皆さんは、『背守り』という風習をご存知ですか?
背守りとは、母親が子供の着物の背中に縫い付けた刺繍のことで、子供を禍から守る魔除けの意味が込められています。
いつの時代でも、我が子を守りたい親の気持ちに変わりはありません。
この記事では、背守りの歴史や模様の種類・意味、その作り方などをご紹介します!
「背守りについて知りたい」、「子供のために縫ってみたい」と思っている方は、ぜひ参考にしてくださいね♪
背守りとは?
背守りは、子供の着物の背中に施された刺繍のことで、お守りや魔除けといった意味が込められています。
日本人がまだ着物を日常的に着ていた時代、母親たちは我が子を禍から守ろうと、一針一針手縫いで背守りの刺繍を施していました。
背守りの風習は洋服を着るようになってからは廃れたものの、数年前からのハンドメイドブームをきっかけに、再び注目されるようになりました!
背守りに込められた意味は?
古くから続く日本の『背守り』という風習は、なぜ誕生したのでしょうか?
その背景には、日本ならではの文化があることがわかります。
背 中に魔除けの“目”を付ける
着物は背縫いといって、左右の身頃を背中の中心で縫い合わせて作られています。
古来、日本人は針の縫い目を文字通り“目”と捉えており、着物の背中の縫い目が、背後からやってくる魔物に睨みを利かせ、わが身を守ってくれていると考えていました。
しかし、子供の着物は反物の幅だけで1枚の身頃ができてしまうため、背中に縫い目がありません。
そこで、お母さんがわざわざ背中に縫い“目”を付けることで、背後からやってくる魔物に睨みを利かせ、我が子を守ろうとしたのが背守りの始まりです。
子 供は7歳までは神様のもの
昔、まだ医療技術が発達していなかった時代のこと。
子供の死亡率は今とは比べものにならないほど高く、江戸時代には3人に1人、明治時代には10人に1~2人の赤ちゃんが亡くなってしまっていたそうです。
子供が生まれても充分な医療を施せず、天に召されてしまうことが多かったせいで、当時は小さな子供はまだ神様の領域に属している存在と考えられていました。
いつ天の神様のもとへいってしまってもおかしくない、という意味で「7歳までは神の子」ともいわれていました。
また、古くから日本では、「死とは魂が背中から抜け出てしまった状態」とされ、母親たちは我が子の背中から魂が抜け出てしまわないよう、背守りを縫い付けていたのです。
どうか我が子が健やかに育ってくれますように。
そんな祈りにも似た母親の願いが縫い目に込められ、疫病や悪鬼をはじき返すシンボルとなったのが、背守りの風習といえるでしょう。
背守りの歴史
背守りはいつから始まったのか、その歴史を見ていきましょう。
背 守りの始まりは鎌倉時代?
鎌倉時代に編纂された『春日権現験記』という絵巻物には、母親に手を引かれた子供の背中に背守りが縫い付けられているような絵が描かれています。
このことから、鎌倉時代にはすでに背守りの風習があったとされています。
江 戸時代から広まり、明治時代には教科書にも!
背守りが全国的に広まったのは、江戸時代から昭和初期にかけてです。
特に明治時代になると、女学校の授業で和裁や刺繍が取り入れられ、背守りの制作が行われるようになると、女性の嗜みとして一気に広がりました。
明治44年(1911年)発行の『最新女子裁縫講義』という教科書に背守りについての記述が見られ、背守りにはシンプルな縫い目のものと、凝った図案の刺繍を施したものの2種類があることが書かれていました。
背守りの風習が始まった当初は背中に簡単な縫い目を付けるだけだったのが、いつのまにか刺繍を施すものへと変遷を遂げました。
背守りの種類
背守りの歴史でも軽く触れた、背守りの2つの種類について解説します。
基 本の「守縫」
背中の中心に沿って縦と斜めに縫い目をつけたシンプルな背守りで、「守縫」「糸じるし」などと呼ばれています。
男女による区別があり、男児は縦に7針と、襟下から右斜め下に5針縫い目を付け、女児は縦に7針と、襟下から左斜め下に5針縫い目を付けます。
針目の数は1年が12カ月あることにあやかり、合計が12針となるよう縦7針と斜め5針、または縦9針と斜め3針と決まっています。
糸の色は、赤、紅白、五色(赤・青・黄・黒・白)などさまざまです。
また、縫い目をつけ終えたら糸をそのまま長く垂らしているのが特徴で、これには「子供が危険な目に遭いそうになった時、天の神様がその糸を引っ張って子供を引き上げてくれる」という意味が込められています。
子供を神様に助けてもらいたいと願う、親の気持ちが込められた、呪術的な初期の背守りです。
手 芸としての「背紋飾り」
時代がたつにつれ、背守りは凝った図案の刺繍が施される手芸作品となっていきました。
これを「守縫」と区別して、「背紋」または「背紋飾り」と呼んでいましたが、現在では背守りというと、この背紋・背紋飾りのことを指します。
図案となるモチーフは、昔からある縁起の良い吉祥文様が使われることが多く、先述したように教科書に掲載されていたり、図案集が販売されていました。
背守りは簡単に縫うことができるため、娯楽の少ない時代、お母さんたちにとってささやかな楽しみだったのかもしれませんね。
背守りの代表的な模様
ここでは背守りの代表的な模様を紹介します。
糸じるし
先に記したように、縦方向と斜め方向に縫い付けたものを「糸じるし」または「守縫」と呼んでいます。
刺繍というよりもシンプルに縫い付けただけで、まさに糸でできたしるしです。
コウモリ
コウモリは、中国では福を招く縁起物とされ、かつては日本でも中国の影響により縁起の良い動物とされていました。
西洋思想の流入により現在では不吉なイメージがあるコウモリですが、あえて身につけることで、かえって魔を寄せ付けないという意味が込められています。
さくら
桜にはおめでたいイメージがありますが、古代の人は桜が咲くと神様が降りてくると考えていました。
子供の背中に桜を刺繍することで、神様に降りてきてもらいたい、守ってもらいたいという気持ちが込められています。
麻の葉
麻はグングンと伸びていく成長の早い植物のため、その強い生命力にあやかり、背守りのモチーフとして大変好まれています。
誰もが1度は目にしたことのある有名な吉祥模様でもあり、日本の伝統工芸品に多く用いられています。
鶴・亀
「鶴は千年、亀は万年」のことわざ通り、鶴も亀も長寿の象徴です。
平均寿命が短く、子供の死亡率が高かった時代、長寿は全ての人にとって切実な願いだったのです。
トンボ
トンボは前に向かって飛び、後退しないことから「勝ち虫」と呼ばれ、特に江戸時代の武家で好まれていました。
現代でも男児の背守りとして使われることが多いようです。
結び目
子供の着物の背中は縫い目がないため、魂が抜け出てしまいやすい場所です。
その背中に結び目を縫い付けることで、子供の魂が抜け出てしまわないよう、しっかりと押さえつけておくという意味が込められています。
ウサギ
可愛いウサギは、子供にピッタリのモチーフです。
ぴょんぴょんと元気よく跳ねまわることや、福耳、子だくさんであることにもあやかっています。
武田菱
武田菱は、武田信玄の家紋として有名です。
四角形の組み合わせでできており、四角は計量に使われる枡に繋がり、枡はマス目、つまり“目”を表しています。
複数の目でにらみを利かせれば、悪鬼も退散することでしょう。
背守りの作り方~ハンドメイドブームで復活した現在の背守り~
着物を日常的に着る機会が少なくなった現代、背守りの伝統はハンドメイド愛好家の間で引き継がれています。
近年ではコロナ禍の影響もあり、背守りの魔除けとしての役割に注目が集まって、子供服に背守りの刺繍を施すことが再注目されているんですよ!
子供のTシャツやパジャマ、ハンカチやマスクなどに一針一針縫い目を施していく作業は、おうち時間の充実にもつながります。
また、子供だけでなく、大人のTシャツなどにも刺繍を施せば、親子でお守りペアルックができますね♪
そこで、簡単にできる「麻の葉」模様の作り方とその動画をご紹介します!
「 麻の葉」の作り方
T シャツに縫い付ける方法
用意するもの
モチーフの型紙、シャープペンまたは目打ち、100均でも売っているような糸切はさみ、針、刺繍糸を用意します。
作り方
1. タオルの上に布地を置き、布地の上に型紙を置いて型紙がズレないようマスキングテープで留めておきます。
2. シャープペンの先、または目打ちでモチーフの絵の「点」の部分を刺してプスッと穴を開け、絵を写していきます。
3. 型紙を外すと布地に穴が開いていますから、針に糸を通し、穴と穴をつなぐように縫っていきます。
4. 布地の裏で玉止めをして、完成です!
背 守りキットをご紹介!
さて、作り方をご紹介しましたが、もっと手軽に作りたい!という方にオススメなのが、こちらの「背守りキット」です♪
糸やはさみ、図案集等がセットになっていて、とても簡単に作ることができます。
ぜひ、お子様と一緒に背守りづくりを楽しんでみてください♪
赤 ちゃんへのギフトにもオススメ♡
背守り入りの産着を出産祝いとしてプレゼントするのもオススメです!
先の見えない今だからこそ、大事な赤ちゃんを守りたい。
そんな気持ちのこもったギフトとして、きっと喜ばれるでしょう。
おわりに
背守りについて、その歴史や種類、伝統的な模様などを紹介しました。
我が子の健康と成長を願わない親は、昔も今もいません。
コロナ禍で不安な今だからこそ、古の親たちの気持ちを受け継ぎ、背守り刺繍にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
一針一針気持ちを込めて縫えば、出来栄えの良し悪しにかかわらず、豊かなひとときを過ごすことができるでしょう。
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