備前焼とは?

備前焼とは、日本六古窯に数えられるほど歴史ある炻器せっきです。

炻器は、叩くと金属的な音がすることは磁器によく似ていますが、透光性がない点は陶器と同じです。

つまり備前焼は、陶器と磁器の中間のような性質を持っています。

また、土の地肌の風合い、浮彫りやレリーフ等の装飾には、陶器や磁器にはない魅力があります。

今回はそんな炻器の中でも日本の伝統を受け継ぐ備前焼について、ご紹介したいと思います。

備前焼の特徴

備前焼に使われる土には、山土、ヒヨセ(田土)、黒土と主に3種類あります。

山土は山から取れ、ヒヨセは山土が堆積した田から取れ山土よりも粘度があります。

そのヒヨセよりさらに有機質を多く含んだものが黒土と呼ばれますが、この黒土は、伊部地方周辺の水田下のわずか場所からしか採れません。 

作家は自分の好みや作品に応じて山土や黒土をヒヨセに混ぜ使い分けます。
 
ヒヨセは粘りがあって、耐火度が低く、焼成による収縮率が高いため、釉薬ゆうやくを用いなくても水が漏れないという特徴があります。

この土の特徴を活かした技法は「無釉焼むゆうやめ」と呼ばれます。

この技法を生かし焼き上げると、燃料の灰・土に含まれる金属と火の科学変化や、窯詰めによって様々な変化が現れ、備前焼は石のような質感や、赤く色づいた魅力的な姿になります。

窯変ようへんとは、字の如く窯の中で焼き物に起こる変化のことです。

備前焼の窯変は、変化の種類によって分類され、固有の名前で呼ばれることもあります。

また、その発生は偶発的に起きたものから人為的に行われたものまで多岐にわたります。

備前焼の魅力

しにくく冷めにくい、香りも逃さない備前焼

備前焼の特徴の一つに、内部の構造が緻密なため比熱が大きいというものがあります。

比熱とは、1kgの物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量のことです。

つまり、比熱が大きいということは、温度が変化しにくいということ。

なので、例えば備前焼のマグカップなどは、コーヒーを入れても冷めにくく、さらには内部に空いた気孔に空気が詰まることによって香りを逃がさないのです!

また、それだけではなく、備前焼の表面にある凸凹が、高い発泡能力を発揮するため、備前焼のビールジョッキを使うと、きめ細かい泡が立ったより美味しいビールが味わえます。 

さらに、この凹凸により、食べ物がお皿に密着しないため、お箸などで掴んだり取ったりしやすいといったメリットもあります。

そんなメリットのたくさんある備前焼の食器を使うときのポイントをここで少しご紹介します。

焼き締めされた備前焼の食器は、水に十分に浸すと、窯変の器は特に鮮やかさが増します。

また、備前焼のような釉薬のかかっていない表面に、油物などを直接置いてしまうと、シミになることがあるので、心配な方は葉物野菜を敷いてみてください。

魅力といいところがたくさんある備前焼をぜひ楽しんでくださいね。

前焼は使い込むことで肌触りが変化する!

備前焼の凹凸は、使い込むことで角が取れていくので、使えば使うほど味わいが増していきます。

また、釉薬もかけずに高度で焼きしめられるため、比較的頑丈に仕上がっている備前焼は、少々荒い扱いをしても割れることなく、長きにわたって変化を楽しむことができるのも魅力のひとつです。

備前焼の窯変の種類

高温で焼き上げられる備前焼の大きな特徴の一つである「窯変」。

焼き方や、材料によってさまざまな表情を見せる備前焼の窯変の種類をいくつかご紹介します!

元々は、作品を焼き上げる時に、備前焼の表面が他のものに触れてくっつくのを防ぐためにワラを間に挟みサヤ(密閉された空間)に入れて焼いたことが始まりとされています。

直接炎や灰にあたらなかった表面は薄茶色になり、ワラが当たった場所は科学反応を起こして緋色に発色し、それが赤い襷をかけたようだったため、緋襷と呼ばれるようになりました。

最近は、電気窯(サヤなし)で焼かれたりもするようです。

胡麻は、字のごとく、備前焼の焼成中に薪の灰がくっついてできるゴマのような模様の事をいいます。

胡麻の中には、多くかかった灰が熱で溶けて流れ落ちて固まったものがあり、そういった備前焼は「玉だれ」と呼ばれています。

また、胡麻の色は青・黄・黒・茶・白と多彩で、その要因としては、窯の形状、焼成方法・薪の種類などが考えられています。

本当に胡麻を振りかけたような微塵胡麻、飛び胡麻、糸胡麻など様々な形状模様がある一方、窯入れの前に予め人為的に松灰をかけてから窯詰めする人工胡麻なども存在するようです。

但し、専門家が見ると、自然か人為的かの判別は可能です。

自然にできた胡麻の備前焼は、灰が火の勢いで吹きつけられ、力強い形状をしていますが、人工胡麻にはその力強さが感じられないのだといいます。

セゴマ

カセゴマは、別名「榎肌・メロン肌」と呼ばれています。

炎の流れが早い場所で、薪の灰が完全に溶けきらずに付着した際に見られる備前焼の模様です。

その肌は本当にメロンのようです。

切り


さん切りは、窯の部屋同士をつなぐ穴周辺に置かれた備前焼の作品が灰などに埋もれてできる模様です。

白、青、黄色などの色変わりのコントラストがつきます。

備前

備前焼は、通常、酸素量を十分にして酸化焔焼成さんかえんしょうせいによって焼き上げるため、色は赤くなりますが、中には酸素が不十分な状態で還元焼成されたものもあり、それらは青から黒色に焼けるため青備前と呼ばれています。

青備前にはきや灰に埋まったり、強い火によって器物の中で蒸し焼きになったりして、青灰色になった自然青と、焚き上がる食前に焚き口から食塩を投げ込んで作られた食塩青があります。 

その他にも、白ゴマ、カセゴマ、コゲ、被せ焼き、ボタモチ、抜け、コロガシ、石ハゼ、黒備前、金・銀、などというさまざまな備前焼の窯変があり、そのバリエーションは作家たちによって淘汰されながら継承されていくことでしょう。

窯の種類

り窯

段々と斜面に部屋が連なった形の窯で、薪を使って1週間から2週間かけて備前焼を焼き上げます。

登り窯で焼き上げられた備前焼には、緋襷や、ゴマ、棧切りなどの窯変がみられません。

穴窯は、斜面に仕切りのない独立した筒状の形の窯です。

穴窯で焼き上げられた備前焼には、カセゴマや、緋色の窯変が出やすいです。

気窯

電気窯の場合は、部屋がひとつの窯となっています。

電気窯で焼き上げられる備前焼には、緋襷やカセゴマは現れますが、灰がないので、他の窯変は見られません。

備前焼が欲しくなったら

備前焼は岡山県備前市内に窯を構えている作家が多く、直接窯元を訪ねれば直接手にとって見比べることができます。

もちろん、インターネットで探せば通販で買えるところもありますが、窯変が大きな特徴の一つである備前焼は一つひとつ少しずつ模様が違うので、現地で実際に見てみるのもオススメですよ。

ススメ窯巡りコース

備前焼の窯が多くある、備前市の中でも、特に伊部地区にはかなり多数の窯元があります。

あまりに備前焼の窯が多くあるため、じっくり一つひとつみていると1日では時間が足りないかもしれません。

そのため、まずはJR伊部駅併設の備前焼伝統産業会館に行ってみてください。

備前焼伝統産業会館にはさまざまな備前焼の窯元さん、作家さんたちの作品が集められているので、ゆっくりと自分の好みのテイストや、作風、作家さんの個性を吟味できます。

まずは、こちらである程度目的の作家さんを絞ってから、1階のインフォメーションセンターで地図を入手して散策に出かけると効率よく周ることができると思います。

前祭り


備前焼伝統産業会館では定期的にオークション市が開催されているようです。

お気に入り作家さんの作品や、1点ものなどを狙われる方は、あらかじめスケジュールを確認しておくのがオススメです。

また、10月の第3土曜・日曜には伊部駅周辺で備前焼まつりが開催されます。

備前焼まつりでは、備前焼を普段よりも安く手に入れることができたり、人間国宝に指定された名工の作品入りの福袋が発売されたりと見所は満載!

ですが、この期間は多くの備前焼ファンが集まり混雑が避けられないので、こちらも十分余裕を持っていくことをオススメします。

おわりに

備前焼をご存知の方も、まだこれからという方も、ぜひ一度現地に赴いて間近で見てみるのをオススメします。

備前焼で作られた案内板や、赤い煙突が所々に立っている街並みは、多くの方々にとっての非日常であるとともに、作家たちの日々の試行錯誤の末に生み出される器たちとを結びつけてくれる貴重な機会になると思います。

作り手たちの吸っている空気を直に感じ、作家の思いに触れることで、生活に思いがけない嬉しい変化が起きるのではないでしょうか。