平成29年(2017年)には、小石原焼の窯元である「ちがいわ窯」の16代目・福島善三氏が人間国宝に認定されました。
福島氏は、小石原地区から採取した土を原料に、伝統的な技法はもちろん、鉄釉※など新しい技法も取り入れた現代的な作品を手掛けています。
※鉄釉:酸化鉄を混ぜたうわぐすりのこと。鉄分量によって黒色、茶色、黒褐色、柿色など発色が異なる
小石原焼の作り方
個性あふれる小石原焼は、デザインから完成まで一人の職人の手作業によって生み出されるものです。
そんな小石原焼は、どのようにして製作されているのか、ご紹介します!
① 土・形作り
小石原焼は、小石原地区の皿山で産出する土を乾燥・粉砕して陶土として使用します。
まず、陶土の中の空気を押し出すようにして50回以上こねていくのですが、菊の花びらのように細かく練ることから、この作業を「菊練り」といいます。
その後、ロクロ(回転台)に陶土を練りつけ、回しながら形成を行う「水引き」の工程を行います。
なお、大きなものを作るときは陶土をロクロに固定する”板すえ”、底を作る”そこうち”、ロクロを回しながら土を練りつけて高くしていく”ねりつけ”などの作業を行います。
② 装飾付け
小石原焼は、化粧土と呼ばれる白い土をかけ、道具や指などを使ってさまざまな装飾や細工を施します。
【飛び鉋】
ロクロを回しながら作品の表面に湾曲した鉋を当て、飛び飛びの模様を入れる方法。
刷毛目
ロクロを回しながら刷毛を当て、線を描く方法。
櫛目
櫛型の道具で細かい線の模様をつける方法。
指描き
ロクロの回転に合わせて指を当て、模様をつける方法。
③ 釉薬掛け
模様を施したら、器に釉薬※をかけていきます。
釉薬は水の浸透防止や器に艶を出す役割のほか、装飾をつけることもできます。
※釉薬:陶磁器の表面を覆うガラス質の膜のこと。うわぐすりとも呼ばれる。
流し掛け
ロクロを回転させながら、作品の表面に釉薬を一定の間隔で流していく方法。
打ち掛け
釉薬を少しずつ打ち掛ける方法
④ 焼き上げ
焼き上げの工程では、薪を使う伝統的な登り窯か、ガスを使うガス窯を使います。
窯の一番端に付いている焚き口から火を入れ、およそ14時間かけて窯の温度が1000℃に上がるのを待ちます。
その後、各窯の炊き口から薪を入れる横炊きの工程に移ります。
火入れから炊き上げまでおよそ30時間かけて焼き上げたら、数日かけて窯を冷まし、作品を窯から取り出したら完成です。
小石原焼の有名な窯元
現在、小石原地区には50軒近くの小石原焼の窯元があり、それぞれ個性豊かな作品を製作しています。
ここからは、その中で有名な窯元をいくつかご紹介します。
上 鶴窯
「上鶴窯」は昭和53年(1978年)に開業した窯元で、現在は2代目の和田祐一郎氏が製作をされています。
細かい飛び鉋、刷毛目、櫛目などの伝統技法を受け継ぎながら、ドット柄やパステルカラーなど現代風のアレンジも取り入れた作風が特徴。
和洋ともに使えるオリジナリティー溢れる器を作っています。
また、ろくろ体験も実施していますが、現在はコロナ禍のためお休みです。
※令和4年(2022年)5月時点での情報となります。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に施設へお問い合わせください。
翁 明窯元
「翁明窯元」は、陶芸家・鬼丸翁明氏が昭和58年(1983年)に開窯し、今は息子の尚幸氏と親子2代で作陶している窯元です。
日々の暮らしが楽しくなる器を目指して伝統技法を用いつつ、艶消しをすることで優しい質感に仕上げた“翁明マット”や水玉模様の小石原焼など、温かくも新しい作品を送り出しています。
プレートやボウルといった現代の食卓にも使いやすい器はほどよい存在感があり、料理と合わせやすいと好評なのだそう!
なお、翁明氏は高取焼、尚幸氏は磁器の制作にも取り組んでおり、ここでは小石原焼以外の作品にも出会えます。
※令和4年(2022年)5月時点での情報となります。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に施設へお問い合わせください。
小 石原ポタリー
「小石原ポタリー」では、複数の小石原焼の窯元とフードコーディネーター・長尾智子氏がタッグを組んで、現代における用の美ともいえる器を作り出しています。
『料理をおいしくする』をテーマに、小石原焼の温かい風合いを大切にしつつも、現代の和洋どちらの食卓にも合うサイズや形、デザインを取り入れた器を提案。
形や大きさは同じでも、窯元ごとに模様や色味は異なるため、各窯元の個性が現れた作品はとても魅力的です♪
全国に取り扱い店舗があるので、ぜひお近くの取扱店をチェックしてみてくださいね!
※令和4年(2022年)5月時点での情報となります。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に施設へお問い合わせください。
小石原地区最大の陶器市・民陶むら祭
民 陶むら祭とは?
小石原では春と秋の年2回、「小石原 民陶むら祭」と題した大陶器市が開かれます。
約50件近くの窯元が窯開きを行なって、新作や自信作など小石原焼を展示販売しており、見て回るだけでも楽しいですよ♪
期間中は陶器を2割引で購入できるほか、小石原伝統焼産業会館では絵付け体験などのイベントを実施しており、小石原焼のことをもっと知ることができます!
2 022年の民陶むら祭はいつ?
春の「民陶むら祭」は例年、3日間開催されますが、令和4年(2022年)は5月1日(日)~8日(日)の8日間にわたって催されました。
秋の「民陶むら祭」は、令和4年(2022年)10月5日(水)~10日(月)の6日間開催されます。
※例年であれば10月に3日間ほど開催ですが、令和3年(2021年)の秋には1ヶ月にわたって開かれました。
変更があるかもしれないので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね♪
※令和4年(2022年)5月時点での情報となります。
掲載内容は変更していることもありますので、正式な情報については事前に施設へお問い合わせください。
おわりに
今回は、古くから福岡県で焼かれている伝統的な陶器、小石原焼を紹介しました。
窯元は現在、道具や指を使って模様を入れていく独特の技法を守りながら、生活に根差した食器を作り続けています。
素朴な風合いと優しいデザインの器は、どんな料理との相性も良く、日々の食卓に温もりを感じさせてくれます。
興味を持たれた方は、ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
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