長崎県の伝統的工芸品である波佐見焼は、約400年にわたり日用食器として親しまれてきました。
近年では、波佐見焼と有名デザイナーとのコラボレーションで注目を集めるなど、その洗練されたデザインと使い勝手の良さで若い方にも人気を博しています。
今回はそんな波佐見焼について、特徴や歴史、オススメの窯元などを徹底的に解説していきます!
波佐見焼とは
波佐見焼とは、長崎県中央部の波佐見町付近で作られている陶磁器です。
白い素地に無色の釉薬をかけて高温で焼き上げた白磁と、白い素地に藍色の絵具で絵付けした染付という2種類の技法がよく知られていますが、時代のニーズに合わせて進化を遂げ、約400年以上、使いやすい日用食器として親しまれてきました。
現代でも、日用和食器の出荷額全国3位という人気を誇っています。
波 佐見焼の特徴
ここからは、そんな波佐見焼の特徴をご紹介します♪
日常使いできる実用的な器
陶石と呼ばれる岩石の粉を高温で焼き上げる“磁器”を中心にした波佐見焼は、粘土で作る陶器に比べて丈夫で割れにくく、それでいて軽く耐久性も高いので、日常使いに適した実用的な器といわれています。
また、吸水性がほとんどないため汚れにくいなど、その扱いやすさも魅力のひとつ。
さらに通常の磁器の3倍の強度をもつ「ワレニッカ食器」という種類もあり、波佐見町では給食の際に児童たちが使用しているそうです♪
分業体制でリーズナブル
波佐見焼は、繊細な技術が光る良質な伝統的工芸品でありながら、お手頃価格で求めやすい器です。
それを可能にしたのは、この町ならではの分業体制だといわれています。
一人で一つの器を作るのではなく、型・生地・窯元など、各工程で職人を分ける分業体制をとり、その道のプロである専門職人の力を結集させることで、高品質な器の大量生産を実現。
これにより、一つ当たりの価格を安くすることに成功し、誰でも気軽に購入できるようになりました!
伝統と新しさが調和した作品たち
波佐見焼は透き通るような光沢のある“白磁”の美しさと、呉須という藍色の顔料で絵付けされた“染付”の繊細で優しい味わいが特徴です。
白磁に藍色の配色が良く映え、料理の色合いを引き立ててくれます♪
波佐見焼は、こうした伝統的な白磁の染付にとどまらず、時代に応じて絵柄や形状など多様なバリエーションの作品を製作してきました。
また、「特徴がないのが特徴」といわれるほど、自由度が高いのも魅力の一つ。
近年では若手作家も増え、幾何学模様の北欧風やポップな水玉柄、カラフルなものなど、和洋問わずさまざまなシーンで使いやすい器が続々と登場しています。
有田焼との違い
実は、有田焼も波佐見焼もほぼ同じ時期に、朝鮮人の陶工によって伝えられた焼き物なのです。
誕生した時期もルーツも近く、同じように磁器を生産していたことから、両者は兄弟同様に扱われました。
大きな違いといえば、有田焼は華やかな絵付けで献上品など高級な磁器として人気を博した一方で、波佐見焼は白磁に藍色の絵付けなどシンプルで繊細な絵付けを施し、主に日用食器として生産されていたことです。
有田焼と波佐見焼は、江戸時代に肥前の焼き物として伊万里港から海外へ積み出したため、まとめて港の名から「IMARI」と呼ばれました。
明治時代以降は、有田の駅から鉄道で全国に運ばれたため、まとめて有田焼と呼ばれるようになります。
つまり、有田焼と名乗る焼き物の中に波佐見焼も含まれていたのです。
ところが、平成10年(1998年)を過ぎた頃、商品の生産地表記が厳格化されたことで、有田焼という表記はなくなり、「波佐見焼」の名が知れ渡るようになりました。
「日本で有名な焼き物は?」と聞かれれば、日本人ならすぐに思い浮かべる有田焼。
日本の歴史の教科書にも出てくるくらいですから、有田焼の名前を知らない日本人はいないのではないでしょうか。
有田焼は佐賀県の有田町を中心に生産されている磁器です。有田焼は白磁に呉須ごすの染付を中心に多彩な彩色を施す絢爛豪華な色絵が特徴で、日本国内はもとより海外でも高級磁器として高い評価を受けています。
波佐見焼の歴史
約400年の歴史を誇る波佐見焼。
ここからは、その誕生から現在までの歴史をご紹介します!
【 戦国時代】朝鮮人陶工により陶磁器伝来
豊臣秀吉の時代、朝鮮出兵の際に波佐見を支配していた大村藩の藩主が、朝鮮人陶工の李祐慶を招き、窯を築かせたことが波佐見焼のはじまりとされています。
波佐見町の畑ノ原、古皿屋、山似田の3ヶ所に焼き物の窯が設けられました。
当初は陶器を製造していましたが、三股で“青磁”と呼ばれる青緑色の磁器に適した陶石が発見されたことから、磁器生産へと移行します。
その後、熊本県で天草陶石が発見されると、白磁も合わせて生産されるようになりました。
【 江戸時代】くらわんか椀が大人気商品に!
波佐見焼は当初、海外に向けて輸出されていましたが、輸出が低迷したことから国内向けの販売に切り替えます。
この時、大村藩は「大衆向けに、安価で親しみやすい日用食器を大量に売り出そう!」と考えました。
そこで巨大な窯を設けて分業体制をとり、”こんにゃく印判”と呼ばれるハンコを使うなどの工夫も重ねることで、大量生産の体制を整え、値段を下げることに成功!
丈夫で扱いやすく手頃な価格の波佐見焼は、「くらわんか椀※」と呼ばれ、大阪や江戸の人々の間で人気を集めました。
江戸時代の後期には、波佐見でのくらわんか椀の生産量は日本一であったのだとか。
※くらわんか椀:茶碗に料理を入れ、大阪・淀川沿いの船に小舟で近づき「餅くらわんか、酒くらわんか」という掛け声で売ったことから、この名が付けられたと言われている。
【 明治時代~現代】有田焼から独立
明治時代に入ると、波佐見の窯は大村藩の支援を失いますが、新しい技術を導入してなんとか生産を続けていました。
度々起こる戦争の影響により一時は衰退しましたが、昭和30年代、流通が拡大し発展をとげたことで復活。
昭和53年(1978年)には通産省(現在の経済産業省)により、国の「伝統的工芸品」として認定されました。
最近では若手の作家や事業者も増え、新しいブランドを立ち上げるなど、町内には陶磁器に関する事業所が約400もあるのだとか。
波佐見焼の代表的な種類
く らわんか椀
波佐見焼を代表するのが、白色の器に藍色の草花などの模様を描いた素朴な磁器「くらわんか椀」です。
江戸時代に誕生したくらわんか椀は、手ごろな値段で売られたため、それまであった「磁器は高級である」という常識を覆し、庶民の間に磁器を広めるきっかけとなりました。
コ ンプラ瓶(蘭瓶)
「コンプラ瓶」とは、幕末に誕生した染付の瓶を指します。
オランダ人からの依頼で、醤油や酒を海外へ輸出する際の容器として作られました。
オランダ語でJAPANSCHZOYA(日本の醤油)やJAPANSCHZAKY(日本の酒)という文字が書かれたユニークな和洋折衷のデザインは、海外でも人気を博し、著名人のファンも多かったのだとか。
ロシアの文豪であるトルストイは、コンプラ瓶を一輪挿しに使っていたと伝えられています。
また、オランダへ向けて輸出されていたことから、別名・蘭瓶とも呼ばれていたそうです。
ワ レニッカ
「ワレニッカ」は、昭和62年(1987年)に給食用の食器として開発されました。
ワレニッカという名前は、「割れにくい」を意味する方言「割れにくか」に由来しているそう。
高温で焼きあげるため割れにくく、軽くて丈夫なワレニッカは、一般的な磁器の約3倍の強度があるのだとか!
まさに、子供でも扱いやすい食器ですね。
波佐見焼の作り方
先ほども述べた通り、波佐見焼は分業制で職人がそれぞれ専門の工程を担います。
工程は大きく分けて3つあり、石膏で器の形を作る「型屋」、その型を使用し生地で形を作る「生地屋」のあと、絵付けや焼成など仕上げを行う「窯元」での作業で完成します。
型 屋
まずは「型屋」が、石膏で器の型を作ります。
上下で挟み込む圧力成形の型や、内部に空間のある陶磁器を作るための鋳込み型などがあります。
生 地屋
型ができた後は、「生地屋」が型に生地を流し込み、目的の形に成型します。
同じ形の物を大量生産する時は、型を回転させながら金属のコテをあてて土をのばしていく機械ロクロ製法が用いられます。
その他にも、型に圧力を加えながら液状の土を流し込んで成形する圧力鋳込みなど、いくつかの技法があります。
窯 元
その後、素焼きの生地を焼き上げ、装飾も加えて完成させるのが「窯元」です。
生地の素焼きをして水分を飛ばしてから、絵付けやガラス質の液体である釉薬を施し、焼き上げて完成させます。
なお、筆で絵付けする方法のほか、絵を施したシリコンゴムをスタンプのように陶磁器に押していく“パッド印刷”や判子を使った絵付けなど、さまざまな技法で絵付けが行われます。
このほかにも、波佐見町には原料となる陶土を作る「陶土屋」、装飾関連の「上絵屋」、「判子屋」などの職人、商品を世に出す商社、メーカーなどが存在します。
波佐見焼は、多くの人々の想いが詰まった器なのですね!
波佐見焼のオススメの窯元とブランド
白 山陶器
『使いやすい物、生活に馴染む物』を心がけ、時代を超えてスタンダードであり続ける器造りを続けている老舗メーカー「白山陶器」。
使う方の生活シーンをイメージした製品は、シンプルながら飽きのこないデザインで人気を集めています。
シンプルで使いやすい形状のベーシックシリーズ、デザイン豊かな平茶碗、植物を描いた北欧風のデザインがかわいらしいブルームシリーズなどが有名です。
都内に直営店もあるので、気になる方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか♪
※2022年8月時点での情報となります。営業時間等の詳細な情報は公式サイトにてご確認ください。
西 海陶器
「西海陶器」は、従来の枠に囚われない新しい作品を生み出し、グローバルな展開でも話題となっている波佐見焼メーカーです。
ロサンゼルスを拠点にするデザイナー・篠本拓宏さんと共同で開発したグローバルな「HASAMI PORCELAIN(ハサミポーセリン)」は、伝統を現代のコンセプトで革新させた作品です。
シンプルながら土の手触りを感じられる温かみのあるデザインで、同じサイズの物を重ねて美しく収納できるのも特徴です。
※2022年8月時点での情報となります。営業時間等の詳細な情報は公式サイトにてご確認ください。
マ ルヒロ
「マルヒロ」は、食器やインテリア、雑貨など多彩なラインナップを揃えた陶磁器メーカーです。
人気シリーズの“HASAMI”は、アメリカの大衆食堂やイギリスのパブをイメージして作られ、特に積み重ねて収納できるブロックマグは、レトロでポップなデザインが魅力的。
カラフルなマグカップを積み重ねておくだけで、華やかなインテリアにもなります♪
生地を厚めにして強度を上げるなど、機能性にも優れています。
※2022年8月時点での情報となります。営業時間等の詳細な情報は公式サイトにてご確認ください。
波佐見焼の陶器市「波佐見陶器まつり」にいこう♪
毎年ゴールデンウィークには、波佐見町で陶器市が開催されます♪
「波佐見陶器まつり」は、波佐見陶器市とも呼ばれ、約150の窯元やメーカーが製品を出品する大規模な市場です!
本会場であるやきもの公園やその周辺にある各窯元、メーカーの店舗でもガレージセールなどを行なっており、お目当ての製品をいつもよりお安く購入できますよ。
すでに60回以上行われており、今では約30万人が訪れる大人気の陶器市となっています♪
実は、同じ頃に有田焼の陶器市も開催されており、両方の陶器市を回るツアーも実施されているそう。
両方を巡って、さまざまな陶磁器に触れあってみてはいかがでしょうか?
開 催日時
毎年4月29日~5月5日の9時~17時まで開催されています。
会場であるやきもの公園を中心に、各窯元やメーカーの店舗などで販売されています。
ア クセス
電車
最寄り駅はJR有田駅で、ここから会場までは有料シャトルバスが出ています。
15分間隔で朝から夕方まで運行しています。
車
最寄りのICは波佐見有田ICですが、渋滞が発生することも多いそう。
状況によっては、嬉野ICで降りるのが良いでしょう。
駐車場は、会場の周辺に有料駐車場が用意されています。
確実に駐車をするには、できるだけ早い時間に行くのがオススメです!
※2022年8月時点での情報となります。開催日時や会場の詳細な情報は公式サイトにてご確認ください。
おわりに
波佐見焼は、それまで高級品だった磁器を、庶民でも日用的に使える食器として広めた磁器界の立役者的存在です。
自由な発想で新しいデザインや形を取り入れ、時代に応じて進化し続けてきたことが、現代でも愛されている理由の一つでもあります。
利便性も備えた波佐見焼を、皆さんも一度手に取ってみてはいかがですか?
粘土を成形し、高温の窯などで焼成し器や造形物を作ることを陶芸と言います。
火山の噴火によってできる岩石が長い年月をかけ砕かれ、有機物と混ざりあったものが粘土。
世界中に存在しています。
陶芸によって作られる陶磁器と呼ばれるものにはおおまかに2種類あり、土が主な原料で叩いた時ににぶい音がするのが「陶器」。
自分の手で作る、好みのものを収集する、日常の暮らしの中で使う…陶磁器には様々な楽しみ方があります。
なぜ日本の陶磁器は多くの人を引き付けるのか。
その魅力のワケを探っていきたいと思います。
日本は、およそ1万年以上もの「焼き物」の歴史を持つ国です。
現在も北海道から沖縄まで全国各地に陶磁器の産地が存在し、国内外から多くの焼き物ファンが訪れています。
日本には何十年、何百年も前から受け継がれてきた技術を用いた、伝統工芸品が数多く存在します。技術の革新により機械化が進み、安価で使いやすい商品がどんどん市場に出回っている昨今、手作業で作られる伝統工芸品は需要が少なくなり、追い詰められているのが現状です。
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